イグアスとエアシャカールは壁を越える【完結】   作:合間理保

9 / 12
ちょっとコンパクトだけどいい感じの切りどころがここ以外わかんなくてえ…


第9話

 エアシャカールがイグアスに啖呵を切って数日が経つ。彼女はひとりトレーニングに打ち込んでいた。

 あれからイグアスとは口を利いていない。

 

 先に動かなければならないのはイグアスの方だと思っているし、彼が腑抜けたままだったら自分ひとりで何とかするまでだ。

 

 ケンカでもしたような様に、メイショウドトウやファインモーションは気が気でないらしい。どうしたのかと頻繁に声をかけてきている。あいまいに答えているが、ファインモーションはそのうちイグアスに突撃しかねない。

 

 とにかく、自分たちがどうあろうと、時は関係なく進んでいく。

 じきに皐月賞の時期がやってくる。目標とする三冠のうちの一冠めだ。計算だとオレは勝利できる。完璧なはずの計算結果に一抹の不安がよぎるのはローダーフォーという存在のせいか、あるいはイグアスのせいか。

 

 そう、イグアスだ。あれだけの啖呵を切られて、ただ黙っているとは思えないが、彼はどうするだろうか。

 

 エアシャカールは7cmをひっくり返す要素を求めている。イグアスにそれを見出しかけていたのは確かだ。彼の能力は使えると結果が証明している。

 だから今のままでは、少し、そう、ほんの少し困ってしまうことになる、かもしれない。

 

 思案に暮れていたとき、スマホが震える。イグアスからのメッセージだった。

 

『そろそろ皐月賞のエントリーの時期だ。トレーナー室に来い』

 

 簡潔なメッセージは常のことだ。彼が以前までと変わりないということかもしれない。

 と、そこでさらにメッセージが届く。

 

『渡すモンがある。すっぽかさずに来い』

 

 なんだろうか。念を押してきたのは初めてだ。先ほどまで思っていたことを振り払う。これはきっと何か変化があったのだろう。

 

「とにかく、まあ、行ってみっか」

 

 エアシャカールはトレーナー室に足を向けた。

 

 

 トレーナー室をノックし、中に入る。イグアスが振り返って出迎えた。

 その目を見て、エアシャカールはわずかに胸を撫でおろした。

 

 火だ。火が灯っている。燃え尽きて、灰になって、それでもその灰の中から立ち上がる火だ。

 

 燃え残った燃え殻に火がついている。

 

 その様子に、エアシャカールは口をわずかにつり上げた。

 

「やる気は戻ったみてェだな」

「けっ」

「オレのトレーナーだ。そうこなくっちゃな」

「うるせえ。とにかく、皐月賞のエントリーだ」

 

 おう、と応じて書類にサインする。あとの手続きはイグアスの仕事だ。

 それよりも気になることがある。

 

「イグアス、渡したいものってなンだよ」

「ん、ああ」

 

 呟いてキャビネットを漁り、書類を入れる大きな封筒を持ってきた。

 

「てめえにさんざん言われたあと、考えた。考えて、てめえにこれを渡したいと思った。俺の覚悟だ」

 

 あまり彼らしくない熱の入った言葉に、エアシャカールは小首をかしげる。封筒を受け取る。重さからして中身はたいした量は入ってないようだった。

 口を開け、中身を取り出す。

 

「ワッペン?」

 

 赤で描かれた直線的な四つ羽の風車のような模様に、数字の9が描かれた意匠だ。

 なにかのロゴだろうか。

 

「なンだこりゃ?」

 

「俺がいた部隊、レッドガンのエンブレムだ」

 

 その言葉に驚いてイグアスに目を向ける。彼はワッペンを見ていた。

 

「俺が部隊にいた頃、そこの上官に渡されたんだ。『気に入ったやつがいたら、ひとりスカウトしてきていいぞ』ってな。レッドガンのナンバーナインだ。こんなもん捨てちまおうって思ってたんだが……」

 

「9? なんでそんな中途半端な」

 

G( ガンズ)7までは席が埋まっている。G( ガンズ)8は着任予定だった訓練中のやつがいた。だから9だ」

 

 それにな、とイグアスは言葉を続ける。

 

()()()にとって、9ってのは意味がある数字なんだ。その数字をお前が背負うことに、意味があると思う」

 

「俺たち? 意味? おい、オレは確かにお前と走るつもりだが、お前の感傷まで背負って走るつもりはねェぞ」

 

「邪魔になるもんでもねえだろ。そのワッペンは俺なりの覚悟とけじめの示し方だ。てめえと一緒にあいつを倒すっていうな。そいつは引き出しの奥にでもしまっておけ」

 

 なあ、シャカール、とイグアスはじっとこちらを見た。

 

「俺はあいつに勝てなかった。俺たちでもあいつに勝てなかった。だからこそ、今度こそあいつに勝たなきゃならねえ、俺と、てめえでだ。エアシャカール」

 

 真っ直ぐ突き刺さる視線に、エアシャカールの身が引き締まる。

 イグアスの目には小さな火が灯っている。そして自分の目にも同じものがある。

 ひとつとひとつでは小さなそれも、合わされば大きな火になるはずだ。全てを燃やし尽くす火に対抗しうる大きな火になるはずだ。

 

「実質的にレッドガンはもういねえ。俺とてめえだけのたったふたりの部隊だ。そしてこれは、俺がてめえに渡そうとするただの感傷なのかもしれない。それでも、俺はてめえをこう呼びたい」

 

G( ガンズ)9エアシャカール。俺とてめえであいつを越えるぞ」




レッドガンの悪夢を乗り越えろ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。