7 knights to die   作:道造

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第68話 promise match/約束試合

 

「不服そうですね、ドミニク卿」

「いや――」

 

 レオンハルト卿にそう指摘されて。

 ドミニク卿は横に首を振る。

 

「確かに、互いが死力を尽くして戦うべき神聖な決闘裁判にて。わざわざ、どちらが負けるかを取り決めた約束試合などを。そういった考えがないと言えば嘘にはなる。なるが、まあ、このままだと不戦勝であるし」

 

 ドミニク卿は頑固である。

 あるが、別に話が通じないというわけではない。

 現状を理解しており、もはやアーデルベルト側に出場を望む決闘者などいないことは把握している。

 

「だから、まあ。最後まで決闘裁判を履行する意味でも、アルバン殿がやりたいというならば、そうすればよい。こちら側の決闘者を紋章官たるヴェンデル卿にして欲しいという、その要望も呑もう。後は私がアーデルベルトを第七試合で殺して、決闘裁判は終わりだ」

 

 だから、まあいいのだ。

 別にこの対応は、神に対してもそこまで不誠実というわけではない。

 何の問題もないように思えた。

 こんなことは許されないと言い出すのも、空気が読めていないだけだろう。

 ドミニク卿はそう考えている。

 だが。

 

「アルバン卿が何を考えているのかが、正直よくわからん」

 

 正直に疑問を口にする。

 問題はそこだった。

 その疑問を抱いているのは、何もドミニク卿だけではない。

 七騎士の誰もが多少は疑問に思っていた。

 

「別に最終的に負けで良いから、未だ果たせぬ初陣の代わりとさせて欲しい。まあ騎士の要求としてはそう不思議でもないのでは? 勝ち負けは勝負につきものですし」

 

 負けても恥にはならぬでしょう。

 勝ち負けに慣れている、剣闘士であるヴォルフガング卿が私的な感想を述べる。

 言われてみれば理解はできる。

 

「――おそらく不本意ではあったのでしょうが、アルバン卿は問題の祝賀会において、イザベラ様を侮辱する側に立っておりました。そのケジメをつけたいだけなのでは?」

 

 私ならそうしますが?

 これは黒騎士であったヨルダン卿の意見。

 これも理解はできる。

 

「ヨルダン卿と同意見ですな。アルバン卿は自ら敗北を認める形にて、イザベラ様への侮辱を償いたいのでは?」

 

 処刑執行人たるサムソン卿の意見。

 確かにドミニクでも同じ立場であれば、そうするかもしれない。

 アルバン卿にとってみれば、そもそも現状が国家に都合よく回っているだけで。

 祝賀会においてイザベラ様を侮辱するなど見当違いという自覚があったはずである。

 

「うん、まあ、確かに」

 

 理解はできる。

 御三方の言うことは確かに正しい。

 なれど――

 

「どうしても引っかかりますな。お気持ちはわかりますぞ。もう不戦勝で、さっさとドミニク卿がアーデルベルトを決闘で殺してしまった方がスッキリするのではないかと。アルバン殿がケジメを付けたいだけならば、別に表で堂々と謝ればよろしい。我々とて彼個人に恨みはありません。イザベラ様とて事情を知っているのですから、気持ちよく許すというものです」

 

 やはり何かあるのではないか、そう思ってしまいます。

 陪臣騎士、レオンハルト卿の言葉。

 それに大きく頷く。

 本当に――それだけ?

 何か変な引っ掛かりを覚えてしまうのだが。

 

「そう難しいことを考える必要もないのでは?」

 

 領主騎士、エーレンフリート卿が首を傾げた。

 決闘を10日ほど前に終えたばかり。

 未だ本復とは言えぬが、すでに立って酒を口にできる程度にはなっている。

 

「アルバン卿は我々が知る限りでも誇り高く、賢き男です。私の決闘相手――ヴィリー卿の遺族の後見人になっているとも聞きました。例えば本当に命を賭して戦いを望むとか、そうそう無茶なことはせんでしょう。ましてアーデルベルトの利益のためになどと」

 

 まあ確かに。

 負けを前提とした、約束試合だと最初から向こうは言っているのである。

 そこに嘘はあるまい。

 そもそもアルバンの目的は、すでにこちらにも明確となっている。

 イザベラ様を守りつつ、アーデルベルトを監視すること。

 そのためのスパイとして、長年潜伏してきたのだ。

 その努力をむざむざ放棄するようなことはしないだろう。

 それは分かるのだが。

 各々の意見を拝聴しつつ、最後に。

 

「――どうにも怪しいですな」

 

 決闘裁判第六試合目の相手として指名を受けた、紋章官。

 ヴェンデル卿が不安そうに眉を顰める。

 

「ヴェンデル卿は何かご存知で?」

 

 ドミニク卿が尋ねる。

 疑問を解消できるのならば、意見を是非とも拝聴したかった。

 

