BLUERISING 作:影後
「……どうだ。我々の技術の粋を!」
「……お兄ちゃんが怖くなった」
「うん、強そうだね」
「あぁ、陸八魔部長…そのお姿。実に凛々しく」
「セイ先輩…その………えと…格好良いと思います!」
「御兄様のお姿はその……修羅に見えます」
雷電は目覚めた。3日間のアップデートを兼ねた新たな改造により、たった数ヶ月ながらバージョンアップを図ったのだ。
強化外骨格はミレニアムで極秘裏に研究中のナノマシンテクノロジーを盗用し、弾丸の命中箇所が一時的に硬化し防御力をあげることとなった。これには電力を使用するものの、雷電が動けば動く歩道運動エネルギーが電気エネルギーに変換される機能を追加。ほぼ、無限に使用可能だ。
更に、ナノマシンテクノロジーは防御力だけでなく雷電の潜入能力を格段に上げる力を持った。
「そう…これがワシの開発したオクトカムだ。お前達は蛸を知っているな。脚が八本、あの蛸だ。アレは身を隠すさい周囲に擬態する。このナノマシンにはワシの開発したオクトカムが合成してあり、周囲の温度、環境にまったく同一に変化する」
「…光学迷彩とは違うの?」
カヨコが手を挙げて話す。
「光学迷彩は簡単に言えば姿形が透明になる物だ。しかし、赤外線センサー、サーモグラフィー、雨などの環境に左右される。
このオクトカムも電力を使うのは変わらん。しかし、赤外線、サーモグラフィー、そして環境すらも克服した!透明にはなれんが、使い道はあるだろう。…さて、新装備の説明は終わりだ。
起きろ…雷電っ!」
研究室の奥、重いハッジの中から迫り上がる様に雷電が現れる。
映像から見るよりも数段恐ろしく、より兵器として完成に近づいた肉体が恐怖を感じさせる。だが、それでも顔に変わりはなく、雷電の顔は普段通り陸八魔セイを元にした物だ。
「……出力は50%向上し、更に……俺は修理を依頼しただけなんだが」
「強化はついでだ。お前から10億も振り込まれたからな」
「10億?!お兄ちゃん!そのお金いったいどこに」
「カイザーの資金をハッキングの応用で奪いました。我々にとってカイザーは馬鹿な貯金箱。金のなる木、しかしそのうち腐らせる予定ですが」
雷電は何度か腕を伸ばす、縮める、開いて、閉じるを繰り返す。
「……この力なら、殺せる。カイザーも…俺の敵となる者全て」
「お兄……ちゃん」
「……俺は2度も仲間を危険に晒した。それを許せない。死に急ぐのは俺だけで良い」
「駄目!お兄ちゃんも家族だから!アビドスで後輩も居るんでしょ!きっと…きっと皆悲しむよ!私も泣いちゃうし!」
アルの懇願を受け、普段通り頭を撫でようとする。
しかし、その手は上がることはない。
「ごめんな、ドクター。感謝する」
「……またミレニアムに来い。改良してやる」
「そうか」
雷電達はゆっくりとした足取りでアビドスへと車を走らせる。
「……ルナ、ホシノへ連絡を入れてくれ。アビドスに向け帰還中とだけ」
「了解です。部長」
そして、ミレニアムから車を走らせる。流石に距離がある為、
キャンプを張り一晩明かす。人間たちが寝静まると、闇に生きる者達の活動が始まる。
「……砂漠の夜は冷えるぞ?スーツだけで良く居られるものだ」
「私の肉体は少々特殊でして。流石にあなた程ではありませんがね」
形は人間だった。気配もだ。雷電はただつけてきたどこかの諜報ドロイドだろうと考えていたが、現れた人間の顔は異形だった。
「人の事を言える立場にいないが……随分と人間離れした顔だ」
「えぇ、貴方のご友人にアプローチしているのですが、何度も断られているのです」
「……ホルスの事か?」
「おや?ご存じでしたか」
「いや、カイザーから抜いた情報だ。ホシノに何故かホルスというコードがつけられていた。それに、アビドスにおいてご友人なんて言い方、まるで此方と対等の立場にいる存在を指す様に感じてな」
