事実は小説より奇なり。僕の人生はこの言葉と無縁だと思っていた。
忘れもしないあの冬の日。僕WHITE ALBUM2をプレイしていた。しばらく時間が経って何の前触れも無く、視界が切り替わった。いつの間にか、ふかふかのソファに座ってテレビを見ていた。意味分からないでしょ? まあ、所謂転生? 憑依?ってやつだったんだけど。
テレビにはWHITE ALBUMが流れていた。そこは自分の家ではなく他人の家のリビングで、テーブルにはイケメンと美人さんが二人で談笑していた。その人たちがこの世界での俺の親。そして彼らから受け取った名前が麗香。この世界の僕は天王寺麗香という名前だ。転生したのも驚いたけどまさかTSだったとはね。だいぶ慣れるのに時間がかかったけど今ではばっちり女の子だ。多分。一人称も『私』だし。
ーーーーーある日の放課後。
「ちゃんと私以外にも2、3人誘った?」
「もちろん」
今、僕と話しているのがこのWHITE ALBUMの世界の主人公、北原春希。はっきり言ってこいつは異常者だ。彼は原作で問題児の初恋の女の子、冬馬かずさと学園のアイドル、小木曽雪菜とバンドを組み、学園祭で大成功を収める。しかし学園祭直後に雪菜の告白を受けるもかずさに対する思いが止まらず、かずさと交わり結局3人はちりじりになってしまう。要約すると二股のクズ。・・・色々酷いこと言ってるけど、この世界の彼と僕は小学校からの親友だ。 普通にしてる分にはめんどくさいこと全部引き受けるお節介な委員長なんだけどね。原作をプレイした時はそんな彼がどうしてカスみたいな選択をしたのか訳が分からなかった。高校編のintroductory chapterは3年間を回想している、という立ち位置。選択肢が一切ない1本道のストーリーだ。不甲斐ない春希に何度イラついたことか・・・
「麗香が最初から入ってくれてたら俺たちだけでも息を合わせられたのにな」
「私にも譲れないものがあるんでね」
「わけ分かんねえよ」
原作では彼のバンドの長の飯塚武也というチャラ男が去年のミス峰城大付属準優勝の柳原を引き入れたことから始まる。彼女のせいでバンドが空中分解し、その穴を埋めるために春希がヒロインの雪菜とかずさをバンドに誘うために奔走する。
僕は悩みに悩んだ末、彼のバンドの初期メンバーに入らないことに決めた。僕が最初からいたら、二人を勧誘しないとかあり得るかもしれないし。それに物語的の都合上、絶対壊れないといけない場所に居たくない。
「と、いうわけで今日から軽音楽同好会に加わることになった冬馬かずさと天王寺麗香だ。みんなよろしく」
「・・・」
春希の音頭に雪菜の口がぽかんと開いている。こいつどんな顔しててもホント可愛いな。やっぱり3年連続ミス峰城大付属優勝者は伊達じゃない。
「で、こっちが飯塚・・・」
「って麗香!!? あなた前、私が誘ったとき『バンドに出るつもりなんてない』って断ったじゃない!!?」
「どう? びっくりした?」
何を隠そう、この世界の雪菜と俺は高二の冬からの付き合いだ。あまり原作ブレイクしたくなかったけど、見過ごせないことがあってお節介を焼いたら懐かれました。最後の学園生活まで友達が春希だけなのは寂しいし。関わっちゃったもんはしょうがないよね? 3人だけの関係に依存しないように絆を深めたつもりだけど。
「春希くんが言ってた『もう一人のメンバー』って麗香のことだったんだ~。もうっ!! 最初から話してくれればいいのに!」
「だって、しょうがないだろ。こいつが他にバンドのメンバー二人は連れてこないと入らないって言うし。俺だって本当に二人・・・特に冬馬をスカウトできるなんて思ってなかったし」
「・・・悪かったな。私が難攻不落の要塞で」
僕の目の前で原作キャラたちが話してるなんて・・・なんか変な感じ。春希と初めて話した日を思い出すなぁ。
「かずさ、、、さんだっけ? たしか同じクラスだよね?」
「私を名前で呼ぶな。お前に許可した覚えはない」
「え~。じゃあ誰なら許可するの? 親? 雪菜? ・・・それとも春希?」
「おまっ・・・。なんでそこで北原が出てくる!?」
「なんでだろうね? 自分の胸にでも聞いてみたら?」
「っ・・・!」
やっぱこの世界でも春希への恋心はあるらしい。・・・安心するようで安心できないような。 かずさに嫌われてるけどこれがデフォなんだよな。母親との不和で彼女は他人との壁がとても厚い。ただ1人、好意を持っている春希を除いて。
「ちょ、ちょっと二人とも!? 喧嘩は良くないよ! ・・・麗香もそんなにかずさを煽ったらダメだよ~。気持ちはわかるけど」
「お、小木曽。なんでお前まで私を名前で呼ぶんだ!?」
「だって、かずさ。さっき春希君しか拒否してなかったでしょ?」
「ち、違う。そういうことじゃない!」
「じゃあ、春希くんはかずさを名前で呼んでいいの?」
「そっちじゃない!!」
「なあ、春希。俺、帰っていいか?」
「奇遇だな。俺もそう思ってたところだ」
「春希、お前俺の事煽ってんだろ!」
「別に煽ってるつもりなんかない」
「はぁ。いつの間にか俺はお前に追い抜かれてたみたいだな。・・・今度から女たらしって呼んでいいか?」
「お前にだけは言われたくない! 大体、武也に関係ないだろ。お前には依緒がいるんだし」
「春希、それって・・・」
「はいはーい。みなさん静粛に静粛に!!」
「「「「お前が言うな!!!」」」
「麗香が言うんだ・・・」
雪菜以外の全員の声がハモる。仲睦まじくてなにより。
「さてさて、我が軽音楽同好会にかずさちゃんと雪菜ちゃんと麗香ちゃんが加入してくれたということで。顔合わせも済んだことだし、今日はこの辺でお開きにしてカラオk・・・」
「・・・っ」
「うわああああああ!!!」
瞬間、かずさが飛んだかと思うと武也の近くの机を蹴り飛ばした。あまりの威力に飛ばされた机は周囲を巻き込み5人分の席が犠牲になった。・・・やべ。僕がからかいすぎて原作以上に怒ってる?
