殺したいほど憎いのに、好きになりそう   作:味噌村 幸太郎

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78 後に福岡のてっぺんを取る男

 

 スニーカーにたっぷり入っていたマーガリンだが、とりあえずティッシュで拭き取ってみた。

 優子ちゃんも手伝ってくれたから、どうにか歩けるようになったけど。

 歩くとやはり不快感が残っている……。

 一体、誰がこんないやがらせをしたのだろう?

 特に嫌われることはしていないと思うが。

 

  ※

 

 自宅に帰るとお風呂場で汚れたスニーカーを洗って、庭に干しておいた。

 明日までに乾くといいけど。

 

 二階の自室に入り、セーラー服を脱いだらタートルネックセーターとロングスカートに着替える。

 ベッドにダイブして、ブラウン管のテレビをつけて見ると……。

 

『福岡の深夜は、”ズバコンTV・Sooo(スゥーー)。ぜひご覧ください!』

 

 そのCMを見て、俺はようやく思い出した。

 今朝わざわざ中学校まで来て握手をしてくれた福岡市長のことを。

 なんであの人を市長と紹介されてもピンと来なかったのか。

 

 それは……。

 

 ~約半日後~

 

 わざと深夜に設定していた目覚まし時計のベルが、部屋に鳴り響く。

 いつも学校へ行く前ならベルを止めても、すぐ二度寝するのだが今夜は違う。

 すぐにベルを止めて、テレビのリモコンを手に取ると電源をつけた。

 チャンネルは寝る前に設定しておいた1チャンネルで、通称”ABCテレビ”局だ。

 

 なぜこんな深夜にテレビを見るのか?

 それは、この世界のとある人物を確かめるためだ。

 テレビの中に映し出されたのは、そんなに広くないスタジオ。

 

 司会者台には、若い女性と色眼鏡をつけた黒髪の男性が並んで座っている。

 女性はアシスタントみたいだ。色眼鏡をつけている男性こそ、福岡を代表するタレント、”中島(なかしま) コーチ”だ。

 福岡県民からは”ナカシー”の愛称で慕われている。

 

『さあ、今夜はですね。どうやら、新しいコーナーが始まるみたいですよ』

 

 この時を待っていた。

 ついに現れるぞ! 彼が……。

 

『どぉ~も! みなさん、こんばんは! はじめまして、ABCテレビ入社したての”高塩(たかしお) 宗二朗(そうじろう)”アナウンサーでぇーす!』

 

 やはり、この世界にもいたか。

 まだ幼い顔立ちをしているが、その目つきは既にギラギラしていて、独特なオーラを醸し出している。

 それにしても、新人アナとは思えないテンションの高さだ。

 

『高塩くん、これから始まるコーナーはなんなの?』

『ナカシーさん、よく聞いてくださいました! 今夜から毎週始まる僕のコーナーは、題して”むね二郎の身体張ってます”です! さっそくVTRをご覧ください!』

 

 映像が変わると、どこかビルの屋上が映し出された。

 そこに銀色のサウナスーツを着た若い男性が立っている。

 さきほどの高塩アナウンサーだ。

 

『それでは皆さん! 今日はとある実験をしようと思います! では今から、このむね二郎が全力でやらせていただきます!』

 

 そう言うと、何を思ったのか。屋上をひとり走り始める高塩アナウンサー。

 あまりにシュールな映像だっため、早送りされてしまう。

 全力で走ること、約1時間。足を止めると、なぜかサウナスーツを脱ぎ始めた。

 

『今日はですね。人体の汗からでも食塩を作れるかという実験です』

 

 海パン一丁になると、先ほど脱いだサウナスーツを力いっぱい絞り始めた。

 すると、あらかじめ下においていたバケツにぽとぽと汗が落ちる。

 全ての汗をバケツに入れ終えたら、アルコールランプを取り出して火を点ける。

 

『では、フライパンに汗を入れて、水分を飛ばしていきますねぇ~』

 

 ~数十分後~

 

『ついに出来ました! カメラの向こう側の皆さん、見えますか? 間違いなく塩ですよ!』

 

 確かに彼の言う通り、見た目は塩だがこれをどうやって食塩だと見極めるんだろう?

 

『言いたいことはわかります! 本当に塩なら食べられるだろうと……そこで用意したのが、こちら。じゃじゃーん!』

 

 そう言って彼が手に取ったのは、ゆで卵だ。

 あらかじめ用意していたのだろう。

 

『では、実際に食べて確かめてみようと思います! いただきます!』

 

 正真正銘、自分の汗で作った塩をゆで卵にふりかけて食べる高塩アナウンサー。

 

『あ、うまい! これ、本当に塩ですよ! 僕の汗とは思えないぐらい、めっちゃうまいです!』

 

 

 入社したての新人アナとはいえ、こんなことをしていたとは……。

 だが、この時代を全力で駆け抜けたからこそ、後の彼へと変身できたのだろう。

 そうだ。彼こそが俺が知っている前世での福岡市長、高塩 宗二朗。

 

 一連の映像を見終えた俺は我慢していた感情を爆発させる。

 

「だははーっは! あー、ウケる! これが後の市長とか思うと面白すぎる!」

 

 とベッドの上で、大声で爆笑していたら、自室の扉が勢いよく開かれる。

 

「藍っ! 何時だと思ってんの!? マジでうるさいんだけど」

 

 お姉ちゃんが怒って部屋に入って来た。

 

「あ、ごめん……お姉ちゃん。だって高塩市長がおもしろくて……」

「は? 市長? どこに市長がいるの?」

「え、このテレビの中の人……」

 

 テレビに映っている、海パン一丁の男性を指差すと、お姉ちゃんは眉間に皺を寄せる。

 

「はぁ? この人が市長? こんな海パン一丁でアホなことをしている人がなれるわけないでしょ? 早く寝な!」

「……」

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