エイパー・シナプス大佐の人生が今、終わろうとしていた。彼はルナツーの会議室において孤立無援の状態だった。
この査問会議の場に居る面々は、ティターンズの佐官や将官であり、シナプスと同じ派閥であるコーウェン派の将校は1人もいなかった。ただジョン・コーウェン中将が、ディスプレイ越しに会議に参加しているだけだった。
「ティターンズ第13独立部隊、部隊長ブライト・ノア少佐です。今回の査問会議の司会を務めさせていただきます」
「ティターンズ総帥、ヨハン・エイブラハム・レビル大将だ。査問とは言え、同じ連邦軍の同胞だ。いきなり極刑を下すようなことはしない」
レビル大将の言葉に、シナプスは安堵する。
GP02は不慮の事故で鹵獲された。そして鹵獲されたGP02は、何故か核バズーカを所持していた。核バズーカを所持したGP02がそのまま鹵獲されたのだ。大問題である。この大規模な査問会議は、その証左だ。
「ティターンズ第2独立部隊、部隊長のブレックス・フォーラ准将だ」
「ティターンズ第9独立部隊、部隊長のガルマ・ザビ少将だ。僕の腹心であるシャア・アズナブル大佐にもこの場に参加してもらっている。よろしく。シナプス大佐」
友好的なガルマの反応に、シナプスは無自覚に安心していた。
「今回、アルビオン隊は核を搭載したガンダムGP02をシーマ艦隊との戦闘において、敵に鹵獲されました。この点について、シナプス大佐からは異議が有りますか?」
「無い。核バズーカを所持したガンダムGP02は確かに敵に鹵獲された。私の不徳だ。私の指揮能力に対する指摘は甘んじて受け入れよう」
シナプス大佐は、自身の責任について認めた。これにより追及を軽くするつもりだった。
「では、次にGP02の搭乗員であるシェリー・アリスン中尉に関してです。シェリー・アリスン中尉は、優秀なMSパイロットであり、その点において大佐は彼女をGP02の搭乗員に任命したと有ります。これは、正しいですか?」
「ああ。そうだ。私が彼女を任命した。彼女はGP02を任せるに足る能力を持っていた。戦闘で鹵獲されたのは、彼女の責任ではない。私の指揮能力の不足だ」
部下を庇い全面的に責任を認めた。シナプスが無能だったのだ。そうに違いない。シェリー中尉による裏切り。その可能性をシナプスは意図的に無視していた。艦長として部下を信用しなければならない。だからシナプスは、アルビオンクルーにスパイがいるのではないかという情報部の勧告も重要視しなかった。
「情報部によると、シェリー・アリスン中尉は、旧ジオン公国軍籍を持っていました。シェリー中尉の公国軍籍はタチアナ・デーア少尉でした。シナプス大佐は、彼女がジオン残党であることを認識していましたか?」
「なんだと!? バカな!? 彼女の勤務態度は優秀そのものだぞ。周囲との関係も良好だった…」
会議室の扉が開き、手錠を掛けられ憲兵に連れられた男女が姿を現す。
「ユリ・タナベ軍曹と、アナハイム・エレクトロニクスのニック・オービルです。彼らはジオン公国軍籍を持っていました。また、シェリー中尉と共謀し、GP02に核を搭載しました。更にアルビオンからインビジブルナイツへ情報を送っていたことを自白しています。2人が主犯ですが、アルビオンに派遣されたアナハイム社の人間にも、スパイ容疑が掛かっています」
2人は紛れもなく、アルビオンの乗員だった。その他にもスパイがいるという報告で、シナプスは狼狽した。
「バ、バカな……嘘だ。2人は素晴らしいクルーだった……拷問により出された偽りの結論だ」
「我々ジオンには、ジオン式のやり方がある。シャアが得意な方法でな。僕にはよく分からないんだが、大量の思念を送り込むと、勝手に喋るらしい。傷もつけていないし薬物も使用していない。なんなら確かめてみると良い」
シナプス大佐は、拘束されていた2人の様子を確かめた。2人は、虚ろな瞳をしているが傷は無かった。
「……本当なのか??……信じられん」
「証拠は揃っている。意地が悪い人間には、アルビオンのクルーが、ジオン残党と共謀し、核を提供したと見えてしまうかもしれない。本当にスパイなら、処刑されてもおかしくない。僕もジオン残党に核が渡ってしまったのは非常に残念だよ」
シナプスは目の前が真っ白になった。
「けれど、僕はシナプス大佐の味方だ。シーマ艦隊との戦闘は演技ではないだろう。スパイはアナハイム絡みの人間だけだ。多くの乗員からは、そんな情報は聴取されなかった。核を奪われたのは痛いが、まだ間に合うはずだ。大佐。僕たちに協力して欲しい」
エイパー・シナプスはガルマ・ザビの手を取った。それ以外に道は無かった。ガルマ・ザビはアルビオンのクルーをジオン残党とし、処刑する。そうされたく無ければ協力しろ。そう暗に伝えているのだ。
