殺したいほど憎いのに、好きになりそう   作:味噌村 幸太郎

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131 爆笑を取る女

 

 春休みに入り、俺は初代ポケモンの”赤と緑”を交互に遊んでいた。

 主にベッドの上でポテチを食べながら、寝転がってゲームボーイのボタンに触れるからベタベタしてしまう。

 大嫌いな勉強は放置のまま。二年生に向けての課題など出されたが無視して遊んでばかり。

 

 ある日、ベッドの上でポケモンを遊んでいると、お姉ちゃんが部屋に入って来た。

 

「あ~いっ、あんたさ。辞書持ってない?」

「え? 辞書? そんなのお姉ちゃんも持ってるでしょ」

「ん~ 重たくて高校の帰り道に駅のホームで捨てた気がするなぁ」

 

 そんなもん、駅のゴミ箱に捨てるなよ。

 駅員の人が重たくて苦労するだろ……。

 

「ところで何に使うの?」

「もちろん、これっしょ」

 

 そう言って、お姉ちゃんはニッコリ微笑むとミニスカートのポケットから安全ピンを取り出した。

 

「ん? 安全ピンでなにするの?」

「もちろん、ピアスのため耳に穴を開けるんだよ!」

「え……」

 

 ~10分後~

 

「本当にやるの? お姉ちゃん……失敗しても怒らないでよ」

「少しずれても怒らないよ。早くやっちゃって」

 

 そう言って、鼻歌交じりに瞼を閉じるお姉ちゃん。

 耳たぶの裏側に黒く汚れた消しゴムを置き、俺は安全ピンを手に持ってお姉ちゃんの耳に軽く刺す。

 そして反対側の手で辞書を持ち、金づちを打つように振り下ろすのだ。

 

「おっ、入った入った」と喜ぶお姉ちゃん。

 

 俺は恐怖から倒れそうになってしまうが、お姉ちゃんがそれを許さない。

 

「ほら、反対もしてよ」

 

 そう言われるので仕方なく、反対側もしてあげた。

 ちゃんと耳に安全ピンが貫通したのを、藍ちゃんの部屋のドレッサーで確認して喜ぶお姉ちゃん。

 貫通したら針をカバーで留めて完成らしい。

 

「うしっ! これで穴が塞がらなくなったら超いい感じっしょ!」

「あのさ……ちゃんと病院とかでやればいいのに、なんで私にやらせたの?」

「そんなの決まってんじゃん! お金がないからでしょ」

「とはいえ、色々と危険だよ。次は自分でやってね……」

「嫌だよぉ! 次もやってよね。今後に予定してるのは、口と鼻とヘソね」

 

 もう勘弁してくれ。

 

  ※

 

 春休みが終わり、新しい学期、学年に進級することになった。

 残念なことにお友達の優子ちゃんとは引き離されて、別々のクラスに。

 とは言っても、俺と隣りのクラスなのでいつでも会える距離なのだが、優子ちゃんは泣いて怒っていた。

 

「藍ちゃん! 私、休み時間の度にそっちへ行くから……」

「ま、まあ無理しないで」

 

 しかし、俺も優子ちゃんと離れたことでちょっと不安点もある。

 それは一年の時と同じく、隣りに座っているのが鬼塚だからだ。

 なんで、こいつはいつも一緒にいるんだ? 気持ち悪い。

 

 1年7組の”ねーちゃん先生”からバトンを渡されたのは、小柄でぽっちゃりした若い女教師だった。

 教壇に立つが身長が低いため、胸元から下は見えない。

 

「え~ 今日からあなたたちの担任の教師になります。一年間、この2年4組を盛り上げていこうねぇ!」

 

 なんて意気込んでいるが教室は静まり返っている。

 

 それにしても、この教師。

 デカい……いやデカすぎる。身長は低いのに胸が異常なまでに突き出ている。

 藍ちゃんがHカップだぞ? じゃあそれより大きいこの先生のサイズは一体なんだと言うのだ。

 

「じゃあ自己紹介を始めようか? 私は見た通り身長が低いのがコンプレックスでね。だから言うじゃない? 牛乳をいっぱい飲めば背が伸びるって……それを試したらこんなにまん丸になって、あんな噂を信じなきゃ良かったわ!」

 

 と豪快に笑うが、その揺れで自身の大きな胸が暴れまくっている。

 そうか、牛乳を飲んでも身長に行かず、全部に乳へ行ったんだな……。

 よし、今日からこの先生のことは”ミルク先生”と呼ぶことにしよう。

 

 先生の自己紹介が終わると、次は順番に生徒たちの自己紹介が始まる。

 俺の順番になったので机から立ち上がり、「好きなことと苦手なことを話せ」と言われたのでとりあえず話してみた。

 

「水巻 藍です。好きなことは食べること全般で、苦手なことは学ぶこと全般です」

 

 そう言ってイスに腰を降ろすと、教室全体が笑いの渦に包まれる。

 

「はははっ! 食べること全般とか女らしくねぇ!」

「学ぶことが苦手とか、学校に何しに来ているの?」

 

 なんて爆笑を取ってしまった。

 しかし、ひとりだけ笑ってない生徒がひとりいた。鬼塚だ。

 

「別にそこまで笑うことじゃないだろ? 俺はそういう水巻、嫌いじゃないぜ?」

「へ?」

 

 う~ん、1996年の中学生たちのお笑いが分からないな。

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