BLUERISING 作:影後
雷電がアビドス対策委員会から距離を置かれ始めて、1週間。
自分の行いに対する責任は今、誰にもない事を逆手にとり、夜間においてどの生徒よりも自由に動いていた。
「……回収出来たのはこれだけか」
全身からホワイトブラッドを大量に流しながら、雷電はアタッシュケースに入った1枚の紙に思いをはせている。
カイザーコーポレーションのサーバールームに侵入し、更にほぼ2年の歳月をかけて手に入れた物はたった1枚の紙切れ。
だが、それだけでよい。今晩、その全てをやってきたのだ。
痛覚システムは遮断してある為、何も感じないがダメージレベル80を超えている。スパークどころか、動くこともままならない。
「また、皆に言われるな」
「雷電先輩、またボロボロになってます」
「……雷電さん」
対策委員会のセリカとノノミは校庭の一角に置かれたコンテナの中で修復されている雷電を見ていた。雷電は基本的に昼、目覚めることはない。ソレは、生徒達に伝えることなく裏で何かをしているからだ。
しかし、今回は異常すぎた。見るからに凹んでいる外部骨格。
頭部の擬似組織は剥がれ、内部のチタン骨格が見え隠れしている。銃弾のあとも数しれず、何をしてきたのか想像に難くない。
「ノノミ先輩、雷電先輩やホシノ先輩が頑張っているのに私達は」
「セリカちゃん、雷電先輩ならこう言うよ。皆が頑張っているからアビドスは保ててる。ソレが瓦解したら、ここは失われるって」
雷電のように少し胸を張ってみるノノミ。
しかし、ノノミを見るセリカの表情は暗い。
「自慢ですか?」
「え?」
「自慢ですか!」
何処で何をしているのかと雷電が覚醒していれば言っただろう。
しかし、今止められる奴はいなかった。
「なんでぇぇ!!!」
「もげろ!」
そんな追いかけっこを始める2人を、他の生徒は微笑ましい顔で見ていた。
「……ホシノ先輩、雷電先輩って」
アヤネがまだ眠たそうにしているホシノに話しかけた。
「うん…おじさんもちょっと」
アヤネは知らないが、雷電はかつてのホシノと同じである。
現在、アビドスの借金は約5億程。しかし、かつては10億に登る程の大金だった。それを陸八魔セイ達を受け入れる報酬として4億、そこからアビドスの治安回復行動やアルバイトといった行動で利息と共に借金自体をゆっくりと返済できている。
また、無理矢理連れてきた生徒達。最初は拒否したいものだったが、今では同級生だけでなく後輩も増え130名。
それぞれが色々と部活をしながら借金返済に向けて頑張っている。そう、かつてほど自分が背負うものがなくなったホシノであるが、まるで雷電が変わりに背負った様な感覚になる。
「それに、このアタッシュケースだよ。白い血があるし、たぶん雷電が持ってきたんだと思うんだけど」
「……駄目ですね。たぶん、雷電先輩が許可を出せば開けれると思うのですけど」
隣には最先端のボイスレコーダー。
アヤネが恐る恐るそれのスイッチを押すと機械音声が聞こえてくる。だが、その音声の主を知っている。
『これを聞いているのがアビドス対策委員会のメンバーでないなら、今すぐ誰でも良い。連れて来い。対策委員会のメンバーなら、このまま聞いてくれ』
十秒程、無音が続く。しかし、いきなりガチャリという何かが落ちる音がする。
『また、皆に文句を言われるな。さて、本題だ。これを聞いても口外するな。アビドスがひっくり返るぞ。……これはユメ先輩に対する義理だ。それに誰かを巻き込みたくない。特に、ホシノをだ。だから一人でやった。今までもそうだった。』
ホシノは忌々しそうな顔をし、アヤネは驚愕した顔をする。
『随分と遅くなってしまった。俺は依頼を忘れないし、約束を守る人間だ。これはカイザーに対する切り札だ。これは____だ。いいな、絶対に渡すな。白を切れ。守り通せ。俺も戦うが、事実を知るものは最小限に抑えろ。忘れるな』
ホシノは忌々しそうな顔を、アヤネは恐ろしい事を聞いたという顔をしている。
「ホシノ先輩?」
「……ーーー」
アヤネはまるで鬼としか言えない顔のホシノを見た。
まるで憎しみに囚われているような初めて見る顔。
「アヤネちゃん、これは他言無用だよ。対策委員会と各部長を呼んで。会議するよ」
アヤネは有無を言わせないホシノの顔に静かに頷いた。
「では我々マグノリア・セキュリティ・コンサルティングです」
そう言うのは門崎リンだ。今、彼女を部長としてアビドスではPMScS産業に取り組む一団がいる。
