大人に嫌われる少女の話   作:息抜きのもなか

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曇らせゲージが溜まったので排出します。
忘れないように設定を復習。
主人公は大人(正確には19歳以上)に例外なく嫌われます。例外はない(ここ重要)。


04.宝物

 シャーレに最近、ゲヘナから来た生徒がいる。

 最初にエレベーターで会った時の反応が可愛くて、でも先生目当てなのかなと思って自重していたんだけど、最近の様子を見る限りどうやらそんな様子はないみたい。

 私は当番に呼ばれたことがないからちゃんと見ているわけではないんだけど、エレベーターやお昼休憩の時間に見る彼女の顔が日に日に(かげ)っているような気がして、心配だ。

 私は委員会のお使いでシャーレの入ってる建物の別の階に用事があるのでよく足を運んでいるのだけど、私がトリニティ生ということもあってゲヘナの生徒である彼女には声を掛けづらいところがある。最近はエデン条約?とやらでピリピリしているし、委員会も先輩にもあまりこっちでゲヘナ生と絡むなと言われているから、いつも遠巻きに彼女のことを見るだけだった。

 

「あ、あの! きょ、今日はあの子、来てないんですか?」

 

 だから今日、先生に話しかけてしまったのは本当はいけないこと。

 それでも彼女のことが心配で、ついに良くないことが起きてしまったんじゃないかと思って、今まで先生に話しかけることに緊張していた自分が嘘のように、平然と先生に彼女のことを尋ねてしまった。

 一瞬だけ、先生の顔が強張ったように見える。

 私がそれが何を意味しているのか気がつく前に、先生は彼女がシャーレを去ったことを私に告げた。

 

「タルは、もう来ないみたい。本当は明日までだったんだけど、体調不良で明日も大事を取って休むって」

「そう、でしたか。彼女はゲヘナに戻ったんでしょうか?」

「それが、ワカモがいじめてたみたいでね。どこにいるかわからんだよね」

 

 詳しく話を聞けば、『体調不良』とはシャーレに出没する「災厄の狐」による暴力の結果によるものだそうで、「災厄の狐」には仮眠室の後処理という罰を与えたものの、彼女の居場所自体はどうやら分かっていないらしい。

 落胆した。先生ではなく、自分に。

 先生の態度には少し違和感はあるけれど、それよりも自分が動かなかったことに腹が立った。

 私は彼女の表情が芳しくない方へ向かっていたのに気付いていたにも関わらず何もしなかった私の怠惰が、彼女と言葉を交わす機会を喪失する結果に繋がっている。

 次があったら、今度は迷わずに声をかけることにしよう。

 

「仮眠室って、どこにあるんですか?」

 

 違う。それじゃダメだ。

 次は、なんて言っていたら、私は同じことを繰り返す。

 今、やるんだ。先輩が言っていた。機会は自分で引き寄せなきゃ、こっちには向かってこない。待っているだけじゃ、いつまで経っても機会は得られない。

 今日の業務を終わらせていた私は、少し怖いけど早速ワカモさんに朝の話を聞いてみることにした。

 


 

 自分の荷物が地面と激突した音で、意識を現実に引き戻される。

 目の前の光景は変わらない。そこにあるのは私の住んでいたアパートではなく、ただのカイザーの工事現場だけ。

 現実逃避している暇はない。状況を把握しなくては。

 

「すみません! あの、ここにアパートがあったと思うんですが……」

「何だ? 我々はこの土地をオーナーから正式に買い取って開発を行なっている。ゲヘナ学園の万魔殿の了承も得ているし、住民に通知して二週間の猶予を与えてから今週ようやく着手したんだ。正規の手段をとった我々が文句を言われる筋合いはない!」

「で、でも私、ここの住人だったんです! 荷物とか、全部中に残っていて!」

「それは通知を無視した貴様の責任だろう! アパートの契約書にも二週間前の通知で追い出せるとなっている! 確認しなかった貴様の責任だ!」

 

 契約書。この家の契約は私がした訳じゃないから、その中身を見たことはない。両親が勝手に契約して、私は放り込まれただけだから。 

 こんな条項があると知っていたら、長期間家を空けることなんてなかったのに。知っていたのなら教えて欲しかった。

 いや、それは詭弁か。そんな横暴をする筈がないとタカを括っていたんだ。次の住まいを探す時間をもう少し取ってくれるだろうと勝手に解釈してしまっていたんだろう。だから私に何も言わなかった。そう、そのはず。

 キヴォトスの外にいる両親がカイザーはそういうことをする企業だなんて、わかるわけがないのだから。

 それに、もし契約書の話が本当なら規則通りにやっている彼らに抗議できる材料がない。つまり今の状況で私にできることはないということ。手詰まりだ。

 

「わかったのならさっさと去れ! 工事車両の通行の邪魔だ!」

 

 強く肩を掴まれて引き倒され、私は渋々その場を後にする。

 学籍を失って、いつの間にか家も失っていた。

 あまりにもいろんなことが起こりすぎて、感情の処理が追いつかない。

 学校には思い入れはないけど、あの部屋は私にヘイローが発現して以降の唯一の安全地帯だったから、それなりの愛着は持っていたのに。

 大切なものだって、いっぱいあった。

 何も持たせずに家を追い出そうとした両親に懇願して、ようやくダンボール一個分だけ持ってくることができたものだったのに。

 豹変する前の二人との楽しい写真(思い出)やお気に入りの服、残してきた友達から貰った大切な絆の証だってあの部屋にはあった。私が家を出た後は捨てられると分かっていたから選び抜いた、私のかけがえのない宝物たちだったのに、全部、全部なくなってしまった。

