BLUERISING 作:影後
連邦生徒会長が直に組織した存在それが独立連邦捜査部。
通称、〘シャーレ〙である。
そして、雷電が銃口を向けた女性がそのシャーレの顧問となる〘先生〙であった。
砂漠を越えるための用意も共に済ませ、予定より3日遅くだが雷電はアビドスへ向けて出発した。
「…ゲヘナに皺寄せが行ったか」
スマホから必要な情報は手に入る。
フェイスマスクもつければ雷電の顔と声は隠せる。
陸八魔セイという存在がバレることはない。
「撤退も敗北後すぐに完了か、練度が良いな。クルセイダーは乗り慣れていないようだったがが……」
撤退していく生徒達の録画映像を観ながらも、自分はアビドスへと舵を切る。道路を進めば時折不良が検問をしている。
キヴォトスでは略奪も当たり前だ。だが、そんな彼女達も手を出す相手は考える。
「アンタが事前に入れてた雷電だな?」
「コレが金だ。ソレより大金を積まれたなら裏切って良い」
「いや、裏切りはしない。アンタがアタシ達を裏切らないなら」
ヘルメット団に敢えて護衛を頼むのだ。
派閥などもあるが、事前に連絡をしておけば襲われないし
逆に砂漠の用心棒も手に入る。
「アビドスの入り口までだ、それ以上はアタシらの縄張りじゃない」
「感謝する」
前方1台、左右1台、後方1台で囲み車列を作り出す。
車載機関銃にいる生徒はよく周りを観察している。
雷電の操るトラックの助手席には指揮官たるカタカタヘルメット団の少女が乗り込み、AKS-74Uを抱え何時でも戦闘に入れる用意をしていた。
「何故、ヘルメット団に?」
練度が高い、正直何処かの部に所属していたとも考えられる。
だからこそ、再度雷電は質問を行った。
「…何故、ヘルメット団に?」
「別に……色々と馬鹿馬鹿しくなったの」
指揮官はそう言いながら話したくないという雰囲気を出した。
そんな指揮官の頭をワシャワシャと雷電は撫でた。
「ちょっと!せっかく整えて」
「背負いすぎるな、俺も似たようなことをしているからわかる。自分がやらなきゃいけない。そう思い詰めているな?だがな、案外仲間は強いぞ。俺の仲間達は……借金にひーひー言いながらも治安維持とかしてるからな」
「そう……ありがと。でもそれとコレとは別よ!」
「そうか、そうだ」
雷電が笑おうとした時、目の前を走っていたジープが爆ぜた。
「アクセルを踏んで!2号車!3号し」
連続する爆発、隣を走っている筈のジープの姿はない。
幸いなのはヘイローの存在だ。
傷だらけ、生徒達はジープから這い出している。
だが、ミラーに映った1人の生徒を見て雷電はトラックを止めた。
「トラックを止める!」
「ソレは」
「人名優先だ」
運転手だった生徒が完全に挟まり出られなくなっている。
いくらヘイローがあっても、燃えている限り火傷は負ってしまう。
「きゃあ!」
「狙撃か!」
不良ではない、機械人形が感情なく迫ってきている。
武装はM4カービンにマウントされたグレネードランチャー。
敵は相当に金がかかった装備をしている。それだけではない。
ジープが爆ぜた瞬間だが、グレネードとは別の何かを雷電はみたような気もする。更にヘイローがなく気絶している生徒がいても射撃を行う姿勢を見れば、生命は関係ないようだ。
「リー…ダー」
「いや……やめろぉぉ!」
前方から生徒を背負っている生徒が撃たれている。
弾は当たっていないが、気絶した生徒はヘイローが消えている。弾丸が当たれば死んでしまうだろう。
「君は他の仲間を…彼女達は俺が救おう」
「そんな、貴方は」
言葉を紡ぐ間もなく、雷撃が大地を走った。
来ていたコートは開け飛び、中からはおよそ人間とは思えない姿が現れる。指揮官は、見ていた。
「ひっ…」
再び射撃が行われる。たが、雷電が自らを盾にして守った。
カンコンと乾いた音が響く。
「ガンケースの中身を俺に投げろ!」
ソレが指揮官に言われているのだとすぐに理解した。
トラックの運転席の背後に乗り込んた時からある巨大なガンケース。よほど大きな銃なのだろうかと感じていたが、ソレは刀だった。
「受け取って!」
普通なら届かないだろう、でもその時は不思議と力が出ていた。
普通なら重いと感じる刀が一直線に飛んでいったのだ。
雷電はソレを空中でキャッチすると即座に正面にいた機械人形いや、戦闘用ドロイドを斬り刻む。
「20時の方向敵影!」
「射撃開始!」
「トレーラーを盾にしろ!ソレは核弾頭でも壊れない代物だ!」
「うん!」
指揮官を含めても現在戦えるのは5名。指揮官を除いて12名いやメンバーも先の襲撃で傷つき、倒れている。
「トトレーラーだけじゃない!破壊されたジープも盾に」