しかし、ガルマは完全に善意で発言しており、全くそのつもりは無かった。シナプスの勘違いである。
モニタ越しに査問会議に参加していたコーウェン中将は、シナプスが自身の派閥から離れたことを悟った。
「シャア大佐!! ここです!!」
「ねぇ、コウ、今日って私とのデートよね?? どうして、あの男が居るのかしら?? 私、あいつが嫌いって話したわよね?」
「ああ。そうだっけ? シャア大佐と話せるなんて滅多に無い機会なんだ。大佐は赤い彗星と呼ばれる凄腕で、一年戦争では、初戦でサラミスを3隻、ルウムではマゼランを5隻沈めたんだ。戦争が終わって、今は味方だからこうして話せるんだ! エースと話せるなんて、これって凄いことなんだよ!」
「……そうなのね。私、帰って良いかしら?」
「体調が悪いのか? アナハイムの人たちもジオンと通じていたらしいしな……体調を崩すのは無理もない。休んだ方が良い」
ニナはコウの足を踏んだ。ガンダム2号機を友人だと思っていたスパイに奪取され、同僚かつ友人であったアナハイムの出向者はほとんどがスパイとして逮捕されてしまった。ニナも再度拘留されたが、なんとか釈放された。アナハイム社が圧力を掛けたため、彼らは無事に出てくるそうだ。ニナの気分は最悪だった。
そんな中、気晴らしのため、初めて出来た彼氏とデートに出掛けるのである。しかし、コウは他の男に夢中だった。ニナにとってかなりの屈辱である。
「コウ、あなたの鈍感なところ、私、嫌いよ。私はあなたと2人きりでデートがしたかったの。他の人は要らなかったのよ!」
「ごめん。配慮が足りなかった」
「こんなこと言わなくても分かるでしょう!」
「こっちもせっかくの休暇なんだ。シャア大佐と会える機会はもう無いかもしれなくて……ニナにとってもタメになると思って」
「馬鹿! 私を大事にしてよ!」
「ごめん……」
シャアはコウに呼ばれて足を運んだのだが、コウとニナは修羅場の最中だった。
「アムロ……どう思う?」
「あいつ、ガールフレンドとのデートにお前を呼んだのか…? センスが無いな。巻き込まれた俺の立場にもなってくれ。アレックスに乗らせてやった貸しを返すと言うから、来たんだぞ」
「そうか。まあ、参加して良いかコウに聞くだけ聞いてみよう」
「バカ。よせ! 明らかに女の方がお前を嫌ってるだろ。露骨に嫌な顔をしていたぞ」
シャアは鈍感なので、ニナの嫌そうな顔を流していた。シャアの脳内に、かつてメイ・カーウィンという少女が似たような顔をしていた記憶が蘇った。
「お前、絶対彼女に、余計なことを言っただろう。何を言ったんだ?」
「彼女が設計したガンダムGP01が駄作と言った。お前のアレックスに比べ反応速度も遅いし、挙動がマイルドだ。普段乗っているジム・カスタムよりはマシだが、新型機にしては速度が出ない。万人向けだが乗りやすすぎてつまらん。ピーキーさが足りない。良い機体だとは思うが」
「…馬鹿野郎ッ! 人として言っちゃダメだろ! アレックスは、俺向けにカリカリにチューンアップしている機体だ。アレと比べればそこら辺の機体の反応速度なんてゴミだ。アレックスに乗れるお前がおかしいんだよ!」
「正直は美徳と言うだろう。ありのままを話しただけだ」
「付き合って損した。お前の代わりに謝ってくる」
アムロとシャアはルナツーに赴任してからの友人だ。アムロは戦場で説教をしてきたシャアのことを明確に覚えていた。しかし、シャアはすっかり忘れていた。年齢と階級はシャアの方が上だったが、最早そのことは関係なかった。
「お話し中済まない。シャアの連れのアムロだ。コウさん。ニナさん、連れが迷惑を掛けた。シャアとの予定はキャンセルしてもらって構わない。アレは悪気が有って言ったんじゃないんだ。ニナさんの作ったGP01は画期的な機体だ。速度や反応速度に関して注目するのが間違っている」
「すっ、すみません。アムロ・レイ少尉ですか。撃墜王とお会い出来て光栄です。自分はコウ・ウラキです」
「アムロ・レイだ。よろしく。君がGP01のパイロットだったな? なら、理論だけではなく経験でもあの機体の素晴らしさが分かるだろう」
「勿論です!」
3人の話は盛り上がっていた。シャアは議論に加わりたそうにしていたが、アムロが後ろ手で追い払った。コウ、ニナ、アムロはデータ派だった。感覚でMSに乗っているスピード狂のシャアとは違うのだ。
彼らの話は盛り上がり、そのままカフェへと入っていった。シャアは取り残された。
シャアは、ダル絡みをしてくるミリーナに優しくするほど、打ちのめされていた。
ジークアクスめちゃくちゃ良かった。ネタバレ踏む前に見て欲しい。めっちゃ良かった。それしか言えないので劇場へ行って見て欲しい。
この小説読んでる人なら後悔しないはず……