殺したいほど憎いのに、好きになりそう   作:味噌村 幸太郎

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117 100人斬り

 

 産後間もない”コル●ス先生”から平手打ちを食らった俺は放心状態に陥り、グラウンドの隅で体操座りをしていた。

 ブッ叩かれた頬はまだ熱を持っていて、今も激しい痛みに悩まされている。

 同じく見学している優子ちゃんが心配して声をかけてきた。

 

「あ、藍ちゃん……大丈夫?」

「うん……まさか叩かれると思わなかったよ」

 

 こんな美少女を。というか、女の子を叩くとかどういう教師なんだ?

 90年代てまだまだ体罰が一般的な光景だったのか……。

 

「まあ、あの先生はそれが人気の理由だからね。それより藍ちゃん、私の声ちゃんと聞こえてる?」

「え? もちろん、聞こえてるよ」

「良かったぁ~ じゃあ先生の指が耳に当たらなかったんだね?」

「あぁ、ひょっとしたら、当たったかも? しばらく耳がキーンて響いていたから」

「ちょっと! 当たったならちゃんと教えてよ! 鼓膜が破れていたら早く病院に行かないと!?」

「ええ……そしたら、またあの先生に言わないといけないじゃん。また何か言って叩かれたら嫌だよ」

「そんなことを面倒くさがって鼓膜が破れたら、藍ちゃんの片耳が一生聞こえなくてもいいの!?」

 

 一体、どうしたんだ? 優子ちゃん。

 なんでこんなに鼓膜にこだわっているのか。

 今もちゃんと聞こえているから、心配のしすぎだと思うのだが。

 俺が優子ちゃんにその理由を尋ねると……。

 

「だって、あの先生有名でしょ? 生徒たちの鼓膜破りで」

「は? なにそれ?」

 

 優子ちゃん、何をサラッと体罰問題を許容しているの?

 どこかの”切り込み隊長”が達成した100斬りみたいな表現しているけど。

 

「あの先生は普通の人より指が長いんだよ。だから生徒に指導する際、熱が入って平手打ちするんだけど、勢い余って鼓膜を破っちゃうんだ」

「……なんで、そんな体罰教師を学校は放置してるの?」

「そりゃ生徒や親たちに支持されているからだよ。あの人が指導したバスケ部は全国で優勝できるもん。ただ試合に負けると全員立たせて一発ずつ叩くから、他校で何十人もの鼓膜を破って異動させられたよね。それさえなければ、すごい先生なんだよ」

「自分の子供の鼓膜を破られても、バスケを指導してほしいの?」

「まあ私は興味ないけど。バスケが好きで全国を目指しているのなら、我慢できるんじゃないかな」

 

 わからん。試合に負けたら全員スクワットでもさせておけば、問題にならないんじゃないのか?

 有能なのか、無能なのか……。

 

  ※

 

 体育がようやく終わり、校舎に戻ろうとした時、口の中がどうもおかしい。

 女子トイレに入って鏡で自身の顔を確認すると、藍ちゃんの頬が紫色に腫れていた。

 

「うわっ……”お岩さん”みたいに腫れてる」

 

 やっぱコル●ス先生って、かなりの腕力の持ち主なんだろうな。

 口の中を見たら、歯ぐきから出血していた。

 ムカつく! たかが授業中に私語をしていたけで、ここまで女の子を引っ叩く必要があるのか!?

 

 そうだ! この顔を鬼塚に見せたら、怒ってくれるに違いない。

 俺にベタ惚れなんだ。大切な女の子がここまで叩かれたら、あいつがコル●ス先生へ殴り込みに行くかもかな。

 ちょっと、今日は女の子らしい振る舞いをしてみよう。

 女子トイレから出ると、手洗い場の蛇口を回して、顔を洗う。

 敢えて目元だけは濡れたまま、放置しておく。演技のためだ。

 

 教室に入ると、体操服にカッターシャツを羽織る鬼塚の姿が見えた。

 俺は両手で顔を隠しながら、わざと泣き声を上げてみる。もちろん演技だが。

 肩を震わせて「鬼塚ぁ~」と彼の肩にもたれかかる。

 普段、俺がこんなことをしないので鬼塚はかなり驚いていた。

 

「ど、どうしたんだよ? 水巻!?」

「叩かれたのぉ~ コル●ス先生にブッ叩かれたぁ~! 痛すぎるの~!」

 

 そう言って両手を顔から下ろすと、紫色に腫れている左頬を鬼塚に向ける。

 俺の顔を見ると、案の定鬼塚は顔を真っ赤にして怒り始めた。すでに右手は拳を作っている。

 よし、これでコル●ス先生は死んだな。

 

「お前をそんな目に合わせた奴は誰だ!? 名前を教えろ! 俺がボコボコにしてやる!」

「ボコボコにしてぇ~! 体育の女子担当のコル●ス先生だよぉ~!」

 

 俺がコル●ス先生のことを教えると、鬼塚の顔色が真っ青になってしまう。

 

「え? もしかして女子バスケ部の担当をしている人か?」

「そうだよ~ 私語をしてるだけでこんなに叩いたんだよ……やっつけて」

「悪い……あの人だけは無理だ」

 

 俺は耳を疑った。

 

「は? 私のこと大事なんでしょ? ならやっつけてくれるでしょ?」

「いや、あの先生だけには何もできない。女子バスケ部も担当してくれるけど、たまに男子バスケ部も指導してくれるんだ。あの人がいたら全国大会が確約されたようなもんなんだよ。悪い、代わりに今度なんか美味いもんでも奢るからさ」

「……」

 

 藍ちゃんのことより、バスケが大事なのかこいつ。

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