「グレネードランチャー!来ます!」
「優先的に撃って!」
一騎当千の力を持つ雷電でも仲間を守りながらというは難しい。
「リロードッ!」
「カバーするから!」
悲鳴に近い声が聞こえる。今回、雷電自体この様な襲撃があるとは想定していなかった。あってもせいぜい、不良集団だろうと。だが、不明勢力という.だけでなく相手は殺戮兵器を投入している。
「いや…熱い!熱い!!」
「火炎放射?!そんな…脱いで!早く服を!抜がせて!」
雷電に迫る弾丸を走りながら全て弾き迫る。
頭、胴体を斬り裂きコアからエナジーを抜き取り自身の回復に当てる。
「M134だと?!」
いくら雷電の強化装甲でもダメージは蓄積する。
ヘイローを所持しているキヴォトスの生徒でもソレを操れるのは一部だけだ。だが、少なくとも10体の戦闘用ドロイドが一斉射してくる。毎秒60発、それが10門ある。刀で弾こうが意味がない。
弾丸が速すぎるのだ。ライフル弾なら何とかなるだろう。しかし、ミニガンは駄目だった。
腕を前に出し、ダメージを両腕部に抑える。強化装甲が削れ、内部のチタン骨格が出ている。
「初陣が負け戦とは!」
右腕が吹き飛び、ホワイトブラッドが当たりに散らばる。
雷電は悲痛な叫び声を上げるがまだ左腕がある。
「……く!」
発声器官が故障したのか、ジャミングされた通信のような不明瞭な声を上げながら雷電は高周波ブレードで目の前のドロイドを斬る。自らの視界にErrorという表示が無限に出ているどころか、ダメージレベルは60を超えている。
すぐさま右腕部へのホワイトブラッドの供給を止め、それ以前で循環するようにする。
だがコンテナで修理しないと肉体が壊れてしまう。
「ゲホッゲボッゲホ」
ホワイトブラッドが口から溢れ、砂漠を白く染めた。
AEDに言われていた自己中毒が起こっているのだろう。
幸いなのはそこら中にドロイドの骸があることだ。
「……はぁ」
新しい肉体に慣れていない。
コレは雷電にとって勝利ではなく敗北だ。
「……戻って……おい、あんた」
『問題はない、発声器官と右腕が破損しただけだ』
まるで通信機の様な音が雷電の口から聞こえてくる。
症状は悪化しているが、現状コンテナに入る余裕がない。
『怪我人は』
「火傷で重傷が1人、他の皆は」
「車がイカれた以外は大丈夫です」
火傷を負った少女を雷電は見る。
「トラックに乗せるんだ」
「トラックって、エンジンがやられて動かないよ!」
『ガンケースの置き場所の上は仮眠場所だ。寝かせるだけなら出来る。君達には悪いが俺と一緒に歩いてもらう。最低限の水ならトラックの椅子の下だ』
「貴方は」
『後からコンテナを押す。運転は頼んだぞ』
雷電はそう言うとコンテナの後ろに回る。
戦闘用サイボーグの肉体は数tあろうと関係ない。
生徒達は交代で運転、休憩、歩行を交代で行いながらアビドスに向け砂漠を歩く。
「……寒くなってきたね」
『コンテナを開ける。君達は中に入れ、温かいぞ』
砂漠の寒暖差は異常だ。日中は40度程で夜間は-20度に近づく。
幸い、コンテナの中身はどんな環境でも一定に保たれるため、問題ない。狭くはない。横にはなれないが、
座って寝る分には問題ない。
『交代で運転を頼む』
「貴方は」
『俺のせいだ、歩くさ』
雷電はその晩、たった一人でコンテナを押し歩き続ける。
睡眠は必要ない、サイボーグは戦える。
それでもホワイトブラッドの喪失と身体の破損。
修復をしていないこともあり、少しずつ動きが悪くなる。
「止まれ!そこのトラック!ここはアビドス高等学校の」
見慣れた校章を付けた装甲車。
『待て、敵じゃない。ホシノは居ないのか?』
「副会長をホシノだなんて随分と馴れ馴れしいな!お前名前は!」
『…陸八魔セイだ』
雷電はアビドスならば問題ないと考え、自分の名前を話す。
「なっ!?本物か」
『戦闘用サイボーグになったが本物だ。此方には怪我人もいる、即座に応援を呼んでほしい』
恐ろしいことだが数分で機甲部隊が現れた。
『ティーガーI?また嫌な記憶が』
ゲヘナ関係で嫌な記憶のある戦車と動の同型であるティーガーIが現れる。ハーフトラックとパンターもだ。歩兵はいない、機甲部隊のみ。先頭を行っていたティーガーIのハッチが開くと見覚えのある顔が出てきた。
「リーダー!帰ってきたのか」
それは雷電がセイとして始めて仲間にした4人の一人。天使のような白翼を持つ『安西ニノ』だ。
「お前誰だ!リーダーは」
『お前は1年会わないだけで俺を忘れたのか、俺はお前たちを忘れたことは無いぞ』
「リーダーは人間だ!機械じゃ」
『身体がボロボロでな、生きるためにはサイボーグに成るしかなかった』
「黙れ!お前はリーダーじゃ」
