殺したいほど憎いのに、好きになりそう   作:味噌村 幸太郎

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139 どぶの川

 

 映画を見終えて、まだ地元へ帰るには早い時間。

 腕時計の針は午後3時に近いし、小腹が空いたのでおやつを食べたいな。

 鬼塚とエスカレーターへ乗ってこのあとをどうするか、話し合う。

 

「なあ、大体カナルシティの中は見て回ったと思うけど……水巻はどこか行きたい所ないのか? 別に中洲とかでもいいぜ」

「う~ん、中洲か……」

 

 そう言えば、中洲ていう土地の名前は、”那賀川(なかがわ)”と”博多川”という二つの川に挟まれて、中島と中洲になったらしいな。

 あ、博多川と言えば、この前夜中のテレビで見たばかりだった。

 思い出した俺は鬼塚に「じゃあさ、福岡市民会館に行ってもいい?」と聞くと彼は「別にいいけど」と首を傾げていた。

 よしっ、聖地巡礼だ!

 

 ~20分後~

 

 博多川沿いに道のりを歩いて進んでいく。

 俺の記憶が正しければ、市民会館が見える道路脇に”あの立て札”があるはず。

 しっかり証拠として残すために、近くにあったスーパーの”タイエー”でインスタントカメラを購入しておいた。

 ”あの人”が市長になった時、プレミア価格になるかもな……。

 

 意味がわからない鬼塚は、しばらく歩かされて不満そうだ。

 

「おい、水巻。こんな所に何があるって言うんだよ?」

「いひひっ、まあ黙ってついておいでよ。特別に良いものを見せてあげる」

「はぁ?」

 

 鬼塚を無視して道路脇の花壇を探していると、ようやく見つけた。

 ”高塩 宗二郎”アナウンサー直筆の手札だ!

 

『←博多川 博多湾→ ABCテレビ、高塩 宗二郎アナウンサー』

 と書いてある。

 

「やったぁ! これだ!」

 

 テンションが上がった俺は鬼塚にインスタントカメラを渡して、シャッターを押すように頼む。

 高塩アナのサインを指差して、その場で腰を屈めるとピースする。

 鬼塚は何枚かシャッターを押してくれたが、かなり機嫌が悪い。

 

「水巻、さっきので7枚目だぞ? もういいだろ?」

「あともうちょっと撮ってよ! この写真がすんごい一枚になるかもしれないんだよ」

 

 俺がそう言うと、彼は顔を真っ赤にして肩を震わせる。

 

「そ、そんなに俺との一日が楽しくなかったのかよ……」

「いや、そういう意味じゃなくてさ」

「俺とカナルシティで遊ぶより、お前はあんなチャラついた新人アナの方が好みかよ!」

「ええ!? 好みというか、おもしろい人だなって」

「ああ、そうかよ! じゃあ何枚でも写真を撮れよ!」

 

 怒らせてしまった……別に悪気は無かったのに。

 でも、このサインはなかなかレアだぞ。

 そうだ! せっかくだから、この並行世界の人たちにヒントを与えておこう。

 花壇に刺さった立て札をずぼっと地面から抜くと、バッグからマジックを取り出す。

 そして、高塩アナの名前の隣りに小さく書き足しておいた。

 

『いつか福岡市長に立候補するかもしれません』

 

 よし、これでやりたいことは全部できたな。そろそろ帰るとするか。

 このあと、博多駅まで鬼塚はずっと口を聞いてくれなかった。

 

 翌日、鬼塚の機嫌は良くなっていたが、高塩アナの話を持ち出すと必ず怒るようになってしまう。

 しまいには「俺だって、博多川の水ぐらい飲めるぜ!」と張り合うようになってしまい、申し訳なく思った。

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