殺したいほど憎いのに、好きになりそう   作:味噌村 幸太郎

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16 洗面台は予約制

 

 「ふあぁ~あ……」

 

 深夜まで、お姉ちゃんのポケベルが鳴りっぱなしで、うるさくて眠れなかった。

 おまけに返信する際は必ず、電話の子機を使うからピコピコと操作音が鳴り響くし。

 さっさと携帯電話が普及してくれないかな……。

 

 自室から階段を降りて、洗面台へと向かう。

 顔を洗って、歯磨きしていると……。

 鏡の前にモンスターが立っている!?

 

「ば、ばく●んいわ」

「誰が何だって?」

 

 不機嫌そうにそのギャルは、ヘヤアイロンをに手に取る。

 あ、お姉ちゃんだった。

 

「ていうかさ、藍。前にも言ったよね? この時間はお姉ちゃんが洗面台を使うって」

「え……ごめん、忘れてた」

 

 知らないよ、そんな姉妹ルール。

 とりあえずめっちゃ怒っているから、口をゆすいですぐに洗面台を後にした。

 俺が立ち去った後もしばらく、こっちを睨んでいる。

 やっぱアレか、見た目がモンスターでも前髪を気にするお年頃なのか?

 

 仕方ないのでリビングへ向かうと、お父さんが新聞紙を読みながら、パンを食べていた。

 スーツ姿が似合わない。

 

「おお、藍。昨日は学校へ行けたそうだな?」

「うん……」

「どうした? お友達の優子ちゃんと行けたんだろ。何か嫌なことでもあったか?」

「べ、別にないよ」

 

 返答に困っているとエプロン姿のお母さんが、キッチンから出て来た。

 俺を待っていたかのように、出来たての目玉焼きとトーストをテーブルに置く。

 

「お父さん。そんなに色々と聞いたら、藍も困るでしょ? また体調を壊したら困ります」

「そうだな……あ、そうだ。藍に頼まれていた本がようやく手に入ったんだ。はい、これ」

 

 と差し出されたのは、英語だらけの洋書。

 

「これ、なに?」

「は? お前が欲しがったから、仕事帰りに本屋で受け取って来たんだろ」

 

 うう……いらねぇ、こんな本。

 英語だけの小説を読むとか、どんなバイリンガルだよ。藍ちゃんたら。

 

「そ、そうだったね。ありがとう、お父さん……」

「なんか調子狂うな、最近の藍は」

 

 そりゃ、こっちのセリフだっつーの!

 

  ※

 

 昨日よりは、上手にセーラー服を着られたと思う。

 長い髪も首元で結うことができたし。

 ドレッサーの前に立つと、指でパチンと音を鳴らす。

 

「うしっ! バッチシな美少女だ!」

 

 するとノックもせず、お母さんが部屋に入ってきた。

 

「藍! あんた、今日は体育の授業だけど、わかってるの?」

「へ? うん、知ってるけど……」

「ちゃんとしていかないとね。女の子なんだから」

「はぁ……」

 

 一体、なんのことだ。

 女の子の体育って、特別な授業でもやるのかな?

 

 再度、一階へ降りていくと玄関に優子ちゃんの姿が見えた。

 

「あ、藍ちゃ~ん! おはよう!」

「おはよう、優子ちゃん!」

 

 前世ではこんな友達がいなかったから、嬉しい。

 

「藍ちゃん、お姉ちゃんに昨日の感想を伝えたら、大喜びしてたよ! また同人誌を描くから見て欲しいって!」

「あはは……じゃあ、またいつか読ませてもらおうかな」

 

 自分で自分の首を絞めるとは、このことだな。

 

 優子ちゃんと玄関で、テレビの話をしていると。

 怖い顔したお母さんが俺の方へ向かってきた。

 小さな何かを持って……。

 

「藍! あんた、また”これ”を忘れていくところだったじゃない?」

「え?」

「発作用の吸入薬よ! カバンに入れておくから、また発作が起きたら使いなさい!」

 

 と小さなプラスチック製の容器を、俺のカバンに入れる。

 発作って、そんな疾患。俺は無かったと思うが。

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