少し前の話である。ジオン残党の先行部隊は、フォン・ブラウンの制宙権を確保していた。連邦軍フォン・ブラウン守備隊は壊滅した。他の月面都市に駐留する部隊は、残党の規模を見て、攻撃を躊躇った。
マスドライバー防衛部隊も、フォン・ブラウン守備隊と同じ運命を辿っていた。
「ジオン残党軍本隊をキャッチしました! 進路フォン・ブラウンです!」
アルビオンのオペレーターが、残党の本隊を捉える。ティターンズ第十独立部隊は、各部隊に情報を伝達した。
「フォン・ブラウン上空のジオン残党部隊と合流しました。中心にGP02発見!」
「突破する。バニング大尉、ウラキ少尉、任せたぞ!」
バニング小隊が、アルビオンから発艦した。
「ウラキ、敵の防御を破る! お前のガンダムの方が速い! 行けッッ!」
「はい! 大尉!」
バニングのジム・カスタムとキースのジム・キャノンⅡ、不死身の第四小隊がGP01を突破させるべく、暴れる。他のティターンズMS隊もその動きに追随した。
「間に合え! 間に合えぇぇ!!」
GP02との距離が1000を切った時だった、眼下のフォン・ブラウンが爆発した。
「……核攻撃か。……間に合わなかった」
「ウラキ! 動きを止めるな! 死ぬぞ!」
戦場が停滞していた。しかし、バニングの激励でコウは、自分のすべきことを思い出した。
GP02を撃破しなければならない。まだ敵は気化弾頭を抱えている可能性が有る。2発目は絶対に阻止しなければならない。
「よくも! フォン・ブラウンを!」
「……ガンダムッ!?」
GP02は自身の齎した破壊に陶酔していたのか、無防備だった。油断していたGP02のバズーカを初弾で狙う。そして、次弾で、推進系を狙った。
「チッ、やられたか……」
敵は咄嗟に機動したが、その動きは精彩を欠いていた。動揺している? そんな可能性がコウの脳裏によぎった。しかし、それを即座に潰す。
「なんで!! なんで! フォン・ブラウンを核で焼いた!?」
「……俺の方が知りたい!」
「お前がやったんだろう!」
敵は、ぼかした答えしか言わなかった。それがコウの逆鱗に触れた。
「ここまでか……」
あっさりとGP02を撃破したが、ここからが本番だった。
「ウラキ少尉、退避してください! 敵MAと敵MS隊が同士討ちをしています! アムロ少尉とシャア大佐が敵MAと戦闘を開始しています! 2人が抑えているうちに撤退してください!」
「僕だってガンダムに乗っている!! 逃げるわけには行かない!」
白いガンダムと赤いジム・カスタムが、敵のMAと乱戦を繰り広げていた。コウは、その戦闘を実際に見るまでは、援護に入るつもりだった。
「レベルが違う……なんだあの挙動は……」
「ウラキ少尉下がれ! 足手まといだ!」
「……分かり、ました」
コウは強く唇を噛んだ。
「アムロ、背中は任せる」
「任せておけ。俺のプライドに掛けて抑える」
ブラウ・ブロ改はIフィールドを積んでおり、ビーム兵器は無効だった。更にビットが増設されており、絶え間なくオールレンジ攻撃を仕掛けてくる。
「ハマーンと言うのか……同情はするが、味方はやらせん!」
「アムロ?? 誰と話しているんだ??」
「この鈍感野郎!」
シャアとアムロは、幾つかのビットを落とした。味方艦隊やMSも支援砲撃を行っている。このまま押し切れることは明白だった。
「男どもめ! 私を犯し! 穢した! 獣! なんで、なんで死なない! 死ねよぉぉ!!」
強烈なオーラだった。アムロのアレックスの動きが鈍る。だが、シャアのジム・カスタムは、平常運転だった。
「終わりだ。なかなか良い動きだった」
ビームサーベルを、コクピットに突き付けようとした時、機体のセンサが反応した。攻撃をやめ咄嗟に距離を取る。
「むっ? 新手か?」
ビットよりも洗練され、小型化された無人機がシャアの周辺を飛んでいた。
「流石だな。赤い彗星。私のファンネルに気が付くとは?」
「誰だ?」
