BLUERISING 作:影後
「……会議だよ」
対策委員会の部室、普段のメンバー+先生が着席し落ち着いた表情でホワイトボードを見ている。
「おじさんから皆に良いニュースと悪いニュースを伝えるよ。
まず、良いニュースはご覧の通りシャーレの先生が来てくれた。だから、弾薬の心配はないこと」
「……悪いしらせは?」
客将たるアルファ1がそう問いかける。
「雷電は今ミレニアムに向かってる。曰く、最高の護衛と一緒にね。問題は、死んでもおかしくないこと。」
ホシノの言葉に全員の顔が曇った。
「ブラボー1から。聞きたいのですが、何故雷電はそのような負傷を?」
「それは今話すことじゃないよ。雷電自身が赦してるから、問題じゃない。コレが悪い知らせ。そして、次が作戦だよ。先生も居る、弾薬もある。皆に聞きたい。生徒を増やす気はある?」
それはつまり、仲間にする。攻撃するという事だ。
「えっ?生徒を増やすってどうするの?」
先生は理解していないのかキョトンとしている。
いや、アビドスの外から来たのだ。むしろ、今のアビドスが異常であるとも言える。
「簡単だよ、カタカタヘルメット団を制圧して転入してもらうの。それが、私達アビドスが生徒を増やしてきた手段」
「誘拐?」
「…違うよ、誰にも居場所が必要なの。アビドスにはその居場所がある。それに、馬鹿な事をする生徒がいるなら私や、皆で鎮圧して更生させる。クズなら、捕まえて監獄行き。先生、キヴォトスには人を嬲って笑う大人に生徒もいる。そう言う奴は捕まえるに限るの。それに、そんな奴は賞金も出るしね」
「なら、ここのカタカタヘルメット団は」
「アヤネちゃん」
「はい、ご覧ください」
アヤネは雷電から諜報の技術を仕込まれ、連邦生徒会から各学園に侵入し生徒の個人情報を抜けるまでになったのだ。
ドローンを使い、映像をとり生徒一人一人を調べ上げる。
「このように、カタカタヘルメット団には現在指名手配犯はいません」
「凄い……でも、ハッキングだよね?」
「先生、アビドスはこうして生きてきました。今まで、連邦生徒会の支援もなくただ雷電先輩とホシノ先輩が中心となってやってきました。いまさら、そこに口を出さないでください」
「…ごめん」
アヤネではなくセリカがそう返した。
「だから、ヘルメット団の前哨基地を制圧したいの」
ホシノがそう言うと手を挙げたのはアルファとブラボーだ。
「ホシノ副会長、なら我々アルファとブラボーチームに任せてほしい」
「そうですね、ちょっとこの頃暇してるので」
アルファとブラボーチーム、総勢12名の元SRT特殊部隊。
「良いの?貴女達は傭兵いや客将で」
「客将だが、報酬は雷電からたんまり受け取れる予定だ。恩返しぐらいは良いだろうさ」
本来の歴史なら、SRTの部隊など現れもしなければ人材もいない。だが、人材も弾も予算もある。
「わかったよ、じゃあお願いね。先生は」
「その、生活部とその不良達を見せて」
不良達、ヘルメットを被りながら牢屋に入っている。
一人一人に個室が与えられているのはある意味良いことなのだろう。そして、先生へそんな一人一人と面談をしていた。
武器も取り上げられているが、キヴォトス人と外から来たのだ先生では身体能力も違う。マグノリアの生徒が一人警備としてついている。この生徒は雷電によって説得され、アビドスの生徒になったのだ。だから、先生に雷電と同じ事が出来るとは思えなかった。
「君はなんでカタカタヘルメット団に?」
「連邦生徒会が今更」
「私は確かにシャーレの先生。でも、私は生徒の味方だよ」
先生は優しく不良を抱き締める。
「大丈夫、話して。誰にも言わないから」
「…なんで……なんで……今更……私は」
雷電はリーダーだった。自分達の為に傷付き自らを決して出さない。苦しさも、弱音も吐かず、ただ意味の無い行動に意味を与えてくれる人だった。勉強だけでなく、戦い方。ヘルメット団という居場所からアビドスという居場所にチーム全員を受け入れてくれた大恩人。だが、目の前の先生は違う。
