体育祭の練習が始まって、担任のミルク先生が俺の仮病を本物だと思い込んでしまった。
「水巻さんはぜんそくがあるから、走れないみたい。応援係になってもらいましょう」
と勝手に決められた。
仕方ないので藍ちゃんだけリレーをする時、コーナーの所に一人立たされる。
俺は黄色組なので黄色のポンポンを両手に持たされ、こちらに向かって走ってくる生徒に手を振るのだ。
だが、ミルク先生の誤算がここで生じてしまう。
元気よくその場で跳ね上がってポンポンを振り回すと、コーナーを走る男子生徒たちが、藍ちゃんという暴れる胸を見て驚き、転んでしまうのだ。
まあ女子生徒に限っては、何も問題は起きないのだが……。
しかし、鬼塚のやつ。
この前は一体なんだったんだ? いきなりスクーターに乗って翔平くんを連れて行ったけど。
ん? というか、この時代でもスクーターは俺たち14才。中学二年生は乗れないはずじゃ……。
と考えていたら、次のリレーが始まる。
よく見るとその中には鬼塚も入っていた。相変わらず、運動神経は良いようでぶっちぎりの一位だ。
最近あいつ、俺のことを無視するからな。ここはちょっと藍ちゃんの巨乳を使って転ばしてやるか。
いつも以上にジャンプしまくって、藍ちゃんの胸を揺らす。
しかし、鬼塚はその姿に目もくれず、そのままゴールしてしまう。
他の選手は転げたのに……。
なんだよっ! ちょっとぐらい、こっちを見てもいいだろう。
~帰り道~
優子ちゃんが、この前の美術部の体験を話してくれた。
「マジでクソなのっ! イラストやマンガのことなんて、何も考えてない奴らばかり!」
「まあ……美術部だからね。マンガ研究会じゃないもん」
「でもさ、最近体育祭じゃん。練習がダルいよね」
「うん、終わったらクタクタだよ」
「ただ一つだけ、体育祭に良いところがあるよねぇ~」
「え? 例えば?」
「そりゃもちろん、ブルマだよ!」
鼻息を荒くしてそう言う優子ちゃんを見て、俺は少し距離を取る。
「ブルマの何が良いの?」
「はみ出る白いパンツ、そしてそれを覆う紺色のブルマ。絶対に無くしてはいけない、日本の文化だと思う!」
「へ、へぇ……」
まああと数年すれば、その文化は無くなるけど。
「でもね、女子も良いけど。一番似合うのは、小学生ぐらいの男子だと思うの!」
「は?」
「身長の低い男子が少しだけ、成長した股間がふっくらしていると……背徳感が半端ないのよ!」
何やら想像しているようで、その場で身体をくねくねと動かしている。
視線は空の上、口からはよだれを垂らして。
なんか見ないうちに優子ちゃんも成長したな。かなり歪んで。
自宅について、優子ちゃんと別れて家に入ろうとしたら、隣りの家にスクーターが止まる。
小さな男が、郵便ポストに新聞を入れている。
俺と目が合うと、その男は「あ、水巻!?」と驚く。
どうやら、藍ちゃんの知り合いのようだ。
男が気まずそうにその場から離れそうになった時、思い出した。
ヘルメットにゴーグルで隠しているから、分からなかったけど。この前翔平くんを連れて帰った鬼塚だ。
俺は隣りの家に近づき、スクーターを押して歩く彼に声をかける。
「鬼塚なんでしょ? ねぇ、なんで最近こんなことをしているの?」
そう問いかけると、彼は正体を隠すのを諦めたようでヘルメットを取る。
「このことは、誰にも言わないで欲しい……俺には金が必要なんだ」
「お、お金? なんのために?」
「別に嫌味を言うわけじゃないけど、水巻は金持ちだからわからねぇよ」
唇を尖がらせる鬼塚を見て、イラッとした。
「分からないけど、理由ぐらい教えてくれてもいいじゃん! まだこの前のカナルシティのこと怒ってるの?」
「はぁ? なんのことだよ。俺はいま金が必要なだけさ。水巻には関係ないよ」
「関係ないってなによ! 私と鬼塚の間でしょ? それに最近サボってる部活は?」
と問い詰めたが、鬼塚は黙ってアスファルトを見つめているだけだった。