シャア・アズナブルはミリーナ・レビルに気に入られていた。シャアは子供が苦手であり、ミリーナの対応も苦手だった。しかし、彼女は全く折れなかった。
「あれ大佐落ち込んでます? もしかしてアムロさんに振られました?」
「いや、振られてはない。ただ、私を除いて、話題が盛り上がってしまい置いていかれただけだ」
「それ、振られたって言うんですよ」
「……そうか」
ミリーナはシャアの私室によく入ってくる。彼女とシャアの仲はレビルに公認されている。むしろ後押しされていた。なんでも、ニュータイプのことはニュータイプに任せるのが1番良いとか。そういったことをレビルは言っていた。
「お休みは今日しか無いんですから、わたしと遊びに行きましょう」
「未成年とはちょっとな……」
「パパの許可は貰ってますよ。シャアなら娘を任せられるって言ってました」
「……いや、それは御免だ」
シャアはレビルを義理の父親にしたくなかった。彼の好みは年上の包容力のある女性である。ミリーナのようなちんちくりんではない。強化されたから寿命が短い、というあからさま過ぎるミリーナの嘘を信じ込んでおり、彼女の望むようにしているだけだ。
ミリーナは、罪悪感は有ったがなんとかなるやろ精神であった。自分よりニュータイプ能力が高く、年上でイケメンなシャアが好みだった。面食いなミリーナは、シャアと真剣に結婚したいと思っていた。
「ほら、わたしって強化人間だから……寿命が……」
ちょっと影のあるところを見せると、シャアはコロっと態度を変えた。
周囲はミリーナが健康体であることを知っていたし、シャアが、あからさま過ぎる嘘に騙されているとは思っていなかった。むしろ、ミリーナの嘘を口実に付き合っているロリコンと認識していた。
「恋愛は自由だろ……」
「あの人、なんやかんやで精神年齢低いし、年下と合うんじゃないか?」
「俺は大佐がロリコンでも問題ないと思う」
アポリーとロベルトをはじめとするシャアの部下は、上司をロリコン認定していた。ガルマはシャアが騙されていることを知っていたが、ミリーナが真摯にシャアへの思いを打ち明けてきたので、黙認していた。
「分かった。お姫様のお望みのままに」
「ええ。わたしとデートです」
シャアに騎士ロールプレイをして欲しい。そうねだったのはミリーナだった。強化人間の寿命(嘘)をちらつかせると、シャアはよく言うことを聞いた。
ミリーナは、単純接触効果を狙っていた。人間は、よく接触する人間に好意を持つように出来ている。ニュータイプであれど、それは変わらない。ミリーナはそう確信していた。
「大佐は、感応ってしないんですか? わたし、大佐の中を見たいです」
「感応? なんだそれは?」
「蒼色の光に包まれて、相手と繋がったような、気持ちになるやつです!」
「ああ。あの2徹くらいした時になるヤツか。不健康だからやらないな。どうしてもという時に、拷問として捕虜に使うくらいだ」
「えっ……え? えぇ!?」
ミリーナは困惑した。アレはニュータイプ同士が分かり合うためのコミュニケーションツールだ。少なくとも彼女は、そう思っていた。
「誰しも心に秘めたいことは有る。心に土足で踏み込むような真似はするべきではない。相手に全てを曝け出すことは、単なる依存だ。相手に負担を掛ける不健康な行いでしかない」
「で、でもわたしは、大佐に全部を見せたいな……心で繋がりたい」
「君は、私に依存しなくても立てる。君の周囲にはたくさんの人が居るだろう。だから、私が居なくても大丈夫だ」
シャアはミリーナの頭を撫でながら、やんわりと彼女を拒絶した。シャアはロリコンでなかったし、グイグイくるミリーナになんやかんやで絆されるのを恐れていた。
「なんか誤魔化してますよね?」
「いや、そんなことは無い」
「じゃあ、今すぐ結婚しましょう」
「いや、それは困るな」
「じゃあじゃあ。ミリーナが20になったら結婚してくれますか?」
