この世界の岸本先生とすっかり仲良くなれた俺は、先生の夢を聞かせてもらうことになった。
「アイ、聞いてくれ! オレの将来の夢はさ、”
そう言って、頭につけている”トラコンボール”のヘアバンドをクイっと持ち上げてみせる。
「ひ、額当て? そのヘアバンドのことですか?」
「そうだってばよ! オレが一番越えたいマンガ家。”鳥山 アキラ”先生のことだってばよ! オレってば、あの先生を目指してるんだ!」
「あ~ 鳥山先生のことだったんですかぁ~」
ある意味では、十分超えていると思うが……この世界の岸本先生に未来を教えるわけにはいかないからな。
「まっすぐ、自分の言葉は曲げねェ……。それがオレのマンガ道だ!」
その真剣な眼差しに、俺は思わずうっとりしてしまう。
「かっこいい、岸本先生! まるであの主人公が原稿から出て来たみたい!」
俺が先生のことをべた褒めしていると、どこか恥ずかしそうに頭を手でかく。
「そ、そんなに褒めるなってばよ、アイ……オレのことはマサシでいいってばよ。先生て言われるの嫌じゃないけど、ちょっと恥ずかしいな」
先生が照れから自己否定を始めたので、俺が激しく抵抗しようとしたら、店の開き戸が開いていることに気がつく。
ひとりの男が店の壁にもたれて、立っていた。
「フン、ウスラトンカチのくせに鳥影様を超すだと? 身の程を知れ」
そう嫌味を言う男は、岸本先生みたいにトラコンボールのヘアバンドを頭につけていた。
青いシャツに白いショートパンツを履き、両腕にはアームカバーをつけている。
髪の色は染めてないけど派手な髪型だ。前髪はセンターで分けて、後頭部だけツンツンしている。
「ちょっと! ウスラトンカチって、こちらの岸本先生のことを言ってるんですか!? 私、怒りますよ!」
「なんだ、お前は……? マサシの知り合いか。こんなウスラトンカチに、もうファンがいるとは驚きだな」
と語る声はとても冷たい。なんだ? 岸本先生に対して、強い対抗心を感じるぞ。
しかし、その話を聞いても岸本先生は一切動じず、ラーメンをすすっている。
「うんめ~! 大将、もう一杯替え玉お願いだってばよ!」
「あいよ! 相変わらず、いい食いっぷりだな」
岸本先生に無視された青年は怒りを露わにしていた。瞳の色は赤く、一つの勾玉が浮かび上がっている。
そして、今気がついたのだがこの人。コスプレしたり、髪とか目の色が違うから気がつかなかったけど。
似ている! 岸本先生に瓜二つだ。
「おい、マサシ! オレにもラーメンを食わせろ!」
そう言うと、勝手に俺が座っていたカウンター席に座りこむ。
「あ、”セイシ”じゃねーか? お前も
岸本先生の問いかけには答えず、割り箸を手に持つと口だけで二つに割ってしまう。
なんて、クールガイ……ってこは、まさかこの人は!?
その正体に気がついた俺は、今までの失礼に後ずさりしてしまう。
「おい、アイ! こっちに来いよ、セイシがお前の席取ったから、オレの隣りに座れよ」
岸本先生が気を使って、隣りのカウンター席に俺が食べていたラーメンの器を移動させてくれた。
しかし、俺は緊張のあまり足がすくんでしまう。
先生の隣りに座って話している人を見て、緊張しているからだ。
「あ、あの……岸本先生。その隣りにいる方って?」
「おう、アイにも紹介するってばよ! オレの双子の弟でライバルの岸本セイシだってばよ!」
やっぱり、そうだったんだ!
弟のセイシ先生……なんてカッコいいんだ。
先ほどまでの態度を改めて、セイシ先生に近づくと深々と頭を下げる。
「なんだお前?」
「あ、あの! 私はセイシ先生の作品もずっと読んできました! めっちゃおもしろいです! 握手してください!」
そう言って手を差し伸べると、先生は頬を赤らめる。
「お前、うざいよ」
「え? 今、なんて……」
まさか、この人からあの名セリフが生まれたのか!?
俺は作者である兄の岸本先生に話を振る。
「ここから始まったんですね!? 岸本先生、素晴らしき兄弟愛です!」
しかし、先生は首を傾げてラーメンをすすり続ける。
「ずるる……なんのことだってばよ?」