7 knights to die   作:道造

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第57話 Sometimes Talk About the Old Days(時には昔の話を)

 

 半傭半賊。

 餓えれば賊にもなるし、別に金さえもらえれば傭兵業もやる。

 結局命懸けで闘うことになるのは、どちらも変わりないからだ。

 どうせなら沢山金が貰える方が良い。

 そんな身勝手な傭兵団の団長は『血みどろ』ヴィリーと呼ばれている。

 呼ばれる理由は、まあずっと戦場で一緒に戦っているからわかっている。

 今も隣席で血生臭い匂いをさせていた。

 

「騎士になりてえなあ。それも直臣騎士で、陪臣ってバカにされないような立派な騎士様って呼ばれてえなあ」

 

 『血みどろ』は愚痴を吐くように、こればかり口にしていた。

 そんな愚痴に、私はいつもこう答えるのだ。

 

「はあ、そうかい。そんなに騎士もいいものじゃあないけどなあ」

 

 急拵えの屋台にて、エールを口にする。

 この屋台は酒保商人がまあ少しは凝った物を作れば、売り上げに繋がらないかと。

 戦場にて余った建築資材を使って作った屋台である。

 その日の戦が終われば、私たちはいつもここで食事を摂るのだ。

 

「それはアンタが直臣騎士だから言える台詞だろ、えーと、名前は」

「エーレンフリート。隣で闘っている男の名前ぐらい憶えろ。これで自己紹介は五度目だが。あと、私は直臣騎士といっても世襲じゃない。親が戦功を積んで、なんとか継がせてもらえた一代騎士の嫡男にすぎぬ」

 

 『血みどろ』のヴィリーは人の名前を覚えない。

 記憶力が悪いのではない。

 コイツと話すときは、大体がぐでんぐでんに酔っぱらっているからだ。

 マトモに挨拶を出来たことがない。

 

「一代騎士といっても騎士年金はあるだろ。民に威張れるだろ。ザクセン王国の直臣だと、税金無しの王都市民権だって付いてくる。やっぱり、なるなら騎士さ。きっと、一度やったらやめられないに違いない」

「そのように良いものではない……」

 

 私はため息を吐いた。

 人からは確かにそのような目で見られるかもしれないが。

 裕福さで云うならば、そこらの騎士より商人の方が贅沢な暮らしをしている。

 いや、下手すれば傭兵団の団長をやってるヴィリーの方が、騎士の私より裕福なのではないかな。

 

「アンタ、仕事、つーか役職は何やってるんだっけ?」

「これも説明するのは何度目になるかわからんが。代官だ」

「代官。いいねえ、民に威張り散らせる。我、国家の代行者なり、者どもひれ伏せって」

 

 コイツ、代官業を勘違いしていないか?

 そんな立派な仕事なわけあるか。

 

「そんなに良いものではない」

「またまた、税金をちょろまかしたり、美人の人妻に手を出したり、色々やっちゃってるんでしょ」

 

 ヴィリーはおちょくるように、話しかけてくるが。

 

「お前馬鹿だろ。そんなことしたら速攻で免職になるわ。騎士として不名誉極まりない」

 

 そもそも税金というものは私が決めているのではなく、国が決めているのである。

 足りなければ民を脅かして奪えば良いというものではない。

 その逆さえあり得る。

 今年は冷害でしたのでどうか税を軽く、あの家は父親が病気で畑を耕すことができないのです、どうかお慈悲を。

 村長と言った管理職階級の人間と相談し、むしろ国に嘆願することがある。

 いや、それはまだよいのだ。

 私が頭を下げれば済む話だから。

 悪いのは、それが国に通らなかった時だ。

 

「代官は悲惨だぞ。徴税代行は悲惨だぞ。お前、泣きながら縋りついてくる女子供を無視して、病気の家長を押し飛ばして、無理やり家財を奪って徴税したことはあるか? あれほどに嫌な仕事はないぞ」

「俺はそんなもん苦痛とは思わん。なにせ傭兵団の団長だからな」

「ああ、そうかい。半傭半賊の身分に愚痴を吐いた私が馬鹿だったよ」

 

