ティターンズ及び地球連邦軍は、サイド5アナハイム管理宙域に侵入した。だが、予想されるような大規模な反撃は無かった。
「どういうことだ!? 連中はどこに行った!?」
「監視船はアナハイム船籍の艦艇の移動しか、キャッチしていません」
「アナハイム船籍? TCASの信号か? 目視したのか?」
「TCASです。IFFの識別モードはモード3でした。民間の艦艇です。アナハイム船籍のはずです」
「目視していないのか! 何のための監視船だ! そいつらだ! その中に紛れたんだ! アナハイムがジオン残党に便宜を図ってるぞ!」
味方の監視船の詰めが甘かった。ティターンズの監視船は、アナハイムの管理宙域ギリギリまで近づいて監視を行っていたのだが、ジオン残党の動きを掴むことが出来なかった。
アナハイムの艦艇も多数協力し、ジオン残党の行方を掴ませなかったのだ。
「アナハイムの連中、やってくれる。死の商人め」
「ブライト艦長どうします? 連中の航路はトレースしてますが、艦数が多すぎます」
「地道にやるまでだ。この宙域を掃討する」
第十三独立部隊のサラミス。その艦長は、MS隊と共にジオン残党を掃討していた。
「艦長! 敵MS、こちらに特攻を仕掛けるようです!」
「迎撃しろ! 馬鹿の自殺に付き合う意味はない!」
「駄目です!! クソォォ!!」
しかし、ブリッジを掠めたのは、敵MSの破片だった。
「敵ドラッツェ、撃破!! アムロ少尉のガンダムです!」
白い機体が信じられない挙動で舞う。白い悪魔の面目躍如だった。
「こちらアムロ・レイ。敵の動きが妙だ。敵拠点を守ろうとする様子が見えない。闇雲に特攻を仕掛けるばかりだ」
「破棄された拠点だ。特攻となると、自爆か? 全艦、距離を取れ! 敵拠点の自爆に巻き込まれるぞ!」
ブライトの指示でオペレーターが、すぐに爆破半径を導き出す。第十三独立部隊は、速やかに爆破の影響を受けない距離まで撤退した。
ブライトの予想は適中した。味方を巻き込んで敵拠点は自爆したのだ。
「敵の一部も巻き込んでの自爆か。彼らは死兵だな。」
「味方の被害は軽微です。しかし、これで手掛かりがなくなりました」
「予想航路を潰すしかない。後手に回ったが、奴らを確実に潰す」
ティターンズの各独立部隊が、それぞれ予想航路を潰すために行動する。
ブライト率いる第十三独立部隊はソロモンへ向かった。ブレックスの第二独立部隊は、ルナツーへ。第一独立部隊は、グラナダへ。ティターンズに加入したアルビオンを含む第十独立部隊は、フォン・ブラウンへ向かった。
アナハイム艦艇の予想航路は、複雑に散っており、結局は要地を薄く守るしか無くなった。
「シャア? 僕たちはここで良いのか?」
「ああ。問題ない。我々の方が連邦よりもジオン残党について理解しているはずだ」
「移送中のコロニーを狙うか……あの規模のジオン残党が動くならば、確かにコロニー落としを目標としていてもおかしくない。だが、裏に居るのはアナハイムだぞ。コロニーを落としたところで、奴らの利益にはならないはずだ」
ガルマの考えは真っ当だった。アナハイムは、コロニー落としを意図していなかった。アナハイムの本命はマスドライバーによる連邦軍基地の攻撃だ。
それにより連邦政府とジオン共和国の関係を悪化させ、紛争を起こす。そして戦時需要を取り込み、巨利を得るつもりだった。
「飼い犬に手を噛まれるくらいするだろう。ジオン残党を制御できると考えているのが愚かだ」
「僕は、敵は来ないと思う。ティターンズもバカじゃない。連邦軍は数が多い。潰されるのがオチだ」
「いや、来るだろう」
「勘か?」
「勘だ」
果たしてシャアの勘は当たった。ムサイ級3隻をキャッチしたのだ。
「当たりだな。お前の勘は、本当に当たるな」
「当然だ。私はガルマの剣だからな」
「なら、存分に振るわせてもらおう」
「シャア・アズナブル、ジム・カスタム出る!」
シャアのジム・カスタムは推力を増加させるために、装甲を削りスラスターやプロペラントタンクを増設している狂った仕様だ。当たらなければどうということはない。シャアは防御力を心配した整備班にそう言った。
「アクト・ザクか。ふむ。パイロットの腕が良いな」
