殺したいほど憎いのに、好きになりそう   作:味噌村 幸太郎

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第十四章 生きる伝説
127 芸術学部で生きる


 

 1995年じゃなかった……もう1996年の並行世界に転生して、半年が経とうとしていた。

 そろそろ、中学1年生も終わりに近づこうとしている。

 数学の補習に集中していたら、あっという間に3月の後半になっていた。

 もうすぐ春休みだ。それが終わったら2年生になるもんなぁ……。

 1年生の勉強すら理解できていないのに、進級してもいいのだろうか?

 

 

 ある日曜日の朝、暇だったから近所にあるゲーム屋さんで、中古の”ゲームボーイ”本体とブームが起きる前の”初代ポケモン”のソフトを買って来た。

 自室のベッドで寝ながら、モンスターを育成していたら。

 一階からチャイムの音が聞こえて来た。

 今日は誰も家にいないので、急いで俺が階段を駆け下りる。

 

「はーい?」

 

 扉を開けると私服姿の優子ちゃんが立っていた。

 ハンチング帽にゆったりとした茶色のワンピースとカーディガンを着こなしている。

 なんかいつもより気合入ってる?

 

「藍ちゃん、今大丈夫? 遊びに行かない?」

「え? 別に大丈夫だよ。今も暇つぶしにレトロゲーやってただけだし」

 

 そう言って手に持っていたゲームボーイを見せると、優子ちゃんは首を傾げる。

 

「レトロゲー? これって最近発売したソフトでしょ?」

 

 いかん、つい前世の感覚で話してしまった。

 

「い、いや……もうすぐ国民的なゲームになるって言いたかったんだよ!」

「ふ~ん、ところでさ。今日は近くの大学に有名な画家が講師として来るんだよ! だから一緒に行かない? きっと今後の創作活動に影響すると思うんだ!」

「別にいいけど……」

 

 俺は創作活動なんてやってないけどなぁ。

 

  ※

 

 電車で博多方面に揺られること約3分。目的地である”木の葉大前(このはだいまえ)”に到着した。

 普段は若い大学生で賑わっているキャンパスだが、今日は俺たちみたいな中学生ぐらいの少年少女。それに老人も集まっていた。

 みんなが向かっている場所は、”木の葉産業大学(このはさんぎょうだいがく)”の芸術学部だ。

 

 優子ちゃんから講師の名前を聞いたが、全然知らない人だった。

 きっと絵に興味がある人からするとすごい画家なのかもしれないが、俺からすればよく知らない人。

 なんでも、優子ちゃんはその講師をとても尊敬しているらしく、今後のために講義を受講しておきたいらしい。

 普段は大学生向けに行われる講義だが、今日行われるものは有料で誰でも参加できる講義。

 まあ、あれだろ。大学の講師や教授なんて給料が少ないから、こういうのでお小遣いが欲しいんだろな……。

 

 大きな講義室に入ると、300人近い受講生が机に座っていた。

 結構、人気のある講師なんだな。

 しばらくして、初老の丸眼鏡をかけた講師が講義室に入ってくる。

 

「え~ それでは、芸術学部の一次試験についてですが……鉛筆デッサンだと7時間ぐらいかけて描きますよねぇ」

「な、7時間!?」

 

 受験に使う時間じゃないだろ。泊りでやるのか?

 俺が驚いているのに対して、優子ちゃんは真面目に講師の話していることをノートにメモしていた。

 

「ためになるなぁ……早く私もこの芸大に入りたいけど、お姉ちゃんみたいに京都大学へ入らないとお父さんが許してくれないもん」

「え?」

 

 桃川家は学歴コンプレックスが強いのか?

 そうまでしないと、”アニ●イト”と”メ●ンブックス”に入社できないとか、かわいそう。

 

  ※

 

 講師の話が長すぎる。もう始まってからかれこれ2時間近く経つのに、受講生たちからの質問で話が何度も脱線してしまう。

 その度に、講師は丁寧に答えるため、予定していた時間より1時間もオーバーしている。

 おしゃべりが好きなんだな。そろそろお腹が空いてきた。

 

 もう限界だと思った俺は、優子ちゃんに「お腹が空いたから、大学内の食堂に食べに行ってくる」と伝え、芸術学部をあとにした。

 目の前にオレンジ色の中央会館という建物があり、食堂と書いてあったので中に入って見たが、今日は日曜日だから閉まっている。

 仕方ないので他の店を探すため、緩やかな坂道を登ってみる。今度は1号館という建物を見つけたが、ここもダメだ。

 

 優子ちゃんとかなり離れてしまうが、俺は一旦大学から出て近くの居酒屋あたりを回ってみることにした。

 学校じゃないから、ここら辺に何か食べる店は開いているだろう。

 そう考えていると、どこからか独特な香りが漂ってくる。

 

「おお、これは……」

 

 目に入ったのは、小さな一軒のラーメン屋だ。

 大きな白いのれんには、”ラーメン 二楽(にらく)”と書いてあった。

 いい意味で汚れているな。とんこつラーメンを長年作っていると、のれんも黄色く汚れる。

 素晴らしい、今日はここにしよう。

 

 店の引き戸を開いて、店内に入ると客は数人しかいない。全員男性。

 おそらく大学に通っている生徒や講師たちだろう。

 俺がどこに座っていいか迷っていると、カウンターの中にいた無愛想な大将が一言。

 

「らっしゃい。どこでも座っていいよ」

 と言われたので、目の前にあったカウンター席に座ることにした。

 

 藍ちゃんの顔は幼いので、制服を着てなくても大将は学割ラーメンにしてくれた。

 一杯目は”カタメン”で頼んでみた。どんな味なのか楽しみだな……と思っていたら、店に新たな客が入って来る。

 

「はぁ~ 疲れたってばよ! でも、”任務(バイト)”上がりの二楽のとんこつラーメンは最高だってばよ!」

 

 なんか変な奴が入って来た……。

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