彼女のついた寿命が短いという嘘と、今の発言は盛大に矛盾していたのだが、不幸にしてシャアはそれに気が付かなかった。
「分かった。そうしよう。だからそんな迫ってくるのはやめてくれないか? 周囲の目が痛い」
「わかりました。約束ですよ」
彼女の目が狩人のものとなっていたことなど、シャアは知る由もない。
ティターンズは艦艇を集結させた。中核部隊として集まったのはペガサス級4隻とサラミス8隻。かなり偏った編成の艦隊だ。4隻のペガサス級はサラブレッド以外ガンダムタイプを載せている。ティターンズ補助部隊の戦闘艦艇も合計すれば50隻程度にはなった。
グレイファントムでは、アムロ・レイ少尉のガンダムNT1。
スパルタンでは、イオ・フレミング中尉のアトラスガンダム。
アルビオンでは、アムロの助言を受け推力を増加させたGP01Fb。そこにコウ・ウラキ少尉が搭乗する。
しかし、シャア・アズナブルの乗機はジム・カスタムだった。彼はアムロのアレックスが欲しいと圧力を掛けていたのだが、それは叶わなかった。
スパルタンは、グレイファントムと共に、反地球連邦軍勢力である南洋同盟を潰した経歴のある艦だ。アルビオン隊よりも、歴戦であり、戦力評価は高い。ブレックス准将が指揮官となってからも、ティターンズの中心戦力の1つだ。
ティターンズの行動が、GP02の鹵獲から2週間ほど必要だったことには2つの理由がある。1つ目が戦力の集結のためだ。
アクシズ艦隊、シーマ艦隊、インビジブル・ナイツ、グラナダ特戦隊、そして袖付き。この5つの組織を中心に組織されたジオン残党は、烏合の衆だった。だが、数はそれなりに多い。
ティターンズ単独の戦力では不安があった。付近の連邦艦隊を巻き込んで戦闘を行う必要があった。
もう1つの理由は、令状である。旧サイド5のデブリ宙域は、アナハイムが管理下に置いており、そこにジオン残党が集結していた。アナハイムの私有地である場所へ、ティターンズが捜索に入るには令状が必要である。
令状の発行に対し、連邦政府は良い顔をしなかった。連邦政府はジオン残党の脅威を軽く見積もっていたし、アナハイムへ忖度していた。また、連邦軍の過激派が圧力を掛けていた。それにより、令状の発行が遅れた。
アナハイムの一部派閥が、ジオン残党と通じていることは、明らかだ。しかし、連邦政府は弱腰だった。
「コウ、シェリー中尉がジオンのスパイだなんて思ったか? あの人は全然、普通の人だった。優しくて親切だったよな。なんで、あんな優しい人が、コロニーを落としたジオン残党に味方するんだ?」
キースの言うようにシェリーは人当たりが良かった。コウも彼女とMSの合同訓練を行ったり、ちょっとした話などはしていた。
「わかんないよ。でも、誰にでも譲れないモノは有るだろう。中尉にとって、それがジオンだったんじゃないか?」
「けどよ、5年だぜ。あの戦争から5年も過ぎてる。潜入してまで、テロを起こしたいかね?」
「大切な人を失ったのかもしれない。それで過去にしがみついているのかもな……」
「戦争は嫌だねぇ」
コウもキースも、ジオン残党が敗北することを疑っていなかった。何故なら、連邦宇宙軍の戦力は圧倒的だからだ。通常戦力で、これを覆すのは不可能だ。
通常戦力では不可能だからこそ、ジオン残党は核を積んだGP02を奪取したのだろうし、気化弾頭も奪ったのだろう。
ジオン残党の狙いは不明だ。ソロモンで大規模な観艦式を行うなど、連邦軍の艦隊を1箇所に集結させるような予定はない。核はたった1発しかないのだ。それで、連邦艦隊を撃滅出来るプランはコウには、思いつかなかった。
コンペイトウ要塞への攻撃や、グラナダ、フォン・ブラウンへのテロなども考えられた。気化弾頭は、宇宙空間では単なる弾頭だが、コロニー内部などの気密空間では有効な兵器となりうる。ジオン残党が何を考えているか、それは現時点で、彼ら以外には理解できなかった。