グラナダ特戦隊のマレット。彼の搭乗するアクト・ザクは、マグネットコーティングを施された、異常な反応速度を持つ機体だった。マレット自身も自分を強化させることで、この機体の性能を十全に発揮させていた。
「良いぞ! よく踊る! レースと行こうじゃないか!」
「チィッ! あの赤いジム・カスタム、速すぎる! 俺と同じ強化人間か!!」
2機はもつれ合い、絡み合うようにドッグファイトを続けていた。
「アポリー、ロベルト。手を出すなよ。コイツは私の獲物だ」
「リリー! 隙を見て赤いヤツを撃て! 俺ごと狙え!」
2本のバズーカを持ったリック・ドムが、シャアの予想進路へ弾をバラ撒く。
「興醒めだな。フィナーレと行こう」
「クソッ! まだ加速するのか!」
マレットは、向精神薬を注射した。だが、それでも赤いジム・カスタムには追いつけなかった。
「リリーッッッ!!」
彼女の乗ったリック・ドムが、火焔に包まれ、やがて散った。
「ぐぅぅ! 赤い彗星ィィ!」
ジム・カスタムのサーベルが、アクト・ザクを斬り裂いた。マレットの凶相が、ビジョンとしてシャアを襲った。だが、鈍感なシャアはそれを無視した。
「大佐。終わりましたか?」
「ああ。そちらも終わったようだな」
ムサイ級3隻は、デブリになっていた。赤い彗星とガルマの艦隊に挑むには、能力と数が足りなかった。
「これだけか。本命は別だったようだな」
シャアが、サラブレッドへ戻っても敵の増援は現れなかった。彼が予想していた敵の本命は、コロニー落としだったのだが、見通しが違ったようだ。
「僕たちは、ハズレを掴まされたようだ。本命はどこだと思う?」
「私には政治的なことは、分からん。連邦軍の勢力を潰すにはソロモンか?」
「地球軌道艦隊への攻撃かもしれないな。地上の残党を宇宙へ逃がすためにやりそうだ」
「私には分からないな。ガルマに任せよう」
ガルマがソロモンへ向かう決定を下そうとした時、通信が入った。
「第十独立部隊より通信です。敵本隊をキャッチ! 進路フォン・ブラウン!」
「全艦、進路フォン・ブラウン! 全速前進!」
第九独立部隊はフォン・ブラウンへ向かっている。だが、この速力ではおそらく、間に合わず途中参加になるだろう。フォン・ブラウンへと向かった第十独立部隊が最初にジオン残党軍と激突するはずだ。奇しくも第十独立部隊は、アルビオンがいる部隊である。
「核はフォン・ブラウンに仕掛けられているな?」
「ええ。アナハイムの連中、油断してました。奴らは、俺たちを甘く見てますよ」
「それで良い。マスドライバーの確保も出来ているのか?」
「はい。袖付きの連中が確保しています」
「なら交渉と行こう」
エリク・ブランケは気化弾頭を携えたGP02に乗り込む。フォン・ブラウンに仕掛けた核の起爆ボタンは、気心の知れたアクシズ艦隊のエンツォ・ベルニーニ大佐に渡している。
交渉が決裂し、エリクが死んだらエンツォが核を起爆する。エンツォ艦隊が沈んだらエリクが気化弾頭をフォン・ブラウンへ撃ち込む。エリクたちは二段構えの備えをしていた。
「エリク・ブランケ、ガンダム出る!」
ガンダムに核を搭載していると見せ掛け、アナハイムを脅し、マスドライバーの弾丸と座標データを得る。ソレが、エリクの作戦だった。
「くくく。エリクの小僧にしては頑張った交渉だな。しかし、我々のシナリオ通りに進んでいるじゃないか」
「ええそうですね。オサリバン常務。マスドライバーの攻撃によって、メンツを潰された連邦軍は軍拡へと踏み出します。もしかしたら、ジオン残党の支援をしていたジオン共和国と紛争を起こすかもしれません。我々は莫大な利益を得られますよ」
「ティターンズは面倒だが、ジオン共和国とも連邦政府とも渡りは付けられる。番犬が幾ら喚こうとも、飼い主を黙らせれば我々の勝ちだ」
アナハイムは、ジオン残党との取引に応じた。エリク・ブランケに屈し、マスドライバーの質量弾と座標データを提出したのだ。これによりフォン・ブラウンは、危機から免れたはずだった。
「なんだっ!?」
「あぁッ!!」
UC0085、10月10日。フォン・ブラウンはジオン残党のテロにより、80%が消滅した。オサリバン常務は勿論、アナハイム社を支配するビスト家は全滅。アナハイム・エレクトロニクスの株券は紙屑へと変わった。