「私のクライアントに銃を向けるな」
「お前は」
「私はこの男に雇われた傭兵だ」
「なにを」
雷電は片腕ながら静かに自分を示すものを出す。
「それは」
『俺のゲヘナの制服だ。これでいいか』
フェイスマスクを外し、着慣れた制服に袖を通す。右側がダランとしているが、仕方ない。
「あれ~、ニノちゃん急ぎ過ぎだよ。おじさん疲れちゃう」
『ホシノ、お前は驚かないのか』
「驚いてるよ―。みんな傷だらけだし、セイ君、右腕ないし。それでけが人は?」
『火炎放射器で焼かれた、すぐに医務室に送りたい』
「いいよ、トラックは牽引してあげるね」
『感謝する』
雷電はそう言うと静かにコンテナの扉を開ける。
『済まない、一度出てくれるか?』
「わかりました」
生徒達はコンテナから出るとブラックボックスに入る雷電を見た。まるで棺の様なものだった、ソレに雷電が入り込む。
ブラックボックスは閉じ、中は見れない。
「…へ?」
だが、不意にブラックボックスに触れてしまった。
一瞬にしてブラックボックスがクリアになると雷電が映った。
強化装甲を外され、内部装甲まで露出していた。
外れた右腕を装着し始め、ホワイトブラッドも増やされていく。
「…とにかく行くよ」
サイボーグの修復姿は言葉がでなかった。
そして、太陽がアビドス高等学校を照らす頃、ソレは目覚めた。
「発声器官は修復完了、ダメージ72%まで回復」
右腕はまだないが、それでも目覚めてしまった。
「コンテナ…そうか、俺なら内部から開けるのか」
まるで指紋認証だ。雷電が左腕を壁に触れるとゆっくりとコンテナが開いた。想定とは違い、扉ではなく、全体が開いたが些細な問題である。
「あっ!犯罪者リーダー先輩!おかえりなさい!聞きましたよ!サイボーグになったって本当だったんですね!」
「…ノノミか?耳が速いな」
雷電の今の姿はある意味では裸体である。
傷だらけの強化装甲と弾痕が痛々しく残るフェイスガード。
「よかったです、あと10分で朝礼ですよ!」
「……まったく」
雷電は微笑みながらアビドスの校庭へと歩いた。
そこではかつてとは違い、100名程の生徒が静かに整列している。何名かは雷電を見かけた瞬間、涙を流してすらいる。
「副生徒会長、登壇」
朧気な記憶の中で見覚えのない生徒がそう放送する。
雷電自身、自分がスカウトした生徒の顔を全て覚えているわけではない。
「うん、皆休んで良いよ。今日はおじさんから良いニュースがあります。皆の仲間がアビドスに戻ってきました!陸八魔セイ君。登壇してください!」
ホシノの明るい声からとは思えない程重い空気になる。
雷電はゆっくりと登壇し、アビドスの生徒達に向き合った。
「……」
ボロボロのフェイスマスクを外すと白髪の青年が姿を見せる。
だが、顔だけだ。肉体は強化外骨格。しかも弾痕やヒビでボロボロであり、さらには右腕がないのだ。
「……アビドスの生徒諸君。久し振りだな、ヘイローがない俺だが今もこうして生きている。いや……生きているではないな。君達がどう思うか知らないが、俺はこうしてサイボーグとなった。戦闘用サイボーグだ。今は多少ボロボロだが、2、3日もすれば修復される。俺は、君達に護られるだけの存在じゃない。今度は君達と共に戦える。君達の隣に立てる。俺は、弱かった。だが、弱い俺。つまり、陸八魔セイは死んだ。俺は生まれ変わり、戦闘用サイボーグ。『雷電』となった」
雷電は一息ついて言葉を紡ぐ。
「だが、忘れていない。俺の約束を。ホシノが受け入れてくれた約束を。見捨てない、俺も、ホシノも、見捨てない。居場所を必ず作る。今年、俺もそうだ。卒業する生徒も居るだろう。用意する。そして、最後に一つ。キヴォトスでモスト・ウォンテッドである俺に、居場所をくれたことを。ありがとう。俺は、アビドス、そして君達生徒に尽くす事をここに誓う」
雷電はそう言いながらゲヘナの制服をその身に纏う。
いや、デザインはゲヘナだが校章は確かにアビドスの物に変わっている。
「陸八魔セイではない、アビドスの雷電として…よろしくお願いします」
深々と頭を下げた雷電にパチパチと拍手がでた。
ソレは少しずつ大きくなり、全生徒から聞こえてくる。
「うんうん、それじゃあ転校生の紹介は終わりだよ。これからも雷電君と仲良くしていこうね」
雷電はもう涙を流すことは無い、だが心は変わらない。
守るのだ、自分の手をどれだけ汚しても。
ーそうだ、アビドスにも、生徒たちにも恩がある。
俺の居場所になってくれたという、恩が。ー
ヘイローの無い陸八魔セイに居場所は無かった。
護られるだけの存在だった。だが今は違う。
今度こそ、雷電は守るのだ。自分の生命に代えてでも。