「私は、ジオン共和国軍パプテマス・シロッコ大佐だ。この場はジオン共和国が預かる。この場は、引きたまえ」
「ジオン共和国はテロリストを庇うと? ティターンズには、ジオン残党に対処する権利がある」
「くくく。ティターンズの権利は停止された。ジオン共和国の国会で、今頃、法が可決されているだろう。ジオン共和国は、ティターンズを否認した」
シャアは政治が苦手だった。ティターンズは、もともとダルシア政権が認めた組織だ。ジオン共和国は、ティターンズを合法的な存在として認めていた。なので、目の前の巨大MAは敵である。法改正というのは、欺瞞だろう。
「詭弁だな。テロリストを庇うなら貴様も敵だ!」
シャアがサーベルを構え、ファンネルを斬り裂く。
「シャア・アズナブル?? 本当に戦争になるぞ!? おい、本当に良いのか??? 地球連邦とジオン共和国の全面戦争だぞ!!」
「テロリストの言い訳は聞かない」
シャアの行手をアムロが、遮った。
「待て、シャア! コイツの言うことは恐らく正しい! ジオン共和国は、自国民をティターンズが保護することを認めていたが、その法律が否定されたんだ」
「……そうか。ならそうなんだろうな」
シャアはようやく牙を収めた。
パプテマス・シロッコの搭乗するGP03デンドロビウム改。そしてララァ・スンの搭乗するノイエ・ジール・カスタム。サイコミュを搭載した2機には、アクシズから齎された技術であるファンネルも搭載されている。
また、新型機であるハイザックを装備しており、ジオン共和国軍の練度は高い。ティターンズが、攻撃を躊躇うには十分過ぎる抑止力だった。
GP03は、アナハイムからジオン共和国に譲渡されていた。オサリバン常務は、インビジブル・ナイツが全滅することや、核弾頭を奪取できないことも想定していた。その場合のサブプランが、ジオン共和国軍への兵器の納入だった。ローリスク・ローリターンであり、堅実な手段だったが、オサリバンはギャンブルを好んでいた。
「さっきからなんなんだこの歌は!!」
ジャズを貫通し、脳内にララァ・スンの歌声が響く。イオ・フレミングは、義足野郎を思い出した。
「ダリルの野郎の方が、まだマシな趣味をしてやがった!」
ティターンズは、停戦に応じるしかなかった。サイコミュにより増強されたララァ・スンの能力は、戦場を支配していた。
「アムロ? どうした?」
「歌だ。女の歌が聞こえる」
「ああ。感応のヤツか」
近くにいたアルビオンに着艦したシャアは、孤独だった。自分だけララァ・スンの歌声を聞いていないのである。
「どれ。聞いてみるか……」
絞っていた能力を広げ、ララァ・スンの歌声を通して刻に接続する。刻の中でシャアは、歌うララァ・スンと、彼女の歌声を称賛するパプテマス・シロッコを見つけた。
駆け寄って手を振ると、ララァとシロッコは、ギョッとした表情を浮かべていた。
「むっ。終わってしまった」
音楽や芸術センスが終わっているシャアは、ララァ・スンの呪歌を音楽としてそれなりに評価していた。
「なかなか良い歌声じゃないか」
「本気で言っているのか???」
「プロのアーティストには劣るが、ストリートミュージシャンとしては十分なレベルだ」
アムロは、シャアを化け物を見るように見てしまった。シャアの心は、若干傷ついた。
「ニュータイプというのは、厄介だな」
「そうだな……」
アムロとシャアが、話しているのを見てコウがすっ飛んできた。
「シャア大佐が、悪霊を追い払ったのか見えました! これってなんなんですか!?」
「ニュータイプの感応現象だ。敵の女、ララァ・スンというのはド級の化け物だ。シャアは……よく分からん」
アムロのざっくりした説明に、コウは目を輝かせる。
「流石シャア大佐とアムロ少尉です!」
フォン・ブラウン紛争は、ジオン共和国軍の介入という結果で終わった。フォン・ブラウン市の消滅は、世界に大きな波紋を投げ掛けた。時代が動こうとしている。