7 knights to die   作:道造

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第45話 question and answer(問答)

 ヨルダン、ヴォルフガング、サムソンの三人は守るべき淑女二人を連れ、無事に逃げ切った。

 今は辺境伯家の下屋敷に連れ帰り、二人とも寝室にて眠っている。

 パウラ嬢の症状は重く、小康を得たとまではまだ断言できないが――ともあれ、救出作戦自体には成功した。

 すでに時刻は夜を迎えており、明日の決闘裁判に備えるべきである。

 だがしかし。

 七騎士には、どうしても話し合っておかねばならないことがある。

 

「何故アルバンがスパイであることを黙っていた?」

 

 ドミニク卿の当然の疑問。

 騎士たちの視線は厳しいものとなる。

 それを受けながら、紋章官はたじろぐことなく答えた。

 

「理由は単純。まあスパイであるからですね」

「私たちの誰かが漏らすことは、まずなかろうが――まあ知る者は少ない方が良かろうな。バレる可能性は少しでも減らしておくべきだ」

 

 まずヨルダンが理解を示した。

 彼としては、主君たるイザベラ様とパウラ嬢を救出するためにアルバン殿が役に立った以上は。

 特に問い詰めるべきではないと考えた。

 最優先するのは、二人の安全であったからだ。

 

「……まあ、口で漏らさねど、態度に出ることはある。黙っている必要があったのは認めよう」

 

 次に頷いたのはサムソンであった。

 そもそも決闘裁判において、「鉄の手」ベルリヒンゲンを殺さずにすんだのは彼のお陰であるから。

 アルバンに対しての敵意は薄いどころか、感謝さえしていたぐらいだ。

 だからまあ、アルバン殿には可哀想な立場だなあと同情を寄せるだけである。

 

「いや、せめて救出作戦の前には通じていることぐらい話してほしかったが。何もかも上手くいったからよいとはいえ……最悪、状況によってはアルバンを斬り殺す可能性さえあったのだぞ?」

 

 ヴォルフガングの当然の意見。

 彼としては、別にアルバンがスパイであろうがなかろうが、どうでもよいが。

 まあ、救出作戦の前には話しておくべきではなかったか。

 そう意見する。

 

「それについては申し訳ない。アルバン殿からは何もかも上手くやるつもりだが、やはり隠せる限りは隠しておくべきだと提案されておりまして。可能であれば、今回の救出作戦でもスパイであることを隠しつつ協力する予定でした」

 

 これは事実である。

 紋章官は嘘を述べていない。

 アルバンは隠せるなら、最後までスパイであることを隠し通すつもりであったからだ。

 

「……理由は? まあ、大体想像がつくが」

 

 領主騎士殿の問い。

 その声には「かわいそうなアルバン」への同情が滲んでいる。

 代官時代は、自分も色々と嫌な仕事をさせられたなあと言いたげに。

 確か、罪を犯したわけでもない領民を働かせるためだけに殴る仕事が一番嫌だと言っていたか。

 代官は怖がられるのが仕事なので、仕方ない面もある。

 ともあれ、隠していたことへの弁明をしよう。

 特にドミニク卿に対して。

 

「もちろんスパイであるとバレると困るのが一番の問題ですが。それ以上に、濡れ仕事(ウェットワーク)をさせられていることに同情されることが嫌だったというのは、まあ、あるかと」

 

 アルバンは騎士である。

 立派な騎士であった。

 本来ならば、あのような仕事をするべき人材ではないだろう。

 それは『ロバの耳』としての共通意見であるし、紋章官もそう考えている。

 彼にとってはスパイであったことなど、あの愚図の配下についていたことなど、消したい過去以外の何物でもない。

 将来は国家の柱石になることが求められるであろうアルバンにとっては猶更であった。

 

「……アーデルベルトの愚劣さは理解しているつもりだ。王妃テレージアの卑劣なやり口もな。アルバン殿がスパイをしていることも咎めるつもりはない。だからといってだ」

 

 そして、ドミニク卿は一人だけ不満そうだ。

 まあ、騎士として真面目な性格をされているから。

 彼が不満を漏らすのは紋章官も理解していた。

 

「神聖な決闘裁判において、相手側の――アーデルベルト側の情報を盗み取るスパイが、敵陣の中枢にいるというのはこちら側に有利過ぎて卑怯ではないか? これは正当な行為といえるのか?」

 

 ドミニクは予想通りの言葉を口にした。

 この台詞が七騎士の内、誰かから必ず出るとは、紋章官も理解していた。

 だが。

 

「武将の嘘は武略。卑怯とは思いませんがね」

 

 これについては、レオンハルト殿が強烈に否定した。

 ドミニク卿の言うことは甘いと言いたげに。

 

「アルバン殿がスパイでなければ、救出作戦の難易度は上がっていたでしょう。卑怯云々を口にするならば、アーデルベルト側の卑怯を、何の予防策もなしに防げたかは怪しい物ですよ?」

 

 彼にとってはアッカーマン辺境伯の忘れ形見であるイザベラ様。

 そして、それを護る為にアカデミーに入学されていたパウラ嬢。

 この二人の命がかかっていたのだから、知ったことではないし。

 むしろ空気を読めていないとさえ言いたげに、ドミニク卿を睨みつける。

 

「スパイはあくまでも予防策であると?」

 

