BLUERISING 作:影後
ソレは黒い棺の様なモノから目をしました。
全身を巡る人工血液『ホワイトブラッド』と人工筋肉。
肉体を覆うのは12.7×99mmすら数発なら弾くことの出来る性能を持った強化外骨格。黒光りする装甲が彼を殺戮者の様に見せている。
「……目覚めたか。お前の名前はわかるな?」
「俺は……俺は…陸八魔……セイ、そうだ。陸八魔セイだ。」
目の前にいるのは老人、そうとしか言えない男だった。
「驚いたな、キヴォトスに俺以外に男が……しかも老人が居るとは」
「……老人か」
皮と皮膚、痩せこけた顔はシワだらけ。もしかしたら老人と呼ばれる歳では無いのかもしれないが、少なくともセイには老人に見えた。
「そうだな……私はドクター。Dr.AEDだ」
「エイド?スペルは」
「AED」
「除細動器?」
「ふん、ソレよりもお前は覚えているのか?」
「そうだ、俺は……俺の身体は」
「お前の肉体は人工的に作られた。サイバネティクスとバイオニクスの融合。まさに神秘の肉体だ」
そう言われ鏡を見た。
唇がなく、金属質の歯が剥き出し。目は何度も自分が観察する度に拡大と縮小を繰り返している。イヤーマフは完全に一体化し、取り外しはできない。
「身体は既に限界だった。生きていくにはそうするしか無い」
「いや良い…ヘイローがない変わりだ。この体なら、壊れるまで戦える」
「死を恐れないのか?」
「俺は死なない。彼女達のリーダーだからな」
AEDはセイの言葉に満足そうに微笑み、一つの身分証明書を手渡した。
「コレは何だ?」
「お前は有名人だ。いくら戦闘サイボーグでも身分証明書は必要な時代だ。好きに使え、口座もできている。お前の元の口座は凍結されているしな」
「……RAIDEN…雷電?」
「旧日本海軍の戦闘機に付けられたコードだ。それに、今のお前に長い名前は必要ないだろう」
AEDはそう言いながらバイザーを手渡してきた。
外側からは完全に内側を保護し、敵方からの認識を阻害する特殊素材で作られ内部からの視認性は実に優秀だ。
対弾性にも優れているらしくデモンストレーションでは7.62mm弾までなら容易く防いでいる。12.7×99mmでもなければそう簡単には貫通できないだろう。
「だが、頭部正面を守るだけでは」
「お前の全身骨格はコレだ」
そう言って見せたのは金属だった。
しかし、人間の骨の様にも見える。
「チタン合金だ。重量は出るが、身体能力は人工筋肉と強化外骨格で何とかしている」
AEDはそう言いつつも、静かに言葉を紡ぐ。
「済まない」
「気にするな、銃弾で死なない程度だ。」
「コレで、やっとヘイロー持ちと戦える。感謝するAED」
雷電が立ち去ろうとする時、AEDが叫んだ。
「待て、急ぐな。最期の荷物達だ。」
AEDはそう言いながら背後を指差した。
そこにはキヴォトスでは普段なら見ることがないだろう武器がある。
「カタナ?俺にSAMURAIになれと言うのか」
「弾薬類は足がつく、そいつならお前が手入れすれば良い」
「……コイツは?」
「高周波ブレード。刀身を超振動させて剪断力を高める所謂、振動剣だ。コンクリートも容易く切れるだけじゃない。コイツは、刀身の超振動による切断力の強化だけで無く、高周波電磁パルスを流す事で原子間結合を強化し刀剣そのものの強度を高めており、実体剣の弱点で在る折損の可能性を有る程度克服している」
AEDはニヤリと笑いながら答える。
「折れない、少なくともキヴォトスでコイツに対応出来る金属は事実上、存在しない」
「隣のコンテナは?」
「お前の整備システムだ。私が開発した。お前以外には開く事も起動することもできない正真正銘、お前の専用品だ。中に入ればその身体のメンテナンスが可能だ。注意すべきことだが、お前の身体を巡るホワイト・ブラッドは劣化する。1ヶ月程度なら問題ないが、それ以上だとお前は自己中毒に陥る」
「自己中毒、つまり」
「簡単に言えば藻掻き苦しんで死ぬ。コンテナはホワイト・ブラッドの入れ替えを行うものだ」
「…ソレはホワイト・ブラッドがいつか」
「安心しろ、コンテナ内で純化され再利用可能だ」
「体外排出された場合は」
