大人に嫌われる少女の話   作:息抜きのもなか

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曇らせゲージが溜まりきったので放出します。
新シリーズを増やして作者のキャパは足りるのか。


01.居場所

 放課後の職員室。

 私はただ、俯いて時が過ぎるを待つ。

 

「カンニングはするなと、前回の試験の際に注意しましたよね!? 巧妙に手段を隠しているようですが、あなたの学力で取れる点数じゃないことはわかっているんです! さっさと白状したらどうですか!」

 

 頭上で怒鳴るディスプレイに「\ /」みたいな線の目が出ているんだろうなと思いながら、その怒りが収まるまでじっと耐える。

 だって、私の言葉を聞いてくれない。私の話を信じてくれない。

 去年の年末のテストで学年末のテストでこのままじゃ不味いと思ったから、ちゃんと勉強をしただけなのに。万年赤点ギリギリだった私が再びクラスで一桁順位の点数を取ったことが、よほど許せないようだ。去年の内容であれなら今年の勉強はもっと大変になると思ったから春休みの時間を使って頑張って一から勉強をし直したのに。

 たぶん、私みたいな生徒に点を取られるのが許せないのだと思う。そんなことがあっていいはずがないとも思っていそう。教師たちの言葉の節々から、そんな感情が流れ込んでくる。

 私、何かしたかな。誰かと間違えられているのかな。

 授業中も迷惑をかけているわけじゃないし、放課後も問題行動を起こしているわけじゃないと思うんだけど。

 

「やっぱり来るのが面倒だからって年度途中に転入するような子はダメだね! 授業の進行度も違うし受け入れる側も楽じゃないんだから!」

 

 私は去年、高校一年生の秋に突然ヘイローを発現させ、キヴォトスに編入することになった。

 何でもヘイロー持ちの年頃の子は総じてここに放り込まれるらしく、私も例外なく押し込まれることになった。

 あまりにも急なことだったので学園選びなどはさせてもらえず、安いからという理由で確保されたアパートの近くの学校に編入が決まった。

 まあこの現状は単純な話、学校が私には合っていなかったというだけの話で。

 転入初日から教師たちには面倒な子だと思われていてこんな対応だし、授業ペースや範囲が違ったために遅れた勉強の方でも結果が出なかったことも相まって、落伍者の烙印を押されてしまったみたいだった。

 その評価は学年が上がって数か月たった今でも変わることはなく、私は既に引き籠りたい気持ちでいっぱいである。ヘイロー持ちはキヴォトス内の学校を卒業できないと就職が絶望的だという情報をここに来る前に聞いていたが為に、卒業だけは何が何でもさせてもらうけれど。

 

「そんな態度なら罰として、シャーレの手伝いを一か月間やってくるように! 授業にも出なくて結構です!」

 

 無茶苦茶だ。疑わしきは罰せずの精神はどこに。

 いや、これは私がもともと住んでいた場所だけの話なのか。このキヴォトスなら大抵のことなら死なないことをいいことに喧嘩両成敗みたいな雰囲気があるし、私の考えの方が異端なのかもしれない。

 まあ授業に出なくてもいいということは、恐らく顔も見たくないということなのだろう。

 

 職員室を出て、先ほど言い渡された内容を思い返す。

 シャーレ。最近設立されたという連邦生徒会の組織の名称だ。確か連邦生徒会が管理している捜査機関だったような気がする。

 わざわざ教師が罰として言い渡すぐらいだから、よっぽど環境が悪かったり、激務だったり、上司が酷い人だったりするのかもしれない。そんな評判は聞かないけれど。

 

「……先生?」

 

 ネット検索をかけてみれば、シャーレの先生についてのコメントで溢れていた。

 やれ犬探しを手伝ってもらっただの、やれ一緒に不良を倒しただの、その報告は多岐にわたっているけれど、否定的な意見はほとんど見受けられない。一度先生にボコボコにされたであろう不良生徒でさえも慕っているようなコメントがあるのだから驚きだ。

 総じて何でも屋のような印象を受けるが、人格者ではあるのだろうなと思う。ひとまず怖い人ではなさそうで、安心する。

 しかしコメントの量を考えると、これは激務を想定したほうが良さそうだ。

 手伝いっていうからには、報告にあるような小間使いや戦闘に駆り出されたりするんだろうか。迷子探しぐらいは問題ないけど、戦闘は苦手なので遠慮したいところだ。いや、でもキヴォトスの人じゃない先生が頑張っているのだから、私がやらない理由にはならないか。

 

「おい、ちゃんと切符は買っただろうな?」

 