 ドミニク卿は引かずに、レオンハルト殿と問答を続ける。

 彼もただ不快だ不快だと、感情論だけで口にしたわけではない。

 だが、レオンハルト殿は説得を続ける。

 

「少なくとも――まあ、アレクサンダー王がアーデルベルトを殺して欲しいと望んでいることぐらいは、今までの経緯で誰もが理解しているでしょう」

 

 第二王子を殺しても一切の咎めなし。

 むしろ、あんな奴は一刻も早く殺してくれ。

 そう望んでいることは、まあ誰もが理解している。

 あんなのが自分の息子だったら、ここにいる七騎士の誰もが自分の手で処分するからだ。

 

「だからといって、アレクサンダー王は露骨な贔屓や援助を私たちにしてくれているわけではありません。まあ、試合の全てが終われば、なんらかの褒美を我々全員にくださるつもりかもしれませんが――」

「断固拒否する」

 

 ドミニク卿はそう吐き捨てた。

 まあ、そう仰るよな、ドミニク卿ならば。

 

「私はアッカーマン辺境伯と、その忘れ形見であるイザベラ様の名誉のために決闘裁判を提案したのであって、王様からの褒美欲しさに決闘裁判に臨んでいるわけではないわ!」

「まあまあ。それは拒否すればよいだけですから」

 

 紋章官としては、是非受け取って欲しいのだが。

 まあ、こうやってややこしい話になるから、とにかく今まで相手にスパイがいるだの。

 アレクサンダー王は中立の立場だが、本音ではこちらに期待を寄せているだの。

 最後には褒美をくれるだの。

 そういったことは一切口にしてこなかったのだが。

 全てバレてしまった以上は、ともかく必死に弁明するしかない。

 

「ともあれ、アルバン殿がスパイであることを黙っていたのは理解して頂けましたか? ドミニク卿も」

「まあ、こうやってややこしい話になるだろうから、言わなかったのだろう? 理解はする」

 

 ドミニク卿も話の分からない方ではない。

 理解はしてくれるだろう。

 

「納得するかどうかとなると、話が別だがな」

 

 子供のように、腕を組んで顔を背ける。

 やはり、完全に納得はしてもらえないか。

 これはまあ仕方ない。

 紋章官である私が嫌われることで、落としどころを作ってもらおう。

 そうは思ったが、レオンハルト殿が問答を続ける。

 

「ドミニク卿。私は紋章官の立場を理解する。彼は私たちに配慮したからこそ、喋らなかったのだから。戦友の立場を慮り、配慮するのが正しい騎士の道であろう。貴方のそれは、ただの傲慢だ」

「いや、それは――」

「アルバン殿がスパイでなければ、救出作戦は困難になったはずだ。繰り返す、これはアーデルベルト陣営の卑劣なやり口を防ぐに必要な事だっただけだ!」

 

 レオンハルト殿はどうしても、ドミニク卿に納得してもらいたいようだ。

 まあ、イザベラ様とパウラ嬢の命がかかっていたというのが、最大の理由であろうが。

 

「紋章官殿だけが卑劣であり、私は誇り高き騎士でございと名乗ることが出来さえすれば、ドミニク卿は満足か!?」

「――いや」

 

 ドミニク卿は、目を瞑る。

 悩んでいるようであったが、それも少しの間で。

 

「すまん、紋章官殿。これは私が不見識であり、むしろ卑劣であった。私の傲慢を貴殿一人に押し付けようとしてしまった。誠に申し訳ない」

 

 ドミニク卿が礼を正して、私に、この紋章官に丁寧に謝罪をしてくれる。

 私は何処か、心がほっとするようであった。

 

「いえいえ。わかって頂き有難うございます」

 

 『ロバの耳』は諜報機関である。

 私など、所詮は濡れ仕事(ウェットワーク)を務める一人に過ぎぬ。

 だが、やはり戦友たちにだけは、それを卑劣と思われたくはなかった。

 肩の力が抜ける。

 私は私が思っている以上に、ドミニク卿に嫌われたくなかったようだ。

 

「レオンハルト殿も――有難うございます」

 

 私は説得してくれたレオンハルト殿にも、丁寧に謝辞を述べる。

 

「武将の嘘は武略!」

 

 レオンハルト殿はうんうん、と頷きながら返事をしてくれた。

 気に入ったのだろうか、その言葉。

 ともあれ、全員が納得してくれた以上、話は終わりである。

 後は――

 

「……ディートリヒ卿か。さて、イザベラ様の姿を確認して、妹君が救出されたと理解し、落ち着いてくれればよいがな」

 

 ヨルダン殿の言葉。

 それを聞きながら。

 

「まあ、せいぜい死なないように努力しましょう」

 

 レオンハルトは開けっぴろげに。

 なに、いざとなれば降参するつもりだから、安心して欲しいと言いたげに。

 私たちの前では笑顔を見せるのだが。

 

「だが、勝ってしまっても別に構わないでしょう?」

 

 彼も騎士である。

 最初から負けると思って闘いに挑むつもりなど、欠片もなかった。

 ディートリヒ卿はあの性格からして、手加減することなどできるわけがない。

 互いが闘いに夢中になるあまり、レオンハルト殿が死んでしまう可能性はないか。

 私たちの不安は、ただそれだけである。

 

 

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