この世界でも”たまこっち”に遭遇するとはな……前世で散々やり込んで死なせたから、二度と触りたくないや。
俺が無視して映画館に進もうとしたら、鬼塚がその場から離れない。
「あれ、すごいな。俺買ってくるよ」
「え……?」
この世界ではまだ珍しいようで、鬼塚以外にもたくさんの人々が店員に押し寄せる。
すごい人気だし数量限定だから、店員とじゃんけんして買った人だけ購入できることになった。
鬼塚は見事にじゃんけん大会を勝ち進んでいく。
「よっしゃ~! ちゃんと買えたぜ!」
そう言って初期型たまこっちを手に持ち、俺の元に戻って来る。
この様子だと、ひょっとして弟の翔平くんへのおみやげか?
しかし俺の予想とは違い、鬼塚はプレゼント用に包装されたおもちゃを藍ちゃんの白い手に渡す。
「はい、これ……女子ってこういう可愛らしい生き物を育てるのが好きなんだろ? 水巻にプレゼントするよ」
「え? 普通にいらないけど」
前世でのたまこっち育成失敗画面をフラッシュバックした俺は、すぐさま鬼塚の胸元に突き返す。
「な、なんでだよ? これ最新のおもちゃだぜ?」
「鬼塚にとって最新でも、私にとっては黒歴史だから……」
「どういうことだ? うれしくないのかよ、お前のためにじゃんけん大会を頑張ったのに」
「鬼塚が勝手に私が喜ぶって決めつけたんでしょ? そういう男って嫌われるよ」
「えぇ……」
たまこっちを両手で抱えて、その場でうずくまる鬼塚。
かなり落ち込んでいる様子だ。
別に傷つけるつもりはなかったけど、今回は鬼塚が勝手に女の子の理想像を俺に当てはめようとしたから。
※
落ち込んだ鬼塚を連れてカナルシティの4階まで進む。
「おお~ これがシネコンてやつかぁ~!」
出来たてのシネコンに少し感動を覚える。前世では隣りにいるこいつのせいで一度も行ったことなかったからな。
ところで、今日観る映画はなんだろう?
俺的には”デ・ニーロ”主演の”賭場”が見たいが……。
「ねぇ、鬼塚。今日観る映画ってなに? 前売り券をおばさんからもらってるんでしょ?」
「たまこっち……なんで水巻は受け取ってくれなかったんだ。雑誌じゃ女子にあげたら、大喜びて書いてあったのに」
ダメだ。先ほど俺がたまこっちを拒否したから自分の世界に逃げこんでいる。
仕方ない、ここは藍ちゃんの力を借りて回復させてやるか。
「お~にづか! ねぇ、今日はなんの映画を観るの?」
そう言って豊満な藍ちゃんのバストを鬼塚の腕にこすりつける。
これで元気が出ただろ?
しかし、鬼塚の大きなブラウンの瞳は輝くことがなく、冷たい視線でこちらを眺めている。
「水巻、いきなりなんだよ? そんな風にベタベタくっつくの、お前らしくないぞ。もっと自分を大事にしろよ」
「え? うれしくないの?」
「そういう問題じゃないだろ。いいか、今日俺とお前は映画を観に来ただけなんだ。それ以外は何もない。前から思ってたけど、たまに自分の身体を安く売る時あるよな? ミニスカートを履いたり、胸を強調したり……お前はそのままで良いんだよ」
「はい……」
なんでか知らないけど説教された。
※
俺がチケット売り場に並ぼうとしたら、鬼塚が「俺たちは前売り券だからそのまま行くぞ」と言われた。
それを聞いた俺は首を傾げる。前売り券があっても、席を取らないといけないのでは……?
鬼塚の言うことを信じて、エスカレーターに乗り込む。
「ねぇ、席を取らなくてもいいの?」
「席? そんなもの予約できるわけないだろ。基本的に立ち見以外は取ったもん勝ちじゃないか」
「え……じゃあチケットを早めに買っても、良い席を取っておかないと意味ないってこと?」
「当たり前だろ。だから前売り券を母ちゃんから貰っておいたんだ」
この世界というか、90年代って結構ヤバい時代だったんだな……。