 シャーレへ向かう電車の改札を抜けたところで、警備員の人に呼び止められた。

 私の住んでいるところでは教師陣から話が伝わってしまっているのか、疑いの目を向けられることが多い。スマートフォンのアプリの履歴を見せるのが随分とスムーズになってしまった。これを使う前は毎回ひと悶着を起こしていたので、これでも随分楽になったほうではあるのだが。

 レシートと支払い履歴は私の生命線と言っても過言ではないかもしれない。

 

 シャーレに行くなら、人も変わるはず。

 私の悪評がない場所であれば、何か変わるだろうか。

 

「ここが……」

 

 D.U.地区。私の住んでいる場所とは違う都会の景色に、思わず目を奪われる。

 観光に来たわけではないけれど、少しどこかへ寄り道でもしたい気分だ。シャーレの建物までの道中、何か買い食いしたところで怒られないだろう。いつもは買い食いなんてしようものなら店主から睨まれ翌日学校でしこたま怒られる羽目になるからやらないけど(他の人が怒られている姿は見たことがない)、ここなら結構やっている人もいるしちょっとやってみたい。

 近くのたい焼き屋さんの店に並んで、一つ手持ちの状態で購入する。

 不愛想な店員さんだったけれど、味は確かだしそういうお店なのだろう。

 

「おいしい……」

 

 タイミングが悪かったのか冷えてしまっているのは少し残念だったけれど、たい焼きに舌鼓をうちながら道を進む。

 都会で街がきれいとは言えど不良が居ないわけではないようで、「ヴァルキューレだ!」と声を上げながら制圧している姿を何度か目撃した。

 治安組織が機能しているのはいいことだと思う。私の住んでいる地域は学校が持っている土地が広すぎるからか全然来てくれなくて困っているのだ。いや、アパートが揺れることもそこそこあるから結構本気で怖い。

 そんな様子を横目で眺めていたら、いつの間にやらシャーレのビルの足元まで到着していた。

 いろんな生徒がビルに出入りしているのを少しだけ見てやはり人気なんだろうなと思いながら足を踏み入れる。事前連絡を入れたときに聞いていた通りの階のエレベーターのボタンを押せば、乗っていた人たちの目が一瞬こっちを向いて、びっくりする。

 

「えっ……と?」

 

 様子を伺ってみたけれど特に皆私に何か用があるわけではないようで、私はエレベーターの奥の方に陣取ることにした。

 エレベーターの壁に鏡があったので、念のため自分の身だしなみを確認しておく。と言っても鏡に映っているのは上半身から上ぐらいなので、髪ぐらいしか確認するところはないのだが。

 最近は自分で髪を切っているので、まだまだ不格好でぐちゃぐちゃだ。もうちょっとうまく切れるようになったらいいのだが。すごく短くなってしまった部分はまだ戻りきってはいないけれど、ウィッグが必要だった以前ほどではないだろう。

 今はショートカットだから長い髪の生徒には憧れてしまう。前にチラリと見た百鬼夜行の長髪の生徒さんなんか、同じ銀髪なのに人形かと思うほどきれいな髪で芸術のようだったから、私もあんな風にできたらなと思ってしまう。

 鏡の中のブルーの瞳と目が合って、急に恥ずかしくなって下を向いた。

 ほかの人もいるのにエレベーターの鏡で身だしなみチェックなんて。やっぱりちょっと浮かれているのかもしれないと思いながら降りる階に到着するまで身を縮めて待つ。

 

「かわいい」

「背は高いのにちっちゃくなってる気がする」

「先生に呼ばれるのもわかる気がするね」

 

 何やら小声でみんなが話しているようだけれど、何を言っているかまでは聞き取れない。

 SNSのコメントを見る限りでは先生は結構生徒から人気を集めているみたいだし、さっきのボタンの時の反応を見る限り悪口でも言われていそうで、少し怖い。

 ベルの音が鳴る。エレベーターが停止を告げたその音を聞いて勢いよく顔を上げたけれど、まだ私が下りる階ではなかった。

 笑い声が聞こえる。恥ずかしい。

 エレベーターはすぐに次の階に止まって、そこが私の降りる階だった。

 

「あ、おりちゃうのかー」

「がんばってー」

「あの子はいつか私がもらいます」

 

 なるべく他の人たちの言葉に耳を傾けないように努めながら降りて、扉が閉まった後に一つ息をつく。私の住んでるところにはエレベーターを使うような建物が多くないので、こんな感じだったかなとキヴォトスの外のことを思い返す。

