19.コロニーの彼女
オーガスタ工廠に1隻の艦が降りてきた。大気圏航行が可能なペガサス級アルビオンだ。
「アルビオンだ。懐かしいなぁ」
「宇宙との往還船は、グレイファントムとかサラブレッドだもんな。アルビオンに当たるなんて珍しい」
ウラキとキースが、アルビオンを眺めていると、ジム・クゥエルが、格納庫から手を振りながら降りてきた。
「ようウラキ! キース! どうだ、嫁さんと仲良くやってるか?」
「モンシア大尉! 外部スピーカーで言わないでくださいよ!」
「わりぃわりぃ」
ジム・クゥエルから降りてきたモンシアには、ベテランの風格が漂っていた。
「コウがニナさんとくっつくのは、見え見えだったが、キースがモーラとくっつくとはなぁ」
「もう、その話は良いですよ。それより、今回のパッケージは重大なんですよ。パッケージの中身は新型ガンダムです。サイド1のロンデニオンにこれを届けるんですよ」
「ほう。面白ぇな。テストパイロットは、コウか?」
「いえ、他のパイロットです。対面したら驚くと思いますよ。ガンダムをアムロ大尉に届ける任務です。このTR計画をジオンも察知していると思います。どうか大尉もお気をつけて」
「アムロ・レイ大尉か。撃墜王にねぇ……それと、俺はまだ前線で現役だ! テストパイロットに心配されるほど衰えちゃ居ねぇよ!」
アルビオンに積み込まれたパッケージ。その随伴員にはニナもいた。
「やぁ、ニナさん。相変わらずお美しい」
「まぁ。モンシア大尉。マリーさんはお元気かしら?」
「ははは。まぁまぁですよ」
モンシアの浮気が原因で、とっくにマリーとは切れていたのだが、プライド故かそれを、言い出すことが出来なかった。
「ん? ガキ? 嬢ちゃん。メカニックか?」
「私のこと? 私、ガンダムのパイロットよ。メカニックじゃないわ」
「おいおい。冗談キツイぜ。ガンダムだぞ。お嬢ちゃんがお遊びで乗るもんじゃないぜ」
「私。リタ・ベルナル。少尉よ」
「あんたが、少尉なら俺は大佐だよ」
「嘘じゃないわ。ほら、階級章。少尉よ。おじさんは、先任軍曹さん?」
リタの階級章は確かに少尉だった。モンシアは、信じられない現実に目を擦った。
「おいおい。マジかよ。軍はどうなっているんだ?」
リタは、モンシアの階級章を見て、自分が話しかけている相手が大尉であることを認識したのだろう。
「あっ、大尉!? 申し訳ありません大尉! えっと」
「ベルナルド・モンシアだ。モンシアで良い」
「モンシア大尉。オーガスタ工廠、テストパイロット。リタ・ベルナル少尉です。アルビオンでお世話になります」
「おう。よろしくな」
モンシアは釈然としなかった。子供がガンダムに乗るというのに、全く納得していなかった。
「おい、ベイト飲もうぜ」
アルビオンのバーで、モンシアはベイトと飲んでいた。
「あの嬢ちゃん。16だってな。ハイスクールのガキが少尉だぜ。オーガスタ・スクールのスペシャルだってよ。戦場にガキが出てくるべきじゃ無いんだよ」
「なんだ。心配か? モンシア、お前あんなガキが趣味なのか?」
「バカ言ってんじゃねぇよ。俺たちの神聖な戦場にガキが入って来るなってことだ」
モンシアは、リタを全く認めていなかった。
アルビオンの航海は、順調ではない。ジオン共和国のムサカ級が、大気圏離脱後から追尾してきているのだ。
「ジオン共和国軍、ムサカ級。距離10000。狙いは本艦です」
「勘弁してくれよ。ジオン共和国とは一応まだ戦争してないんだよな?」
「トーマス艦長。戦争はしていませんよ。戦争は」
「紛争はしてるって?」
「ま、そんなところです」
ムサカから、高熱原体が3つ出たことをアルビオンのセンサーがとらえた。
「高熱原体射出。MSと推定されます!」
「最大望遠!」
「これ、キュベレイタイプですよ」
「クソッ。MS隊全機発進! 迎撃しろ!」
ジム・クゥエル8機に出撃命令が下る。
「モンシア大尉! 私も行きます!」
「却下だ。ガキはガキらしく遊んでろ」
「私は軍人です。研究所から私を救い上げてくれたロンド・ベルの皆さんのために、自分の力を振るいたいんです!」
「あのな。リタ少尉。俺たちはプロだ。一年戦争からMSに乗ってるプロ中のプロだ。その俺が、少尉は必要無いと言っているんだ」
「ですが…!」
「一丁前に上官に反抗か? 命令だよ。命令」
「……分かりました」
リタは不満そうな顔をした。幼さの残る表情にモンシアは、無意識に安心していた。
「任せろ。このモンシア様が、カッコよく敵を落としてやるからよ」
