大人に嫌われる少女の話   作:息抜きのもなか

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曇らせゲージは溜まってないけど書き終わったので排出します。短め。


08.爆弾

 どれだけ、走っただろう。

 少なくとも、今まで生きてきた中で一番だろう。

 制止を振り切って、息を切らして、ただ、ただ、私は逃げた。

 

 バランスを崩す。片腕がない状態で走ったことがないにしては上手く行った方だと思う。右腕一本で支えるには抱えてしまったものが多すぎて、支えの無かった左側から地面に叩きつけられる。

 転がって投げた視線の先に曇天の空が見えて、いつの間にか地上にまで逃げてきてしまったことを自覚する。

 ここがどこかはわからないが、とりあえず小休止。

 しかし体の動きが止まれば、思考が巡ってしまうもので。

 自分の行動の全てが現実を突き付けてきて、結論は決まりきっていて。

 

「終わりだ、終わり」

 

 こんな世界、こんな人生、生きる意味なんてない。

 だって、そうだろう。

 学校も辞めさせられて、就職は絶望的。就職したところで、大人に嫌われるという部分が正しいなら私は嫌がらせを受けて窓際部署で一生を終えるだけだ。

 生きるために理不尽に耐えてしがみついても、常態化した悪意はいつか堰を切って牙を剥く。今回みたいに人体実験で済めば良い。でもそうは行かないだろうと簡単に予想ができる。尊厳なんて見なかったことにして、口にするのも憚れられるぐらい私は全て奪われるんだ。

 そんな目に遭うのが判りきっているなら、せめてまだ軽傷の今のまま死なせてほしい。

 そのぐらいの権利は、私にだってあるはずだろ。

 

「これを、使えば」

 

 あいつらの研究室から盗んできた爆弾。

 首なしは失敗作だとか言ってたが、そう名付けていた以上はそれを実現するに近しい火力は有しているはずだ。今の精神的にも肉体的にも終わってる私なら、問題なく壊れるはず。

 爆弾なんて持ったことがないから、起動の方法がわからない。

 けど、叩きつければ爆発するだろう。いや、それだと持ってるだけで危険すぎることになってしまうから、安全装置みたいのはあるかもしれない。

 地面に転がって起きる体力もないまま、爆弾を手探りで調べていく。

 解除だけはしないようにだけ気をつけながら、ペタペタと触りまくって構造の理解を試みる。

 そうこうしていても一向に息は整わない。案外結構不味い状態なのか。私にとっては好都合だが。何もせずこのままいるだけでも死ねるなら、楽なことこの上ないな。

 このまま私がくたばるのが先か、爆弾の起動が先か。

 面白いじゃないか。最後に一つ達成してから終わるのも悪くない。

 

「だ、大丈夫ですか!」

 

 遠くから絶望が近づいてくるのが聞こえた。ちらりと見えた制服は、トリニティの生徒のように見える。

 おい馬鹿。やめろ。やめてくれ。このまま死なせてくれよ。

 私は必死に手元の爆弾と向き合う。どうにか、どうにか起動するんだ。

 

「ひ、酷い傷! だ、団長! 団長を呼んで下さい!」

 

 嫌だ、いやだ、生きたくない! 助かりたくない!

 なんで放っておいてくれないんだ! トリニティ生(おまえたち)からしたら私はうす汚いゲヘナの住民だろ!

 声にならない叫びを胸中で張り上げながら、ガチャガチャと爆弾を触りまくる。暴発でもなんでもいい。さっさと、起動してくれ!

 

 ーーカチ

 

 願いが届いたのか、私の希望が、時を刻み始めた。

 

「救護者はどこですか!」

 

 時限式だったらしい。まだ時間はかかるかもしれないけど、あとは爆発を待つだけ。

 最期の最後で、私はやったんだ。

 これは私のものだと主張するように、ぎゅっと胸に大切に抱える。

 

「その爆弾、動いてますよ! そんな傷で爆弾なんて受けたら!」

「退いてください! 『救護』します!」

 

 大地が揺れる。

 何かが近づいてくる。

 ふとそちらに目を向けたら、そこにいたのは私ですら知っている蒼の弾丸。

 この先何が起こるか分かってしまって、私は死に物狂いで抵抗する。

 

「なぜ抵抗するのですか! その爆弾を放してください」

「いやだ、やだ。やめて……」

 

 頼むから、私を放っておいてくれ。

 私の命ぐらい、私の勝手にさせてくれよ。

 

「こうなったら仕方がありません。少し手荒な手段を取らせてもらいますよ」

「やめ、やめ、て……おねがい、だから……」

 

 無理やり私から爆弾を奪い取ろうとする蒼森ミネという名の悪魔に必死で抵抗する。

 頼むから、私の希望を奪わないで。私をこんな地獄から解放させて。

 背中を向けた私が抱える爆弾を無理やり奪おうとする彼女の力は強く、身体ごと持っていかれそうになる。それでも一秒でも長く、私が死ねる可能性を少しでも高めるために、私は火事場の馬鹿力を捻り出して、彼女に抗おうとした。

 

「いい加減に、して下さい!」

「あぁ……」

 

 爆弾は爆発した。でも、私は生温かい風を感じるだけ。

 蒼森ミネに爆弾を放り捨てられ、盾で爆風から守られてしまったから。抵抗虚しく、私は結果を得られなかった。

 足りなかった。

 届かなかった。

 あと、少しだったのに。

 

「こんなのって、ないよ」

 

 視界が滲む。

 目尻はすぐに許容量を迎えて決壊する。

 

「………………ちくしょう」

 

 ああ、どこまでも世界は残酷だ。




主人公の神秘について
メリット :キヴォトスで生きることができる(キヴォトスにいる限り死ねない)。
デメリット:大人(正確には19歳以上)に例外なく嫌われる。
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