【完結】シャア・アズナブル(本物)   作:むにゃ枕

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23.ハイロゥ

 軍事要塞アクシズ。そこは、グレミー・トトが慣れ親しんだ場所だった。だが、ジオン共和国にアクシズが帰還してから、彼がアクシズに立ち入ることはなかった。

 パプテマス・シロッコ大佐とアサクラ大佐の部下以外は、このアクシズに立ち入ることを許されていない。今回、グレミーらは任務の失敗を報告するために、3年ぶりにアクシズ内部に立ち入るのだ。

 

 アサクラ大佐は、旧ギレン派の人間である。彼は、エンツォ大佐と組み、マハラジャ・カーンを殺害し、アクシズの権力を握った。コロニー落としやソーラ・レイといった兵器に関わった人間である。連邦政府からはA級戦犯指定されており、アクシズ内でも評判は悪かった。碌な男ではない。

 

「グレミー。心配するな。責任は俺に有る。お前は悪くない」

「艦長。そんなこと有りません。自分の未熟です」

 

 スべロア・ジンネマンは、ムサカ級の艦長として、失敗したガンダム鹵獲作戦の責任者となっていた。サイコミュとファンネルを搭載した連邦軍のガンダムは脅威であると軍部で認識されていた。

 そのため、シロッコを通さず、ジンネマンに命が下ったのである。

 

 かつてのアクシズ市街地は、その面影を残していなかった。そこに有ったのは、街の隅から隅まで張り巡らされた。円形の構造物だった。それは、呼吸するかのように蒼い光を放っていた。

 

「きゃあ!! グレミー!! 人が居る!!」

「人だと?」

 

 ミィが発見した蒼い光を湛える柱には、確かに人間がいた。生命維持装置を付けられ、四肢を失った姿だったが。グレミーは、ミィの目を覆った。

 それは、見間違えでなければ、ミィの姉妹であるプルシリーズの成れの果てだった。

 

 ミィは、グレミーとジンネマンが、廃棄されているところを助けた存在である。名無しの彼女は、他者との接触が少なかったようで、グレミーが、自己紹介をした際に、グレミーと言う名前が自分に与えられたものだと思い込んでいた。結局グレミーのグレを取ったミィが彼女の名前となったのである。

 ミィは明確な自我を持ってしまったため、捨てられたようだった。ニュータイプ能力がそれほど高くないグレミーは、彼女の詳しい生い立ちを感応で知ることが出来なかった。

 

「見えないよぉ」

「見なくて良い。あれは人間の悪意だ」

 

 ミィはグレミーの腕を振り払って、ソレを見てしまった。

 

「この人、私?」

「違う。見るんじゃない!」

「やだ」

「ミィ。言うことを聞けば、グレミーがアイスクリームを奢ってくれるぞ」

「……ああ。だから、言うことを聞いてくれ」

「うん」

 

 ジンネマンとグレミーの提案に、ミィは頷いた。物価高と据え置きの賃金で、グレミーの財布は寂しかったが、アイスクリーム代は致し方ない犠牲だった。

 

 光る円の中心部には、かつてのマハラジャ・カーン宅が有った。要塞化され至る所が固められているが、辛うじてかつての気品は保っていた。衛兵に、用件を告げると、グレミーらは中に通された。

 

「掛け給え。ジンネマン、グレミー、ミィ」

「お言葉に甘えて」

 

 シロッコの蒼く光る瞳が、グレミーを見透す。

 

「ミィ。君の記憶を覗かせて貰うよ」

 

 シロッコのオーラが、ミィの中を通っていった。

 

「ふむ。ロンド・ベルに存在が露呈したと見るべきだな。刻の流れが変わったか」

「パプテマス大佐。私の責任は問わないのですか?」

「ジンネマン大尉は、責任を追及されたいのかね? 私は、君の責に興味はない。この世界に未練は無いからな」

 

 全てを諦めたようなシロッコの様子に、ジンネマンは困惑した。

 

「見ただろう。エンジェル・ハイロゥを。私の考案したサイコミュ兵器だ。強化人間を着火剤とし、人をエネルギーに変換し稼働する」

「そんな非人道兵器を、パプテマス大佐は認めるのですか!?」

「大義の前の小さな犠牲だ。ジオン共和国が何の精算もしないというのはあまりに虫が良い話だろう」

「まさかッ!?」

「ズムシティを燃料にし、地球圏を支配下に置く」

「世界を滅ぼすつもりですか!?」

「とんでもない。私が目指すのは人類の意識の統合だよ。有史以来、人は争い続けてきた。ヒトがヒトと分かり合えないからだ。私は人類を革新する。全人類が刻に接続し、1つの存在になるんだ。ヒトはここで、ようやく分かり合える」

 

 シロッコの瞳が蒼く輝いた。咄嗟にグレミーはジンネマンを庇った。

 

「パプテマス・シロッコは、野心に満ちた男だった! このグレミーの知るパプテマスはそうだった! 貴様は誰だ!?」

「私は、パプテマス・シロッコだとも。しかし、ララァとハマーンも、1輪の百合を残し、この世界から消えてしまった。それが、私を変えたのだろうな。サイコフレームで構成された美しい百合だよ。このエンジェル・ハイロゥの核だ」

