【完結】シャア・アズナブル(本物)   作:むにゃ枕

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21.プル31

 翌日、クラン、ポイズンチワワの運営するジャンクヤードにジュドーたちは集まっていた。

 

「サイコミュが、あなたの意志を汲んで機体を動かすの。補助システムのBUNNyS(ヴァニス)は、シャア大佐のデータから組まれているから、オフにしておいた方がいいわ。あなたには、ニュータイプの才能があるだろうけど、MSの操縦は素人なんだから」

「わかったわかった。あんたの言う通り、俺は素人なんだから、難しいことを一気に言わないでくれ。大体、なんだよファンネルって」

「勝手に動く無人機よ。意志に応じて動くから便利ね」

 

 ジュドーは、ヘイズルの操縦に四苦八苦していた。ジュドーが日頃使っているプチモビに比べて、ヘイズルには五十倍以上のエネルギーゲインが有るのだ。馬鹿げた推力だった。

 

「ジム改のバランサーが狂ってるわ。特に左腕がおかしい。多分、盾ごと左腕をやられて、交換してるからでしょう。もうすぐなのよ。ちゃんと調整しなきゃ」

「へへ。すいません。リタの姉貴。いまやります」

「私も手伝うわ」

 

 リタが整備を手伝った結果、ジム改のフレームが少し歪んでいるということが判明した。

 

「この子、フレーム修復歴があるわ」

「あ、姉貴。大丈夫なんですか?」

「ジュドーに期待するしかないわね」

 

 クラン、ポイズンチワワは貧乏で碌な武器がない。ジム改は、ヒートホークしか装備していない。リタは、ヘイズルのビームライフルを、無理やりジム改に装備させた。 

 

 クランバトルは、サイド6のジャンク屋が広めたとされる民間MS同士のバトルだ。連邦軍も、ジオン共和国軍も、払い下げるMSが武器を使用できないようにしている。通常の民間機は、ソフトウェアにロックを掛けられており、武器使用が出来ない。

 しかし、軍から横流しされたインストーラーデバイスは、武器使用を可能にする。

 勝敗は、MSの頭部の破壊で決まる。パイロットの腕と機体の性能が勝負を分けるのだ。迫力あるMSの戦闘が中継されるというだけで人々はこれに飛びついた。おまけに賭けも行われるのだ。流行らないはずがない。

 

 連邦軍は貧乏であり、このギャンブルに積極的に関与しなかった。また、コロニー自治政府も経済政策に追われており、このギャンブルを摘発する余裕がなかった。

 一部のコロニー群では、クランバトルを公営ギャンブルとし、連邦駐留軍の練度向上に役立てる始末だった。

 

「エアロックを5秒だけ開ける。その間に出ろ。シャングリラのコロニー公社は勤勉じゃないし、記録に残っても対応しないだろう。でも、万が一だ」

「了解」

「はいよ」

 

 ジム改とヘイズルが、宇宙に出る。中継衛星の、カウンドダウンが0になり、クランバトルが開始された。

 

 リタは敵の1機目を簡単に見つけた。

 

「んん? アイツ。キュベレイじゃん…!」

「リタ? どうした」

「アイツ、多分、ジオン軍のニュータイプか強化人間だよ。ジュドー、気をつけて」

 

 量産機キュベレイは、無邪気に宇宙を彷徨っていた。ここに居るからには、クランバトルに参加しているのだろう。

 どんな経緯で、参加したのかは不明だ。リタは、キュベレイのパイロットの声が幼かったことを覚えていた。もしかしたら言い包められたのかもしれない。しかし、それは戦闘と関係ない。

 

「もう1機は? ……居たッ!」

 

 リタが見つけたのは、リゲルグだ。ゲルググの近代化改修機である。ジオン共和国軍では訓練機として未だに現役だったりする。

 

「はい。命中!」

 

 リタは、ビームライフルでリゲルグの頭を吹き飛ばした。2対2で先手を取れたのは、幸運だった。残りはキュベレイ1機だけだ。

 

「なんだ!? コイツ。早すぎる!」

「誰? 前の人と違う…?」

「ジュドー! 感応しちゃダメ!! ここは戦場よ!」

 

 シャア・アズナブル大佐の考案した概念であるNT能力の制限。それは、ニュータイプ研究者に感銘を与えた。

 戦場で敵と感応する必要はないし、それは隙になる。ニュータイプ養成機関であるオーガスタ・スクールも、能力の意図的な制限方法について研究していた。

 その成果を享受しているリタは、キュベレイのパイロットと、感応していなかった。

 

「ジュドーって言うんだ」

「プルシリーズ……名前は、プル31。ミィ。プル48計画??  エンジェル・ハイロゥ? なんてことを!!」

 

 リタは、通じ合っている2人を無視して、ビームライフルでキュベレイの頭部を吹き飛ばした。

 クランバトルにリタとジュドーは勝利したのだった。

 

 ジム改のオンボロセンサーが、敵を検知する前にリタは、機体を動かしていた。

 

「ヤバッ! 敵! 長距離射撃ッ!」

 

 ボロのジム改は、リタの動きについていけなかった。無機質なシステムメッセージがバランサー破損を告げる。躱しきれなかったビームにより脚部が破損していた。

 

「ジュドー。ライフル受け取って。マラサイ! ジオンのヤツらだ。敵だよ!」

「ここは、民間コロニーだぞ!? どうしてジオンが!」

「そりゃあ、ガンダムを追ってきたからよ!」

 

 ヘイズルが、覚束ない動きでマラサイの攻撃を回避する。

 

「アルビオンは、何をしているのやら……」

 

 ヘイズルに直撃弾はない。頭部が吹き飛んだキュベレイは、マラサイにより曳行されていった。バランサーがイカれたので、戦闘を観戦していたジム改に、1機のマラサイが近づいてきた。

