「おっちゃん! オレにもとんこつラーメン、カタメンを一杯ちょうだい!」
そう言うと、若い青年は俺の隣りのイスに座りこむ。
バイト上がりで疲れていると言っていたが……彼が着ているこの奇抜な服は仕事着なのか?
全身オレンジ色のスポーツウェアを着ていて、頭には大人気アニメ”トラコンボール”のヘアバンドをつけていた。
冬なのに、足元は青いサンダル。
「ふぅ~ ”二楽”のラーメンは格別だってばよ~ 割りばしを取ってゴマも用意OKだってばよ~」
なんか鼻歌交じりでご機嫌だな。
格好も奇抜だが、顔もかなり派手だな。金髪のツンツン頭で瞳は青い。そして頬に三本のひげ、いやあざがある。
う~ん、どこかで見たような気が……。
隣りに座る青年を見て考え込んでいたら、俺が頼んだとんこつラーメンが出来上がり、カウンター越しに器を渡された。
「はい、カタメンお待ち」
「うわぁ~ 美味しそう~ いただきまぁ~す!」
近くにあった割りばしを手に取り、さっそく食べ始めると、隣りに座る青年が聞こえるように大きな舌打ちをつく。
「ちっ! こんな中学生ぐらいの女に二楽の美味さがわかるわけないってばよ!」
嫌味たっぷりなお言葉を頂いので、俺もお返しに一言返してやる。
「いい歳こいたお兄さんがコスプレとか、痛すぎですね。親が泣きますよ?」
そう言いながら、ラーメンのスープを飲んでみる。
うまい。しかし……俺の大事なランチタイムを妨害するこの青年はなんなんだ?
女とか、男とか関係ないじゃん。美味いものはうまいんだ。
「なんだとぉ!? オレはこの店で何年もラーメンを食べてるんだってばよ! それにこれはコスプレじゃねぇ! 作品を仕上げるための商売道具だってばよ!」
「商売道具……?」
俺と謎の青年がケンカになりそうなのを察知したのか、店の大将が出来上がったとんこつラーメンを青年に差し出す。
「”
「いじめじゃないってばよ! オレのラーメンに対するこだわりを知って欲しかっただけだってばよ……」
言い終えると、どこか寂しげな顔で大将から器を受け取る。
そしてラーメンの麺をすすり始めると、態度が一変した。
「やっぱり、二楽のラーメンは最高だってばよ! あ、おっちゃん! もう”替え玉”を二つ用意しておいて!」
「はやっ!」
まだひと口なのに、替え玉を二個も大将に用意させるとは。
「相変わらずだな、”マサシ”の食い方は……ほれぼれするぜ」
「褒めたって替え玉の料金は安くなんねーだろ? おっちゃん」
「へっ、違いねえな。でも、今日は替え玉ぐらいタダにしてもいいぜ?」
「えぇ!? マジだってばよ?」
「ああ、話は弟から聞いたぞ。お前”週刊少年チャンプ”で受賞したんだろ? そのお祝いだ」
「やったってばよ! サンキュー、おっちゃん!」
俺はその話を聞いて、手に持っていた割り箸を器の中に落としてしまう。
こ、この隣りにいる奇抜な青年がまさか俺の神だなんて……。
まだデビュー前のマンガ家、”岸本 マサシ”先生。
隣りでラーメンを食っている青年が若かりし頃の岸本先生だったとは!?
これは、またとないチャンスだ。
姿勢を正してイスに座り直す。そして隣りに座る青年へ話しかける。
「あ、あの……あなたはもしかして、岸本マサシ先生ですか?」
「ん? お前ってば、さっきの食い意地のはった女だよな? なんで、オレの名前を知っているんだ?」
「それは……あなたが私の神だから、救世主だからです!」
「つまり、どういうことだってばよ?」
その話し方からして、間違いなく岸本先生だ! あの大人気忍者マンガの主人公そっくり。
気がつけば、俺の手は先生の手を両手で握っていた。
目頭が熱くなり、涙が頬を伝って足元に落ちるが無視して話を続ける。
「あ、あの……私」
「いきなり泣くなってばよ! オレが泣かせたみたいじゃん」
「違うんです……俺は、いや私は昔いじめられたことがあって……それで一時期部屋にこもっていたんです。その時に岸本先生のマンガが支えになったんです」
あくまでも前世での思い出であり、この並行世界1996年の時点ではまだ岸本先生はデビューする前だ。
しかし、俺は胸から溢れてくる気持ちを先生に向かって伝える。
岸本先生は俺の話を聞くと、ラーメンの器から手を放して俺の手を掴む。
「お前、いじめられてたのかよ……? わ、わかるってばよ。お前の気持ちはなんでかなぁ……痛いほどわかるんだってばよ」
共感してくれた岸本先生まで涙を流す。
「先生! 私、この世界に来てあまり良いことなかったですけど。今日思いました。転生してよかったなって!」
「そうか! じゃあオレと二楽のラーメンを食べて元気だそうぜ!」
「わかりました!」
「あ、その前にお前の名前はなんていうんだ?」
「私は藍です。水巻 藍」
「覚えたってばよ! アイだな、じゃあ拳を出せ」
そう言って、俺に拳を突き出す岸本先生。
意味が分からないが、一応俺も拳を作ってみる。
すると岸本先生が自身の右拳を俺の拳にチョンとつけてきた。
「うしっ! これでオレとアイはマブダチだってばよ!」
「えぇ! 私なんかがマブダチになれるんですか!?」
「当たり前だってばよ!」
ああ……この世界、神対応すぎる。