樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー   作:紫陽花の季節に会いましょう

85 / 91
評価、ブクマ、感想、いつもありがとうございます!


3章28話:居心地の良い食卓

 配信者。

 かつてかみさまが北湊にて信仰を集め、山の神復活へと至った手段、その可能性に最も近しいのが配信だった。滅亡後の北湊で、僕たちは結構いろんな動画を撮って配信をしていた。人のいない図書館でのかくれんぼ動画、誰もいない道をドライブする動画、踊ってみたり歌ってみたり、ピアノを弾いてみたり、とにかく色んなことをした。

 その退廃的で仄暗い、狂気的で悍ましい動画たちは爆発的にウケた。まぁあの時は樹海を作り上げたのが僕とかみさまだとは誰も思わなかったのだろう。でなければあんな動画が野放しにされるわけもない。

 ともかくそうした実績は、僕に道を示してくれた。北湊だけではない外部からの信仰の獲得。ち囮の転院が済み次第、本格的に行おうとしていたことの1つでもある。

 

「その様子だと幽々火ちゃんも考えてはいたんだよね?」

「………………えぇ、まあ」

「なら話は早いんよ。私と一緒に山の神を復活させようよ。2人なら簡単だと思うよ」

 

 月光の瞳が僕を射抜く。何者にも負けない強い意志の固さを持っている彼女の言葉は強い。思わず頷いてしまいそうなほどに。

 

「…………それと、巫女がなんの関係があるんですか」

「幽々火ちゃんには『神様役』をやってもらうつもり。まぁ要するにキャラ付けだよね。で、私と夏葉は幽々火ちゃんのお世話をする巫女さん!」

「…………全然ジャンルが読めない」

「巫女やるのは私と夏葉だけ。君は笹神幽々火として神を演じてくれるだけでいいんさ」

 

 月潟は自信満々に言った。

 

「ひとまず事情は分かりました。それで? 夏葉さんをその中にぶち込んだ理由は?」

「君はもう分かってるでしょう? ニコラちゃんを倒す上で最も重要なのは夏葉だよ」

 

 夏葉の存在はニコラにとっての弱点だ。周囲の人間を全て支配下に置くことのできるニコラだが、自身の信念から夏葉には決定的な洗脳を行わないでいる。裏を返せば夏葉さえこちらに引き込んでしまえば、ニコラは抜くことの出来ない楔を打ち込まれ自身の課した制約によって苦しむこととなる。

 

「夏葉を返せと乗り込んできたらどうするんですか」

「それこそ君の思う壺じゃないかな? 色恋の神を連れて山の神のテリトリーに入ってくるなんて、よほど色恋の神が馬鹿じゃない限りは止めると思うけど」

「手下を使って攻めてきたら?」

「その時のための夏葉だよね〜」

 

 コイツ……。

 月潟は夏葉のことを本当に友達だと思っているのだろう。だがその一方で、夏葉を人質としても扱っている。確かに夏葉がこの神社にいる限りニコラは下手なことが出来ない。それどころか巫女姿の夏葉を拝みに来るまである。その果てに色恋の神を引き剥がした状態で神社に通うようになったら儲け物だ。

 どこまでも用意周到、どこまでも合理的、僕はこんな化け物と戦わなくてはならないのか?

 

「夏葉とはね、本当に仲良くなりたいんよ。だからあんまり使いたくない手ではあるんだ。そうならないように幾つか手は打つつもりだし」

「……………」

「ね? いいでしょ? 配信やろうよ〜」

「……………せめて、事前に相談が欲しかったですね」

「時間がないと思ったからね。ニコラちゃんは明日には再び夏葉をマークするし、他の子達を使って私や君への包囲網を強めるだろうから」

 

 はぁ、とひとつため息を吐く。そして、

 

「策に乗りましょう。取り敢えずそこで盗み聞きしようとしてる夏葉さんをこの部屋に呼んできてください」

「あ〜、だからずっと幽々火ちゃんをしてたんだ。呼んでくる〜!」

 

 願ってもない機会ではある。が、どうにも月潟に乗せられた感は強い。しかも夏葉と一緒にやるとか、前途多難すぎる……。

 

◇◆◇

 

「あ、あの……」

「すみません夏葉さん。話は終わりましたから」

「余った時間でイチャイチャしてただけだから気にしないでね夏葉〜」

「気になるわよ!?」

 

 目が丸になってる夏葉に笑いかける。夏葉はその顔を真っ赤にして俯いてしまった。うん、やりにくいったらありゃしない。

 というのも、夏葉は年上耐性がない。そして面食いだ。恋する乙女を地で行きすぎて、少女漫画に出てきそうなキャラクター像にめっぽう弱いのだ。かつて何度この状態になった夏葉を見て嫉妬を覚えたことか。まさか自分がその対象になる頃には夏葉に興味がなくなってるなど夢にも思わなかったよ。

 

「さて、ようこそ翠ヶ淵神社へ! これからよろしくね!」

「しなくていいんですか? 面接」

「フィーリングで決めました! 社長命令です、入社しなさい!」

「トップダウン型企業の嫌なところが出てる……」

 

 ノリノリの社長だったが、幾つか気になることもある。

 

「有栖さんは許可してるんです? 琵樹さんが社長なら有栖さんはオーナーなんですけど。ていうか、神社ってそんなに人を雇う余裕あるんですか」

「お婆ちゃんは結果さえ出せば許してくれるんじゃないかな?」

「承諾取ってないんですね……」

「少なくとも夏葉1人なら許してくれるとは思うんよ。あとは、布教活動がんばろーって感じだね!」

 

