7 knights to die   作:道造

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第六章 knight among knights
第66話 How to take responsibility


 

 父であるラインホルト公爵は死んだ。

 叔母であるテレージア王妃も死んだ。

 ゆえに、残すは後一人。

 今回の騒動における元凶たるアーデルベルトである。

 あるが、正直言えば、もう誰もが奴にさしたる興味を抱いていなかった。

 これ以上、何もできないからである。

 公爵家の後ろ盾はあるか?

 ラインホルトには公爵家当主としての権力があった。

 なれど当主は兄であるクラウスへと替わり、もはやアーデルベルトに力を貸すようなことはしない。

 テレージア王妃にも、王妃派閥としての権力ならあった。

 もはや誰もが派閥を名乗ることなど止め、後は解体されるのみであるが。

 同様に、第二王子派閥もすでに解散していた。

 アカデミーはもはや閉鎖寸前である。

 そもそもがアーデルベルト自身が愚劣であり、奴にもはや効果的な計略が打てるとは誰も思っていない。

 だから、これで終わりだ。

 詰んでいる。

 なにもかも手仕舞いだ。

 決闘裁判に関してだけは――続けた方がよいな。

 第七試合でアーデルベルトを決闘死させる。

 では第六試合は――誰を決闘者に選ぶ?

 もう誰かを犠牲にしたくはない。

 犠牲者はたったひとり、『紅蓮のヴィリー』卿のみで十分だ。

 私が自分の計略で殺してしまった、本物の騎士。

 その死を想えば、少し憂鬱になる。

 もっと何か、この愚かな私以外ならば考え付く良い手があったのではないか――

 

「――」

 

 アルバンはそのようなことを悩みながら、アカデミーの廊下を歩いている。

 辺りはすっかりと閑散としていた。

 テレージア王妃やアーデルベルト側に属していた教師や生徒も沢山殺されて、何も残っていない。

 誰もが罪をこれから精算するべく実家に帰るか――あるいはすでに墓の中。

 もはやアカデミーにはろくに人もいなかった。

 今頃、アーデルベルトは自分の執務室にて、これからの破滅に怯えている頃であろうか?

 

「アルバン卿」

 

 そんな中、自分の名前を呼ぶ声がする。

 気配は感じていた。

 アルバンは初陣もまだの未熟な騎士であるが、ちゃんとした騎士教育は受けたのだ。

 子供の頃から立派な騎士に成りたくて、公爵家の練兵場に出入りしていた。

 騎士や兵に良く可愛がられていたことも、覚えている。

 良い意味(息子のように)でも、悪い意味(騎士として育てるためのかわいがり)でもだ。

 だから、人の気配を感じることぐらい造作もない。

 

「……」

 

 ゆっくりと振り向く。

 さも今気づいたという風に、さりげなく。

 その声色から察していたが、自分の名を呼んだ人物はアーデルべルトではない。

 

「ローゼマリー嬢、お久しぶりですね」

 

 気安く声をかけた。

 男爵令嬢ローゼマリー。

 今回の決闘裁判騒動の原因。

 アーデルベルトを唆して、イザベラ嬢による嫌がらせ――虚偽の罪をでっちあげた女。

 現状は、罪人どころか功労者と呼んだ方が良いのかもしれない。

 結果論とは言え、ザクセン王国にとって内憂であったラインホルト、テレージアの二人を殺すことが出来た。

 それにおもねる愚か者どもを叩き伏せ――あるいはこれから罪を償わせることができるのだから。

 正直言えば。

 

「……私をこのまま殺す気? 散々利用するだけ利用して――そもそも私をアーデルベルトに『都合の良い女』としてあてがったのは貴方じゃないの、アルバン」

 

 私はローゼマリーに憎しみを抱いているわけではない。

 それどころか、多分、おそらく。

 他の誰でさえもが、もう「どうでもよい」と思っているだろうな。

 実のところ、彼女の存在はそれほど重要ではなくなった。

 

「いや」

 

 だから、否定した。

 

「正直、私の意見を口にすれば、君を殺すまではしないでもよいと思っている」

 

 死ねばよい。

 誰もがそう口にはするだろうが。

 同時に『もう別にどうでもいい。全て終わったのだから』とも思っているはずだった。

 

「……なるほど、君は確かに虚偽を口にした。あの阿呆を、アーデルベルトをけしかけて、ありもせぬ罪をイザベラ嬢にかぶせようとした。しかし、なんだ」

 

 決闘裁判の原因である。

 功罪ある。

 騙された方のアーデルベルトは愚かにも程があるのだが、虚偽を口にして騙したローゼマリー嬢にも確かに罪はある。

 あるのだが。

 

「そんなもの『マトモな国』なら通るわけがないのだ。ローゼマリー嬢、まさかあんな策が通ると思ったのか?」

 

 事実、通らなかった。

 アッカーマン辺境伯のパーティーで怒り狂える七人の騎士が集まり、決闘裁判の騒動にまで至ったが。

 そもそも、あんな暴挙が最初から通るわけがないのである。

 ドミニクという騎士が声を張り上げなくとも、誰も認めなかった。

 認めるどころか激怒して、黒騎士ヨルダン卿辺りがアーデルベルトをその場にて、見事に殺してくれたであろう。

 さすがにパーティー会場での王族殺しは、ヨルダン卿を咎めねばならぬ。

 結果として、彼を死罪にて裁く騒動になったであろうから、まあそれよりはずっといい。

 アーデルベルト如きをその場で殺すよりも、その後ろ盾も何もかも内憂全てを滅ぼす結果を。

 想像しうる中で最も良い結果をドミニク卿はもたらしてくれた。

 ゆえに彼には感謝しかない。

 そんなアルバンの思考を無視するように。

 

