殺したいほど憎いのに、好きになりそう   作:味噌村 幸太郎

135 / 135
135 1996年

 

 博多駅について、俺は生まれて初めて痴漢にあったことに動揺していた。

 中身がアラフォーのおっさんだから、まさか尻を撫でまわされるとは思わなかった。

 駅のホームに降りて、鬼塚に改めて痴漢の報告をしてみる。

 

「あのさ、実はさっきのおじさんにお尻を触られたみたい。でも途中で鬼塚が助けてくれたから……」

 

 と言いかけたところで、鬼塚が顔を真っ赤にさせて怒鳴り始めた。

 

「はぁ!? 水巻、なんでお前それを早く言わないんだよ!」

「え? だって服の上から触られただけだし。パンツの中に入る前に相手は逃げたよ?」

「ぱ、パンツの中に手を入れようとしていたのかよ!」

 

 気がつけば、鬼塚の大きな瞳には涙が浮かんでいた。

 彼の怒りがどうしても理解できない。ただ俺の身体に触れただけじゃないか?

 

  ※

 

 1996年の博多駅の駅舎はとても古くて汚かった。

 どこでもタバコを吸う人間が多くて臭いし、エスカレーターもまだなく階段で昇り降りをしないといけない。

 ”博多口”を出て駅前通りを鬼塚と歩く。

 

「クソっ! 俺がもっと水巻を見ていたら……」

 

 未だに痴漢のおじさんに憤りを向けているようだ。

 

「まあまあ、たかがお尻の一つや二つぐらい。服の上なんだし、いいじゃん」

「よくねぇよ! 水巻、お前は女の子なんだぞ!」

「……」

 

 中身がおっさんだから、とはいえないしな。

 

 しばらく歩いていると、目的地である”カナルシティ”にたどり着く。

 まだ完成したばかりのピカピカな施設に、俺は思わず言葉を失う。

 前世じゃ過疎りまくって、外国人ぐらいしか来なくなったのに……まだ活気があるな。

 

 入口をくぐると、目の前には二百台近くのブラウン管テレビが壁一面にはめ込まれていた。

 テレビの中に映像が映し出されているが、チカチカとしているためよく分からない。

 まあこの時代のクリエイターがアートとして世に送り出したかったのだろう。

 でも、確か前世じゃこのテレビてブラウン管テレビが無くなったから、修理不可能になった気が……。

 

「うお~ すっげぇな、水巻! あんなにテレビが並べられているぜ」

「そ、そうだね……すごいなぁ」

 

 一応、俺もこの世界では初めて見るものだから、鬼塚に合わせておく。

 

「なんだ? お前もカナルシティは初めてなんだろ?」

「うん、初めてだよ……」

「すごいよな? まさか博多駅の近くに。こんな大きい商業施設ができるなんて思いもしなかったよ!」

「……」

 

 これ以上、何かを喋ればボロが出そうなので黙ることにした。

 

 ~数十分後~

 

 鬼塚が「映画の上映時間までしばらくある」と言うので、俺たちは色んな店を見て歩くことにした。

 ほとんどが1990年代末の新商品ばかりなので、俺からするとどれも見たことがあるものばかり。

 初めて目にする鬼塚は驚いたり喜んでいたが、俺は隣りであくびをしていた。

 

 ある場所でかなりの人だかりが出来ていた。気になった俺たちは行列をかき分けて、その店の前に近づく。

 

「はい、では皆さん。ただいまからこの携帯型育成ゲーム”たまこっち”を販売しますよぉ~」

 

 女性店員が手に持つ懐かしの携帯ゲーム機を見て、俺はその場でずっこけるところだった。

 

「なんと、このたまこっちなんですけど。お世話などをすることで色んなキャラクターに進化するんです!」

 

 その説明を聞いた見物客が全員、歓声を上げる。もちろん、俺の隣りにいた鬼塚もだ。

 どうやら、欲しがっているようだ。

 俺は前世で中華製のパチモンで何回も挑戦したし、毎回うんこまみれで死なせてしまったので飽き飽きしていた。

 二度とやらねぇ……と思っていたので、まさかこの世界で再会するとはな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。