UC0085、某日。アルビオンはGP02に核弾頭を搭載するため、オーストラリアのトリントン基地に赴いていた。
前に立ち寄った補給地はルナツーであり。そこでは、ニナ・パープルトンが、ジオン共和国軍のシャア・アズナブル大佐に食って掛かるという小さなトラブルが有った。
トリントン基地に降りたアルビオンの格納庫内では、アナハイム・エレクトロニクスの設計者ニナ・パープルトンと、地球連邦軍中尉シェリー・アリスン中尉が会話に花を咲かせていた。
「あのシャアって男、殴ってやれば良かったわ。私のガンダムを侮辱したことは許せない」
「ニナさん、そんな根に持ってるんですか…?」
「ええ。シェリー。私って根に持つタイプなのよ。だってあのガンダムは私のはじめてのプロジェクトなのよ。それを、部外者のあの大佐が上から目線でネチネチと……これで、怒らなかったら私は聖人だわ」
「もし、ガンダムが壊されたり盗まれたりしたら、どう思います…?」
「どんな手を使ってでも犯人を見つけ出してもらうわ。アタシのガンダムだもの!」
「…あはは。そうなんですね」
シェリー・アリスン中尉は、ジオンのスパイだった。ジオン残党インビジブル・ナイツの一員であり、彼女の目的は核弾頭を搭載したGP02を盗み出すことだった。
「シェリー。あなたがGP02のテストパイロットなのだから、自信を持って。この頃、ジオン残党が勢い付いているらしいけれど、あなたとガンダムなら大丈夫よ」
「はい。ニナさん」
インビジブル・ナイツの指揮下にあるジオン残党は連邦軍の弾薬庫を襲撃し、気化弾頭を奪ったばかりだ。気化弾頭を宇宙へ上げたことによる損耗は大きい。また、地球上で動き回ったため、大規模な行動が出来ない。
更に、ティターンズのグレイファントムとサラブレッドが、各地のジオン残党を潰して回っている。このため、トリントン基地からの逃走ルートを確保することは難しかった。
シェリーはGP02のパイロットだ。打ち合わせ済みのシーマ艦隊やその他のジオン残党との戦闘で、どさくさに紛れて無力化されたふりをし、鹵獲されるという方法で、ジオン残党側へ渡ることを考えていた。
アナハイムの影響下にあるジオン残党は、シーマ艦隊、インビジブル・ナイツ、グラナダ特戦隊といった部隊だ。
ジオン共和国軍も袖付きの一部を退役させ、ジオン残党として参加させている。
また、アクシズの先遣部隊であるエンツォ大佐率いる艦隊がサイド5のアナハイムが所有するデブリ宙域に入っている。アクシズの動きを、ジオン共和国と連邦軍過激派はあえて見逃していた。
「コウ。お前、ダメだぞ。バレたら面倒になるからな……」
「やっぱりガンダムだ! 見ろキース! この重装甲を!」
「……声が大きいぞ」
「あなたたち。何をしているの! ここは、関係者以外立ち入り禁止よ!」
「ほら見ろ。お前が大きい声を出すからだ」
チャック・キースの心配は的中した。コウ・ウラキは、アルビオンの格納庫に入るほど行動力のあるMSオタクだった。コウの大声に釣られ、ニナとシェリーが、様子を伺いに来た。
「2人とも美人だなぁ」
キースは鼻の下を伸ばし、シェリーに近づいた。
「僕は、チャック・キース少尉です。僕とデートとかどうです?」
「階級章、見えないの?」
「ちゅっ、中尉!? 申し訳有りません。失礼しました」
階級章でコロっと態度を変えたキース。シェリーは、彼の単細胞っぷりが羨ましくなった。
「モーラが行きたいって言ってたわ。キース少尉。ぜひ、彼女とデートに行ってあげて」
「はっ。はい。了解しました」
コウはニナとMSの話で盛り上がっていた。シェリーが、注意しなければ1時間は余裕で話していただろう。
「モーラちゃん、どんな女の子なのかなぁ?」
「あのガンダム、僕が乗りたいな。絶対に乗りたい」
「すんなりデートに行けるとはなぁ。おい、コウ、聞いてんのか?」
「キースこそ。僕の話を聞いているのか?」
「悪い。聞いてなかった」
「僕もだ。ごめん」
キースは、この後ビアホールで、彼の中のモーラちゃん像から離れた彼女と、出会うことになる。しかし、2人はなんやかんやで相性が良かった。
