7 knights to die   作:道造

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第46話 crazy big boar(狂える大猪)

 

 アルミン王太子親衛隊長ディートリヒは囚われている。

 自分の騎士としての誇りを侮辱されていた。

 とはいっても、何処か牢屋に囚われているわけではない。

 王妃派のとある貴族家の屋敷に隠されており、その一室に閉じ込められていた。

 その家主が食事と水を持ってきたが、もちろん毒見はさせている。

 食事を決闘までとらない、という選択も取り得た。

 数日食事を摂らずとも、ディートリヒは平気である。

 一種の超人ともいえる強靭な体であったからだ。

 ガリガリに痩せ細った体でも、一戦をするだけなら何の問題もない。

 

「……」

 

 だが、ディートリヒは決闘後の事も考えている。

 おそらく、決闘後すぐに王妃は自分を殺そうとするのではなかろうか。

 あのメスブタには自分が制御不可能だという姿は散々に見せた。

 ならば、王妃派の兵で取り囲んで自分を殺そうとするだろう。

 決闘裁判という役目を果たした後ならば、自分に危害が加わらぬよう猛獣を始末しようとするだろう。

 それを考えれば、体力を維持しておかねばならぬ。

 どうしても食事は必要であった。

 毒見で量が半分に減ったパンと肉入りスープ、それに水を貪り食べて、喉を潤す。

 毒は入っていないようであった。

 少なくとも、ここ数日で同じ食事を口にしている家主が調子を崩した様子は見られない。

 

「決闘か」

 

 独り言を口にする。

 毒見をさせるからと、半分を毒見役に食べさせるため量だけはたっぷりと用意していた。

 たっぷり食って、少し眠くなった。

 腹をさすりながら、全身の筋肉に力を込める。

 剣でも振り回したい気分であるが、それは奪われている。

 テーブルの脚でも圧し折って振り回してもよいが。

 

「決闘だ」

 

 また、独り言を口にする。

 自分に必要なのは手加減することである。

 相手にできる限りの手加減を。

 あの麗しきイザベラ嬢の名誉がために戦う勇士に手加減をしてやる。

 だが、それは難しいな。

 別に負けて私の名誉が穢れるというわけではない。

 なんなら、アーデルベルト側として出場する時点で私の、アルミン王太子親衛隊長ディートリヒの名誉は穢れているのだから。

 別に負けること自体は構わない。

 だが。

 それが出来れば苦労はしない。

 負けることを前提とした戦いに挑めるような性格でも、性質でもなかった。

 このディートリヒは手加減できないように総身が出来ている。

 『狂える大猪』が自分の綽名であった。

 生まれついて手加減が出来ないのだ。

 戦となれば、意識がふっと切れたように正気を失う。

 いざ戦場となれば、敵も味方も誰もが我が身から離れて行った。

 剣風に巻き込まれて死ぬのは嫌だとばかりに。

 私は敵を追いかけまわして殺す。

 それしかできなかったからだ。

 ふと、アルミン王太子の事を考える。

 もし私がこのような性分でなければ、アルミン王太子の御傍にいることができたのではないか。

 アレクサンダー王が敵の罠に嵌った際に。

 それを救うために、アルミン王太子が吶喊した際に、傍に侍る事ができさえすれば。

 今の悲惨な状況に、自分の命より大事なアルミン様が両足を失うようなことはなかったのではないか。

 時々ではあるが。

 そんなことを考えてしまう。

 幼年時代のトーナメントを思い出した。

 確か、アルミン王太子と戦うのが嫌で仕方なかったが、準決勝にてあのヴォルフガング卿がアルミン様を倒してしまったのだ。

 私はほっとした。

 ほっとしたあまりに、気が抜けてヴォルフガング卿を決勝戦にて半殺しにした。

 気が付けば、互いに木剣だというのに血だまりに沈むヴォルフガング卿がいた。

 二度と貴様とは戦いたくない、と彼には言われてしまったが。

 彼には是非とも王太子親衛隊に入って欲しかったのに。

 入ってくれなかったのは、やはり私の事が嫌いだったからだろうか?

 未だに理由はよくわかっていない。

 どうでもよい思考。

 それを打ち切り、目を閉じる。

 

「……」

 

 ベッドに寝転がる。

 果たして、自分の妹は無事だろうか?