「依頼は順調です。カイザーと敵対関係にあるネフティスやコンビニだけでなく、所謂土着企業の方々とは関係を築けています」
アビドスの名前を使わないのはカイザーと表だって敵対するわけにはいかないからだ。アルファとブラボーチームから鍛え上げられた先鋭が警備員として時にカイザーの軍勢、時にヘルメット団等と戦闘を繰り広げている。
「それでも、3000万目指すのがやっとです。弾薬費や食費を考えれば充てられるのは1200万円程です」
「アビドス機甲部ですけど、装備はカタカタヘルメット団から奪ってますし、弾薬とかも回収すれば問題ないです。ただ、整備部品とかは少ないので共食いさせてます。」
そう言うのは安西ニノだ。未だに雷電を受け入れられないでいる彼女だが、アビドスの機甲戦力を指揮している才女だ。
「生活部です。現在、部長たる陸八魔セイ先輩は皆様の知っての通り昨晩、何らかの作戦行動中に重傷を負いコンテナで修理中です。よって、副部長の私菊池ルナが解説させていただきます」
そう言うのはアビドスに雷電が連れてきた人材の菊池ルナだ。
銀髪ボブで瓶底メガネをかけている。元はゲヘナ生徒だったようだが、なぜアビドスに転校したのか誰も分からない。連れてきた本人たる雷電すら勝手についてきたと言っていた。
「まず、生徒の家ですが元が空き家が多数存在しているだけでなく、所持者に対しても話を通しております。比較的安く買い取れましたし、なにより陸八魔部長がブラックマネーにより捻出してくましたので、今のまま生徒達を受け入れても問題ありません」
「ブラックマネー?」
シロコが目を輝かせながらルナに問う。
「どうやら陸八魔部長の敵組織から定期的に略奪し、ロンダリングしているお金だそうです。ホシノ副会長に話した所、かつてそれを返済に充てるわけにはいかない。そう仰られたそうで」
「そうだよ、いくら雷電が私達のためにとしたお金でも。それで返済をしてはいけない。それに、私は、アビドスは既に彼に4億も肩代わりしてもらったんだ。これ以上はできない」
「ですので、せめて食費、生活費に充てようとしました。
物資輸送の手筈などは整えております。弾薬等は……申し訳ありません。連邦生徒会の目が厳しく、大量購入は望み薄です。一応、一気に確保できるが難易度はインフェルノ。陸八魔部長が雷電かつ、皆様が私達の指示を的確に聞き入れ従うのであれば……」
「うん、ルナちゃん。大丈夫だよ、一応連邦生徒会には支援要請はしてあるし」
ホシノ自身、その言葉は重い。何ヶ月も前からアビドスは連邦生徒会に支援要請をしているが、何の音沙汰もないのだ。
「ホシノ副会長、望み薄である事に変わりありません。一応言いますが、陸八魔部長は稀代のテロリストであります。いえ、私自身テロリストの汚名を被り続ける陸八魔部長を尊敬し、敬愛しているためゲヘナからアビドスへと制式な種類まで偽装し、連邦生徒会やゲヘナに根回しまでして来ました」
「何が言いたいの?」
セリカが若干苛ついた声でルナを見る。しかし、ルナは汗一つ垂らすことなく、それどころか瓶底メガネをクイッと上げながらつぶやく。
「先のゲヘナ襲撃作戦、シロコ先輩は興味を持っていたとお聞きしています」
「盗むの!?」
「……言葉を選んでください。犯罪者から回収するのです。幸い、アビドスの付近に素晴らしい程の犯罪者の温床があります。ブラックマーケットです。特に警備部隊マーケットガードは戦車どころかヘリまでありますので」
「狙われない?」
「ご安心を。私と陸八魔セイいえ、この場合雷電の計画なら問題ありません」
ルナはニコニコと笑いながら話し始める。
「これには雷電にも言えることがあります。機械は人間ですか?雷電の中には陸八魔セイ時代の脳があるらしく戦闘用サイボーグを名乗っていますが、アンドロイドは人間ですか?」
嫌な予感が対策委員会のメンバーにある。
「マーケットガードにはヘイローを持たない者。つまり、アンドロイド部隊がいます。練度は高いですが、ヘイロー持ちの生徒よりとは言えません。なぜか?簡単に倒せるからです。ロボットは精密機器でありウィルスに弱い。それに、ロボットを壊す事は犯罪ですか?キヴォトスでは殺人は犯罪です、しかし」
「駄目だよ、そんな事は私が許さない」
言葉を続けようとするルナをホシノは睨む。
「まぁ、良いです。陸八魔部長が覚醒次第、此方が自己責任で動きますので。ご安心ください、我々生活部はアビドスの皆様の生活をお守りします」
まるで機械のように返答するルナに誰も言葉が出なかった。