7 knights to die   作:道造

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最終章 7 Knights to die
第79話 Fool/道化者


 

 アーデルベルトは訴えようとした。

 自分の不遇を、自分が浴びせられた屈辱を、それに対する不満を。

 父親であるアレクサンダー王に訴えるために、ディートリヒの駆除という名の虐殺を耳にしなくなった王都にて、ようやく勇気を振り絞って王城へと登城しようとした。

 無論、アーデルベルトの登城権は数年前に剥奪されている。

 王城の門番たちにより、あっという間に取り押さえられ、壁に押し付けられた。

 それでも騒ぎ立てるゆえに、門番が殴ろうとしたが、一応相手は『元』王族である。

 対応に困った門番が報告を上げ、仕方なくも門番長が相手をする。

 

「離せ! 私は第二王子アーデルベルトだぞ!!」

「知っている」

 

 だからこそ取り押さえているのではないか。

 門番長の役職を務めている騎士たる男はそう言おうかと思ったが、どうせ話は通じぬと考えてやめた。

 両肩を左右の門番に掴まれ、石壁に押し付けられている。

 そんなアーデルベルトを阿保を見る目にて、門番長は睨みつけた。

 

「さてさて。王城に何用かね? 『元』第二王子殿下」

 

 一応聞くだけは聞いてやるよ。

 そういう侮辱を隠さぬ態度である。

 そんな門番長に怒りを覚えながらも、アーデルベルトは絶叫した。

 

「私は騙されたんだ!!」

「ほう。誰に」

「もちろん、あのアルバンとローゼマリーの二人にだ!!」

 

 左様か。

 騙されたか。

 まだそういう認識でいるのかと、門番長は呆れかえった。

 

「それでは、彼らに何をどう騙されたというのかね?」

 

 門番長は顎を指で搔きながら、どうでもよさげに尋ねる。

 身動きの取れないアーデルベルトが、自分の正当性を訴えた。

 

「もちろん、私の婚約者であるイザベラに対し、ローゼマリーが危害を加えられたと嘘を吐いたことが一つ」

 

 それはその通りだろう。

 事実、そういった噂が流れている。

 ローゼマリー嬢が虚偽の囁きをしたこと自体は本当だろう。

 それに対する処罰も行われているのだ。

 すでにアレクサンダー王より、厳しい修道院送りにするとの沙汰が下っている。

 処罰が甘いという声も確かにあったが、被害者であるイザベラ様が納得していると聞いて誰もが押し黙った。

 

「そして、アルバンはその虚偽を知っていながら、私にそのまま告発をさせたのだ! いや、それだけでは飽き足らず、今回の決闘裁判を陰で操っていたに違いない!!」

 

 それもそうだろう。

 そもそも決闘裁判にてアルバン自体が、そう訴えている。

 彼は決闘裁判における偽誓の罪を問われた。

 国外追放である。

 もちろんこれを耳にした心ある多くの騎士が、アルバンを庇おうとする動きを見せたのだが。

 内実はアルバンをより成長させるための騎士修行の旅であるという噂が流れ、本人も納得済みであると。

 それもアルミン王太子の判断であるということで、騒ぎはすぐに収まった。

 

「私は被害者だ! あの二人に騙された被害者なのだ! 父にそう伝え、すぐに決闘裁判を取りやめてくれ!!」

 

 騙されたのは事実だろう。

 あの二人がアーデルベルトを騙したというのは事実なのだろう。

 そうではあるのだが。

 

「――」

 

 騙されたお前が悪い。

 そう口にしようとして、少し違うなと門番長は考えた。

 詐欺にあった人間に手落ちがあったとしても、騙された方が悪いという言葉は好きではない。

 騙した方が悪いに決まっている。

 それはそれとして、今回ははたして詐欺に値するのだろうか。

 ――違うだろう。

 詐術に騙され、その錯誤によりアーデルベルトが罪なきイザベラ様を告発しようとしたこと。

 それは事実なのだが。

 

「尋ねたいことがあるのだが、アーデルベルト『元』第二王子殿下」

「なんだ、質問ならなんでも後で答えてやる。であるから、さっさと――」

「そもそも何故婚約者がある立場でありながら、ローゼマリー嬢と密通していたのだ」

 

 それも同じアカデミー内で。

 それは駄目だろう。

 不義密通は責められるべき罪である。

 

「それは――婚約者であるイザベラとて、それを知りながら責めなかった事実があるではないか!」

 

 門番長はほう、とここで眉を動かした。

 以前のアーデルベルトなら、ここまで知恵を巡らせなかったはずである。

 害虫風情の生き物でも、死が目前となれば必死となるか。

 だがしかし、だ。

 

「なるほど、まあそれは良しとしましょう。では、何故、第一試合の死者である剣士シュテファンの埋葬に立ち会わなかったのです」

「あれだけ大口叩いて負けた馬鹿の結末など、何故気にしなければならぬ?」

 

 何を言っているのかと、不思議そうにアーデルベルトはそう口にした。

 やはり品性が下劣であるのだ。

 テレージア王妃の血を明確に継いでいる。

 あの女は、命を賭して決闘裁判を行い、そして死んだ「紅蓮のヴィリー」の遺族に褒めの言葉一つやらなかった。

 この親子はそういう病気の生き物であるのだ。

 そう門番長は納得した。

 

「続けて質問です。何故、第二試合の剣闘士トラクス卿との約束を守らなかったのです。契約の反故は騎士の精神に反しております」

「所詮、捕らえた戦争捕虜相手ではないか! 約束を反故にしたところで誰が責める!」

 

