7 knights to die   作:道造

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第44話 escape(脱出)

 

 アカデミーに辿り着く。

 ヴォルフガング殿とサムソン殿は傍におらぬ。

 私が侵入して10分後、間を空けて突入する予定だ。

 あの地図には10分もあれば、イザベラ様が看護なされているパウラ嬢のところに間違いなく辿り着くという話であったが。

 

「部外者の入門は禁じられております」

「部外者ではない。家臣が主君に会いに来て何が悪い。貴様に何か拒否する権限でもあるのか?」

「……とにかく、お引き取りを」

 

 不安視していた通り、入門時に拒否を受ける。

 王妃派の衛兵と思われた。

 イザベラ様とパウラ嬢を人質に取っているという認識があるのだ。

 力づくで押し通ることは容易であるが。

 さて、どうする?

 ここで突入を開始すれば、目的地にたどり着くまでにイザベラ様とパウラ嬢が危険に陥るかもしれぬ。

 言葉で誤魔化すか、それとも懐にある銀貨の袋でも握らせるか。

 このヨルダンがあまり得意ではない手だがと、少し悩むが。

 

「何をしている」

「アルバン様、いえ、この者が――」

 

 敵対相手であるアルバンがやってきた。

 あまりにも都合が良いタイミングに、眉を顰める。

 まさか救出計画が漏れている?

 敵でありながら、騎士として見どころのある男であることはよくわかっている。

 何故、この男が我々と敵対しているのだ?

 少なくともアーデルベルトの配下で満足する男ではあるまい。

 そう不思議に思っているぐらいであるが――

 

「……主君が帰らねば家臣が不安を抱くのも無理はない。どうせ一人であるのだろう?」

「は、しかし」

「通してやれ。ただし、私も付き添う」

 

 アルバンがそう口にした。

 衛兵は何かをもごもごと口にしかけたが、さすがに公爵家次男に逆らうのは拙いのだろう。

 それに、アーデルベルト側であるアルバン本人が監視に付き添うと口にしているのだから――と。

 衛兵も少し悩んで判断したようだ。

 

「わかりました。ただし、監視に他の衛兵をつけさせていただきますぞ」

「かまわん。むしろ都合が良い」

 

 衛兵に、アルバンで二人か。

 アカデミーを警護する、初陣未経験のモヤシ衛兵など敵ではないが。

 このアルバン相手では、さすがにちと難儀するな。

 あの剣や槍でタコができた騎士の手は偽物ではなかろう。

 戦場未経験者に負けるとは思わんが、他に盾があっては一筋縄ではいくまい。

 私は警戒する。

 警戒するが、大人しく従うしかない。

 

「こちらだ。ついてこい」

「……」

 

 アルバンが予定とは違う場所に連れていく可能性。

 衛兵とともに二人がかりで、私に襲い掛かってくる危険性。

 それらも考えたが、どうやら違うようだ。

 地図に記されていた場所に真っすぐ向かっている。

 本当にイザベラ様とパウラ嬢のところに連れて行くつもりのようだ。

 しばらく歩いて――

 

「ここだ」

 

 女性寮の、とある部屋に案内される。

 間違いなく地図に記されていた場所である。

 私は背後を警戒しつつも部屋に入り、イザベラ様を発見する。

 

「イザベラ様! 御無事ですか!!」

「ヨルダン、待っていましたよ」

 

 イザベラ様は相変わらずご壮健である。

 毅然とした態度で椅子に座り、ベッドに伏せるディートリヒ卿の妹――パウラ嬢を看護しておられた。

 パウラ嬢の顔色は、よくない。

 病か毒かの区別はつかぬが、呼吸も困難であるように見えた。

 よろしい、目的地には到着した。

 後は――どうやって味方の到着まで、このヨルダンが持たせるかだ。

 

「敵襲だ――! 王派閥からの敵襲だぞ――!!」

 

 ちょうどこのタイミングで、正面門から叫び声が上がった。

 私はすかさず剣を抜き、同じく剣を抜いた衛兵とアルバンに立ち向かわんとする。

 が。

 

「――やはり救出が目的であったか。このまま始末して」

 

 それが衛兵の最期のセリフであった。

 私の心配は、どうやら無用であったようなのだ。

 アルバンが無防備な衛兵の腹を、背後から突き刺した。

 

「何!?」

 

 私は驚くが、アルバンは平然としている。

 声が出せない代わりに血の泡を吹き、崩れ落ちる衛兵の姿を無視するように。

 そのまま私を見つめながら、アルバンはこう口にした。

 

「私が協力できるのはここまでです。後はヨルダン殿にお任せしたい。複数の敵が来ると思われるが大丈夫であろうか?」

「ヨルダンなら大丈夫です。無条件の信頼がおけます」

 

 私ではなく、イザベラ様がお答えになった。

 薄々、アーデルベルト側に与しているのは変に思ってはいたが、アルバンは――いや、アルバン『殿』はスパイか?

