殺したいほど憎いのに、好きになりそう   作:味噌村 幸太郎

146 / 150
146 ローカル体罰

 

 お姉ちゃんから渡されたお金を持ち、ジャージの上着だけ羽織ってグラウンドを出る。

 階段を登って、学校の正門まで歩いて行くと、何やら泣き声が聞こえて来た。

 

「え……? 家に忘れ物を取りに行っただけですよ?」

「それでもルールはルールでしょ。さあ、頭を出して」

「は、はい……」

 

 見れば、うちの担任であるミルク先生がジャージ姿でバリカンを手に持ち、男子生徒の頭を刈っていた。

 素人なので、剃り残しが目立つ。

 坊主にされた男子は泣きながら、グラウンドに戻っていく。

 対して、女子はと言うと……。

 

「おい、お前! 学校の外に出たろ!?」

 

 女子バスケ部の顧問である”コル●ス”先生が、竹刀を持って叫ぶ。

 

「はい……」

「じゃあ、歯を食いしばれ!」

 

 次の瞬間、パーンという音が校舎に鳴り響く。

 叩かれた女子は片耳を手で押さえ、ふらつきながらグラウンドに戻る。

 

 もしかして、学校外に出ただけで、丸坊主か鼓膜を破られるのか!?

 嫌だ、そんなのまっぴらごめんだ。

 しかし、お腹空いたしな……どうしよう。

 

 その場で悩んでいると、ミルク先生が俺に気がついて近寄ってきた。

 

「あ、水巻さん。どうしたの? 学校から出たらダメだからねぇ~ 危ないよ?」

 

 と言いながら、笑顔でバリカンを取り出す。

 これは、脅しなのでは……?

 

「いえ、ちょっと道を間違えちゃって……」

「そうなんだ。今年は結構、うちの生徒が外に出たみたいだから、こうやって注意してるんだけどねぇ」

 

 なんて語っているが、目の前ではコル●ス先生による体罰が繰り返し行われている。

 空腹状態は辛いが、ここは我慢することにしよう。

 

  ※

 

 自分の教室に一旦、戻ろうかと思い、武道館の近くを歩いていると、小さな少年に声をかけられた。

 鬼塚の弟、翔平くんだ。

 

「藍お姉ちゃん、何しているの?」

「え? 私は……」

 

 言いかけている際中に、隣りに座っていた鬼塚と目が合う。

 あれ以来、彼とは口を聞いてない。

 同じ空間にいるだけで気まずい。しかし、弟の翔平くんが俺の腕を掴んで離さない。

 

「お姉ちゃんも一緒に、お昼ご飯を食べようよ!」

「でも、それはさすがに悪いから……」

「別に俺は構わないぜ? 水巻、さっきお前のお姉さんに会ったけど、おばさんが病気で弁当を作れなかったんだろ?」

「うん……」

 

 なんで、今日だけ以前のように話してくれるのだろう?

 調子が狂う。

 お前から急に距離を取ったくせにさ……。

 

「ほら、おかわりはたくさんあるから」

 

 そう言うと、大きな水筒のコップとラップに包まれたおにぎりを俺に差し出す。

 めっちゃ、おいしそう。思わずよだれが出て来た。

 雑にラップを取ると、おにぎりにかぶりつく。

 

「う~ん! これ、めっちゃおいし……」

 

 とは言えなかった。

 なぜなら、おにぎりの具がおかしかったからだ。

 噛めば嚙むほど、ねっとりとした甘さが口の中に広がる。

 これは……チョコレート?

 

「お、鬼塚……これってチョコなの?」

「え? そんなバカな!? うわっ……本当だ。悪い、水巻。シソを入れたつもりが間違えたみたいだ」

「……」

 

 他のおにぎりの中身もアメやら、わたがしやらお菓子が大量に混入していた。

 ちなみに、おにぎりに使われる塩も砂糖になっている。

 鬼塚は慌てて、鶏の唐揚げを俺にくれたが、隣りで座っていた翔平くんが耳打ちしてきた。

 

(最近のお兄ちゃん。バイトばかりして寝てないから、間違えたんだよ)

 

 それを聞いた俺は、翔平くんに耳打ちで返す。

 

(バイトってどんなことしているの?)

(今は新聞配達とスーパーの品出し、あと畑のお手伝いだね)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。