樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー 作:紫陽花の季節に会いましょう
まだの方は是非感想と合わせてしていただけると大変励みになります!
「うぇぇぇい! これから酒と煙草やろうぜー! 教師たちに見張られててここ数日できなかったからよぉ!」
「おら! 委員長もこいや! おもしれぇもん教えてやるよ」
「な、ななななな!? やめたまえ!」
という頭の悪そうなやり取りをする馬鹿どもは放っておき、僕はさっさと自転車置き場へと向かう。
サドルに跨った時、スマホの通知音が鳴る。確認してみると月潟からLINEが入っていた。
『この後、18:30月潟家集合。笹神幽々火ちゃんの姿で来ること。とびきりにお洒落な格好でね?』
なんだこのふざけた誘いは。18:30って今16:00なんだから普通に時間無いではないか。僕はゆっくり温泉に入りたいんだが。
そんな僕の思考を読んだかのように月潟から追加の連絡が入る。
『夏葉を救うよ。ニコラちゃんはまだ動けないはず。今のうちにやれることやっておこう』
翠雨さまの言葉が頭をよぎる。
ーーまずは月潟琵樹と協力してやれることをやっててくれればいいです。
ため息の一つも吐きたくなる。だが月潟のことだ、策はあるのだろう。夏葉を救うのは対ニコラにおいて大きなアドバンテージになる。
そうと決まれば、自転車を全力で漕いで樹海に向かった。いつものように境内下の目立たない茂みに自転車を隠し、最早目隠ししてても歩ける樹海を進むこと15分。愛しの我が家に到着である。
「はぁ……普通にゆっくりしたかった」
即座に温泉に浸かり、体を洗う。うううう、こんな早風呂をする日が来るなんて……温泉、温泉温泉温泉……。ずっとここに浸かっていたい欲望をなんとか抑え、脱衣所で着替えを行う。
あの夜、月潟に指摘されてから一応スポーツブラを着用することにしたのだ。正直恥ずかしさで死にそうだけどプロポーション的には必要な気がするので致し方あるまい。必要経費だ。
神域というのは神の力で作られる都合のいい空間だ。故に家電製品の概念を知らなかったかみさま時代にはなかったもので神社は埋め尽くされている。ドライヤーもその一つ。残念ながら此岸に持ち出すことができないが、ここで使えれば十分だ。
「この謎技術だけは未だに慣れない」
ヘアオイルとヘアミストを使い髪のケアを怠らない。導入化粧水、化粧水、美容液、乳液、ボディークリーム、ボディーミスト、そして化粧下地とリキッドファンデ、美白パウダー。この辺は外でも使うから出費が痛かった。
元から恐ろしいほど整ってる顔をさらに美しく変身させていく。アイメイクまで終わった頃には眼鏡メカクレの犀潟ほの囮とは似ても似つかない、ダークな雰囲気の美少女がそこに居た。
紫のインナーカラー、長い前髪、よく手入れされた艶やかな黒髪。そこから覗くゴツいイヤーカフ。クマのようなメイクを施した病み病みしい目が前髪から少し見えている。
赤い彼岸花の刺繍が施されたハイネックの黒いワンピースパーカー、その下にはシルバーアクセサリーが施された黒いキュロット。黒いチョーカー、黒いレッグウォーマー、厚底の地雷ブーツ。いつものバンギャスタイルで、まさにライブハウスとかに居そうなダーク女子をイメージしている。
「……………うん、かっこいい」
女装しているのだが、正直このスタイルはとても気に入っている。なんとか女装じゃない認定にならないだろうか。
ともあれ、準備が出来た頃には18:00前になっていた。月潟がどういうつもりで呼び出したのかはわからないが、遅れたら遅れたでなんかされそうなので時間通りに行っておくのが吉だろう。