敵が、キュベレイタイプということから、ジム・クゥエルは対NT装備をしていた。これは、ビットやファンネルといった装備をしているMSに対抗するためのパッケージである。
「まさか、こんなもんを使うことになるとはねぇ」
換装された武装を見て、モンシアは溜息を吐く。広角視野のためのバイザーと、面で敵を制圧するための散弾銃だ。
「モンシア。ジム・クゥエル。出るぜ」
対NT装備の愛機は、いつもより重く感じた。だが、それはモンシアの緊張のせいかもしれない。
対NT戦闘の基本は連携だ。味方同士が連携し、お互いを補う。バニングは退役したが、不死身の第四小隊の3人はアルビオンでまだ健在だ。
彼らは気心の知れた相手であり、モンシアは連携に自信があった。もっとも、モンシアの今日のペアは、彼らではない。
「おい。アレン。背中は任せたぞ」
「おうよ」
2機×2で4機ごとにパッケージ化された1個小隊。お互いがバディを組み相互に支援するのは、4機で構成された第四小隊の得意技だった。
不死身の第四小隊は、死なない。そうモンシアは信じていた。
「あの。ニナ技術少尉。私、出撃したいです。このままだと。良くない予感がします」
「あのね。アナタはまだ子供なのよ。テストパイロットとして、安全な場所でモビルスーツに乗るのが仕事なのよ。モンシアさんたちはプロよ。任せましょ」
埒が明かない。リタは、ヘイズルに乗り込んだ。
「応えて! ヘイズル!」
【サイコミュ起動】
「よし!」
【補助システム
「こら! リタ! 降りてきなさい!」
ニナが叫んでいるが、リタはそれを無視した。
「ニナさん。危ないからどいてください!」
「ああ! 私のガンダムが!」
アルビオンのハッチが解放され、ゴーサインが点灯する。オペレーターが、こっそりリタにVサインを送っていた。
「リタ・ベルナル。ヘイズル出ます!!」
強烈な加速がリタを襲う。
「これが宇宙。機体が軽い。行って。ファンネル」
ヘイズルから放たれたファンネルが、リタの意思に呼応して動く。
「モンシア大尉! 助けに来ましたよ!」
「チッ。嬢ちゃん。…………助かった」
モンシア機はボロボロだった。しかし、連携が上手く行っていたのか、アルビオン隊の中に脱落機はいなかった。
「奴ら、こっちを殺さないつもりらしい。舐め腐ってやがる」
「それは、良かった……です?」
「良くねぇよ。ガキに面白半分に嫐られてんだ。腹立つぜ」
「でも、生きてて良かったです」
「当たり前だ。俺たちは不死身の第四小隊だからな!」
リタに、閃きが走った。
「そこ!」
ファンネルが、リタの意思に応じ、敵のファンネルを落とす。
「もう1発! おりゃあッ!」
至近弾を食らったキュベレイタイプは、動きが鈍った。マラサイが、動けなくなったキュベレイを掴み曳航していく。リタは追撃しなかった。死人を出してしまえば、面倒なことになるからだ。
「よし! やっつけた!」
「リタ! まだ、あと1機いる!」
「きゃあッ!?」
キュベレイは2機いた。健在だった1機が、ヘイズルに纏わりつく。モンシアらの努力か、キュベレイにファンネルは、残っていないようだった。
「ファンネル。戻って。こうなったら、私ごと!!」
「おい! 嬢ちゃんやめろ!」
モンシアの声に、リタは反応してしまう。ファンネルは、ヘイズルに戻ったが、キュベレイは無事だった。
「ううう。ダメ。コントロールがッ!?」
ヘイズルと量産型キュベレイは、もつれ合うように飛んでいく。
「くぅぅ。ミィ、マスターに怒られちゃう……」
「女の子??」
「お前のせい! ミィが怒られちゃう」
「えっ、私のせいなの?」
2機は、高速でもつれ合いながら戦場から遥か遠くに飛んでいく。センサーがアラートを出す。進路にはサイド1、シャングリラコロニーが有った。
「聞いて! このままだとコロニーに衝突して大穴が開くわ! 今、私を離しなさい!」
「え? わ、わかった」
「スラスター最大噴射ァァ!!」
「うわわぁぁ」
ヘイズルと、キュベレイは、隔壁に軽度な被害を出しつつ、コロニーへ突っ込んだ。
「痛たっ。あー。知らないコロニーに入っちゃった。こういう時、ヘイズルを隠した方が良いんだよね……」
リタは、まだ動くヘイズルを、コロニー地下の点検口へ滑らせる。そして、服を調達し、アルビオンへ連絡すべく、機外へと出て行った。
彼女は、ジャンク屋がよくこの点検口を使うことを知らなかった。そのジャンク屋の中に、彼女と同じニュータイプの少年が居ることも。