殺したいほど憎いのに、好きになりそう   作:味噌村 幸太郎

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36 全てがびしょ濡れ

 

 終始、俺にだけ敵対心むき出しの鞍手 あゆみだったが、鬼塚にはとても優しかった。

 なんなんだ? この差は……。

 同じクラスメイトの女子にここまで冷たくするものか?

 

 

「水巻、お前。マリンワールドは初めてなんだろ?」

「うん」

「じゃあ、最初はイルカショーがおすすめだって! こっちに来いよ!」

 

 と俺の右手を強引に引っ張る鬼塚。

 

「ちょ、ちょっと待って……そんなに急がなくても」

「ダメだって。早くしないと良い席が埋まっちゃう」

 

 鬼塚の言うイルカショーは、このマリンワールド全ての階から観覧することが出来る。

 建物は3階建てだが、俺たちが入った入口は2階で、そのままショーのあるプールへ直行できる。

 また1階では巨大な水槽を目の前にしたレストランがあり、イルカやクジラたちが泳いでいるところを眺めながら、食事を楽しむことができる。

 そして、最後に3階はプールから一番離れてはいるが、高い位置から博多湾をバックにショーが楽しめる。

 

 しかし鬼塚の目的は、それらと違い、ショープールの一番前の席が良いのだと言う。

 なんでも真ん中の席が迫力があり、彼自身。マリンワールドが出来てから何度も通っているのだとか。

 俺もこの水族館の存在は知っていたが、長年引きこもっていたため、一度も来たことがない。

 転生して、まさかこいつと来るとは思っていなかったけど……。

 

「水巻、マジですごいから! ショーは一日に3回やるんだけど、絶対また観たくなるぜ!」

 

 と席についてから、ずっと鼻息を荒くして説明している。

 よっぽど、水族館が好きなんだな。鬼津のやつ。

 ガキっぽくて、ちょっと可愛らしく見えて来たよ……。

 

 しかし、10月とはいえ、いざ席に座ってみたら暑いな。

 カーディガンを羽織ってきたけど、脱いじゃおうっと。

 中はノースリーブのワンピースだから、涼しいや。

 と考えていたら、どこからか音楽と共に若いお姉さんがマイクを持って登場。

 

『マリンワールドへお越しのみなさん、こんにちは~!』

 

 一緒にアシカも現れて、パチパチと拍手している。

 

「おおっ! 観ろよっ、水巻! アシカが拍手してるぜ!」

「はぁ……」

 

 俺は一体なにをしているんだろうな。

 なんだか眠たくなってきちゃった……。

 

  ※

 

 一連のショーを観ていても、興味のない俺はあくびばかりしていた。

 対して鬼塚はアシカのボール遊びを見て、熱い拍手を送っている。

 最後にイルカと巨大なクジラのショーが始まると、スタッフのお姉さんが観客へ注意をしていた。

 

『一番前に座っているお客様は、水しぶきに気をつけてください。今からでも席の移動されたらよろしいので……』

 

 ん? 俺たちは一番前だし、真ん中の席だ。

 しかし、鬼塚が「この席じゃないとあの迫力を味わえない」と豪語していた。

 よく分からんけど、このままで良いのかな。

 

『では、巨大クジラの”よしこちゃん”が今から、皆さまに向かってジャンプします。水しぶきにお気をつけて!』

 

 それを聞いた俺は、血の気が引いてしまう。

 

 気がついた時には既に遅く、巨大なクジラが水槽の中から飛び出てきた。

 客席から、大きな歓声と共に悲鳴も聞こえてくる。

 クジラには何の悪意もない。ご主人様の命令により、ちゃんとお仕事しているからな。

 

「はははっ! やっぱこの席はすげぇや!」

 

 と一人で喜ぶ、褐色肌の少年。

 対して、隣りに座る俺は驚きのあまり、言葉を失っていた。

 それもそのはず、頭から上半身は全てずぶ濡れになってしまったのだから……。

 よしこちゃんはたった三回のジャンプしかしていないのに、この威力。身体が大きすぎたんだな。

 

 ていうか、この濡れた身体。どうしたら良いんだ?

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