「武也。お前、さっきの話聞いてたのか?」
「だ、だって。かず、冬馬さん満更でもなかったじゃ・・・」
「かずさはともかくとして何で私まで名前で呼んでるの?」
「そ、そんなぁ。麗香ちゃん酷いよ。これが初対面じゃないのに」
「『私を名前で呼ぶな。お前に許可した覚えはない』」
「お前ちょっとかずさのこと弄りすぎだろ!!! ・・・あ」
春希が自分の失言に気づくも時既に遅し。お嬢様は・・・
「っ・・・!!」
耳真っ赤になってますね。可愛らしい。
少し、、、いやだいぶ話が横道に逸れたけど、原作と同じく武也はシンセで帰宅、雪菜はボーカル、春希はギター、かずさは・・・キーボード?に決まった。僕は『ベース』。
春希はかずさの命令で第一音楽室の方に行った。かずさ曰く春希のギターの腕だと音を合わせるのに邪魔らしい。この世界のでも下手なんだね・・・ 俺も前世は音感なくてこの世界の憑依先の才能に頼りっきりだからあんまり人のこと言えないけど。それでもちゃんと努力したんだよ? 財力の相乗効果もあるけど。
「うん、いい感じ。これなら素人くらいは騙せるよ」
「し、素人くらいなら・・・」
褒めとも侮辱とも煽りともとれるかずさの言葉に雪菜は苦笑を漏らす。素人・・・か。
「天王寺もふざけたやつかと思ってたけど割と出来るじゃん。ちょっと見直したよ」
機嫌いいな。やっぱり嬉しかったんだ。そりゃそっか。1年間の片・・・両片思い?が少し進展したしね。
でも、割と出来る・・・か。割と。割と、か。
「でしょでしょ!? 麗香ってすっごいんだよ!! 家もあり得ないくらい大きいし、すっごい大きい防音室もあるし、大量の弦楽器も持ってるんだよ!!」
「へ、へえ」
何一つ僕本人のこと褒めてないし、かずさ反応に困ってるし。そりゃそうだよな。かずさの家にはウンゼン万するピアノもあるし、たしかレコーディングスタジオ?もあるし。・・・僕の家なんて比べるのもおこがましい。
「それにね。小学校の頃にたっくさんの賞とってたんだよ!」
「ちょ、ちょっと。雪菜」
「??」
雪菜は首を傾げ、屈託のない笑顔でこちらを向く。褒められると思ってるのかな。
「それはだいぶ昔の話だし、かずさは全国コンクールでぶっちぎりの一位だったんだよ? 悪気はないってのは分かってるんだけど、本物と比べられると恥ずかしくて死にそう・・・」
「で、でもさ! たしかにかずさの演奏は素人にも分かるくらいすごいよ!! けどさ、麗香ももちろんすごいよね!?」
それ、僕の演奏は素人にはすごさが分からないみたいな・・・ いや、くだらない言葉尻とってギスギスするのも良くないな。何のために今まで大げさにお調子者っぽく振舞ってきたのかが分からなくなる。
「・・・本当に小木曽は天王寺が好きなんだな。二人はいつから知り合ったんだ?」
「高校二年生のちょうど今頃だね〜。そ・れ・と、かずさだけ私たちを名前で呼ばないのは不公平じゃない?」
「はいはい。分かったよ。雪菜、麗香。これでいいんだろ?」
「「うんうん」」
かずさは少し気怠そうな、それでもどこか嬉しそうな顔をしている。ふぅー。これで僕の苦労も少しは報われたかな? まあ、原作でもそうだったように僕が何もしなくても雪菜とかずさは親密になる。こうやってイベントを少しづつ前倒しにすれば雪菜もかずさも激情に駆られて、お互いを傷つけるようなことしない・・・といいんだけどなぁ。絆が深まりすぎると壊れたときの反動が大きいし。正直、何が正解なのか分かんない。
「てn・・・麗香の家には楽器があって防音室もあるって言ってたけどさ。私の家にはそれを凌駕するくらい大きなスタジオがあるぞ」
「マジ!? 私行ってみたい!!」
「え~。麗香ずる~い。私も~!」
「今日、練習が終わったら一回来てみるか?」
「いいの!?」
「ああ。と言っても、その練習場所が本当に必要なのはここにいない誰かさんだけどな」
ヨシ!! これで原作みたいに春希とかずさが二人だけで練習して、雪菜が疎外感を感じる、なんてことはなさそう。雪菜の家は厳しいから今日からレッスンが始まっても休日以外は居残りできなそうだけど。この世界は原作と比べて一週間くらい余裕があるから必要なのかも分からないけど。それにしても、なんで原作よりも一週間も早く集まったんだろ? 春希が敏腕だったのかな? 乱数?
「じゃあ、改めて二人とも。今日から学園祭までの3週間。よろしく頼む」
「「うん!」」
呼び方のくだり少ししつこかったかもしれませんね。
WHITE ALBUM2のcodaを全クリしてから執筆しようと思ったんですけど、我慢できませんでした。