「適当なロボやマシーンを破壊しろ。奴等に流れるオイルからホワイト・ブラッドの精製機能がコンテナにある。つまりだ、コンテナがお前のもう一つの生命であり生命線だ。コンテナは核弾頭でも破壊できん。つまり、キヴォトスでは壊せないという事だ」
雷電はAEDという存在に今更ながら疑問を持った。
何故、過去の自分はこの男に依頼したのだろうか。
思い出せないが、些細なことのように感じるが不思議とソレが頭をよぎる。
「さて、外に出るぞ」
「外?」
「そうだ。コンテナを運ぶ為に必要な物がある」
「?」
「手術の後遺症か、お前が準備しろと頼んだ物だ」
外に出ると理解できた。おそらくは地下だろう。
大型のカスタマイズされたコンボイトラックとトレーラーが鎮座していた。
「防弾ガラス、防弾タイヤ、砂漠やオフロードも対応するようにしてある。だが、極力戦闘は避けろ。コンテナとトレーラーは壊れないが、トラックは壊れる。良いな」
「了解だ、感謝する。AED」
「気にするな、事前準備にすぎない」
AEDは雷電がトラックに乗り込むのを見送るとゲートを開けた。
「二度と会うことはないだろう」
「そうか、ありがとう。AED」
トラックが走り去るのをAEDはずっと見つめている。
その目は冷酷な程冷たく、世界を凍てつかせる様なものだ。
だが、その中には確かな種火が存在するのだ。
雷電の身分証は完璧なものだった。
ヴァルキューレ警察学校の生徒でもソレが
制式なものであると認識していたほどだからだ。
「……ゲヘナ」
見覚えのある制服を着た生徒を見かけた。
連邦生徒会へ出向した生徒だろう、笑顔を浮かべ学友と話す姿に何処か羨ましさと懐かしさを感じる。
「!」
その時だ、爆発と共に正面から武装した生徒が現れた。
カタカタヘルメット団だけではない、
不良達が連邦生徒会へと攻撃を仕掛けている。
「おい、アンタ。ここは危険だからさっさと出ていきな!」
不良というかスケバンらしい生徒が雷電に警告を伝えてきた。
彼らの敵はあくまでも連邦生徒会で此方は関係ないという意思表示だろうか。
「そうか、ありがとう」
雷電は優しくその少女な頭を撫でた。
機械の腕でも誰かを撫でるのは久し振りだ。
「気をつけろよな!」
赤面しながらもライフルを構えながら向かっていく姿。
不良と言われても、やはり根は善良なのだ。
風紀委員所属だった過去からすれば、
不良生徒よりも美食研究会と温泉開発部の方がテロリストだ。
だからだろう、シャーレも連邦生徒会も雷電にとって敵だ。
ソレに、不良達があのまま倒れるのを観ているのは気分が悪い。
雷電にとって、もう一つの顔。陸八魔セイ。
幸い、強化外骨格さえ隠せば顔は変わっていない。
観察する事に徹し、遠距離からスコープで覗いていたが段々と不良達の勢いが悪くなっていく。
「……指揮官が出ただけで一方的だな」
「そんな……この声は」
ゲヘナ風紀委員のチナツの顔に絶望が浮かんだ。
旧ドイツ軍の様な漆黒の軍服を模した制服に身を包み、肩にある校章にはバツの字がつけられている。
「誰だ!アタシたちに」
不良達も知っていたのだろう、太陽にてらされ確かにその顔が現れると誰もが言葉を失った。
〘君は誰?〙
雷電よりも年上に見える女性が問いかけた。
「陸八魔セイと言えばわかるな」
「……陸八魔先輩」
「チナツか。おい、そこの不良。クルセイダーはまだ動くか?」
「…動く!クルセイダーならまだ」
「撤退しろ、どうやら優秀な指揮官のようだ」
「何が」
「後は俺がやろう」
ヘイローがないにも関わらずそういう男。
不良達は知っているからこそ、クルセイダーと共に逃げていく。
「待ちなさ」
「動くな」
雷電のソーコムピストルが動こうとしたチナツではなく女性の足元に向けて火を噴いた。
「人質ですか」
「モスト・ウォンテッドによく言う」
「……」
「やはりヒナは失敗した。お前の様な物が風紀委員の幹部にいる。練度も、俺がいた頃よりも酷いようだな」
「裏切り者の分際で」
「……ふん」
雷電はXM84を投げた。
落下と同時に激しい閃光と破裂音が彼女達を襲うが追撃などは無かった。
「…逃げた?いや……」
「此処にいた、そう言っているんですよ。先輩は」
チナツは静かに雷電が立っていた場所を睨みつけた。