 それを尋ねる暇もなく――

 

「私はヨルダン殿に追い詰められたゆえ、情けなくも助けを求める振りをして女性寮を立ち去る。そこまでが限界だ。すまない」

「十分です。ここまで有難うございました」

 

 そう口にして、アルバン殿は去っていった。

 なるほど、見事なスパイぶりだ。

 それにしても、素晴らしい致命の一撃であった。

 衛兵は完全に絶命している。

 あの男、予想以上の腕前だぞ。

 このヨルダンが相手の技量を読み間違えるとは。

 どこで指導を受けたのだ?

 

「ヨルダン、救出作戦についてはすでにアルバン殿から聞いています。貴方が到着するまでは彼が私たちを守ってくれましたが、ここまででしょう。主君として不甲斐ない真似を見せ申し訳ありません。ヴォルフガング卿とサムソン卿が来るまで、どうにか持ちこたえてください」

 

 主君の言葉に、初めての任務に。

 私は意気揚々と答えた。

 

「承知。この命に代えましても」

 

 アルバン殿が去り、複数の足音が駆けてくるが。

 ヴォルフガング卿から頂いたこの名剣は、初陣の血に飢えておるぞ?

 私は意気揚々とドアの前に立ち、敵が訪れるのを待った。

 

 

 

 

  

 

 ************************

 

 

 

 

 突撃である。

 とにかく、突撃だ。

 正面門の衛兵4名を一方的に殺害して、ヴォルフガングとサムソンは叫んだ。

 

「他愛なし!」

「4人雁首揃えて、この程度か。間抜けどもが!!」

 

 それは本当に一方的な殺戮であった。

 衛兵の内、二名はヴォルガングの剣で首を刎ね取られ。

 また二名は、サムソンの両刃斧で胴を切り裂かれている。

 衛兵たちは完全に絶命していた。

 

「さて、さっさと急ぐぞ。サムソン殿、完全甲冑での走破は、老骨の身には堪えるか?」

「騎士としてのトレーニングは怠っておらぬ。完全武装でも目的地まで走りきることぐらいできるさ」

 

 ヴォルフガングが軽口を叩く。

 サムソンは軽妙な口調で答えた。

 

「ならば、全速力だ。ついでにアーデルベルトの首も刎ねていくか?」

「それは決闘裁判でドミニク卿に任せよう。あの愚か者の事だ、敵襲があったと知った時点で部屋で怯えて蹲っていよう」

 

 事実である。

 アーデルベルトは執務室の机の下に潜り込み、頭を抱えて怯えている有様であった。

 それを二人は知らないが、まあ安易に予想が付いた。

 

「お、愚か者どもが! こちらには人質がいるのだぞ! 抵抗を大人しくやめ、剣を下ろせ!!」

 

 六名ほどの王妃派の教員が走り込んできた。

 全員が帯剣しているが、鎧は着込んでいない。

 二人にとっては雑魚も雑魚である。

 

「残念だったな、人質はすでにヨルダン殿が取り戻していよう!」

 

 脅しの言葉など気にせず、ヴォルフガングは剣を向ける。

 戦場にて複数名相手の立ち回りなど慣れていた。

 また、この連中には誰かが死に番となって、他の者が敵を仕留めるといった覚悟さえない。

 なれば――二人にとっては敵ではなかった。

 

「いくぞ、サムソン」

「よかろう」

 

 その逆に、二人はタッグを組んでいるのだ。

 決闘裁判に挑んだ戦友の絆と戦場経験が二人を結んでいる。

 王妃におもねるだけのモヤシ騎士風情が立ち向かえようか?