言うなれば母親だ。生徒一人一人に寄り添い、道を示す聖母。
不良は未だに先生の胸の中で泣いている。
「………」
「「ママ!」」
だからこそ、頭が痛い。
「ママじゃなくて、先生だよ!」
幼児退行というか、お前達の母親は居るだろうにと文句も言いたい。それに先生がママならパパは誰だ?アビドス所属の男は雷電のみ。駄目だ、雷電はアビドスの英雄。誰かの物になってはいけない……。
頭の中が激しく混乱しているが、兎に角不良に敵対の意識が無いことが判明したため、先生と元不良を対策委員会の前に連れて行く。歩く時、先生の後ろをついて行った元不良はなんというかアヒルの子供のようだった。
「えと……なにこれ」
ホシノの言葉に一言一句間違えず答えると、彼女も頭を抱えていた。わかる、わけがわからない。
「多分、一時的な幼児退行……かな?」
同時刻、ゲヘナ学園ー万魔殿
「お前……なんで……此処に」
フードを深く被りその顔を見ることは万魔殿議長たる羽沼マコト以外見ることができなかった。
さっさと銃撃でもすれば良いだろう。しかし、万魔殿は現在制圧されフードの存在の気分次第で大量虐殺がなされようとしていたのだ。
「ヒナを期待しているのか?哀れだな、アイツは来ない」
「ふざけるなよ!お前、お前は」
「名前を口にした瞬間、お前の部下とそうだな。ゲヘナを始末しよう」
男は1本のガラス瓶を見せる。
「ウィルス兵器だ、水源にとっくに流してある」
「え………」
マコトは言葉がでなかった。水は生徒だけでない。
生きるもの全てが飲んでいるもの。それを、目の前の存在はいとも簡単に殺そうとしている。
「ワクチンはこれだけ。水源に流せばお前達が俺の話を聞く意思を見せなければ今此処で、ワクチンを破壊する」
「巫山戯るな、そんな嘘!」
「この頃、ゲヘナで原因不明の発熱が発生したはずだ。まだ、5.6件かな?」
「お前!」
「直に増える。そして、最期には呼吸が出来ず死に至る。マコト、雷帝の遺産の残りを寄越せ」
「巫山戯るな!お前……よりにもよってアレを奪ったくせに!」
「……此方の技術では1体が手一杯でな。もう一つ欲しいのさ」
「………コレだ、まだ雷帝の遺産が存在すると思われる」
マコトは口に銃口を入れられながら涙を流す。
「ありがとう、感謝するさ」
その日、万魔殿に救急医学部が突入した。
周囲を風紀委員会が封鎖し、感染症対策の設備が整った万魔殿をみてヒナがしゃべる。
「……バイオテロ」
「はい、どれもゲヘナで起きている原因不明の発熱と同じです。現在、対応していた部員と発熱中の生徒を隔離病棟に入れてあります」
そう答えたのは氷室セナだ。救急医学部部長として、じっとヒナを見ている。
「……万魔殿、恨みを持つ人は少なくない。でも」
「はい、まだ初期症状らしいですが皆意識を失っています。
正直、ウィルス兵器を使う人なんて」
「私にはある」
「セイ君は留まります。毒ガスも、ただの粉末マスタードに……おぇ、思い出すだけで吐き気が」
「あれは酷かった、でも……死人はいない。むしろ、不良達が簡単に捕まった」
「チナツちゃん、泣いてましたけどね」
「でも……この手口はセイのやり方」
陽動と本命、それは常に陸八魔セイの戦い方である。
陽動自体も練度が高いだけでなく、前回はイレギュラーがいたというが、今回は不良だけ。更に、姿も見せていない。
「……マコトから話を聞くしかない」
「マコトさんには首に絞め跡があり、気絶した後に発熱したかと」
「……マコトは死にかけてた。セイは確かにマコトが大嫌いだけど、此処まで酷い事は……酷い事は」
ヒナが思い出すのは相棒の事。万魔殿から嫌がらせだけを受けて、頭を捻らせ、予算をもぎ取ろうとした記憶。
「……ごめん、万魔殿に……いや、マコトに対してならセイは多分もっと酷い事する。ソレこそ、社会的に抹殺すると思う」
「……それって生きてる方が辛いことになるんじゃ」
そう言いながら笑う2人をフードの存在は見ていた。
まるで、獲物を狙う狩人のように。