樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー 作:紫陽花の季節に会いましょう
3章完結まであとすこし!
「じゃあね〜! また明日学校で! 幽々火ちゃんはまた近いうちに!」
泊まれ泊まれ煩い月潟を引き剥がし、不貞腐れた月潟がヤケクソ気味に声を張り上げているのに苦笑いで返してやる。
3日間の林間学校を終えてそのまま家に帰らないのも少し不自然だしな。荷物は先ほど樹海ーー山の神の
本当なら社に帰りたいところだけど、生憎と此処にいるのは僕1人ではないのだ。
「タクシーを呼びましょう。こちらで足りると思います」
「へ!? い、いや悪いですよ!」
夏葉に5千円を渡すが、夏葉は顔を真っ赤にして拒否した。
「この時間にこの周辺を女性1人で彷徨くのは良くないと思いますよ。用心するに越したことはありません」
「そ、その……幽々火さん、送ってもらえたらな……なんて」
「え……」
こいつなんでこんなに露骨なんだよ……。
とは言え夏葉に関してはこちらに繋ぎ止めておくメリットが大きい。『山の神の祝福』を与えるには山の神を信仰させる必要がある。即ち、今後動画内で山の神を演じる笹神幽々火に好意を持ってもらうのはかなり効果的と言える。
この辺は月潟のプロデュース次第だな。こちらはこちらでやれることをやっておこう。
「そうですね。では、いきましょうか」
「は、はい!」
「え、あの……」
なんで手を掴んでるんですかね。
「あ、その……幽々火さん、ダメ、でしたか?」
「……いいえ。暗いですから安心材料たる灯火は必要でしょう? 私の手でよろしければいつでも貸して差し上げますよ」
「ーーッ!? ひゃ、ひゃい……」
うーん、ちょろい。
しかしこいつ本当にこういうキャラに耐性ないな。悪い人間に引っかかりそうで少しだけ心配になる。このキャラに対して厳しい目を向けてくる翠雨様とは雲泥の差だ。
「幽々火さんは、その……琵樹とどうやって知り合ったんですか?」
帰り道の間を持たせるように夏葉は話しかけてくる。僕は彼女の期待に応えるように回答した。
「アルバイト先が同じなんですよ。それで話すようになりました」
「え、幽々火さんのアルバイトって」
「BARの店員やってます。こう見えて料理得意なんですよ?」
緊張をほぐすように少しずつ会話を増やしていく。夏葉の家に着く頃には、夏葉は緊張を忘れてはしゃぐように会話を楽しんでいた。
まさか夏葉のこんな姿を見ることになるとは。昔の僕なら泣いて喜んだことだろうな。
「あ、もう家……」
「おや、こちらですか。名残惜しいですね、夏葉さんとせっかく仲良くなれたのに」
「わ、私も! ……私も、幽々火さんと仲良くなれて、良かったです」
真っ赤に顔を染めて俯く夏葉。……なんかやりすぎてないか? 大丈夫か?