 

 グレミーは、目の前の男が言っている言葉の意味が分からなかった。

 

「多様性を捨てた種は滅びる! 貴様の思想は間違っている!」

「ならば、人類の先を見せてやろう」

 

 パプテマス・シロッコの見せたビジョンは、ヒトがヒトを喰らう地獄だった。地球圏は衰退し、連邦政府は形骸と化していた。幾多の戦乱が有り、世界は蝶により終焉を迎えた。

 

「グレミー。貴様もニュータイプならば、私を止めてみせろ」

 

 ジンネマンとグレミーは、怯えるミィを連れアクシズを後にした。そして補給を済ませたムサカへ戻った。

 

「アイスは〜?」

「冷凍庫から好きなのを取って食べて良い」

「お店行かないの?」

「ああ。そんな場合じゃなくなった」

 

 ジンネマンとグレミーは相談し、グラナダへの亡命を決めた。パプテマス・シロッコは、確実にクーデターを起こすだろう。その隙を付いてジオン共和国を抜けるのだ。

 

 

 客人がいなくなったアクシズで、シロッコは友人のマシュマー・セロと花を愛でていた。エンジェル・ハイロゥの核となったハマーンとララァの残した百合は、蒼い光を放っていた。

 

「ララァ・スンは、私のマリアだった。マシュマー。君にとってのハマーンと同じだ」

「ええ。シロッコ大佐。私も同じ感情です。何故ハマーン様は、この世界に見切りを付けてしまったのか……私ではなくララァ様を選んだのか」

 

 ララァ・スンとハマーン・カーンには友人以上の関係があった。シロッコにとってララァは崇拝対象であり、彼女が何をしようとも全てを認めるつもりだった。

 

 キャスバルに取り入り、彼が飼い殺しにしていたララァと出会った日から、シロッコは、全てを彼女に捧げていた。彼女の欲しいものは全てを与え、彼女の言うことを全て肯定した。

 

「こんなことなら、花は手折っておけば良かったな……」

「まさか。花は愛でるものです」

「無償の愛か。私はそこまで至れなかった」

「ミンネザングですよ。倒錯した騎士道精神です」

 

 アサクラ大佐のプル計画を利用したのはシロッコだった。刻に接続し、向こうに行ってしまったララァと再会するため、エンジェル・ハイロゥを作り上げた。

 

「嘆くばかりでは仕方ないな。マシュマー、人類の救済をはじめよう」

「ええ。シロッコ大佐。恒久の世界平和を齎しましょう」

 

 シロッコは、自派閥を一気に動かした。軍部は殆どが彼の影響下に有ったため、殆ど戦闘は起こらなかった。キャスバル政権は、シロッコの傀儡だった。市民はシロッコのクーデターを歓迎した。

 

 アクシズの核パルス・エンジンを起動し、ズムシティのベイに無理矢理接岸させる。

 

「アサクラ。エンジェル・ハイロゥを起動する!」

「はっ。ハイロゥ起動!」

 

 ハイロウの核がサイコフレームの共振現象を発生させる。アクシズが、サイコフレームの光に飲み込まれていく。崩れ去ったアクシズから、エンジェル・ハイロゥが顕現した。

 

「ハイロゥ出力、理論値より上です。1時間後には強化稼働エネルギーが枯渇します」

「ズムシティに睡眠ガスを流せ」

「既に完了しています。ハイロゥのインキュベーターもズムシティに侵入しています」

「ふむ。手早いな。ハイロゥのエネルギーは、足りるか?」

「はい。ズムシティの人口の半数を消費すれば、地球圏を覆うことは出来るでしょう」

 

 ハイロゥのインキュベーターは、樹木のようにコロニー内に侵入していった。睡眠ガスにより、殆どの市民は眠らされていた。インキュベーターは、無防備な市民を飲み込んでいった。

 

「ハイロゥ。臨界に達します」

「エネルギー・リリース。世界を飲み込め! ハイロゥ!」

 

 その日、地球圏の人類は刻に接続された。人々は完全に分かり合い、世界から戦争も憎しみも暴力も悲哀も消え去った。しかし、同時に自我も個性も喜びも何もかもが統合されていった。個としての人類は、消滅しようとしていた。人類は有機ネットワーク生命体へと生まれ変わろうとしていた。

 ハイロゥを通じた有機ネットワークは、完全にパーソナリティを消滅させ、真社会性を人類へと齎した。自我と個を失った人類は、種の存続のため宇宙を切り拓くだろう。ヒトは新たな段階へ上がったのだ。

 

「ハイロゥ稼働成功。ジオン共和国軍以外の全てを呑み込みました! 勝ちましたよ!」

「……まだだ」

「パプテマス大佐??」

「くく。面白い。そう来なくてはな。ロンド・ベル! 世界を救えるのはお前たちだけだぞ!」

 

 シロッコの限界まで拡張された感応能力は、ハイロゥに取り込まれていない異分子を捉えた。その事実に、シロッコは、歓喜に満ち溢れた表情を浮かべる。それは、彼が久しぶりに見せる生の喜びに満ちたものだった。

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