7 knights to die   作:道造

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第77話 The King's Sincerity/王の誠意

 

「事情は承りました」

 

 アレクサンダー王が、クラウスを含めた側近を率いて自らに訪れた。

 アッカーマン家の下屋敷へ。

 イザベラ・フォン・アッカーマン個人に謝罪するためにだ。

 これは王が自らの過ちを認めたということであり、市井も知るところとなる。

 それこそがアレクサンダー王が導き出した誠意であった。

 

「そういうことでありましたら、ローゼマリー嬢が修道院送りに。そしてアルバン卿が国外追放という名の騎士修行への放浪に出る事を良しとしましょう。何せ、アレクサンダー王自らが事情説明に訪れてくれたわけですし」

「感謝する」

 

 アレクサンダー王は一介の騎士のように跪いて、イザベラ嬢に礼を言った。

 

「頭をお上げ下さいまし、アレクサンダー王よ。貴方は王なのです。軽々しく頭を下げてはいけません」

 

 イザベラは王の行為を咎めた。

 別に王が頭を下げてはいけないというわけではない。

 ただ、同時に軽々しく公式に謝罪をしてはならぬのも事実であった。

 

「いや、本当の事を言うとな。一度はこうするつもりであったのだよ」

「こうして謝罪を?」

「アーデルベルトを廃嫡する際にな。婚約者であるイザベラ嬢には迷惑をかけてしまったと。一度は賠償金を持って、こうして謝罪に訪れるつもりであったのだ」

 

 アレクサンダーは考える。

 そもそも、如何に今回の決闘裁判が自分の都合の良いように進んでくれたとはいえ。

 自分のミスの負担を七騎士とイザベラ嬢に押し付けた形になっているのも事実。

 

「連絡を取れば、おそらく七騎士の機嫌を損ねると思った。とはいえ、イザベラ嬢との連絡を怠り多くの不備を出したのも事実。誠に申し訳ない」

 

 アレクサンダーは跪いたままだ。

 そして、再び頭を下げた。

 イザベラとしては困るばかりである。

 

「そもそも、私の力量不足により生じたのが今回の決闘裁判の原因であるのだ。アルバンはよくやってくれたし、少なくとも奴が原因ではないのは誰もが知っていよう」

「それは――」

 

 確かにアルバンのこき使われ具合には同情すべき点がいくつもあった。

 だから、イザベラとしては正直不満など全くなかった。

 ローゼマリー嬢が死罪にならずによかったと、心の底から安心していたし。

 アルバン卿も、彼の性格であれば、ひょっとして騎士としての放浪の旅はむしろご褒美と呼べるかもしれない。

 そんなことを考える。

 

「そもそも論の話をする。このアレクサンダーにもっと判断力があれば良かった。あの愚図のアーデルベルトなど、殺しておくべきだったのだ。奴が幼少の頃に、犬猫を湖に沈めて、それが苦しむのを笑って眺めていた時にだ。その犬猫の代わりに湖に沈めて殺しておくべきだったのだ」

「王よ、それはさすがに……」

 

 子供とは残酷なものである。

 アーデルベルトが如何に愚図の兆候を示していたとはいえ、さすがに王の自らの手で十歳にもならぬ子を湖に沈めて殺しておけばよかったと。

 その手で子殺しをすればよかったのだ、などと口には出来ぬし。

 

「また、あの王妃テレージアの正妻入りを拒めなかったのも私の権力が弱きがゆえよ。当時の公爵家の力を考えれば内政の混乱を招くわけにはいかなかったがために、その婚姻話を蹴とばすわけにはいかなかった。結果は知っての通りよ。あの王妃テレージアは我が愛妻マルゴットを毒で殺めた。アカデミーなる選民思想を蔓延らせるばかりの愚劣な教育機関を作り、世に不幸をばらまいた」

「王よ、それは公爵家の罪であります。王の責任ではありません。あんな阿呆女は我が公爵家が、父ラインホルトが何処かの塔に生涯閉じ込めておくべきだったのです」

 

 クラウスがアレクサンダーを弁明しようとして。

 

「いや、このアレクサンダーが弱いのが何もかも悪いのよ」

 

 アレクサンダーは否定した。

 結果論とはいえ、自分が弱いのが全て悪いのだと。

 王としての権力が足りなかったのが悪いのだと。

 

「それらは王の罪ではありません。どうしようもなかったではありませんか」

 

 どうしようもなかったのだ。

 アレクサンダー王の立場では一生懸命に王の勤めをこなそうとして、国家防衛戦争に明け暮れて、それがゆえに防げなかった。

 誰がアレクサンダー王を責められようか。

 

「最も大きな恥は、このアレクサンダーがイザベラ嬢に謝らなければならぬことは」

 

 アレクサンダー王は、老いていた。

 明らかに疲れ果てた顔をしていて、七騎士でさえも同情を寄せた。

 イザベラ様に明確な配慮がなくば、アレクサンダー王に決闘裁判を挑もうなどと冗談を口にしていたことはもう脳裏から消し飛んでいた。

 

「知っての通り、辺境伯領の防衛において。アッカーマンの盟友でありながら、朋輩でありながら、奴の苦境に一騎士として駆け付けなかったことよ」

 

 アレクサンダー王は疲れ果てていた。

 だから、ついに最後の弱音を吐きだした。

 彼がもっとも謝りたいのは、決闘裁判についてでさえない。

 アッカーマンを見捨てたことだった。

 少なくともアレクサンダーは「見捨てた」と考えていた。

 

「王よ。アレクサンダー王よ。貴方は金銭でも物資でも、そして兵士でも騎士でも。十二分なほどに防衛に対する援助をしてくださったではないですか」

「それが何の言い訳になる?」

 

 アレクサンダーは告白する。

 