 まだ、実感が湧かない。

 困惑して、わけがわからなくて、どうすればいいか見つけられないでいる。脳が理解を拒んでいるんだと思う。受け入れたら、どうにかなってしまうから。

 

「そうだ、家のこと、連絡しなきゃ……」

 

 ふらふらとおぼつかない足取りで宛てもなく歩きながら、部屋のことを両親に伝えなければいけないとスマートフォンに手をかける。

 家を出て以降連絡していないからもう半年以上も連絡をしていないことになる。

 あのアパートを見つけてきたのは両親だし、他に頼れる相手もいないので選択肢はない。

 数回の待機音のあと、すぐにガチャリと通話に切り替わった反応があった。

 

「もしもし、あの、家がーー」

「『お掛けになった番号は、お客様のご希望によりお繋ぎできません』」

「は、はは、あはは」

 

 乾いた笑いがこぼれる。

 どうしてこんなことになっちゃったんだろう。

 以前は仲の良い家族だったのに。朝と夜の食事は揃って摂ったり、三人で旅行に行ったりする、普通の家族だったはずなのに。

 私にヘイローが発現してから、全て狂ってしまった。

 両親は私を化け物を見るような目で見始めた。それまでの愛情が嘘のように心底気味悪がって、友達を別れの時間も与えることなく私をこの都市(キヴォトス)に放り込んだ。

 喉元過ぎれば熱さを忘れる、なんて言葉があるように、あの瞬間だけが特別だと思いたかった。

 

「おい、お前」

 

 男の声に振り替えれば、そこにいたのは先ほど見たカイザーの警備会社の警備員。

 けれど、どうしてそんなに武装した兵士を連れている?

 緊張で身体を強ばらせる私の様子など気にすることなく、一番前のカイザー社員の頭部ユニットが私を睨んでいる。

 

「さっきはすまなかった。あのアパートの住人の中で、お前は話があるから上から本部へ連れてくるよう言われていたんだ」

 

 さあこちらへ、と手を伸ばすその姿はとても友好的に見える。

 だけどどうしてだろう。全く信用できない。

 今までの周囲の人間からの態度で、いつのまにか好意を素直に受け取れなくなっているのかもしれない。

 いや、そんなことより。

 胡散臭い。武力で脅せばどうにかなると思っている姿勢が気に入らない。こちらを侮り、見下しているのを隠さないのが、鼻につく。

 警戒して、銃を持つ手に力が入る。使うことなんて、できっこないのに。

 

「さあ、こっちへ」

 

 もう一歩こちらに近付いてきた瞬間に、私は彼らに背を向けた。

 地の利はある。脇道に飛び込んで、捉えられるよりも速く撒けばいい。

 銃声がする。弾が私の髪に当たって、幾総(いくふさ)かの髪が風に流れて消えていく。

 

「追え! 協力者のもとに引きずってでも連れて行くぞ!」

 

 ああちくしょう。こんな思いをするなら、ヘイローなんていらなかったのに。

 望んでないのに与えられて、その結果がこれだ。

 周りからは軒並み嫌われ、学校は辞めさせられ、アパートは追い出され、宝物を壊されて、実の肉親からは着信拒否。

 私が何をしたっていうのだろう。無自覚で何かをしてしまったのなら、自分の行動を直したい。私がこんな仕打ちを受ける、納得できる理由が欲しい。

 その答えを与えてくれるような人も思い当たらず、必死で道を駆けていく。

 

 ふと後ろからの足音と銃声が聞こえなくなっていることに気が付いて、ゆっくりと減速する。

 膝に手を付いて肩で息をしつつ体を冷ます。息を整えてから顔を上げる。いつの間にかゲヘナ外縁部の捨てられたビル街の方まで歩いてきてしまったようだった。

 ブラックマーケットの側にあるこの場所は、あまり治安が良くないことで有名だ。指名手配犯なんかも潜伏していると聞くし、あまり関わりたくない場所である。

 

「よかった。カイザーに先を越されなくて済んだみたいだね」

 

 昨日に続き、今日も厄日だ。

 白と黒の特徴的な髪、胸元が大きく開いたチャイナドレス。見知った特徴と一致する。

 聞く話では、彼女が姿を見せるときにはもう彼女の術中だと。だからこそ最大限の警戒を持って彼女の方に正対する。

 

「――ッ!?」

 

 瞬間、首筋に痺れるような痛み。視界が明滅し、制御を失った体は投げ出される。

 暗くなる視界の中で、こちらに邪悪な笑みを向ける七囚人の姿が見える。昨日の『災厄の狐』とは別ベクトルで危険な人間。あちらは暴力、こちらは手段。

 最悪だ。

 私は一体、何をされるんだろう。




Q.マコトの誕生日、3月だからまだ19歳じゃなくね?
A.その通りです。なので、マコトが主人公を売ったのは別の理由となります。
(訳:やっべガバったプロット見直そ。あれ、カヨコも3月じゃね? 便利屋編できないやん)
なお、カイはこの時期多分邪悪だったよねという理由だけで貫通させる模様。
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