異形は褒めるように笑う仕草を行う。
「いやはや、何とも優れたお方だ。この世界に生まれ、力ない立場にありながら……じつに興味深い。申し遅れました。私、小鳥遊ホシノさんから『黒服』の異名を承っていまして。個人的に気に入ってますので、雷電さん。いえ、陸八魔セイさんにも黒服と呼んでほしいのですよ」
「了解した。黒服さん、それで?」
「契約を結びたい、条件は貴方が不愉快な依頼は貴方の意思で無視して構わないこと。アビドスには極力手を出さない事、アビドスの借金を一億まで減らす事。無論、これは利子にも付きますよ。精々300万程度に抑えられます」
「……なら、ホルスに関しては自分の意思でそちらにつく場合は俺は関知しない事にする」
「……契約成立と考えても?」
「契約成立」
「ええではまず少し実験を」
そう言いながら黒服は雷電に銃口を向ける。
「機械だからいえ、違いますね。貴方、恐怖を感じないんですか?」
「違う、死を恐れていないだけだ。何処で死ぬかは自分次第だ。それに、そう安安と殺されるつもりもない」
「素晴らしい……雷電さん、契約成立です。借金の方は対処しておきます。まぁ、一億程度なら簡単に返しますよね。今のアビドスなら」
「だが、土地だ。土地の返還に法外な金がいる」
「ほぉ!侵入した際に回収したかと」
「アビドスから半径30km圏内はな。既にアビドス自治区だ。後は、あの蛇と残りの土地を回収するだけだ」
「蛇!なんと!貴方はアレの存在も!」
「……黒服。貴方も俺と同じタイプだ。知識を力を信じ、実験を行う。その為なら、周りに興味はない。今はそう言う立場ではないが、風紀委員会に所属する前。まだ、中学生だった俺は……雷帝の右腕だったからな」
「くく……えぇ、知っていますとも!そして、アビドスに貴方が作り出した罪がある」
「……贖罪はいつか果たされる。兎に角だ、いや…もう一つある。俺は小鳥遊ホシノにも関知しない」
「ほお?」
「酷い良いようだが、彼奴は甘いんだ。奪われるのを良しとしない。理解しよう、だが奪い返すのも良しとしない。理解すべきだ、幻想ではなく現実を。それに、俺はアビドスの影であるが、小鳥遊ホシノの影ではない」
「獅子は子を谷に落とすと言いますが………えぇ…えぇ…良いでしょう!私も貴方をより気に入りましたよ!何かあれば此方の端末からご連絡下さい。ゲマトリアは貴方を待っています」
「アビドスにも居場所がなくなる時、そうだな。お前の部下になるのも面白そうだ」
雷電の言葉に喜び、黒服は消えた。
砂漠には確かにもう一人いたという足跡がある。
「……ゲマトリア。面白いな、既に棄て去ったが……いやはや、知識欲というは唆られる」
それでも、雷電は二度と嘗ての過ちは犯さない。
陸八魔セイは既に死んでいる、今立っているのはサイボーグ忍者。雷電だ。
「ん……あれ…お兄ちゃん?」
「アルか、眠れないのか?」
そう問いかける姿は妹を心配する兄そのもの。
雷電にとって家族と仲間は同じものなのだ。
「…そう言えば、ムツキちゃんはわかるが…カヨコを。あの、横乳の友人をどうやって仲間にしたんだ?」
「横乳って……」
「始めてあったとき、変態だと思ったね。露出狂と。そのくせ、俺やヒナに勉強では付いてきたし、ヘイローの無い俺を良く煽ってきたよ。まぁ、その度に仕返しをしたが」
「カヨコ課長から聞いたことあるわ!お兄ちゃんしか犯人はいないのに証拠が何一つ上がらなくてアコ先輩が泣き寝入りした」
「そっ…その事件。まぁ、若気の至りだな。次やる時は彼奴の提出寸前の書類を……ふ」
「ねぇ、お兄ちゃんはどうして風紀委員会になったの?」