「その……LINEとかSNSやってたりとかしませんか? 私その……」
「すみませんが、私そういうの疎いんです」
「そ、そうですか……」
露骨にガッカリした表情を浮かべる夏葉。
そう、笹神幽々火は簡単に連絡を取れない人物。ミステリアスで、ダークで、でも物腰柔らかな大人のお姉さん。夏葉の求める人物像に沿って、僕は幽々火を演じる。だからこの後の行動も笹神幽々火なら取る行動だ。
夏葉の頭に手を伸ばし、髪をさらりと撫でるように動かす。俗にいう頭ポンポンである。
「そんな顔しないでください。可愛い顔が台無しですよ」
「ひゃっ、ひゃい!?」
「また神社でお待ちしています。それでは」
翠雨様なら鳩尾に拳を入れていたであろう気障な振舞いだったが、夏葉には効果テキメンだ。チラリと後ろを振り返ると、そこには少女漫画に出てくる恋に落ちた瞬間のヒロインがいた。
夏葉を海知のヒロインから引き剥がせるとは思っていないが、ニコラへの嫌がらせくらいにはなっただろうか。なんとなく手を振って差し上げたら、遠目でもわかるくらいボフンッ! という音を立てて頭がパンクしていた。
さて再度神社に戻ってくると、なんとそこにはまだあいつが残っていた。
「風邪、ひきますよ」
「ぷーんだ。送り狼さんに言われたくないです〜。夏葉とあんなことやこんなことをしちゃったんでしょ!」
「めんどくさ……。これからやっていく相手にそんなことするわけ無いじゃないですか」
「いいえ私にはわかります! ラブコメの波動がしました!」
「色恋の神って貴方でしたっけ」
わかりやすく拗ねてる月潟。ハァ、と溜息を吐いて僕は山に戻ろうとした。
だが月潟はそれを止めるように腕を掴んできた。
「なんですか?」
「また樹海戻るの?」
「そうですけど」
「泊まってかないの?」
「まだやるんですかこのやり取り……」
「それに、情報共有が終わってないんよ」
いつものおふざけかと思ったが、月潟の表情は至極真面目だった。こいつがこの顔をするってことは、恐らく本当に何かしらの情報共有をしたがっているのだろう。
僕はそのまま月潟に向き直り、言った。
「着替えを取りに戻りますので少し待っててください。前回のように貴方のペースに乗せられるのは癪ですので」
「似合ってたのに〜」
「それとこれとは話が別ですから」
そのまま樹海へと戻り、社に辿り着く。荷物の中身を洗濯したかったが時間がないので、幽霊達に洗濯物を頼んでおいた。その他荷物の解体もお願いしておく。なんて便利なんだろう。
箪笥からいくつか肌着と白装束を用意し、リュックに詰め込んで下山する。もう5月だというのに、北湊の夜はやはり少し冷える。境内で手に白い息を吐いて温めている月潟に水色のストールを渡してやる。
「わっ! ありがと〜!」
「家で待っててくださいよ。風邪引かれたらこっちが困るんです」
そう言って月潟家の門を再びくぐる。
有栖さんはそんな僕を見て一言、「おかえり」と言って奥に引っ込んでいった。
ここは僕の家ではない。その言葉は……むず痒いことこの上ない。
「先お風呂入る?」
「……少し話すだけなら泊まる必要ないと思うのですが」
「……? でも着替え持ってきたんでしょ?」
夜の境内で話をするよりは月潟家でした方がいいと思っただけなのだが、月潟には伝わっていないらしい。いや、伝わった上でこの反応なのか?
「先ほど湯船には浸かったのでお気遣いなく。ただ、着替えたいので脱衣所だけお借りできますか?」
「え〜……残念……あ、でも幽々火ちゃんの着替えタイム」
「脱衣所に入ってきたら二度と口を聞きません」
「うへ〜、信用ないな〜」
「前科がありますので。では」
◇◆◇
今回は特に月潟が突撃してくるわけでもなく、全ての準備を終えてリビングへと向かう。
「き、着物かわち〜〜〜! かわちすぎて河井継之助になっちゃう〜!」
などと意味不明な供述をした月潟をなんとか風呂へと送り出し、食べて良いよと言われたアイスをスプーンで掬いながらぼーっと待っていた。あいつ、ブリティッシュジョーク以外だと地元ネタ使ってくるんだな……。
40分ほどすると、前と同じ水色カーディガンタイプのルームウェアを着た月潟が嬉しそうにリビングに入ってきた。こっちにまで良い匂いがして、それを感じてしまった罪悪感から思わず目を逸らす。
「はい! アイス!」