境内について柵にもたれかかりながら月潟を待つ。笹神幽々火の時はスマホケースを耳付きの可愛いケースに変えてある。ほらあれだよ、かみさまがニト○で買ってた真っ黒いアザラシのキャラ。
にしても遅いな月潟。連絡こない。一応18:00過ぎてるんだけどな。
「あの……」
ああ、やっと来たか。と思ってスマホから視線を移した僕はそのまま固まってしまった。何故ならそこに居たのは……。
「………………あー」
「え!? そ、その……えと、な、なにこの美人……むりむりむり、ふつくしい……」
顔を真っ赤にして手で覆っている、夏葉の姿があった。
◇◆◇
「遅れてごめんね〜幽々火ちゃん! ってうわあああ!! 無理むりむりむりむり! お顔つよつよ! 顔面人間国宝! しゅき、結婚して……」
「あのー……まずは状況を説明していただけると助かるのですが」
笹神幽々火モードに入り、声音を変える。夏葉に見られた、見られてしまった。いや落ち着け僕、月潟の反応から察するにこれは狙ってやってるな。月潟の言葉を信じるなら僕の変装技術は中々のもののはず、大丈夫、僕は名女優、いける。
「今日はいつにも増してダークでクールでキュートで、ああああああ! もう少しお部屋を掃除してくればよかったんよ! くっ、媚薬買っておけば……!」
「琵樹さん? せ、つ、め、い」
「あ、ああ〜うん、ご無礼。えっとね、まずこの子は
うん知ってる。が、まぁ初対面のフリは得意だ。ここは乗ってやろう、あとできっちり問い詰めるが。
「で、この子が笹神幽々火ちゃん! 私の彼女だよ!」
「えぇ!?」
「はい訂正入ります、琵樹さんの
「え!? ひゃ、ひゃい……」
なんか溶けてるんですけど……。
「それで? 私と夏葉さんを呼び出した理由はなんです? くだらない理由だったら即帰りますけど」
「か、帰っちゃだめ!」
「へ?」
「あ、そ、その……なんでも、ないです……」
夏葉が僕の袖を掴んで懇願するように叫ぶ。思わず面食らってしまった。夏葉の手を取り、そっと袖から離す。名残惜しそうにする夏葉に対して、安心させるように言った。
「帰りませんよ夏葉さん。だから安心して手を離してください」
それを聞いた夏葉はボフッという音を出してパンクしてしまった。おい、どうにかしろよという目で月潟を見たら、なんかハンカチを噛みながら泣いていた。
「むぅぅぅう! 私の彼女が他の女を構ってる〜〜〜!!!」
「20世紀の妬み方やめてください……。あのホント話進まないんですけど」
話の進まなさに少しだけ苛ついてしまう。その苛つきを察したのか、月潟は僕の手を取って月潟家へ引っ張ろうとしはじめた。
「とりあえず、行こ!」
「はぁ……。慣れましたけどね」
この強引さには随分と慣れたものだ。そこでまだ固まってる夏葉にも声をかけておこう。
「ほら、行きますよ」
「は、はい!」
さて、案内されたのは月潟家……ではなく、社務所だった。
よくみる御神籤やお守り、破魔矢などが売られており、如何にも社務所という雰囲気である。
ここ翠ヶ淵神社といえば北湊旧市街地に唯一ある神社なため、正月は参拝に訪れる人もチラホラいるらしい。
ん? ウチ? うちはほら……うん、爺婆が変な宗教ハマってるから。初詣に行ったことすらない。彼らに引き取られて2年が経過したが、その間にあった正月は謎の施設に連れてかれそうになってたな。嫌な予感がして全力で拒否して、叔父にボコボコに殴られたのをよく覚えている。その顔の腫れのお陰で連れて行かれることはなかったが……あの代償は高くついたものだ。
「色々あるのね」
「一般的なものしか置いてないんよ。さてさて、少し待ってね。うーん、と、あー、あったあった」
