殺したいほど憎いのに、好きになりそう   作:味噌村 幸太郎

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46 若きインフルエンサー

 

 放課後、優子ちゃんとは別れて、ひとりで渡り廊下を歩く。

 数学のハゲ先生に呼ばれたから職員室まで向かうのだ。

 早く帰りてぇ……。

 

「あ、失礼しまぁ~す」

 

 職員室の扉を開いた瞬間、近くの机に座っていた角刈りの男性教師から怒鳴られた。

 

「こらっ! お前、どこのクラスだ!? ちゃんと入る前に扉をノックして、クラス名と自分の名前を大きな声で叫べ! 目的もだ、最初からやり直しっ!」

「……」

 

 こんのクソ教師が……お前なんか学校外で会ったら、痴漢冤罪にしてくれるわ。

 しかし、ここは先生の言う通り、扉を閉めてもう一度やり直してみることにした。

 

「あ、あの……私、1年7組の水巻 藍と言います。数学の先生に呼ばれて来ました」

「声が小さい! もっと、心を込めて大きな声で言いなさい!」

 

 うるせぇ、お前が一番職員室の中で迷惑な奴だ。

 他の教師も苦笑いしながら、仕事をしているし……。

 

 俺はこのあと、3回も挨拶のやり直しをさせられた。

 

  ※

 

「水巻、お前さ。なにか悩み事でもあるのか? このノートを見たけど間違いだらけだぞ」

「それはその……」

 

 数学のハゲ先生に呼びつけられたのは、俺が適当な回答をノートに書いたため、心配したかららしい。

 かれこれ一時間以上、問題一つ一つを一緒に解き直すことになった。

 アホの子として扱われていて辛い。

 

「あのな、先生さ。水巻にはな、期待しているんだぞ? 学年トップの成績だし、真面目なお前にさ」

「はぁ……」

 

 その藍ちゃんという女の子は、今や行方不明だ。

 なぜなら、俺と言うおっさんが憑依したから。

 

「これからの時代はさ。女子も高校に入学して、お前の親御さんさえ良ければ、大学だって目指して良いと思うんだ」

 

 と優しく俺の肩に触れる、ハゲ先生。

 ていうか、この先生は俺のことを思って話しているのだろうけど……普通に女性差別ですよ。

 まあ、ネットも無い1990年代じゃ、そんなもんか。

 

「じゃあ、水巻。以前のお前を取り戻すために、一年のプリントを全部やってみるか?」

「え!?」

「大丈夫だって、お前ならこんなの10分かからないよ!」

「……」

 

 先生の予想を反して、俺がプリントを解き終えたのは、2時間後だった。

 

 

 普段、使わない頭をフル回転させたため、耳から煙が出て来そう。

 ちょっとしためまいを感じながら、職員室を出る。

 扉を閉めた途端、疲れから扉にもたれかかる。

 

「あぁ~ マジで地獄じゃねーか。美少女でも普通にハードな人生だっての……」

 

 と男時代に戻って、ぼやいていたら、目の前に背の高い青年が立っていた。

 

「ちょっと、そこのお嬢さん。いいかいっ?」

「え、私?」

「そうそう、背の高い君だよ! バスケットボールが似合いそうな君のことさ!」

 

 その青年は職員室の目の前にある、正面玄関に立っていた。

 どうやら、この真島中学校の生徒ではないようだ。

 3年生にしても、背が高すぎる。180センチ近くはあるだろう。

 

 それに着ている制服が我が校のものではない。

 中学校ではなく、高等学校の制服だろう。

 紺色のブレザーに、グレーのスラックスを履いている。

 この制服、どこかで見たような……。

 あ、近所にある私立”両刀(りょうとう)高等学校”だ。

 

 たくさんの有名なスポーツ選手がそこで育ったという名門校。

 なかには、あのオリンピック選手”KAWARA(カワラ)ちゃん”もいるほどだ。

 しかし、そんな高校の生徒が何しに来たんだろう。

 

「あの……私に何か用ですか? 先生なら、職員室にいますけど?」

「おい、ちょっと待ってくれないか。お嬢さん! ひょっとして、僕のことを不審者と勘違いしてないかい?」

「いやいや、そう意味ではなくて」

「僕はこう見えて、この真島中学校の卒業生なんだよっ!」

 

 と白い歯を見せて笑う青年。

 声もデカいし、なんか暑苦しい先輩だなぁ……。

 高校生とは言え、ガタイが良いというか。ボディビルダーのような肉体の持ち主。

 髪は剣山のように、鋭く立ち上げられている。

 

「いやぁ~ 久々に中学校へ来たら、体育館の場所が分かんなくてねぇ。きみから見て、右と左どっちなんだいっ!?」

「え……私から見て、右側ですけど」

 

 そう言って、指を差してみると、OBだと名乗る男は一直線に廊下を走り去って行く。

 

「ヤーーーッ!」

 

 彼が急に奇声を放ったので、俺は思わず両耳を手で塞いでしまう。

 

 一体、なんだったんだ?

 どう考えても不審者だろう……いや、待てよ。彼は違う!

 幼かったから分からなかったけど、あの姿は間違いない。

 前世で芸人として大活躍している……”もりもりにんに君”じゃないか!?

 

 大阪から出て来た芸人だから、関西出身だと思ってた。

 まさか同じ中学校出身だとはな……サインもらっておけば良かったな。

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