 結論はいうまでもない。

 剣を、両刃斧を。

 一振りするたびに、腕や足が斬り飛ばされていく。

 教員たちは『死』という残酷な結末を迎えることで、完全に無力化された。

 

「やはり他愛なし!」

「教員はさすがに戦場経験者のはずであるがな――剣に錆が付けばこの程度か」

 

 二人は教員六人を一方的に殺戮した。

 そして、再び目的地まで駆ける。

 女性寮に辿り着き、階段を駆け上がって、イザベラ様とパウラ嬢の下へ。

 その目的地のドアの前で目にしたのは――

 

「雑魚どもが」

 

 やはり虐殺の結果である。

 八名ほどの、腕に覚えがある王妃派の生徒が挑んだようであるが。

 全員が絶命していた。

 ある者は首を刎ねられ、ある者は腹を刺され、ある者は逃げようとしたところを後ろから斬られていた。

 一方的な虐殺であった。

 それこそ、描写の暇がないほどの。

 周囲には大量の血が飛び散るだけである。

 

「怪我はないか、ヨルダン殿」

「この程度で怪我をしていては、イザベラ様の騎士を名乗れぬ」

 

 大真面目にヨルダンは答えた。

 本気でそう考えているのだ。

 それは信仰にも近い、尊い誓いであった。

 

「では、更なる追手がかかる前に脱出を」

 

 ヴォルフガングが提案する。

 地図に書かれていた脱出経路はバッチリ全員の頭に叩き込まれている。

 

「いっそ、皆殺しにしてからの方が安全かもしれぬがな――」

 

 サムソンの珍しい軽口。

 確かに可能ではあるかもしれないが、余計な手間であることは彼自身にもわかっていた。

 ドアが開かれる。

 

「イザベラ様、不埒な敵は全員始末しました。二人も到着しましたゆえ、脱出しましょう」

「わかりました。今すぐに。誰かパウラ嬢を背負えるものは?」

 

 ヴォルフガングとサムソンは完全武装の甲冑姿である。

 病人を背負うには向いていないし――。

 それならば武装が整っていない、帯剣のみの者が背負うべきである。

 

「では私が」

 

 ヨルダンが名乗りを上げ、パウラ嬢を背中に背負う。

 彼にとっては軽い物であった。

 

「よろしくお願いします。素敵なおじ様。お名前はヨルダン殿と仰るのでしょうか?」

「素敵なおじ様? 冗談を言えるくらいならば、まだ大丈夫そうでありますな」

 

 ヨルダンは笑った。

 この時、パウラ嬢は冗談を言っているのではなく、毒で生死を彷徨う瀕死の自分を助けに来てくれて。

 ドアの前に立ちふさがり、剣戟収まらぬ中で数名を相手にたった一人で立ち向かったヨルダンの事を。

 乙女にとって理想的な『本当の騎士様』が訪れて、自分の事を命懸けで救出してくれるのだと感激していた。

 その状況下と、自分好みであった容姿含めて『素敵なおじ様』と本気で褒めていたのだが。

 それをヨルダンは全く理解できない。

 乙女に本気で惚れられるなど、貧しい黒騎士生活を送ってきたヨルダンにとって初めてのことであったからだ。

 

「とにかく行きましょうぞ。むさい男の背中ではありますが失礼を」

 

 ヨルダンが、丁重にパウラ嬢を取り扱う。

 その男らしい背中がますますパウラ嬢の好感度を稼いでいることに、ヨルダンは気づかない。

 

「走るのは難しいな?」

「その必要もないだろう。脱出経路には従うが、裏門があるわけでもない。最後は正面突破だ」

 

 ヴォルフガングとサムソンが話し合う。

 計画通りだ。

 何事も順調に進んでいるが、油断をするつもりはない。

 

「――それにしても、アルバンが来ないな」

 

 ふと、ヴォルフガングが不思議そうに首を捻った。

 必ずや彼が妨害に来るだろうと警戒していたのだ。

 むしろ、彼が組織的な抵抗を示せば、少しは骨のある戦いになると考えていたのだが。

 

「アルバンはもう来たが、敵ではない。後で説明する」

 

 悠長に説明している時間まではない。

 ヨルダンはパウラ嬢を背負い、その余りの軽さに病床の身を心配しながら。

 とにかくも、五名はアカデミーから無事脱出した。

 

 





書き溜め分が70話を超えました。
WEB更新分は問題なく完結(91話)まで辿り着けそうです。
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