 話にならんな。

 段々尋ねるのも嫌になってきたが、門番長はそれより興味が勝った。

 少しでも、こういう愚劣の思考回路を理解しておくべきだと思ったのだ。

 自分は騎士であり、同時に憲兵の一人のようなものだから。

 

「第三試合。『鉄の手』ベルリヒンゲン卿が反乱を起こして捕らえられた理由は、アカデミーのボンクラどもが組織的に犯した愚行が原因でしたな。それについてはどうお考えで?」

「たかが農民を搾取したところで何を――家畜に神などいない!」

 

 ふと、門番長は幼馴染にして、友人である『開拓騎士』エーレンフリートの顔を思い浮かべた。

 自分も王城の門番長とそれなりに出世したつもりだが、やはり開拓途中とはいえ領主と比べられるほどではない。

 奴めは代官時代に、どうにか懸命に生きている人間には、チャンスと慈悲が与えられるべきではないか。

 それは貴族も自由民も何一つ変わらぬ。

 人として当たり前のことではないかと、神様だってそうお考えのはずだと漏らしていた。

 これはザクセン王国にて別に変わった思想ではなく、アルミン王太子もアッカーマン辺境伯も。

 そしてアレクサンダー王もそうお考えのはずだった。

 さてはて、どうして目の前の汚物はこういった考え方をするのであろうか。

 本当に不思議だった。

 

「第四試合、ディートリヒ卿の妹であるパウラ嬢に毒を盛り、脅迫して試合に出ることを強要した。この罪についてはどうお考えで?」

「それは母の罪で私の罪ではない」

「では多数で取り囲んで、決闘裁判勝利後のディートリヒ卿を殺そうとしたのは?」

 

 これは明確な罪であろう。

 それは理解できたのか、一瞬だけアーデルベルトは黙ったが。

 やはり一瞬だけである。

 

「アルバンだ! アルバンのせいだ! アイツ一人だけが逃げた! 奴が止めてくれれば」

 

 人のせいにした。

 思えば、眼前のくだらぬ生き物は第二試合の決闘裁判にて、伯爵家次男のエドガーという男に自分の罪を擦り付けて、見殺しにしている。

 『処刑人』サムソンに首を刎ねられたのだ。

 まあ、結局そういうことなのだろう。

 

「せめて、あのアルバンが第六試合にて勝利してくれれば。勝ちさえしてくれれば、私の勝ち越しということで勝負を終わらせることができたはずだ!!」

 

 馬鹿な事を言っている。

 決闘裁判は例えどちらが多く勝とうが、最後まで継続される予定であった。

 筋違いだ。

 門番長は考えた。

 色々な事を考えた。

 

「わかったなら、さっさと私を解放しろ! そして父上に会わせてくれ!!」

 

 さて、アーデルベルトにもし罪名を付けるとすればだ。

 

「少しお待ちください」

 

 門番長はアーデルベルトに付けるべき罪名を考えている。

 騎士としてふさわしくない、ではない。

 人として性根が醜かった。

 騎士道とは何なのだろうか。

 気高い勇気、善い振る舞い、寛大さ、そして名誉をもって、人々より愛され畏敬される存在たらねばならない。

 そうして騎士は、愛によって博愛と秩序を世に回復させ、畏敬によって、正義と真実を世に取り戻すのである。

 所詮はお題目、口先だけの言葉にすぎないかもしれないが、例えばあのアルバンという青年はそれを実践しようとした。

 それに対し、アーデルベルトは何一つとしてふさわしくない。

 勇気はなく、悪事を働き、寛大さはなく、名誉も持たず、人々に嫌われ嘲り笑われる存在でしかなく。

 愛とは程遠い色欲に染まり、博愛はなく、混沌を世にもたらし、侮蔑され、悪と虚偽を世にもたらした。

 

「……」

 

 考えれば凄いことをしている。

 どんな悪人とて、普通ここまで出来ないぞ、と門番長は考えた。

 アーデルベルトに付ける罪名を考えたが、なんだ、沢山ありすぎて逆に「これ」という言葉が彼には思いつかなかった。

 そうして、やがて考えるのをやめて。

 ただの事実を突きつけることにした。

 

「まず先に言っておかねばならないことがある。アレクサンダー王は退位された」

「は?」

 

 アーデルベルトはぽかんと口を開けた。

 

「まだ王位継承の式典は先だが、第三王子ベルノルト殿下が王になられる。当然だが、大嫌いなお前のことなど相手にすらせぬよ」

 

 ぱくぱくと、どんな餌にでも食いつく王城の堀の魚のように。

 口を閉じ開きして、唾を呑み込む。

 アーデルベルトにはそれしかできない。

 

「そして、『元』第二王子アーデルベルト殿下。貴方はすでに廃嫡となっているのだ。当たり前だが、王位継承権もすでに剥奪されている。貴殿はすでに――貴族ですらないのだよ」

「嘘だ!」

「嘘ではない」

 

 門番長は冷たく告げて、もういい、と合図をする。

 それを受けて、二人の門番はアーデルベルトを壁に押し付けるのをやめて。

 そのままひっつかんで、門の外に連れて行こうとする。

 

「まて、話を聞いてくれ。そんなことが許されて――」

「もう黙れ。お前と話をしていると頭がおかしくなりそうだ」

 

 門番長は疲れていた。

 

「ドミニク卿に決闘裁判で殺されろ。それがお前にはお似合いの結末だ」

 

 だから、もう一言で終わらせた。

 そうして、アーデルベルトは手荒く門の外に放り投げられて。

 したたかに地面に身体を打ち付けて、痛みで悶絶した。

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