連邦政府は、フォン・ブラウン紛争を踏まえ人事異動を開始した。
GP計画は停止され、その首謀者であったジョン・コーウェン中将は予備役へ送られた。そして、元の地位に返り咲くことは無かった。予備役編入後、彼は自宅で死体となって発見された。犯人はフォン・ブラウン出身であり、コーウェンが核を奪われたことを逆恨みしたと報道された。
コーウェン中将の許可なく、アルビオンへ核を積み込むよう命令を出したとして、ジャマイカン・ダニンガン中佐への取り調べが行われていた。しかし、過激派の横槍により捜査は有耶無耶になり、彼の罪状は消えた。
アルビオン艦長、エイパー・シナプス大佐は2階級降格され、サラミス改級の艦長に任命された。左遷である。
連邦政府は過激派の影響を受け、
かつてのティターンズの役割は、ジオン共和国軍と共同でのジオン残党対処であり、過激派の望むような苛烈さは持っていなかった。そのため、新組織を樹立した方が早いと判断したのだろう。
エコーズの司令官はバスク・オム大佐であり、その配下にも過激派の将校が集まった。
ティターンズは、ジオン共和国法の改定に伴い、連邦政府が正式に廃止した。ティターンズの艦隊は一般部隊となり、エコーズにその役割が期待された。
しかし、エコーズは暴走。サイド6の修学旅行生を乗せた民間船シウン号を不審船と誤認し撃墜してしまう。この事件によりエコーズは、マンハンターと呼ばれるようになった。エコーズを設立させたのは連邦政府の失策である。スペースノイドのみならずアースノイドからもそう批判された。
ガルマ・ザビ少将とシャア・アズナブル大佐は、連邦軍籍を取得した。彼らは麾下の将兵と共に連邦軍のグラナダ外郭部隊として月面方面軍へと配属される。
エコーズのシウン号事件直ぐに、連邦政府は元ティターンズ幹部を中心とし、ロンドベルを設立した。ロンド・ベルは、サイド1のコロニー、ロンデニオンを根拠地とした外郭部隊である。ロンド・ベルとグラナダ外郭部隊は、役割が似ており、しばしば同一視された。組織としては別だが、実際同じように動いていた。
「アムロ。久しぶりだな。大尉か。随分出世したな」
「ロンド・ベルには、懐かしい顔がちらほら居る。さっきイオにも会ったぞ」
「ああ。そうか。それは良いな。生きていてこそだ」
「UC0088までの、ここ3年ばかり、ジオン共和国は戦争を仕掛けてこない。エコーズが、強制執行を掛けようとした時の小競り合いくらいだろう?」
「小競り合いか……エコーズ司令官のバスク・オム大佐が死ぬような戦闘だぞ」
「動員されたのは、ジオン共和国軍の一部だ。あの戦闘はシロッコの実験場だった」
UC0086、年が明けたばかりの1月。エコーズは、サイド3宙域に侵入した。目的はジオン共和国が招いたアクシズへの強制執行だった。連邦政府はこの行動を公には認めていなかった。しかし、あわよくばとは思っていた。
ジオン側は、エコーズの艦艇からG3ガスが発見されたことから、彼らの目的を大量虐殺と断定した。
エコーズの10隻の艦艇と、ジム・クゥエルで構成されたMS隊。かなりの戦力だったが、ジオン側はそれを上回った。
シロッコのジ・Oとララァ、ハマーンのキュベレイは、たった3機でエコーズ艦隊を撃滅した。
「3機だけで10隻と搭載MSを沈めるとはな……」
「厳密には違う。3機だけじゃない。艦艇やMSの援護も有った。グレイファントム隊は、エコーズを止めるために向かったが、追いついた時にはエコーズは全滅していた。ジオンの奴らは脅威だ」
「おいおい。私もジオンの人間だったんだが」
「お前は別だ」
連邦政府は、敗北や世論を鑑みて、エコーズを解体する方向に向かっている。ジオンの脅威に対する尖兵は、ロンド・ベルのみと言っても良い状況だった。
「シロッコの奴は、何を考えているんだ? キャスバル政権は、2期目が始まったし、政治家はなんやかんやで現状を見ている。戦争に踏み切るようには思えない。どこも不景気だ。皆軍縮を望んでいるだろうに」
「相変わらずお前は、政治の話が分からないな。シロッコは、人の下に付くタイプじゃない。この3年間、奴は準備を整えてきたはずだ」
「フォン・ブラウン恐慌で、連邦もジオンもコロニーも苦しい。どこのコロニーも餓死者は出ていないが自殺者は多い。戦争などしている場合ではないだろう。ジオンも融和に向けて舵を切るんじゃないのか?」
「それこそ真逆だ。シロッコは、野心の塊だ。国内の不満を逸らすために戦争の準備をしているはずだ」
「準備と言うなら、我々もそうだ。アルビオンが、新しいガンダムを持ってくる頃じゃないか?」
「そうだな。そのはずなんだが。遅れているようだ」
連邦政府は、フォン・ブラウン紛争や、エコーズ紛争の結果を見るまでは、MSをジム系列だけでいいと考えていた。
ジムⅡ、ジムⅢといった、ジムの近代化改修機で、やりくりをしていくつもりだったのだ。
しかし、ジオン共和国のハイザックやマラサイといった機体は、連邦軍に多大な衝撃を与えた。ジムⅢではマラサイに勝てない。連邦軍部は、危機に瀕して、ようやく一体となり次世代量産機開発プロジェクトを立ち上げたのだ。
