7 knights to die   作:道造

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第75話 The Congress dances/会議は踊る

 

 

 

 七騎士とイザベラは全ての事情を、ヴェンデル紋章官から聞き。

 全員が大きなため息を吐いた。

 

「自分はザクセン王国の騎士の中でも愚かな方だと思っておりましたが」

 

 元黒騎士ヨルダンの溜め息。

 別に、若獅子アルバンを蔑んでいるわけでもない。

 馬鹿にしているわけでは決してない。

 ただ、全ての事情を聞いて呆れかえっているのだ。

 この不器用なヨルダンよりも、若獅子アルバンは不器用な騎士であると。

 

「そういう男なのですよ、彼は」

 

 ヴェンデル紋章官の擁護なのか、ただの評価なのか。

 何とも言えぬ言葉。

 とりあえず、アルバンの利き腕の腱を斬らずに済んで、安心しきっている。

 それに対して。

 

「正直、私はローゼマリー嬢を殺したくありませんわ。何とかなりませんこと?」

 

 イザベラ様がそう口にした。

 彼女の虚偽告白により、もっとも不利益を被った人間である彼女がだ。

 

「我が主君。そうは申しましても」

 

 ヨルダンは躊躇った。

 正直言って、彼にとってはローゼマリーは明確に罪有りき。

 それこそ処刑人に首を刎ねられても仕方ないではないか。

 そう言いたくなるが。

 

「私が嫌だと申しておるのです。私はアーデルベルトの阿呆は憎んでおりますが、ローゼマリー嬢に対しては特に憎しみを抱いておりません」

 

 ヨルダンにとっては、こういうことを平然と口にする人間であるからこそ。

 彼は黒騎士をやめて、イザベラ様を主君として仰ぐことにしたのだ。

 ゆえに、ローゼマリーへの憎しみはこの場で捨てることにした。

 

「……良きように考えることにします。彼女が居たのだから、我が主君の純潔は守られたのだと」

 

 そう考えるしかなかったし、事実そういう側面もある。

 アルバンがイザベラの純潔を守るために、ローゼマリーをアーデルベルトの阿呆に宛がったのは明確な事実である。

 だがイザベラが彼女のプライドを傷つけたゆえに起きた偽誓による決闘裁判という現実、それについては難癖、逆恨みであり。

 ローゼマリーの罪を弁護すべきほどの内容ではない。

 そうヨルダンは考えている。

 まあ感情的な憎しみは捨てることにしても、やはり理屈を考えるのであれば死罪の裁きを――。

 

「……まあ、阿呆は阿呆でも。アーデルベルトの阿呆とは違い、あのアルバンの阿呆は嫌いではない。阿呆の種類にも違いはあるというものだ」

 

 七騎士のまとめ役であるドミニク卿の台詞。

 騎士道に関しては、もっとも細かい点について煩いように思えた。

 その彼ですら、アルバンのしでかした阿呆に対しては許容を見せるのだ。

 なれば、ヨルダンが狭量なのか?

 

「許すべきなのでしょうか?」

 

 ヨルダンは考える。

 イザベラ様が寛容を示すからこそに、筆頭家臣であるヨルダンこそが怒りを示さねばならぬ。

 これは自然な事であり、ヨルダンは自分の判断は誤っておらぬと考えるのだが。

 

「アレクサンダー王の采配によるとしか言えんな。イザベラ様への配慮を忘れるような取り計らいをするようであれば、当然我ら七騎士は怒り狂わねばならぬが」

 

 イザベラ様は許すだろう。

 ローゼマリーの罪についての全てをだ。

 だからと言って、アレクサンダー王が舐めた対応をした場合。

 これについては明確に抗議せねばならぬと、ドミニクは考えている。

 

「なかなか難しいところではありますな。少なくともヴィリーの遺族は可哀想だ」

 

 開拓騎士エーレンフリートが口にした。

 彼の対戦相手である、「紅蓮のヴィリー」は決闘裁判にて決闘死している。

 「紅蓮のヴィリー」だけは少なくとも決闘裁判の明確な被害者であった。

 ヨルダンが殺した剣士シュテファンなどはまあ殺したところで誰も文句は言わぬからどうでも良いとして、この決闘裁判が起きたことで、大量の死人が出ているという事実がある。

 

「王妃派閥そのものが大量に死んだのは、自業自得なのですが」

 

 陪臣騎士レオンハルトが、やや悩む表情を見せた。

 決闘裁判による犠牲者、その最たるものがディートリヒ卿による虐殺であろう。

 彼らは国家利益を考えれば全員に罪があったし、死んだところで自業自得である。

 彼らの閥の主である王妃が、第二妃マルゴットを暗殺しているのだから。

 その罪が明らかになり、ディートリヒ卿の妹であるパウラにも毒を盛ったのだ。

 これはもうディートリヒ卿を舐めた報復として、王妃派閥の誰も彼もがぶち殺されても何一つ仕方ないのだが。

 それはそれとして、この決闘裁判が起きなければ、その罪も暴露されなかった。

 恨む奴は自然出るだろう。

 

