殺したいほど憎いのに、好きになりそう   作:味噌村 幸太郎

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30 蘇るトラウマ

 

「藍お姉ちゃ~ん! また遊びに来てね、今日はすごく楽しかったよ!」

 

 翔平くんはわざわざ俺を送るため、マンションの一階まで降りて来てくれた。

 もちろん、兄の鬼塚も一緒に。

 別にここまで送ってくれる必要はないと思うが……。

 

「あ、うん。また遊ぼうね、翔平くん!」

 

 と前世では、殺意しか湧かなかった男の弟に手を振って見せる。

 まあ、この子自体は可愛いから、いいか。

 二人に手を振って、マンションから出ようとしたその瞬間。

 俺の隣りを歩く褐色肌の少年に気がつく。

 

 いっ!? なんで、鬼塚が俺の隣りを歩いてるんだ?

 

「送ってくよ。もう秋だからさ、暗くなるの早いし」

 

 と空を見上げてみせる。

 

 こんの野郎。前世であんなにいじめまくったくせに、俺が美少女になったら扱いが違うってか!?

 よし、決めた! こいつとだけは、絶対にそんな関係にはならないからな。

 あれ? なんで今、異性として見てしまったのだろう……。

 

「なあ、聞いてるか? 水巻?」

「え、なにが……?」

「今日は本当に楽しかったよ、すげぇ久しぶりにさ」

 

 と優しく微笑む少年。

 

 ヤバッ! ちょっと可愛いかもって思っちゃった。

 何を考えてんだ、俺は? 前世であんなにやられたくせに……。

 でも、この世界の鬼塚って優しいし。よく見ると顔も男のくせに童顔で、中性的な顔立ちだからな。

 全身肌が焼けてるから、そういうところは男の子っぽいけど。

 

 秋の夕暮れに二人して、少年少女が肩を並べて歩く。

 ご近所さんが見たら、誤解されそう。

 

「あのさ……ずっと気になっていたことがあるんだけど。聞いてもいい?」

「なんだよ?」

 

 俺が気になっていたこと、それはこの世界の鬼塚が犯した小学生時代のいじめだ。

 確かめたかった。この世界には俺が存在しないのに、鬼塚はとある少年を不登校になるまで追い詰めた。

 目の前にいる鬼塚は、そんな非情な男に見えない。

 もしこれから、友達として仲良くなるには……俺にとってとても必要なことだ。

 

「そ、その……小学校時代に、鬼塚がある男の子をいじめたって、本当?」

「!?」

 

 一瞬だけだが、前世と同じぐらい鋭い目つきで、俺を睨む。

 だが、しばらくするといつもの鬼塚に戻る。

 ため息をついて視線を地面に落としながら、静かに語り始めた。

 

「あんまり、その話はしたくないけど……水巻にならいいよ」

「ホント!?」

「うん……いじめ、って言われると未だに俺の中では、やったつもりは無くて」

 

 黙って聞くつもりだったが、今の「つもりは無くて」という言葉にイラッとした。

 

「じゃあ、鬼塚はいじめだと思ってないってこと?」

「なんていうか、最初はそいつと仲良く遊んでみたいと思っていて……」

「うん……」

 

 俺の記憶とダブって来た。

 

「あいつの家へ初めて遊びに行った時、一軒家で二階建てでさ。自分の部屋もあるし、それに親も二人ちゃんといて……」

「嫉妬したの?」

「う~ん、そうなのかな? 俺自身がガキでさ、父ちゃんが浮気して家を出て行って……母ちゃんと翔平が毎日泣くし」

「それで……」

「別にそいつとは関係なのに、自分の家庭と比較すると馬鹿らしくてさ。気がついたら”遊び”がどんどんエスカレートしちゃって」

「……」

 

 鬼塚が話すこの世界にいた少年が、一体誰なのかは分からない。

 でも、ものすごく被害者の気持ちが分かる。

 だからこそ、鬼塚に対して今……憎しみが溢れかえる。

 

「そいつん家は金持ちだったし、優しいお兄ちゃんもいて……正直うらやましかった。悪気は無かったんだ」

 

 最後の言葉で、俺は自分を抑えきれずにいた。

 

「だからって、あんなことすんのかよ!?」

 

 すっかり喋り方が男に戻ってしまった……が気にせず、喋り続ける。

 鬼塚は驚いた顔で、こちらを見つめていた。

 

「お前がやったことは、その少年に”遊び”なんてもんじゃないぐらい、トラウマを植えつけたんだ!」

「み、水巻?」

「たかだか、ガキの遊びでトイレに人の私物を投げ捨てる奴がいるか?」

「え? なんで、お前がそれを知って……」

 

 やっぱり、この世界の鬼塚も、所詮は鬼塚だ。

 何も変わっていない、最低な野郎。

 

「もう、二度とお前とは遊んでやんない! 絶交だ! 友達とか少しでも思った俺がバカだった!」

 

 俺はその場に鬼塚を残して、ひとりで夜道を駆け抜けていった。

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