エコーズ紛争後、ロンド・ベルは捜査のため、オーガスタ研究所やムラサメ研究所、オークランド研究所などに立ち入った。その際、非道な人体実験が行われていたことを発見し、世間に告発した。
これら研究所は、取り潰されることとなった。しかし、オークランド研究所やオーガスタ研究所はMS開発能力を持っていたことから纏めてオーガスタ工廠として、連邦軍に組み込まれた。
旧アナハイム・エレクトロニクスのMS開発設計部門を中心とした地球連邦軍アナハイム工廠。オーガスタ研究所の流れを汲む地球連邦軍オーガスタ工廠。この二大工廠が中心となり、次世代主力MS計画が立ち上がった。
アナハイム工廠が立ち上げたのがZ計画である。しかし、これはアナハイムの技術力が低いため遅延していた。UC0089を期限とした量産試作機のコンペティションに、アナハイム工廠は間に合いそうになかった。
それに対して、オーガスタ工廠はTR計画を立ち上げた。ニナ・パープルトンは、TR計画の責任者となっていた。アナハイムにリストラされたため彼女はアナハイム工廠に行けなかった。生活のため、夫であるコウ・ウラキのテストパイロットとしての伝手を利用し、オーガスタ工廠に設計者として潜り込んだのである。
ニナが潜り込んだ当時の、オーガスタ工廠は人体実験をロンド・ベルに突き止められたため、荒れていた。夫のコウがロンド・ベルとのコネクションを持っていたため、ニナはヒラから一気に出世することが出来た。運が良かったのである。
TR計画は、GP計画に参加したニナの考えた異常な計画だ。ハイエンドのTR6。そしてそのグレードダウン機とバリエーション機で全ての連邦軍機を統一するという計画だった。気宇壮大過ぎるものである。
「ニナ。その計画は無理じゃないか? 1機種とそのバリエーションで連邦軍機を統一したいなんて、正気じゃないよ」
「でも、現にジムシリーズはそうなっているわ。ジムⅡにジムⅢ、ジム・キャノンⅡといった形にね。私は、次世代のジムを作るのよ。私のガンダムでね」
計画当初、ニナの設計したTR1プロト・ヘイズルは、単なるジム・クゥエルの改修機にしか過ぎなかった。コウが、オブラートに包んで言ったのにも関わらず喧嘩になったことは記憶に新しい。
「アナハイム工廠の
「個人的には、オーガスタ工廠以外だと、グリプス工廠が出してきたガンダムMKⅱが1番だと思う。あの機体が乗りやすい」
工廠は、企業のように表立って対立しているわけではないので、機体が欲しいと言えば融通が利くのである。零細であるグリプス工廠のガンダムMKⅱは、圧力をかけられ他の工廠に出回っていた。コウは、オーガスタ工廠のテストパイロットだが、アナハイム工廠の機体にもちゃっかり乗っている。
「あれなら、技術習得用の機体に、ナカモトやナナイが、サイコミュを付けた機体が有ったわ。何でもニュータイプなら使えるかもって、MKⅤって名付けてたわね」
「僕には無理だったけどね。オーガスタ・スクールのリタ少尉は使い熟してたな」
グラナダに有るアナハイム工廠は、シロッコに反発し、グラナダへ亡命してきたジオン技術者から、サイコミュ技術とファンネル技術を獲得していた。そして、その技術をオーガスタ工廠などに、売っていた。MSを設計するのには金が掛かるのである。
TR計画は、TR2〜TR5が殆ど飛ばされた。予算がなかったのと、納期が急がれたからである。更に言うと、GP計画に参加していたニナにとっては、それGP計画でやったじゃん! という技術が多かった。GP計画は停止させられただけで、抹消されていないため、成果が大っぴらに流用できた。
また、GP01にムーバブルフレームの原型を見出していたニナにとって、新規のフレーム設計は難しいことではなかった。TR1とマークIIの設計を参考にし、柔軟に取り込んだTR6は、特にTR1から名称変更されずヘイズルと名付けられた。
TR計画の目指すところとは、ニュータイプを含むハイエンド向けの機体を製造することと、一般部隊向けの量産機を製造することである。クソデカマップ兵器を作ることが目的ではなかった。
TR6ヘイズルと、その量産機TRGM。TR計画に沿って設計された2機はファンネル・パッケージを装備することが可能だった。TR6もTRGMも、パッケージを換装することで、多用途使用が可能な機体に設計されていた。
コンペティションの期限であるUC0089には、一年が残されている。しかし、連邦政府は、ジオン共和国の軍備拡張の恐怖に耐え切れず、TR6とTRGMの制式採用を決定した。2機はそれぞれ、TR6ヘイズル。TRGMー89ジェガンとして連邦軍部隊に配備されることとなる。
「ヘイズルのファンネル搭載機は、2機ロールアウトしているわ。この1機をアムロ大尉に任せたいの。もう1機はリタ少尉に任せるけど」
「宇宙でのテストかい? ファンネルが僕には反応しないのが、悔しいな」
「コウは、それでいいじゃない。あなたは、どんくさいくらいでいいの」
ヘイズルをロンデニオンに届けるべく、アルビオンがオーガスタ基地へと降りてきていた。