「今食べました……。それで、アイス食べながらでいいので情報共有をお願いできますか?」
「ん〜、タダでっていうのは良くないよね。うんうん、よくない。幽々火ちゃんは何か面白い情報を提供できるの?」
「あれから私の手札は増えていませんよ」
「そこはハッタリでも情報があるって言うべきじゃないかな〜?」
……確かに。
こいつに素っ気ない態度を取ることが先行しすぎて逆に術中に嵌っている気がする。遠ざかったら遠ざかったで厄介な奴なのだ。
「そもそも貴方が何か有益な情報を持ってるかどうかも怪しいんです。そんな不確定要素に対価を払えというのは傲慢ではありませんか?」
「あ〜そこを突かれると痛いんよ。こういうの、『お代は見てのお楽しみ』とはいかないからね〜」
「というわけでとっとと話してください。私は温泉に入れなかったという対価を払ってますのでもうそれでチャラです」
「いつか幽々火ちゃんと混浴してみせるんだぜ〜」
「夢は見るだけ自由ですからね。では、どうぞ」
軽くあしらったのち、目線で続きを促す。あしらわれた月潟は「およよ〜」と口元を袖で隠して泣いたフリをしたが、飽きたのか元の笑顔に戻って話し始めた。
「端的に言うとね、敵の正体がわかったよ」
「色恋の神の根源、ですね」
「うん。幽々火ちゃんは『TSF教』って知ってる?」
「…………………やはり、そうなりますか」
その名前には勿論聞き覚えがある。
もう99%この宗教が元凶だろうなと目星はつけていた。月潟からの問いを受けて確信に至る。
「お正月、私が神社に初詣へと行けなかった元凶ですね。私が叔母に引き取られてから2回年を越すことになりましたが、年始になると自称父は私をそこの宗教施設に連れて行こうとしてました」
「え、行っちゃったの……?」
「本能的にヤバいことが分かっていたので抵抗しましたよ。……色々ありましたが、結果的に行くことはありませんでした」
腫れと
ついでに言うと2回目は回避のために海知の家にて年を越した。今から4ヶ月前の話だ。
連中は海知には手を出さない。その時は疑問だったが、今ならわかる。海知を中心とした物語を展開してると知った今なら。
などと考えていると、月潟が哀しそうな瞳でこちらを見ていることに気づく。それが何ともむず痒く、僕は話の続きを促すことにする。
「で、そのTSF教が元凶ですか?」
深く話す気がないと判断されたのか、月潟は不満そうに目を細めながら続きを話し始めた。
「……TSF教は1998年に生まれた新興宗教。でもその前身の教団は結構前からあったみたい。TSF教団が国政政党と関わり持ってるのは知ってる?」
「『
「TSF教以外にも北湊に新興宗教はあるけど、北湊に本部がある宗教はここしか無い。内情は掴めてないけど、ここで間違いないと思う」
月潟が告げる。その声はどこか重々しい。
TSF教団が色恋の神を奉じているのであれば、その背後にある平和希求党もまたその一派だろう。平和希求党は国政政党としては落ちぶれたものの、北湊の地域政党として今も絶大な権力基盤を持っている。それこそ、
「北湊市議会はその大半が平和希求党の党員。名割議員だけじゃなく、その大半が敵の可能性が高いですね」
翠雨様の言っていたことと繋がる。警察、マスコミ、教育委員会、北湊病院、そして市議会と教団。つまるところ、街の全てが敵ということになる。
けれどそんなのは分かっていたことだ。この街の闇を全て滅ぼす。翠雨様と約束した内容に偽りはない。恐らくまだこの裏にはドス黒い闇が潜んでいるのだろうが、ひとまず明確な敵は判明した。
「予定通り名割議員から突いてみるとして、並行して教団の調査もしましょう。内情を知れれば1番良いですが」
「潜入、かな〜。うーん、でもなぁ……」
「何か迷うところでも?」
「いやさ、TSF教って教義がアレじゃん? そこに幽々火ちゃん送り込むの凄く嫌っていうか」
「はぁ……。別に私TSF教の教義詳しくないんですけど、何かまずいんですか?」
月潟は少し頬を染めながら、気まずそうに言葉を紡ぐ。
「男性性からの解放と発散。つまり、みんなで女の子の格好して"楽しみ"ましょうってことだね〜……。こう考えると街の花嫁制度を補助する仕組みって結構色々あるんだな〜」
「………うぉぇ……」
さっき食べたアイスを吐き出しそうになった。