 私にとっては苦痛だ。

 もう代官など辞めてしまいたい。

 だが、そういう役職で食い扶持を得ているのだ。

 結局、騎士などは国に雇用されて賃金を得ているだけの雇われでしかないのだ。

 商人の方がよっぽど自由に生活をしている。

 だから、私はいつでもこう夢を語るのだ。

 

「私は自分の領地が欲しい。自分だけの街を作りたい」

「おお、でっかい夢だな」

 

 ぱちぱち、とヴィリーが拍手をした。

 からかっているのだ。

 それを丁寧に無視して、私はエールを呑む。

 ヴィリーも酔っているが、私も酔っていた。

 

「報われるべき人間が報われて、救済されるべき人間が救済される。努力が報われるべき相手には報酬を。慈悲を与えられるべき相手には慈悲を。その公正な裁定をこのエーレンフリートだけが行えるのだ。国家ではなく、領主となった自分がだ。これこそ騎士の本懐ではないかな」

「代官では無理だと」

「働きもしないクズを怒鳴り、殴りつけて働かせることもある。そんな奴隷商人も同然の真似事にはウンザリだ。何が代官だ、馬鹿馬鹿しい。糞みたいな仕事だ」

 

 もう代官業は嫌だった。

 なんなら、戦場でこうやって血生臭い『血みどろ』ヴィリーを隣に、敵と斬りあっている。

 その方が、心が安らぐレベルなのだ。

 

「ワガママだねえ。そういえば、俺は今回の戦いでようやく公爵様から御呼ばれがかかりそうだぜ?」

「陪臣騎士か? 話を受けるつもりか?」

「そうそう。やっとこさ。もう傭兵団全体で何百人殺したかわからんわ」

 

 殺した数も一々数えてねえ。

 紋章官がちゃんと戦功を記録してたが、アイツらの方が代官より大変じゃねえ?

 そんな感想をヴィリーが口にする。

 まあ、紋章官は紋章官で大変だろうが。

 

「一応はおめでとうございます、といっておいた方がよいか?」

「一応は受け取っておくよ。だが、こっから先が本番だ」

「本番? 騎士になりたかったのだろう? これで終わりではないか」

 

 そこらの家とは違って公爵家の陪臣とあらば、そう舐められることもあるまい。

 給金だってよいだろう。

 これで終わりである。

 人生のゴールを迎えたと言っても良い。

 そう口にしようとして――

 

「ここから成り上がるんだよ」

 

 ヴィリーは、ギラギラとした目で、血生臭い匂いをさせながらに計画を口にする。

 

「公爵家が無理やり、娘を王家に正妃として押し込もうとしていると聞く。それに配下として付いていければ、まあ陪臣から直臣へのルートが開ける」

「そんなにうまくいくものか? 入ったばかりの家で、そのようなことが許されると――」

「その娘ってのがとんでもないクソアマで、陪臣騎士の皆が皆、口をそろえて付いていくのヤダっていってる有様らしいからな。十分に可能性がある」

 

 それもまた凄い話だな。

 しかし、傭兵団の団長という者はこのように耳敏いものか?

 私は不思議に思う。

 代官として三年ごとにザクセン王国各地を転々としているが――傭兵という職種に触れたのはこれが初めてである。

 多分、『血みどろ』のヴィリーが特別なのだろうと思うが。

 

「俺はそこで世襲騎士になるぜ。役職はなんでもいい。あと貴族の嫁さんが欲しい」

「貴族の嫁さんねえ」

 

 ヴィリーも私もまだ独身である。

 若さもあるが、お互いにモテるような仕事をしていない。

 どうしようもなかった。

 

「乳がでかいのがいい。乳がでかいのが。最低でも美人なのは譲れない」

 

 ヴィリーは本当にどうしようもないやつだ。

 夢みたいなこと言っている。

 騎士に成れば、自由に美人で巨乳の嫁を貰えると思っているのだ。

 実際には、ヴィリーが望む立場になったところで嫁など自由に選べぬのだが――

 私はその男の夢だけは、否定するのはさすがに可哀想だったので止めておいた。

 鼻で笑いながら、私も私で夢みたいなことを言う。

 

