大人に嫌われる少女の話   作:息抜きのもなか

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エピローグです。


10.未来

 学園都市(キヴォトス)の生徒の間で、まことしやかに囁かれる噂がある。背の高い独特な雰囲気を纏った生徒の噂だ。

 

 曰く、その生徒は左腕がないらしい。

 曰く、その生徒はどこの学園にも所属していないらしい。

 曰く、その生徒は生徒のところを転々として暮らしているらしい。

 曰く、その生徒は数年前から姿が全く変わっていないらしい。

 曰く、その生徒を大人の居るところに連れてってはいけないらしい。

 曰く、その生徒は先生と仲が悪いらしい。

 

 曰く、その生徒は学生の短い時間に夢のような時間を提供してくれるらしい。

 


 

 自分に関する記述を確認した私は、小恥ずかしくなってしまってスマホの画面を落として持ち主に返却する。

 学生証を持たず、学生でも社会人でもない私はスマホを持てない。

 だからこうして何かを調べたいときには同居人のものを借りて調べさせてもらうことが常だ。

 

「タルさんを最初に見つけたときは私もびっくりしたよ! 流石に都市伝説みたいなものだと思ってたし、でも見つけて良かったって思ってるよ! 噂通りだし!」

「まあそっちが楽しいなら、いいんじゃないかな?」

 

 私は特別なことはしていない。

 しかし卒業してキヴォトスを離れてしまう子もいる中で、私は一時的にホテル暮らしになることはあれど宿に困ることはなく、現役生の好意に甘えてキヴォトスで生き続けていた。

 後から気付いたことだけれど、キヴォトスで生きる証としてのヘイローを与えられた時点で成長が止まっていた私の容姿は変化することがなく、卒業の年齢なんて既にとうに過ぎているのにもかかわらず学生時代の容姿のままである。

 しかし過ごしてきた年月は滲み出てしまうのか、初めて私を見つけた子からは向こうの学年に関わらず「お姉さん」という呼び方をされる。先程の記述にはなかったけれど、もしかしたらそういう決まり事のようなものがあるのかもしれないな、なんてことを考えてみたこともあった。

 

「タルさん、改めてなんですけど、本当に卒業後はダメなんですか?」

「ダメだよ。最初に言ったでしょ? 私が君と一緒にいるのは、君が学生の間だけだって」

「だ、だったら、留年してもう一年だけでも!」

「留年もダメって言ってたはずだよ。留年か、卒業。そのどちらかを満たした時点で私は君の元を離れる。そういう約束だからね」

 

 最初の子で痛い目を見た後は、私はそのルールを徹底することにした。

 大人の基準が分からなかった私とあの子は、彼女がキヴォトス内に仕事を見つけたが為に彼女の卒業後も一緒に暮らしていた。

 だけどある日を境に私のことを邪険に扱うようになった。最初は彼女の誕生日プレゼントに送ったプレゼントが気に入らなかったのかと思っていたけれど、違ったんだ。彼女が不機嫌な日が数日続いたある日、彼女はカイザーを巻き込んで私を追い詰めようとしたんだ。だから、私は命からがら逃げ出すしかなかった。

 そこで気付いた。十九歳の誕生日を迎えたあの子が、大人として判定されたのだということに。

 だから私は、高校時代の思い出になることを決めたんだ。

 実際は少しだけ働こうとして、ヒモになるしかないと思い知らされただけなんだけど。

 

「大丈夫。いつか、私みたいなやつと一緒にいたことを後悔する日が来るから」

 

 過去の家主の傾向的にどうやら私は関わりたくもないというような類の嫌悪感になるらしく、ヒモ時代のことを何か詰められたことはなかった。金を返せだの損害賠償だのを言われるのを最初の数人は警戒していたけれど、そういうやりとりですら私に関わりたくないようだった。

 そのおかげで私は何の憂いもなしに次の家主の元へ転がり込むことに専念できる。

 幸運なことに、卒業の時に餞別代りに渡されるお金と今まで少しずつため込んでいたお金でホテル暮らしをする間に、大抵の場合は次の相手を見つけることができている。もしかすると、あいつらでさえ知らないルールが他にも存在しているのかもしれない。

 

「あの、す、すみません!」

 

 うだうだと引き下がろうとする彼女を置いてD.U.に出かけたら、おどおどした様子の生徒に声を掛けられた。

 見たところミレニアムの生徒のようで、しかしまだ一年なのか、白衣に着られているような印象を受ける子が自分を見つめていた。

 

「どうしたの? 何か用?」

 

 そう優しく問いかければ、その子は反応に困ったように慌て始める。

 もしかしたら、こんな風に人に声を掛けるのは初めてなのかもしれない。自分でも自身の感情に整理がついてない段階で声を掛けてしまって、あたふたしている子を見たことがある。この子もそういう性質(たち)なのかもしれなかった。

 そんな彼女の様子を見て、思う。

 もしかしたら、早くも次が決まったかもしれない、なんて。

 

「どこかでお茶でもする?」

「え、あ、ぜ、是非!」

 

 快諾の勢いに苦笑しつつ、その子と連れ立って歩いて近くのカフェに入った。研究があまり上手くいってないとか、友達が全然できないとか、でも授業は楽しいとか、でもやっぱり寂しいとか、その子はいろんなことを教えてくれた。

 お小遣いに余裕があったのでそこは全部払ってあげたらものすごく感謝されてしまった。

 また話したいという彼女にスマホを持っていないと言ったら住所を書いた紙を渡されてしまって、いつかのあの子のことを思い出してしまう。

 

 わかっている。ずっとは居られない。

 でも、あの時の私に寄りかかる誰かが必要だったように、支えを必要としている人がいる。

 それが自分の行いを正当化する愚行だということも理解している。けれど、私はそうしないと生きられないから。

 生きて欲しいと、隣にいるだけでいいと、言われてしまったから。

 私を必要とする人がいなくなったら、その時はキヴォトスの外に行こう。そうしてひっそりと終わることにしよう。

 だからそんな未来が訪れるまでは、私が学園都市(ここ)で生きることを、許してほしい。




これにて完結となります。
長らくお付き合いありがとうございました。
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