「そこの七騎士とてそれぞれに自らの立場や事情があったであろう。にも拘わらず、アッカーマンの指揮下で闘い、こうして決闘裁判に命懸けで挑んでおる」

 

 自分の罪を、自分が罪と受け止めていることを。

 

「このアレクサンダーこそが誰よりも何よりも、アッカーマンの盟友であることを自負していたのに、私はアッカーマンの窮地に駆け付けなかったのだ。アルミンの怪我の事を気にして、公爵家の動きを警戒してなどとあげつらったところで、自らが戦場に出向けなかったことの言い訳にもならん」

 

 そして、一つの真実を。

 

「私が王軍を率いて、辺境伯領の防衛戦争に出向いておればだ。戦争だけは誰よりも得意な私のことだ。今頃蛮族など打倒して、生きたアッカーマンの奴めと祝杯を挙げておった頃であろう」

 

 あの時にアレクサンダー王さえ増援に駆け付けてくだされば。

 七騎士の一人である、陪臣騎士レオンハルトもそれを考えなかったわけではない。

 しかし、アレクサンダー王には明確に参陣できぬ事情があった。

 

「私はこのことを一騎士として、生涯の恥と考えている」

 

 アレクサンダー王が全ての告白を終えて。

 そうして、跪くのをやめぬままに、もう一度謝罪した。

 

「すまなかった、イザベラ嬢。私は貴女の父親を見殺しにしたのだ」

「アレクサンダー王」

 

 イザベラは、泣きそうになった。

 事実、アレクサンダー王が援軍に来てくれれば。

 何を差し置いても、父アッカーマンの助けに来てくれれば。

 父は生き残ってくれたのかもしれない。

 そう考えなかったと言えば嘘ではない。

 なれど、事情があったではないか。

 それよりなによりも。

 

「その御言葉だけで、我が父アッカーマンは浮かばれましょう。そして、生前は繰り言のように口にしていた言葉を、黄泉路にて再び言いましょう。奴は最高の親友であったと」

 

 アレクサンダー王がそれを罪と受け止め、ずっと後悔していた。

 それだけで、何もかもが報われるようであった。

 

「イザベラ・フォン・アッカーマンが答えます」

 

 イザベラは、丁寧にカーテシーをして。

 王に対してではなく、アッカーマンという男の最高の親友であったアレクサンダーに対して答えた。

 

「貴方の全て謝罪を受け入れます、アレクサンダー」

 

 だから、きっとこうするのが正しいのだと。

 父ならばそういうであろうと。

 イザベラは、アレクサンダーなる騎士の全ての謝罪の告白を受け入れた。

 

「……感謝する。アッカーマン辺境伯の娘、イザベラ嬢」

 

 アレクサンダー王は謝罪を受け入れたことに感謝して。

 ようやく立ち上がり、話をすすめることにした。

 

「では、実務の話をこれからしよう。ローゼマリー嬢とアルバンへの処遇は先ほど口にした通りよ。そして、今回の処遇に対する王としての詫び、及び婚約破棄に対する詫びとして多額の賠償金を支払う予定だ」

「王よ、そう無理をなさらずとも」

「親友の娘に対する、せめてもの贈り物だ。受け取ってくれ。すでに財務方からも了承を得ている。小さな城ならば、二つや三つほどは建てられる額になるであろう」

 

 アレクサンダー王は吝嗇ではない。

 少なくとも今回の決闘裁判で得た国家及び王家のメリットに対する礼金という意味でもあった。

 

「さて、七騎士よ。汝らにも問わねばならぬ。このアレクサンダーを許すか?」

「私たちからは何も。イザベラ様が自ら許して、王がこうまでしたところを眼前にしては、許さないわけにもいきますまい」

 

 七騎士を代表して、ドミニクが答えた。

 そうして、少しばかり気になっていることをついでに尋ねる。

 

「ところで、決闘裁判は継続されるのですか?」

 

 ずっとドミニクは疑問に思っていた。

 そもそものきっかけが虚偽であり、偽誓であったことが明らかになった。

 であれば、決闘裁判を継続する理由はないのだが。

 

「……どちらでもよいがなあ。もうアーデルベルトは廃嫡としたのでな」

 

 これからする、ではなく「した」とアレクサンダーは口にする。

 廃嫡する理由に十分な条件が、市民から見ても貴族から見ても揃っていたのだ。

 もはや廃嫡したところで、問題とされる理由は何一つなかった。

 

「そうなのですか?」

「王位継承権も、それに付随する財産の全ても没収した。奴に残されたのは誰もいなくなった取り潰し予定のアカデミーの一室だけだ。最早そこで怯えるばかりよ」

「それでは……」

 

 どうしようかと、ドミニクは悩んだが。

 

「それでも決闘裁判は継続されることになるがな。偽誓であるとはいえ、アルバンがこうも口にしていたであろう? 覚えているか?」

「主が、決闘の神が、もしも、このアルバンに少なかりしとはいえ正義あらば、我を勝利させてくれるだろう! 偽誓への許しを与えてくれるだろう!! でしたな。アレは良い啖呵だった」

「うむ、そういうことだ」

 

 アレクサンダーは頷いた。

 要するに、まあ決闘裁判で勝てば、アーデルベルトは命だけは見逃されるということだ。

 もっとも、命が見逃されたところで、誰からも見放された現実に変わりは無い。

 アーデルベルトに待つのはただ飢え死にという結末のみだ。

 

「まあ、決闘裁判で殺してやれ。奴にはそれだけの罪がある」

 

 アレクサンダーはどうでもよさそうに。

 さすがにドミニクが負けることはあるまい。

 これで何もかも終わったのだと、そう告げた。

 後は若い者の話。

 ローゼマリー嬢とアルバンが、今回の後始末をどう考えるかであった。

 

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