 なんか言ってること新興宗教みたいで凄く嫌だな。

 だが僕が神を演じて行う信仰の獲得には神社の存在は不可欠。そのためには配信以外でも活動を行いたいところである。色々とお金もかかるだろうし。

 

「そもそも神社の収入源ってよく分かってないんですよね」

 

 お寺とかと同じ仕組みなのはなんとなく理解してる。昔の僕は神社の収入の大半は初詣のお賽銭だと思っていた時期があったが、だとしたらなんて不安定な職種なのだろう。

 

「神社の収入は主に御祈祷やお祓い、それに土地の運用とかかな? 勿論お守りとかもね。とっても貧乏です!」

「その割に月潟家は綺麗ですね」

「お婆ちゃん、不動産投資でウハウハだからね〜」

「……流石というかなんというか」

 

 この天才ありにしてあの祖母である。

 

「お婆ちゃんは不動産に明るいから地鎮祭とかにもよく呼ばれてるんだよね。それで企業からたんまり稼いでるんよ」

「まぁ要するにお金は問題なさそうと。では優先して夏葉さんを雇って差し上げてください」

 

 突然名前を呼ばれた夏葉はビクッとなって縮こまってしまった。話が進まない……。

 

「じゃあ夏葉! 内定おめでとう! すぐ内定式やるからお家に来てね!」

「え、ええ!? 本当にやるの!?」

「うん。巫女服の夏葉、楽しみだぜ〜」

 

 さて、有栖さんの反応は如何に。

 月潟家はいつ見ても大きい建物だった。玄関を開けると前のように有栖さんが出迎えてくれる。ニコニコの月潟を見て、次に僕と夏葉を見た有栖さんは何かを悟ったのかそのままハァと溜息を漏らした。

 

「どんな厄介ごとだい?」

「確定演出なんですね……」

「はい! 従業員を確保しましたオーナー!」

「あんたに人事権を与えた覚えはないよ」

 

 そう言いつつも有栖さんは中に通してお茶を出してくれた。まぁ普通に孫の友達が遊びに来たような感覚だろうか。

 

「それで、夏葉ちゃんと言ったかい? 親御さんはアルバイトを許してくれそうかい? そうでなくても、こんな山の方まで女の子が1人で来るのは危ないさね」

「え〜私も女の子だよ〜」

「あんたは此処が家じゃないか」

「それじゃ、夏葉が巫女さんをするのは土日だけっていうのは? 夜までやらなければ安全だよ」

「そこまでして此処で働く理由はあるのかい?」

 

 有栖さんの言うことは尤もだ。

 けれど夏葉にとってこの環境で過ごすことには大きな意味がある。

 

「あるよ。お願い、おばーちゃん。ここに置いてあげて欲しい」

「…………」

「わ、私からもお願いします! その……この神社なら私、自分を保てる気がする、から……」

 

 歯切れの悪い回答。だが必死さが滲み出る夏葉の言葉に、有栖さんは考え込んだ。少なくとも何か事情があることは察せられただろう。

 

「幽々火ちゃん、ひとつ聞いていいかい」

「なんなりと」

「山の神絡みかい?」

 

 月潟でも夏葉でもなく、有栖さんは僕に尋ねてきた。

 

「はい。結構深刻なやつです」

「そうかい。……夏葉ちゃん。神社ってのは別にそこまで人手を必要としてないんだ。だから、簡単なお手伝いからってのでどうだい?」

「は、はい! 是非!」

 

 嬉しそうに頷く夏葉。まぁこの辺が落とし所だろう。大事なのは仕事の内容より夏葉をこの神社に繋ぎ止めておくことだ。

 有栖さんもつくづく懐が深い。今日初めて会った女の子を、詳細も聞かずに雇い入れるのは中々気が引けるだろうに。

 

「さて、今日はもう遅い。泊まってくかい?」

「え、えと……林間学校帰りなので……」

「ああ、そうだったねぇ。細かい話はまた今週末にでもしようかねえ」

「でも折角ならご飯食べて行かない? 幽々火ちゃんも、どう?」

「……いただくとします」

 

 夏葉に見られながらの食事とか、普通に気まずいから嫌なんですが。

 とは言え有栖さんのご飯は美味しい。出来れば御相伴に預かりたいものである。

 夕飯の準備は既に済ませていたらしく、テーブルにはコロッケとポテトサラダが並んでいた。汁物には細い筍ーー細筍(はちく)が入っている。北湊を含む雪国でよく食べられている郷土料理だ。僕の好物でもある。

 

「細筍、好きみたいだねぇ」

「ーーッ! 顔に出てましたか?」

「いいや。ただ、色々と似ているなと思っただけさね」

 

 笹神ろ火。有栖さんとかつて交友のあった人物のことを指しているのだろう。いずれは調べておきたいけれど、こちらは少し後回しだ。

 月潟は美味しそうにコロッケを頬張っている。夏葉も頬を綻ばせていた。

 

「林間学校は楽しかったかい?」

「うん! 楽しかった! ね? 夏葉」

「え、ええ、そうね。怖いこともあったけど、概ね楽しかったわ」

「幽々火ちゃんは同じ高校だったかね?」

「いえ、私は高校生ではないので」

 

 月潟の方は見ない。絶対笑いを堪えている気がする。

 

「え、えと……幽々火さんって年上、ですよね。なんかその……かっこいいっていうかオーラがあるっていうか」

「そう言って頂けると嬉しいです」

「夏葉、幽々火ちゃんは私のカノジョだからね? 取っちゃダメだからね?」

「と、とらないわよ!」

「まずカノジョじゃないんですけどね」

 

 緊張感はある。

 されど、今この食卓は林間学校中の食事の何千倍も居心地の良いものであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。