殺したいほど憎いのに、好きになりそう   作:味噌村 幸太郎

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10 お前だけは許さない

 

 あれからずっと、この時代の”やおい”に関する情報を優子ちゃんが話してくれた。

 別に聞いてもないのに……。

 

「私も早くお姉ちゃんみたいに、絵が上手くなりたいな! そしたら……」

「いや、優子ちゃんとお姉さんなら……絶対、”商業”行けるよ。私が保証するから」

 

 そうだ。俺に取って、この二人の作品が不快なのならば……。

 前世で言う腐女子たちにとっては、快楽なのだ。

 

「しょうぎょう? なんのこと?」

「あ、いや……あと5年ぐらいすれば、オリジナルBLマンガも流行り出すから、今は二次創作で力をつけてってこと」

 

 俺の持論に対して、首を傾げる優子ちゃん。

 

 

 そんな話をしていると、校舎が見えてきた。

 丘の上にそびえ立つ、大きな中学校。

 正門には、先輩と思われる生徒が男女合わせて5人ほど立っている。

 学校の中に入って行く、後輩に向かって大声で挨拶をしていた。

 

「「「おはようございます!」」」

 

 それを見ただけで、俺は後退りしてしまう。

 

 中身はアラフォーのおっさんでも、今は女子中学生。

 先輩たちは俺より身長の低い子が多いけど、纏っているオーラというか。

 やはり目上の人だと感じる、空気が重たい。

 

 その場で立ち止まってしまう俺を見て、優子ちゃんが優しく右手を掴んでくれた。

 

「大丈夫だよ、藍ちゃん」

「う、うん……」

 

 やっぱり、優子ちゃんという友達がいて良かったかも。

 俺ひとりじゃ入れそうになかった。

 良い子だな、腐女子だけど。

 

  ※

 

 ”真島(まじま)中学校”の校舎は、アルファベットの”H”を横にしたような形だ。

 左側の棟は一階から職員室や校長室、応接室など大人が使うもので。

 続けて2階と3階は、2年生と3年生の教室。

 

 俺たちが利用するのは、右側の棟で。

 一階こそ、理科室や武道場などで埋まっているが。

 ほとんどは、1年生の教室で埋め尽くされている。

 と優子ちゃんが、下駄箱で説明してくれた。

 

「覚えている? 私たちのクラス」

「えっと……1-Eとか?」

「全然、違うじゃん。アルファベットじゃなくて、数字。1年7組だよ」

「そうなんだ……」

 

 超、どうでもいい。

 そんなことより、俺はあることで頭がいっぱいだった。

 それは初恋の相手、鞍手 あゆみの存在。

 彼女が本当に前世と同じような人物ならば、仲良くなりたい。

 だって前世で彼女は、最悪の終わり方をしたから……。

 

 

 俺に色々と優しくしてくれた女性、鞍手 あゆみ。

 地元である福岡から離れても、よく手紙を送ってくれた。

 ずっと俺のことを考えていてくれたようで、唯一の支えだった。

 しかし、最後のハガキを見て俺は絶望した。

 よりにもよって、彼女が結婚した相手は、俺をいじめた鬼塚 良平だったから……。

 

 だから今度こそ、この世界では彼女と仲良くなって……。

 なんだったら、女同士の恋愛を始めてみたい。

 そう意気込んで、俺はクラスの扉を開ける。

 

 クラスの中は若者で溢れている。この中に必ず鞍手がいるはずだ。

 必死に当時の彼女を思い出しながら、探していると。

 背の低い少年が俺に声をかけてきた。

 

「あ、水巻。今日は学校に来られたんだ。良かったな」

「!?」

 

 忘れていた……。そうか、こいつもこちらの世界にいたんだな。

 俺を地獄の底へ落とした張本人。

 中学生という貴重な3年間を、お前に全部奪われたんだ。

 お前さえいなければ、俺だって今ごろは……。

 

 気がついた時には、俺は目の前に立っている少年の胸ぐらを両手で掴み、持ち上げる。

 強い怒りと憎しみのせいか、少年を軽々と持ち上げられることが出来た。

 大きなブラウンの瞳を覗き込むと、25年分の憎しみを吐きだした。

 

「鬼塚、お前だけは……絶対にお前だけは許さないからな」

 

 と男のようなドスのきいた低い声で、彼を脅した。

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