 歳離れた妹であった。

 父が後妻を迎えて出来た異母妹であるが、ディートリヒはそれが可愛くて仕方なかった。

 後妻も本当に良い御仁であり、尊敬に値すべき女人であったから。

 だからこそ、すでに亡くなった両親の代わりに、自分が親代わりのつもりであった。

 なにもかもアルミン王太子のために。

 その次に、彼女が加わった。

 なにもかも妹パウラのために。

 我が妹は気丈な女であった。

 だからこそ、イザベラ様がアカデミーに入ることとなり、誰かがアーデルベルトから守るため補佐を――と話題になった際に名乗り出たのだ。

 妹パウラ自らがである。

 ディートリヒは止めようとした。

 したが、パウラの決意は固く、ディートリヒは止めること能わなかった。

 強い妹であり、正直に言えば誇らしくあった。

 それがこのような苦境を招くとは、さすがに思い至らなかった。

 ディートリヒは臍を噛む。

 妻女おるものは決闘裁判に挑むこと、これを許さぬ。

 そうパーティーにて宣言したドミニク卿の判断は正しかったのだ。

 仮に私が名乗り出ても、ドミニク卿は私に大切な妹がいることを知っている。

 私の参陣を断ったであろう。

 事実、それは正しかった。

 このディートリヒは恥ずかしくも弱点を押さえられ、ドミニク卿の敵方に貶められてしまった。

 自分に今できることを考える。

 まずは――

 

「決闘で相手を殺さないように頑張る」

 

 それは頑張る事ではないよディートリヒ。

 当たり前のことなんだよ。

 どこかから、そうアルミン王太子の声が聞こえてくるようであった。

 イマジナリー主君の言葉であった。

 そうである、決闘相手を殺してはいけない。

 おそらく、あの誇り高き七騎士ならば、イザベラ様と我が妹パウラを救出してくれただろう。

 決闘の場にイザベラ様が現れれば、まず安心して良い。

 恩もあれば義理もある。

 正義があるのは彼ら七騎士側であるのは明らかであった。

 にも拘わらず、決闘相手を血だまりに沈めようと体が疼いてしまう。

 もう、自分の加減ができない気性にウンザリしてくるが。

 とにかくも、決闘相手を殺さないように頑張ろう。

 降参の叫びが聞こえたならば、手を止めるために頑張ろう。

 

「次、決闘後に取り囲んできた連中を皆殺しにする」 

 

 その時、自分は剣すら帯びていない可能性もあるが。

 まあ相手から奪えばよいのだ。

 物資の現地調達は騎士の基本である。

 相手から剣でも鎗でも刃を一つ奪い取れば、それは「狂える大猪」の牙として機能する。

 王妃派の騎士など大したものはいない。

 このディートリヒに勝てる者など、何処にも存在しない。

 皆殺しにしてやろう。

 私の無残な死を見届けようとした、アーデルベルトが小便を漏らすほどに無残な死を。

 全員に与えてやろう。

 

「次に、アーデルベルトだ」

 

 アルバンは当然見逃すとして。

 まあ、剣風に巻き込んでしまうかもしれないが、アルバンならば霞のように逃げるから大丈夫だろう。

 それよりもアーデルベルトだが、コイツをどうしよう?

 殺すのは駄目だが、もう殺してしまっても構わないんじゃないか?

 そう考えるが、妹パウラを人質に取られている。

 解毒剤がどうしても必要であった。

 だが、ケジメはつけてもらう必要があるな。

 

「去勢するか」

 

 アルバンを除く側近の騎士を皆殺しにして。

 小便を垂らして怯えるアーデルベルトの睾丸を踏み潰す。

 これぐらいは許されるように思えた。

 そうしよう。

 そうしましょう。

 心の中のアルミン王太子と、妹パウラが同意してくれたように思えた。

 イマジナリー主君とイマジナリー妹の言葉である。

 命よりも大事な主君と、命よりも大事な異母妹が同意してくれたのだ。

 実行して何の問題もあるまい。

 そう考える。

 もちろん、これは空耳で、本人がそこにいれば「そんなことは言っていない」と口にするであろうが。

 このディートリヒが納得さえしてしまえばよいのだ。

 何の問題もない。

 何の問題もないと、二度目の頷きをして、ディートリヒは納得した。

 

「明日の決闘が楽しみだ」

 

 決闘はいよいよ明日である。

 閉じ込められた鬱憤を晴らすには十分な日付が過ぎた。

 明日だ。

 明日、自分の本性である、眠っている野獣が解放される。

 願わくば、それが決闘裁判という、相手に義がある舞台ではなく。

 決闘裁判後の、愚かしき王妃派に対する見せしめの場であることを祈っている。

 とにかく、明日だ。

 

「楽しみだな」

 

 狂える大猪はそう嘯いて、笑った。

 その笑い声は屋敷中に響いて、それを捕らえている家主も家人も、全員を怯えさせた。

 

 

 

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