「結局のところは、決闘裁判が起きた結果、まあ国家利益としては良い方に転んだのだ。第二王子派閥が死んだ、王妃派閥が死んだ、テレージア王妃が死んだ、ラインホルト公爵が死んだ。結果としては農民戦争で囚われの身であったベルリヒンゲン卿も農奴も解放された。決闘裁判が起きたこと、これ自体は歓迎すべきであったのだ」

 

 処刑人サムソンの意見。

 これは事実である。

 大量には死んだ。

 だが、罪が明らかになれば「そもそも殺されたところで仕方がなかったよね」という連中が殆どであるわけで。

 元々は何の罪もない生存闘争をしただけのベルリヒンゲン卿や、農奴が解放されたのも事実。

 法の番人であるサムソンに言わせても、決闘裁判の結果は国家にとって良い方にしか転んでいない。

 それは明らかである。

 

「結局、決闘裁判が起きた事での結果の殆どは良い方に転んだのだから、まあ切欠の手段が虚偽であったことを許してもよいのか? という結論になるな」

 

 剣闘士ヴォルフガングの意見。

 首を傾げている。

 彼にはもはや、正誤の判断がつかなかった。

 少なくとも彼にとっては、好敵手たるトラクスが保釈を見事勝ち取った。

 これについては歓迎すべき事実であったのだから。

 

「悩ましい」

 

 騎士道については特別に五月蠅い。

 平民の兵士から一代騎士にまで成り上がったドミニクですら、これは悩んだ。

 アルバンの愚かさを、騎士道には相応しくないと笑えなかったのである。

 あえて言うとすれば、「若い」としか言いようが無かった。

 そして、その若さを笑えるような騎士は、七騎士には誰一人いなかったのである。

 

「ローゼマリー嬢もな、あそこで自分が死ぬ覚悟をしてまでアルバンを庇ったからな」

 

 自首と同じである。

 自分の首を、まさにここにいる処刑人サムソンに刎ねられることを覚悟のうえで、悪女はここにいるぞ。

 だからアルバンの馬鹿を許してやってくれと。

 そう訴え出たのである。

 はて、その行為に対して、彼女がただのどうしようもない悪女なのだと言い募るほど七騎士は狭量ではない。

 

「ですので、何度も言いますが殺したくはないと申しております」

 

 ここでイザベラが再び訴えた。

 ローゼマリーに対する慈悲をである。

 

「善悪を言うならば騙された者が悪いとは言いませんが、そもそもあんな何の根拠もない訴えを信じた阿呆のアーデルベルトが悪いのです」

 

 同時に、アーデルベルトに関しては全く許す気がない宣言も。

 まあ、死ぬべきだろうな。

 アルバンの阿呆については「若いな」の一言で、七騎士全員が苦笑いで済ませてやれる内容だし、彼に免じてローゼマリー嬢の罪は軽減しても良いが。

 アーデルベルトの阿呆については「とりあえず死んでおけ」という、怒りに満ちた殺意の一撃を放つべき内容である。

 

「どうしましょうか?」

 

 ヴェンデル紋章官は結論を求めた。

 イザベラ様側として、七騎士としてはどう訴えるべきか?

 

「話の途中にもしたが、アレクサンダー王の采配を待つしかあるまい」

 

 ドミニク卿が結論を出した。

 

「アレクサンダー王の采配をのんびり待とうではないか。何、老いたりとはいえ、アレクサンダー王が英明な王であられることに間違いはないのだ。あの御方に仕える一代騎士としては、そのような意見しか出せんね」

 

 ドミニク卿の言葉に、誰もが頷いた。

 まあ、待つかと。

 ここで何か抗議をするのも、アレクサンダー王を信じていないようで無礼であった。

 

「イザベラ様への配慮を忘れるような取り計らいをするようであれば?」

 

 ヴェンデル紋章官は、まあないだろうがと。

 そんな口ぶりで、再び若獅子アルバンの無茶苦茶さ加減を思い出し、笑いながらに言う。

 あの若獅子殿、今頃何をしているのであろうか?

 アレクサンダー王や兄クラウスから猛烈な説教をされていることは、間違いなかろうが。

 

「当然我ら七騎士は怒り狂わねばならぬ。今度はアレクサンダー王に対し、決闘裁判でも挑むさ」

 

 ドミニクは無精ひげのやや残る顔で笑った。

 私も、たまには冗談くらい言えるのだと。

 そんな口ぶりで。

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