「浅知恵だったわ」

 

 ローゼマリー嬢はポツリと呟いた。

 自分の計略が浅かったことを、すんなりと認めることが出来た。

 

「何故、あのような嘘を?」

 

 アルバンはずっと不思議だった。

 眼前で自分の考えを浅知恵に過ぎなかったと嘯くローゼマリー。

 決して愚かな女ではない。

 確かに放蕩の気はあったが、別に悪女というわけでもなかった。

 むしろ賢い女の部類に思えたから、アルバンはアーデルベルトに宛がったのだ。

 イザベラから目を逸らすための、都合の良い女として。

 彼女の実家である男爵家が抱えた借金を、このアルバンが受け持つことと引き換えに。

 

「……イザベラに不満があったから、かしら」

 

 そうねえ、思えばと。

 そう言いたげに、ローゼマリーは目を逸らして呟いた。

 

「うん?」

 

 アルバンも首を傾げる。

 イザベラ嬢が何か?

 アーデルベルトなど、心底どうでもよいと思っていたのだから、まさか嫉妬されたということもあるまい。

 そう口にしようとして。

 

「男の貴方には判らないかもしれないけどね。嫉妬されるならばともかく、申し訳なさそうにされたのよ。本当に――申し訳なさそうに。自分の犠牲にして申し訳ないと」

 

 弁明を口にしている。

 ローゼマリーのそれを聞きながら、アルバンは悩む。

 確かに、イザベラ嬢ならば、そのような態度に出るであろう。

 

「そんな目で見られた。イザベラに憐れみを受けた。それが耐えられなかった――そんな理由かしらね。あんな嘘ついたのは」

 

 そんなことで。

 そう口にしようとしたが、アルバンには出来なかった。

 結局のところ、ローゼマリーに与えられた――いや、アルバンが彼女に与えた仕事は薄汚いウェットワーク。

 イザベラの代わりに、お前がアーデルベルトに股を開け。

 それだけでしかないのは、事実である。

 ローゼマリーへの侮辱であった。

 その上で、守る対象であるイザベラ嬢にも憐れみを受けたならば。

 プライドを酷く傷つけたのかもしれない。

 

「やっぱり死罪に値するかしら? 覚悟するなら早い方がいいんだけど」

「いや――」

 

 首を振る。

 ここまで正直に内心を口にされては、もう何も言えない。

 ローゼマリーはもう覚悟を決めつつあるようだが、そもそもアルバンが引いた絵図なのだ。

 何もかも、全てが、アルバンの引いた絵図なのだ。

 それが失敗した結果として、今がある。

 他の誰かがローゼマリーを責めたとしても、アルバンだけは彼女を責めることが出来なかった。

 アルバンには羞恥心があった。

 騎士としての羞恥心であった。

 

「責任はとるさ。君の罪に関してはなんとでもしよう。結果論ではあるが、ラインホルトを殺せた。テレージアを殺せた。ならば、もう君には正直言って、そこまでの興味を誰も抱かないだろう。アレクサンダー王も、兄クラウスもだ」

 

 嘘はついていない。

 最悪、用済みになったから、このアルバンが良きように処分したとでも言えばよかろう。

 それだけだ。

 それで片付けようとして。

 

「――名誉を穢されたイザベラ嬢と七騎士には?」

 

 逆にローゼマリーに諭される。

 イザベラ嬢は、七騎士はそれで納得するのか?

 そう言われて。

 

「……どうだろうな。詫びは入れるつもりだ」

 

 アルバンはローゼマリーを殺すことができない。

 自分が薄汚いウェットワークを押し付けた女だから。

 それはもうわかった。

 だから。

 

「ああ、そうだな。君が覚悟したというならば、私も覚悟せねば。こうしよう、伝手がある。君をザクセン王国から逃すための伝手を持っている。もちろん、逃げた先でも相応の待遇を約束しよう」

「そんな伝手をお持ちで?」

「ああ。これから他国の王になる予定の人だ。おそらくは聞き入れてくれるだろう。君の実家に関しても、私がなんとかしておく」

 

 トラクス。

 申し訳ない話だが、彼に頼むしかなかった。

 アルバンはすでにトラクスが祖国を奪い取ることは確信していたし、別に女一人くらい受け止めてくれよう。

 そう考えている。

 迷惑ではあるだろうが、頭を下げるとして――

 

「うん」

 

 アルバンは決めた。

 色々と悩んでいた。

 自分が計略で殺してしまった本物の騎士、『紅蓮のヴィリー』のこと。

 初陣も済ませぬ騎士なのに、たとえどうしようもない悪女とはいえ叔母をこの手で絞殺したこと。

 この上で、自分が濡れ仕事を押し付けたローゼマリーを処刑するのは。

 これだけは出来そうになかった。

 ローゼマリーは確かに虚偽を吐いた。

 なれど、それも元はと言えば自分に問題があったとしか思えぬ。

 配慮が足りなかったのだ。

 

「逃げなさい、ローゼマリー嬢。後はなんとかするから」

「なんとかするって、何をするつもりで――」

「なんとかはなんとかさ」

 

 アルバンは何もかも、自分の至らなさが原因だと思った。

 ゆえに、責任を取ることにした。

 具体的に言えば、名誉決闘裁判第六試合。

 その決闘者を、自分の名前で申請することを決意したのだ。

 

 

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