 もっと事務的な何でもないような空間だった気がするのだが、学生の街だし勝手が違うのかもしれない。ここに通うなら毎日使うことになるかもしれないのだし、()く慣れるようにしなければ。

 エレベーターホールにあった案内図を思い出しながら、廊下を進む。

 ほどなくして、誰かの会話する声が聞こえてきた。一方は生徒と思わしき女の子の声で、もう一方は大人の男性の声。きっと男の人の方が先生なのだろう。

 楽しそうに談笑するやり取りを聞いている限りでは、SNSで語られている人格者たる姿とそうかけ離れてはいないように思える。漏れ聞こえる会話の内容も、少し距離が近いような気もするけれど軽口の範囲内だろう。

 自分の中にあった不安が少しずつ薄れていくのがわかる。

 思い切って、その扉を叩く。

 

「失礼します」

「あ、他の生徒が来たみたいだな。じゃあ、私はこれで!」

 

 褐色の生徒さんが私と入れ替わるように出ていく。

 あの制服、私と同じ学校のようだったけど、あまり見たことがない。大きな学校だし、私があまり風紀委員のお世話になることが少ないので、風紀委員の腕章をつけている彼女とは顔を合わす機会がなかったのだろうと一人で納得した。

 目の前に立つ大人を見る。名札にシャーレの顧問と書いてあるので、この人で間違いないはず。

 顔立ちは男っぽいというよりは愛嬌のある顔をしていた。背は私より少しだけ小さいぐらいだけど、どこか安心感を覚えるような頼もしさがあった。

 

波下(なみした)タルちゃんだね。よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

 

 頭を下げる。

 息を呑んだ音が聞こえたような気がした。

 

「えっと、手伝いをしろと言われてきたんですが、私はいったい何をすれば……」

「ああ、じゃあそこにある書類の仕分けをお願いできるかな」

 

 顔を上げて、違和感。

 なんだかどこか、よそよそしい感じ。聞いていた話と違う。さっきの生徒さんと話していたときの雰囲気と違う。

 初対面だからかな、と自分を納得させて、案内された席に座って書類に目を通す。

 わがままレベルの要望、緊急度の高そうな切羽詰まった内容、優先順位は高くないけど感情のこもっている要望、少し細かすぎるかなとは思うけれど、ファイルボックスをいくつか借りてラベル付けを行っていく。

 会話もなく、淡々と、作業が進む。

 手伝いに来たんだから、これでいいはず。先生もそれをわかっているから、集中して仕事をこなしているだけ。何も、間違っているところはない。

 そのはずなのに、この居心地の悪さは、何だろう。

 

「あの、先生……」

 

 耐え切れずに立ち上がって、声を掛ける。

 

「どうかした?」

 

 先生がこちらを見る。その反応で、私は自分が間違えたことを悟った。

 先生はすごく穏やかな声で返してくれたけど、私は気付いてしまった。

 

「……いえ、なんでも、あ、いや、少しお手洗いに……」

「ああ、別に声をかけずに行って大丈夫だよ」

 

 その言葉に甘んじて、来る時に見た案内図を思い出しながらトイレに向かう。

 個室に入って、鍵をかけて、そうして外部と隔絶されて、私は糸が切れたようにへたり込んだ。

 どうしてこうなったのか、わからない。うちの学校の教師から何か吹き込まれていたのか。はたまた何か気に入らない行動をしてしまったのか。あるいはただ機嫌が悪いだけなのか。

 あの人は私の声掛けを受けてこちらを向く前に一瞬だけ、眉を顰めた。顔が強張った。

 あれは、私を嫌う人たちがする反応だ。私を悪い奴だと決めつける人たちの反応だ。会って間もないはずのシャーレの先生に、そんな反応をされる理由はないはずなのに。

 皆から好かれているシャーレの先生であれば大丈夫だと油断してしまっていた。環境が変われば周囲の反応も変わるだろうと期待してしまっていた。あそこの場所でさえなければ大丈夫だろうと安心してしまっていた。

 その慢心と浮ついた心との落差に振り回されて、私の心はもうぐちゃぐちゃだ。

 だって、分かってしまった。あの場所だけじゃなかったんだって。

 自分の心を守るために言い聞かせてた言い訳は全部嘘で、原因は私にあるんだって理解してしまった。

 この世界に自分の居場所はないんだって気付いてしまえば、こんなにも息苦しい。

 ああ。痛くて、辛くて、どうにかなってしまいそう。




主人公の神秘について
メリット?:?????
デメリット:大人(正確には19歳以上)に例外なく嫌われる。

一応先に言っておきますが先生は悪くないです。頑張って抵抗してるほうです。
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