コウは1号機のテストパイロットとして、地上でのテストを行うこととなった。機体の操縦も、女心の操縦も上達したコウは人生の絶頂期だった。
三週間余りの地上試験を経て、アルビオンは宇宙へ上がった。コーウェン中将は、宇宙が安全であることを保障していたが、そう上手くはいかなかった。
「高熱原体複数確認! ザンジバル級1、ムサイ級6。友軍では有りません。敵艦隊です!」
「ジオン残党か……活動が盛んになっているとは聞いていたがまさかこれ程とは…! 突破する。艦載MSを発進させろ!」
格納庫にコウとキースは急いでいた。キースの顔面は蒼白だった。
「どうしたんだキース?」
「シーマ艦隊だってよ。コロニーに毒ガスを流し込んだ奴らだぞ。連邦軍の追跡を逃れた戦犯だよ。腕利きの奴らだ。俺、死ぬのかなぁ……」
「大丈夫だ。僕たちは、新兵じゃない。3年目だぞ。訓練の成果を出すべきだ」
「なんで、そんな落ち着いているんだよ。初陣だってのに……」
「この艦には、ニナさんが居るからだよ。僕が守らないでどうするんだ」
「そうだよな。モーラだってこの艦に乗ってるんだよな。頑張ろうぜコウ」
調子を戻したキースがジム・キャノンⅡで出撃する。コウもGP01で出撃した。
「ウラキ。俺に付いてこい」
「はい。バニング大尉」
バニング小隊は、互いを援護し防空戦闘を行っていた。
「ティターンズのサラブレッドが近くにいます! 救援まで5分です!」
「よし、守りきるぞ!」
GP02が、浮足立ったのか、ふらふらと突出した。そして、シーマ艦隊のゲルググに包囲された。
「シェリー中尉! 逃げてください!」
コウのGP01が、救援しようとするも、光を失ったGP02は鹵獲されていった。
「間に合わなかった…!」
GP02を鹵獲し終えた敵艦隊は、撤退していった。サラブレッドが宙域に到着したからだろう。
「こちら、サラブレッド艦長、ガルマ・ザビ少将だ。無事で何よりだ」
「アルビオン艦長、エイパー・シナプス大佐だ。救援に感謝する」
アルビオンとサラブレッドはルナツーへ向かった。ティターンズにとってコーウェン派閥は敵ではない。しかし、完全に味方というわけでも無かった。
ペガサス級を独立運用しているティターンズとしては、アルビオンは喉から手が出るほど欲しかった。しかし、それをコーウェン派閥に持っていかれたのだ。それでも、敵艦隊に囲まれていたら見捨てず助ける程度の関係性は持っていた。
「ティターンズのシャア・アズナブル大佐だ。コウ・ウラキ少尉。ニナ・パープルトン技師。君たちを拘束させてもらう。私としては、恋人との逢瀬を邪魔したくは無いんだが、事情が事情でね」
ルナツーに入ったアルビオンは、ティターンズのMPに乗り込まれていた。ブリッジクルーは既に拘束されている。これから自室でニナといちゃつこうとしていたコウは、他のパイロットたちより、遅く拘束されることとなった。
ちなみに、シャアは勘が良いことを買われ、憲兵隊に混じっていた。そもそも、ルナツーの憲兵隊自体そこまで規模が大きくなかったため、人員をサラブレッド隊から少し出している。
「ちょっと! あなた、何の権限が有って私たちを拘束するの!? こんなの違法行為よ!」
「ティターンズは、ジオン残党に対しての現地での調査権を有する。有り体に言えば、アルビオンのクルーが、ジオン残党系のテロ組織であるインビジブル・ナイツの構成員である可能性が高い」
「あぁ! あなた、私のガンダムを貶した大佐じゃない! 無実のアルビオンクルーを拘束するなんて! 最低よ!」
喚くニナに対して、コウは対照的だった。
「赤い彗星のシャア・アズナブル大佐だ。すごい。本物だ。拘束から解放されたら、サインを頂けませんか? もし良かったらシミュレータでの対戦とか……」
「コウ! あなた、私とその男、どっちの味方なの?」
「えっ…? あぁ…大佐の方かな。宇宙へ上がった途端、シーマ艦隊に囲まれたんだ。内通者がいてもおかしくない」
梯子を外されたニナは、静かになった。
「ニナは、シェリー中尉が心配じゃないのか? ここは、大人しく協力した方が良いよ」
「そ、そうね。……分かったわ」
コウとニナは大人しく拘束された。アルビオンクルーが、解放されたのは結局、6時間後のことだった。