殺したいほど憎いのに、好きになりそう   作:味噌村 幸太郎

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129 もう一人の伝説

 

 この世界の岸本先生とすっかり仲良くなれた俺は、先生の夢を聞かせてもらうことになった。

 

「アイ、聞いてくれ! オレの将来の夢はさ、”鳥影(とりかげ)”を超す! この額当てに似合うマンガ家になるんだってばよ!」

 

 そう言って、頭につけている”トラコンボール”のヘアバンドをクイっと持ち上げてみせる。

 

「ひ、額当て? そのヘアバンドのことですか?」

「そうだってばよ! オレが一番越えたいマンガ家。”鳥山 アキラ”先生のことだってばよ! オレってば、あの先生を目指してるんだ!」

「あ~ 鳥山先生のことだったんですかぁ~」

 

 ある意味では、十分超えていると思うが……この世界の岸本先生に未来を教えるわけにはいかないからな。

 

「まっすぐ、自分の言葉は曲げねェ……。それがオレのマンガ道だ!」

 

 その真剣な眼差しに、俺は思わずうっとりしてしまう。

 

「かっこいい、岸本先生! まるであの主人公が原稿から出て来たみたい!」

 

 俺が先生のことをべた褒めしていると、どこか恥ずかしそうに頭を手でかく。

 

「そ、そんなに褒めるなってばよ、アイ……オレのことはマサシでいいってばよ。先生て言われるの嫌じゃないけど、ちょっと恥ずかしいな」

 

 先生が照れから自己否定を始めたので、俺が激しく抵抗しようとしたら、店の開き戸が開いていることに気がつく。

 ひとりの男が店の壁にもたれて、立っていた。

 

「フン、ウスラトンカチのくせに鳥影様を超すだと? 身の程を知れ」

 

 そう嫌味を言う男は、岸本先生みたいにトラコンボールのヘアバンドを頭につけていた。

 青いシャツに白いショートパンツを履き、両腕にはアームカバーをつけている。

 髪の色は染めてないけど派手な髪型だ。前髪はセンターで分けて、後頭部だけツンツンしている。

 

「ちょっと! ウスラトンカチって、こちらの岸本先生のことを言ってるんですか!? 私、怒りますよ!」

「なんだ、お前は……? マサシの知り合いか。こんなウスラトンカチに、もうファンがいるとは驚きだな」

 

 と語る声はとても冷たい。なんだ? 岸本先生に対して、強い対抗心を感じるぞ。

 しかし、その話を聞いても岸本先生は一切動じず、ラーメンをすすっている。

 

「うんめ~! 大将、もう一杯替え玉お願いだってばよ!」

「あいよ! 相変わらず、いい食いっぷりだな」

 

 岸本先生に無視された青年は怒りを露わにしていた。瞳の色は赤く、一つの勾玉が浮かび上がっている。

 そして、今気がついたのだがこの人。コスプレしたり、髪とか目の色が違うから気がつかなかったけど。

 似ている! 岸本先生に瓜二つだ。

 

「おい、マサシ! オレにもラーメンを食わせろ!」

 

 そう言うと、勝手に俺が座っていたカウンター席に座りこむ。

 

「あ、”セイシ”じゃねーか? お前も任務(バイト)上がりだってばよ?」

 

 岸本先生の問いかけには答えず、割り箸を手に持つと口だけで二つに割ってしまう。

 なんて、クールガイ……ってこは、まさかこの人は!?

 その正体に気がついた俺は、今までの失礼に後ずさりしてしまう。

 

「おい、アイ! こっちに来いよ、セイシがお前の席取ったから、オレの隣りに座れよ」

 

 岸本先生が気を使って、隣りのカウンター席に俺が食べていたラーメンの器を移動させてくれた。

 しかし、俺は緊張のあまり足がすくんでしまう。

 先生の隣りに座って話している人を見て、緊張しているからだ。

 

「あ、あの……岸本先生。その隣りにいる方って?」

「おう、アイにも紹介するってばよ! オレの双子の弟でライバルの岸本セイシだってばよ!」

 

 やっぱり、そうだったんだ!

 弟のセイシ先生……なんてカッコいいんだ。

 先ほどまでの態度を改めて、セイシ先生に近づくと深々と頭を下げる。

 

「なんだお前?」

「あ、あの! 私はセイシ先生の作品もずっと読んできました! めっちゃおもしろいです! 握手してください!」

 

 そう言って手を差し伸べると、先生は頬を赤らめる。

 

「お前、うざいよ」

「え? 今、なんて……」

 

 まさか、この人からあの名セリフが生まれたのか!?

 俺は作者である兄の岸本先生に話を振る。

 

「ここから始まったんですね!? 岸本先生、素晴らしき兄弟愛です!」

 

 しかし、先生は首を傾げてラーメンをすすり続ける。

 

「ずるる……なんのことだってばよ?」

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