月潟は何やら2枚の紙を取り出して机の上に置く。そして、付け髭を鼻の下につけ始めた。
「うぉっほん! ではこれより、採用面接を始めます」
「は?」
「え?」
困惑する僕たちをよそに、月潟はバンバン机を叩き始める。
「ほらそこぉ! ノックは3回じゃぞ〜。かー、これだから今時の学生はマナーもしらねぇ! 教師の顔が見て見てぇってんでい!」
なんかうざい面接官を気取りだした……。面接を受けたことがないのがよくわかる、どっかで見たような圧迫面接擬きを披露してくれてどうもありがとう。
じとーっと月潟を見下ろすと、お得意の笑みを作って付け髭を外した。
「えへへ、一度やって見たかったんよ」
「ロールプレイングに添えず申し訳ないんですけど、なんの面接ですかこれ」
「決まってるじゃない? 巫女さんだよ」
巫女面接に昭和ジジイ面接官を採用するな。というより疑問符の連続なのだが、何故巫女? と思ったが、思考がだいぶ鮮明になってきた。ああ、理解したぞ。
「まさか、夏葉さんに山の神の祝福を与えようとしてます?」
「ご名答、流石は私のお嫁さん」
月潟の意図は分かった。
神の祝福ーー神に魅せられた人間の能力は底知れない。村上ニコラは色恋の神の巫女となり、能力を振るって人々の心を捻じ曲げている。柏崎海知は神の祝福を受けているからこそ、ギャルゲーじみた世界の中心として絶対的な権威を保有している。
ならば山の神も同じことをやればいいのだ。信仰を集めて信者を増やし、そんな彼らに神の祝福を与える。自身の勢力圏として取り込んでいくことで色恋の神の影響力を排除しつつ勢力拡大に臨む。
「ねねね、夏葉。巫女のバイトしてみない? ほら、神社パワーと神様パワーでもやもやした思考も吹き飛ぶかもよ?」
「え、えぇ……? 何を根拠にそんな……」
「でもこの神社に来てから夏葉、思考がクリアでしょ?」
図星だったのか、夏葉は驚いたように推し黙る。当たり前だ、ここは山の神を祀る神社。僕の私のテリトリーである。色恋の神の影響力は皆無なのだ。
「それに、幽々火ちゃんも巫女やるからおそろでそれ着れるよ?」
「えっ!? ほ、ほんと!? じゃ、じゃあ、やろうかしら」
「はいストップ、琵樹さんちょっと裏手へ」
「ご無礼、拒否権を発動するんよ」
手を掴もうとした僕の手が空を切る。月潟は華麗に避けると夏葉の手を取ってこちらを見た。
「こんな可愛い女の子が困ってるんだよ? 幽々火ちゃん助けてあげないの?」
「夏葉さんが巫女やるのと私が巫女やるのはまた話が別ですからね? 私なんのメリットもないじゃないですか」
神が巫女をやるというのはなんとも不思議な感じだ。犀潟ほの囮は確かに巫女でいい、僕はかみさまの巫女である自負がある。
だが笹神幽々火はれっきとした神だ。神として彼岸に向かう以上、何故巫女の真似事などしなければならないのか。
僕は月潟の手を取り、夏葉から引き剥がす。
「わぁ大胆〜」
「ちょっとこれ借ります。夏葉さんはそこで待機」
「へ? あ、はい……」
月潟を連れて社務所の奥にあった部屋に入り、鍵をかける。
そして、壁際に立つ月潟に詰め寄った。
「壁ドンだなんて、ちょっと照れちゃうな〜」
この期に及んでまだふざけたことを抜かしている月潟にいい加減苛つきが抑えられなくなっていた。
「私を舐めてます? 私がその立場に甘んじることなど認められるわけないじゃないですか」
「うんうん、そういうと思ってたからこその提案なんだよね〜これ」
月潟はするりと僕の横を通り過ぎて、物陰から何かを取り出す。
それは高そうなビデオカメラだった。それを僕に向けて言った。
「配信者、やってみない?」