 どうも、友好的な雰囲気ではない。

 

「こっちは民間機だよ。撃ってくるのはルール違反じゃない!?」

「貴様、やはりと思ったが、連邦のガンダムのパイロットだな。 私はジオン共和国軍グレミー・トト中尉だ。降伏するなら手荒な真似はしない」

「はいはい。降伏しますよ」

「そうか。ハッチを開いて、こっちに乗り移れ」

「ねぇ。貴方って私が倒したキュベレイのパイロット?」

「そうだ」

「じゃあ、ニュータイプなの?」

「そう自認している」

「ふーん。じゃあ、貴方はニュータイプのなり損ないね」

 

 そう言い残すとリタは、コクピットから身を投げた。

 

「バカな!! 死ぬぞ!!」

 

 ジュドーの意識にプラズマが過った。

 

「あんた。バカなのか!?」

「でも、間に合ったでしょ?」

 

 リタに気が付いたジュドーが、ヘイズルの掌で彼女を受け止めた。それから、コクピットに引き寄せる。

 

「ジュドー、そっち行ってね」

「リタ?」

「ガンダムって翼が有れば、私は羽ばたけるの!」 

 

【リタ・ベルナル少尉。認証確認】

【サイコミュ起動】

【補助システムBUNNyS(ヴァニス)起動】

 

 ヘイズルが加速する。ジュドーは、サブシートに身体を押し付けられた。

 そこからは、圧巻だった。リタの操るファンネルは、マラサイの武器を次々に破壊していく。ヘイズルは、華麗に宇宙(ソラ)を駆けていた。

 

 ムサカ級が、その身を盾にするようにヘイズルの前に現れる。リタはムサカに攻撃を加えなかった。戦死者を出してしまえば、ジオン共和国軍とロンド・ベル。ひいては地球連邦軍を巻き込んだ紛争を引き起こす可能性が有ったからだ。

 

「ジュドー。怒られる準備は出来てる? 私は出来たわ」

「全くできてない」

 

 スラスターを限界まで増設している赤いガンダム(トリスタン)と、随伴機のジム・クゥエルがいつの間にかヘイズルの周囲を囲んでいた。

 

「私は、地球連邦軍大佐、シャア・アズナブルだ。君は?」

「地球連邦軍ロンド・ベル。アルビオン所属。テストパイロットのリタ・ベルナル少尉です」

 

 誘導されたサラブレッドの格納庫で、リタは尋問を受けていた。

 

「コクピットに、誰かを隠しているつもりなのかな?」

「そ、そんなことないですよ」

「ほう。なら、コクピットをしきりに気にしているのは何故かな?」

「うぅ。すみません、大佐。彼は、巻き込まれただけで……」

「巻き込まれただけで、ガンダムに乗ることにはならないだろう」

 

 リタは、ジュドーにコクピットに居るよう言ったのだ。彼女はジュドーの存在を隠して、密航者に仕立てるつもりだった。隙を見て、倉庫に匿うつもりだったが、上手く行きそうにない。

 

「隠しているのは民間人だろう? 一夜のアバンチュールといったところか…? 気持ちは分かるが、彼氏を軍艦に招き入れるものではない」

「は??」

「私も、君くらいの年齢の際には恋愛に夢中だったよ。ナンパしては振られていた」

「違います…!」

「サラブレッドのランチで彼氏はコロニーへ送ろう。文通でもして、それでも相手を諦められなければ、君の気持ちは本物だ」

 

 シャアはリタの話を全く聞く気がなかった。これが、総撃墜数100機超えのスーパーエースで、生きる伝説のニュータイプなのである。目の前の話を聞かない男がそうだとは信じたくない。リタは、ほんの少しだけシャアに幻滅した。

 しかし、ニュータイプなら通じ合えるはずだ。感応しようとしたリタの鳥を模したオーラが、壁に当たったように霧散する。

 

「ニュータイプか? 初対面の人間の心に入ろうとするとはな……失礼だと思わないのかな?」

「大佐が、話を聞かないからですよ! もう、ちゃんと説明させてください」

 

 ジュドーも交え、リタはこれまでの経緯を説明した。

 

「ジュドー君、君は軍人ではないから戦わなくて良いんだ。君にはコロニーに大事な妹がいるんだろう。悪いことは言わない。戻るべきだ」

「俺は、ここでプルを見捨てたら絶対に後悔します! 彼女の姉妹がむざむざと殺されるのを見捨てるなんて出来ません! あんなの人の死に方じゃないですよ! 敵だろうけど、もっとマシな死に方をするべきだ! 彼女たちは道具でも燃料でもないんだ!」

 

「妹さんが、君を心配するだろう。戦場に立つからには、死ぬ覚悟も捕虜になる覚悟も、怪我をする覚悟も必要だ。君に、その覚悟は有るのかな?」

「……正直、分からない。でも、ここでコロニーに戻ったら俺は絶対に死ぬまで後悔する。俺がニュータイプだって言うなら、この力は誰かを助けるために使いたいんだ!」

 

 ジュドーの熱い想いに、シャアは心打たれた。しかしシャアは真面目な軍人である。民間人をガンダムに乗せることを容認することはできない。それはそれ。これはこれである。

 

「アムロ・レイ大尉は、民間人でありながら、ガンダムに乗って戦った。彼の世話になると良い」

 

 シャアは、アムロにジュドーを丸投げすることにした。シャアはこれからグラナダへ戻るのだ。たまたまシャングリラ宙域を通りかかったので、ヘイズルを拾っただけである。

 アルビオンにヘイズルと2人を引き渡し、シャアは面倒事から解放された。

 

 アルビオンに戻ったリタは、モンシアに叱られ、営倉に入ることになったが、それは余談である。

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