「今回の決闘裁判の原因を覚えておられますな?」

「アーデルベルトの阿呆が騙されて、見当違いの婚約破棄を申し出た。それだけだが?」

 

 まあ、そんなもん通るわけがないのだが。

 通すわけがない。

 アッカーマン辺境伯の娘であるイザベラ様への侮辱など通すわけがないのだ。

 そう言いたげに、ドミニク卿がワインを口に含む。

 

「では、そのアーデルベルトと取り巻きの阿呆どもを騙したローゼマリー嬢。彼女の現状について皆様はご存知ですか?」

「いや――」

 

 ドミニク卿が周囲を見渡して。

 ヴェンデル卿以外の七騎士全員が、はたと気づく。

 そういえば知らぬなと。

 どうでもよい存在であると言えば、どうでも良かったのだから。

 七騎士にとっては、あまり関係がない。

 

「確かにローゼマリー嬢にも罪は有りき。なれど、その罪に対する裁きを下すは我らではなく、教会であり王である。決闘裁判の以後にすべきであろう? まさか我々に仕留めろなどと野蛮な事、アレクサンダー王もお考えではあるまい」

 

 今頃は娘の振る舞いに対し、怒り狂った実家にでも拘束されているのではないか?

 ドミニク卿はそう疑問を示すが。

 

「ところがどうして。何もかも私たちが悪い。この両親が死を以て償うから、どうか娘の命だけはと。その実家は王家に嘆願をしている状況でして」

「はて?」

 

 事情がよくわからぬ。

 そこは娘を差し出して、実家は保身を図る状況ではないのか?

 娘の命より、御家の方が大事であろう?

 

「娘の教育に対しての責任をとろうと?」

「いえ、そういうわけではなく。どうも――」

 

 ヴェンデル卿は悩んだ。

 ロバの耳には報告されていない話であったが。

 どうも実家からの嘆願を聞くに、ローゼマリー嬢からその実家は多額の仕送りを受け取っていたようなのだ。

 貴族淑女の稼げる方法など、数少ない。

 それは金を持った商家に嫁ぐことであったり。

 あるいは、金を持った貴族との愛人関係を結ぶことであったり。

 一夜の恋人になることであったり。

 その辺りを想像してみれば――

 

「――すいません。自分で口を挟んでおきながら、言えることではありません」

 

 ローゼマリー嬢にとって、アーデルベルトの恋人になることは本意ではなかったのではないか。

 性に奔放な放蕩娘という噂ではあったが、寝る相手が誰でもよいというわけでもなかろう。

 仮に実家に仕送りする金を貰う相手にしても、その相手を選んだはずだ。

 アーデルベルトのような阿呆など御免であったかもしれない。

 だから、例えばだ。

 あくまでヴェンデル個人や『ロバの耳』の想像に過ぎぬが、アルバンが彼女を雇用する形でアーデルベルトにあてがった。

 アルバンから情報は共有されていないが、その可能性が高い。

 情報が共有されていないのは――

 

「――」

 

 アルバン殿がその自分の行為を、酷く嫌悪していたからだろうな。

 言いたくなかったのだ。

 いくらイザベラ様を守るためとはいえ、金に困っている彼女をアーデルベルトのような男にあてがった。

 とても騎士として相応しい行為とは言えぬ。

 しかし、ローゼマリー嬢には罪がある。

 アーデルベルトやその周囲の取り巻きを唆し、イザベラ様の名誉を毀損した罪がだ。

 これ自体は本当のことであろう。

 ただでは済ませられぬ。

 決闘裁判が結果的に、王家にとっては悲願の内憂を一掃するという、とても都合の良い結果を産んだとは言え。

 結果論は結果論だ。

 何らかの罪に問わねばならぬ。

 そして、罪を問うとすれば、ここまでの決闘裁判に至った以上、死罪の一択しかない。

 だが、捕まらぬ。

 何者かが彼女を隠しているかのようにして、アカデミーから急に姿が消え去った。

 そして、ここまで見事に隠したとすれば、それはアルバン卿であろう。

 能力的に可能で、彼女に罪悪感を抱いているのも彼しかいない。

 

「……言えぬのです。お許しを」

 

 その彼の心境を思えば、何も言えない。

 王家に仕える紋章官として。

 『ロバの耳』の暗部として。

 

「ふむ。何らかの気づきがあったようだが、では聞かなかったことにしておこう」

 

 ドミニク卿はそう頷いた。

 悪い方ではないのだ、この人も。

 さて、この私は。

 紋章官ヴェンデルは考える。

 

「――」

 

 アルバン卿は、何かとてつもなく極端な事を考えていないだろうか。

 全てが終わった後に、公式に公爵家からの謝罪を申し入れて、イザベラ様に心よく許してもらう。

 それが最良の一手であるはずだ。

 だが、なんというか。

 アルバン卿の精神面は酷く追い詰められているように――このヴェンデルには思えるのだ。

 それこそ、死んだ方がマシなぐらいの苦悩に苛まれているような。

 それだけが心配であった。

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