樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー 作:紫陽花の季節に会いましょう
林間学校を経て忘れかけていたが、僕はこの世界がニコラのゲーム盤であることを再確認する羽目になった。
「生徒会へようこそ! 歓迎するよ、月潟琵樹。それと……」
「犀潟です」
「ほの囮は俺の親友なんです! な? ほの囮」
「らしいです」
生徒会室にはまぁそれはそれは綺羅綺羅した人材が集まっていた。このままベンチャー企業とか立ち上げたら、中身はともかくガワで出資されそうな勢いである。
「うむ、よろしく頼むぞ! 改めて、生徒会長の
「あ、はい……」
「よろしくおねがします〜」
僕と月潟は海知に連れられて生徒会室へと来ていた。ニコラ、夏葉、情報屋、京ヶ瀬千秋も居るので、これでいつメン6人+京ヶ瀬千秋が生徒会にぶち込まれたことになる。そんなに要らないだろ生徒会。
JOINTというヤク中を野放しにし続けたクソ組織がこの生徒会なわけだが、JOINTが崩壊したことで仕事が増えて人手が足りなくなったらしい。しかしこの生徒会、地元権力者が集う学校なだけあってアニメ生徒会が如く権力が集中するのである。下手な人材を入れるわけにはいかず、お鉢が回ってきたのが我らが主人公:柏崎海知である。
「JOINTの一件、改めて礼を言わせてくれたまえ。特に海知と琵樹は本当によくやってくれた。君たちをなんとしてでも生徒会に迎え入れたい」
当たり前だけど月潟が話していないので僕の名前は出るはずもない。有難い話だ。
生徒会長の言葉に海知は黙り込んだ。月潟はそれを見て同じく黙り込む。
その少し重たい空気の中、やがて海知は口を開き、こう言った。
「………俺は、入ります。放って置けないから」
「ほ、放って置けない?」
夏葉が怪訝な目で尋ねる。僕も初耳だな。何かあったのだろうか。
「……俺は、
……………………はい?
ん? なに、なんの話?
何言ってんだこいつ。
千春? 探す? は?
チラリとニコラを見たが、ニコラは無表情のままだった。これはどっちだ? ニコラの差金なのか?
「海知……君は……」
「会長、俺決めたんです。俺は千春が今どういう存在なのかも知らないし、何で助けを求めてくるかも知らない。けど、きっと何か意味があるんだと思うんです。こうして会長が苦しんでることを知った今、俺も力になりたい」
「…………」
「俺は本気です。ここにいる仲間たちだって、きっと俺のことを信じてくれる。だから会長、俺は生徒会に入ります!」
「「ストップストップストップー!」」
夏葉と京ヶ瀬が割って入る。ありがとう、僕も置いてけぼりだったから本気で助かった。
「まず誰なのその
「そうよ説明しなさいよ!」
「あ、ああ。そうだったな。実は俺、少し前から同じ夢を見るようになってさ」
海知曰く、ゴールデンウィークくらいから毎日同じ夢を見るようになったらしい。
曰く、夢の中に女の子が出てきてその子と草原で話すこと。その子が「助けて欲しい」と何度も懇願してくること。そしてその子の名前が『大白川千春』だということ。その子は生徒会長の妹さんだということ。
「不思議な夢なんだけど、夢っぽくないっていうか。本気で助けて欲しいって思ってると思うんだ。だから、俺は助けなきゃいけないってそう感じた」
「海知……」
「あんた……」
千秋と夏葉は何か感銘を受けているようだったが、僕は底知れぬ気持ち悪さに襲われていた。
見知らぬ人が助けを求めてくるから助けたい。しかも夢の中でしか会ったことのない人のため。主人公らしいといえばらしいけど、だからこそ気持ちが悪い。本人や会長、その周囲が誰もその気持ち悪さを指摘しない部分に作為的な何かを感じてしまう。
ニコラの表情からは相変わらず何も読み取れない。だがこの違和感、ほぼ間違いなくコイツが絡んでる。そしてその意図はおそらく……。
「海知……ありがとう」
「いえ、俺はまだ何も出来てません。だから、此処にいるみんなで協力して妹さんを探し出しましょう!」
つまり、あれだ。
有り体に言ってしまえば。
ーー本編、始まっちゃってるな……。
夢で出会った、失踪している女の子。
街で起こる不可解な事件。
美少女ばかりの生徒会。
そこで起こる謎を彼女たちと解き明かし、海知は千春を探し出すことが出来るのかーー!