「……ヒナとマコトからも特に言われていないし良いか。俺は。中学生時代からゲヘナの雷帝と呼ばれた女性の下に居たんだ。雷帝の下で好きな物を作り出し、好きなように遊んでいた。それを2人を中心にした奴等に壊された。俺が開発したモノの中にはキヴォトスを10回は滅ぼせる物があったんだ。まぁ、雷帝の遺産と呼ばれ大半は破壊されたんだけど………一部の遺産が俺も知らない場所に保管されているらしく、万魔殿から暗号文が出てきたんだ。マコトはそれを見つけた瞬間、俺に詰め寄ってきた。懐かしいな………兎に角だ。俺は危険人物すぎて当時、ヴァルキューレにも出せなかった。ゲヘナの機密の集合体だな」
雷電の言葉にアルは白目を剥いている。
自分が予想したよりも雷電は遥かにアウトローよりも危険なテロリストだったのだ。
「まぁ、今は落ち着いたさ。中二病が酷かったんだ。ハッキングマシン、EMP、陸上戦艦、列車砲、楽しかったが……今思い返すと酷いな」
「…お兄ちゃん、一時期図面描いたりしてたのそれだったのね」
白目から治らなくなったアルを優しく撫でる。
こんな体になっても雷電にとって大切な妹に変わりないのだ。
「ん?……アル、車に入れ!」
「お兄ちゃん?」
「全員を叩き起こして乗せろ!」
雷電はハンヴィーのエンジンをかける。
そこにまだ眠そうな便利屋とルナが姿を見せる。
「カヨコ、機銃入れ。アル、荷物は捨てろ。あと、5分以内には動く!」
「うっ!うん!」
「ひぃ…御兄様あの……」
「……時間がない!」
その時、暗かった筈の砂漠を光が灯った。
それで完全に意識が覚醒したのだろう。
便利屋達は武器と携行食だけを車に詰め、乗り込んだ。
「ムツキ、お前が運転だ」
「えっ…雷電さん?!」
「アビドスへの生き方はルナに聞け」
雷電がハンヴィーから降りると激しい跳躍を見せる。
その先には飛翔体、それを空中で蹴飛ばし爆発させ雷電は降りてきた。
「…ミサイル、赤外線か?」
雷電はガンケースから高周波ブレードを取り出し、構える。
「お前達はアビドスへ。俺は……奴等を鏖殺する」
雷電にとって、仲間との戦闘というのは自身の性能を100%発揮するには、はっきりと言えば邪魔である。
元々、多数を撃滅するための速度、装甲を兼ね備えているのだ。
武器はアンドロイドであれば一太刀で斬り裂き、戦車だろうと破壊できる。つまり、戦略兵器なのだ。そこに、仲間という足枷が加わると雷電は仲間の為に守り、戦い方を制限しなければいけなくなる。
「ひっ……」
「ありえねぇ……ありえねぇ!こんな……こんな……サイボーグが」
「ヘリはどうした!何故誰も」
アンドロイドに流れるオイルが返り血のように雷電に降り注ぐ。
高周波ブレードの前では紙を斬るように簡単に消えていく。
ルナの力もあり、既にジャミングされ通信妨害も発生。
援軍は望めない。
「そんな……うわぁ?!」
何故か前線に居たスナイパーを斬り刻み、コアを抉る。
頭の上で握りつぶすと溢れるオイルがホワイトブラッドの変わりになっていく。これも新機能だろう、まるで血を浴びる度に永遠の若さが手に入ると考えたかの貴婦人のようだが、彼女と違いこの行為によって雷電のダメージは回復していく。
「ヘリか」
ソレは有名なアメリカの攻撃ヘリAH−1コブラだ。
「此奴は……PSG1か」
狙撃手の所持していたPSG1の弾倉を確認する。この銃の優秀さは妹から聞いている。だからこそ、運命にも感じる。
コブラから機銃が掃射されるが、外部装甲に弾かれる。
雷電が狙うのは一つ、正面からロケット砲だ。
「……アディオス」
戦闘サイボーグとなった雷電に手ブレは起こらない。
システムと連携された脳により、風向き、角度全てが導き出され、最良な角度で射撃する。
弾丸は一定の距離なら一直線に飛ぶ。
しかし、そこからは放物線を描き落ちていくのだ。
「……」
ロケット砲に着弾し、爆散していく存在を見る。
「決めた、お前の名前はドロイドキラーだ。安心しろ、新しい相棒。色々と改造してやる」
「おにーちゃーん!」
どうやら戻ってきたらしい妹達に手を振る。オイル塗れだが、許してくれるだろうかと少し疑問を感じながら優しく微笑んだ。