「私は領主になりたい。自分だけの国とまでは言わぬ。町、いや、いっそのこと村でもいい」

「どっかから奪うの? それとも貰うの?」

「いや――どちらも無理だろうなあ」

 

 アレクサンダー王が直轄領を切り取って、わざわざ誰かに与えるなど有り得ぬだろうし。

 また、何処か嫡男がおらずに一人娘の領主騎士家に婿入りして、領主になることも有り得ぬ。

 私はただの代官にすぎぬからだ。

 領地経営経験があるのは確かにプラスポイントかもしれないが、どうせなら王家と繋がりが太い相手を選ぶ。

 

「私には王家との伝手がない。アレクサンダー王は直臣騎士といっても、私の名前など知らぬだろう。そんな男をわざわざ婿に選ぶ領主家など存在せぬ」

 

 エーレンフリート、誰それ?

 アレクサンダー王に自分の名を問うても、きょとんとした顔でそう答えられるのがオチだ。

 あまりにも多い騎士の顔全てを、覚えろという方が無茶である。

 

「なにか、他に伝手はないの? 一応は代官業やってるならあるでしょ」

 

 ぐいぐい来るな、ヴィリー。

 こうやって情報収集をしているのだろうか?

 まあ、喋っても構わんが。

 えーと、自分の伝手といえば。

 

「一応だが、アッカーマン辺境伯であれば私の名前を憶えてくれているはずだ」

「え、あんた、辺境伯と由縁あるの? あのアッカーマン辺境伯と?」

「父親の縁で少しな。というか、あの御方は筆まめでな。文通友達の一人なのだ」

 

 アッカーマン辺境伯。

 その名は騎士にとって憧れといってもいい。

 アレクサンダー王の盟友にして相談役で、なんてったって優しい。

 民にも、騎士にも、それこそ流浪の難民相手にさえ。

 誰とでもすぐ親しくなってしまうのだ。

 おそらく、私以外にも沢山の文通友達がいるに違いない。

 

「いいなあ、紹介してよ。俺、どうせなら公爵家よりアッカーマン辺境伯に仕えたかったわ。それなら陪臣でも我慢できた」

 

 だからまあ、自然とヴィリーがそういうことを口にするのも判るが。

 

「お前、これから公爵家に騎士として仕える立場で凄い事をいうな……」

 

 私としてはあっけにとられるしかない。

 主君と騎士の誓いをなんだと思ってるのだろうか、コイツは。

 本来は一生に一度限りのものなのだぞ?

 だがまあ、私としてはこういう奴が一人くらいいてもいいとは思っている。

 

「まあ、お前が将来直臣騎士となって、お互いに顔を会わせる機会があれば――そうだなあ。紹介しようか」

「おお、いいねえ。直臣騎士になれたら、そのうちお前に会いに行くわ」

 

 私とヴィリーはそんな約束をした。

 若かりし頃の約束である。

 戦場での約束であった。

 だが、まあ、戦場での約束などは往々にして守られないものである。

 きっとヴィリーも今頃は忘れてしまったのだろう。

 このエーレンフリートの名前を憶えているかどうかさえ、怪しい。

 私はそんなことを考えている。

 昔の事を思い出している。

 そういえば、あの時の酒代はヴィリーが騎士になる祝いとして私が奢ったのであったか?

 いや、おそらくはヴィリーがぐでんぐでんに酔っていたから仕方なく、私が立て替えて。

 そのまま返してもらっていないのではないか。

 多分、そうだ。

 こうやって、時には昔の話を思い出すのも悪くはない。

 そうだ、あの後すぐだったな。

 私がアッカーマン辺境伯に、開拓領主にならないかと声をかけられたのは。

 




本作の書籍版一巻が7/30に発売されました。二巻も続巻予定です。
一巻では3500文字ほどの特典SSペーパーも2作書きました。

ゲーマーズ様:「興行主の目指すもの」

メロンブックス様:「ヨルダンの昔話と今後」

よろしくお願いします。
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