……こんな感じですかね。ようやくこのゲームの趣旨が固まったらしい。ニコラを見ると、眼鏡がキラリと光ったような気がした。そうだな、メタ的にはこれで春夏秋冬ヒロイン揃うもんな。
大白川千春
赤泊夏葉
京ヶ瀬千秋
柏崎真冬
本当であれば僕をメインヒロインに据えたギャルゲーを展開する筈だったのに、僕が山の神となったことで色恋の神の影響を受けなくなってしまった。それで破綻したストーリーを何とか再構築した結果がこれというわけだ。
となればこれで僕はひとまずサブヒロインに降格だ。
月潟琵樹
犀潟ほの囮
赤鏥のぞ魅
村上ニコラ
生徒会長
以上の5名は一旦メインの話から外れる可能性がある。これで解決したら話は楽なのだがそうもいかない。
「琵樹、君はどうだ?」
「ん〜……」
この話の探偵役、それが月潟琵樹だ。
このままだと海知と月潟でタッグを組んでメインストーリーが進行する。山の神の祝福を受けている月潟と、色恋の神の祝福を受けている海知。まるで代理戦争かのように物語が進行する以上、僕はこのテーブルに付かなければならない。
ニコラは色恋の神の巫女だが、巫女は神の後継者を意味する。現状はニコラー海知ペアと、僕ー月潟ペアでの戦争というわかりやすい構図で落ち着いたわけだ。
僕は目配せして月潟に合図する。月潟はチラリとこちらを見て理解したのか、会長に向かって言った。
「分かりました〜。頑張りま〜す」
「そう、か。よろしく頼むぞ。こんなことを言ったが、生徒会活動もしっかりやる予定だ! ちゃんとみんなが楽しめるイベントを用意してあるから、このメンバーで楽しくやっていこうじゃないか!」
メンバーね。
会長、副会長の男子、書記の男子、会計の男子。
良家の子息たちだろうか。どこか落ち着いた雰囲気を感じる。まあ良家の時点で更に信用できないんだよね。それだけ北湊の闇にどっぷり浸かっている可能性が出てくるから。
もう帰りたいという顔で遠くを見ていると、全くおんなじ顔を月潟もしたため、僕は思わずクスリと笑みが溢れてしまった。
◇◆◇
「海知くんのあれ、どう思った?」
「どうもこうも。私の豹変と貴方の登場によって当初想定してたシナリオが完全崩壊した結果、ニコラがテコ入れする羽目になった。そういうことでしょう、あのメインストーリーは」
「だよね〜。でもそれが何を意味するか、幽々火ちゃんわかってる?」
「……………ニコラが、私たちを脅威だと認識し対立構造が明確になった、ということですね」
既に僕に対して洗脳等が効いていないことは認識していた筈だ。同様に月潟に効かないことも認識しているだろう。であれば、背後にいる色恋の神から何か吹き込まれた可能性は充分にある。
山の神の祝福を受けた人間は色恋の神の影響を受けない。向こうは僕たちが山の神を認識してるしてないに関わらず、その影響下にあることを確信している。
「ギリギリ間に合ってよかった」
「……? どうかしたのかな?」
「こっちの話です。忘れてください」
ち囮の転院は今週末だ。
警戒を怠る気はないが、ニコラが僕を飛び越していきなり殺人を犯す真似をするとは思えない。……まぁ現状では何を言ってもフラグか。
そんなわけであいも変わらず今日も月潟家にお邪魔させてもらっている。話をするのに1番都合がいいから毎回此処になっているが、このままだと本当にカノジョだと有栖さんに誤解されかねない。
月潟の部屋で紅茶を飲みつつ、僕から切り出すことにした。
「それで? 今日呼び出された本題は? まぁ概ね察しはつきますが」
「うん、動画の内容を詰めようと思って。やろうとしてることは理解できてる?」
「理解はしています。私に対する信仰を集め、山の神を強化する。ですが大きく2つ、問題があると思っています」
「聞こうか〜」
カップをソーサーに置き、出来るだけ真剣な目で彼女の目を見る。
「まず一つ、山の神という名前を使うのですか? それをすれば明らかにニコラに警戒されてしまいますが」
「幽々火ちゃんにはニコラちゃんの目を私やほの囮くんからズラす役目がある。とはいえ、山の神という名前を直接使うかと言われると微妙かな。それこそ、山の神講のみんなにも申し訳ないし」
「……ですね」
「だから、名前は幽々火ちゃんでいいと思う」
「それが原初の山の神の名前だから、ですか」
知ってたのか、という顔で驚いて見せるもすぐにその情報源を察したのか表情を戻す。翠雨様と月潟の敵対だけは是が非でも避けたいんだけどなぁ。
「幽々火=山の神なので、幽々火が有名になれば必然的に山の神も有名になる、と」
「加えて、"この子は人間じゃないかも?"という雰囲気を出すことで視聴者側に考察をさせ、山の神であることを暗黙の了解にさせる。寧ろ直接山の神ですなんて名乗られても変な連中が出てきそうだからね〜」
流石に色々考えてるな。全てはこいつのプロデュース力次第なのだが、結構安心できそうな気はする。
「では2つ目、そもそも上手くいくのか。というより何をすれば上手くいきますか」
「私のプロデュース力と幽々火ちゃんの演技力、かな。
上手くいくよ。幽々火ちゃんが素直なら、ね?」
自信満々なその表情を見て、僕の心に立ち込めていた暗雲はあっという間に晴らされていった。こいつが上手くいくと言えばそれは確かに上手くいくのだろう。
「それじゃ、今日はお風呂入ってくよね!」
「樹海の温泉に入るに決まってるじゃないですか」
「え〜〜〜! やだやだやだ! 今日こそは湯上がりの幽々火ちゃん堪能する〜〜〜!!!」
それはそれとして、全面的に信頼できないのはこういうところである……。