【完結】シャア・アズナブル(本物)   作:むにゃ枕

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24.ハーモニー

 ジオン帝国の宣戦布告を受け、グラナダに集結したロンド・ベルとグラナダ外郭部隊は、すぐに行動を開始した。目標はサイド3、ズムシティ。ジオン帝国の首都バンチだ。

 ジオン軍の艦隊はズムシティに集結しており、それ以外の場所には、戦力が殆ど無かった。

 

 ロンド・ベルと連邦軍艦隊の全軍をもってすれば、ジオンは風前の灯火だ。正攻法なら問題なく勝てるはずであった。

 

「未知の高エネルギー反応!! 艦隊が飲み込まれます!!」

「ショックに備えろ!!」

 

 ペガサス級サラブレッドのブリッジでシャア・アズナブルは、未知のエネルギー攻撃を受けた。そのエネルギーは、とても柔和なもので、安らぎの光のように思えた。しかし、シャアは持ち前の真面目さから、心を閉ざし、防御した。

 

「ガルマ? 無事か?」

【ああ。わたしは無事だ。シャア、お前はどうしてこちら側に来ないんだ。ガルマという個の枠に囚われるなんて、異常だよ。わたしは、わたしなんだ】

 

 ガルマから発生した脳波は、シャアの中に伝わった。精神世界で語り掛けるガルマは、最早ガルマでは無かった。多種多様な人間の影が重なった"わたし"は人智を超越した何かだった。

 夢幻()から醒め現実世界に戻ったシャアは、頬をつねった。それから、蒼い瞳となっているガルマの頬を引っ叩いた。

 

「なんだ!? シャアか!? 素晴らしい夢を見ていたところだった。ヒトが皆、1つになる夢だ」

「おそらく敵の攻撃だ。ガルマの言っていたエンジェル・ハイロゥだろう」

「不味いな。目覚めたのは、僕たちだけかもしれないぞ……」

 

 シャアは、覚束ない足取りで歩いているミリーナを掴まえた。彼女は夢に呑まれているようだった。

 

「すまん。起きろミリーナ!」

 

 シャアはミリーナを揺さぶったが、彼女が起きる様子はなかった。非常時のため、感応し、ミリーナの精神世界に潜る。そこには、かつてのミリーナが経験しただろう研究所の光景が有った。無機質なリノリウムの床で、寝転んでいるミリーナをシャアは抱き抱える。

 

【誰? わたしはもう1つになれたの。ウソも悪意もない世界がここなの。わたしは、わたしなんだ】

「ミリーナ。自分を取り戻せ」

【いや。わたしはわたしになったの。誰にも否定されないし、みんながわたしだから、怖いこともないの】

 

 シャアは、精神世界でミリーナの唇に己の唇を重ねた。何故だか、そうするのが正しいように思えたからだ。

 

「うひゃあ!!? 大佐。ついに、ミリーナと結婚する気になったんですね!!」

「ああ……」

 

 精神世界の記憶が有った、現実世界のミリーナは、テンションが高かった。シャアは、乙女の唇を奪ったことで、ようやく覚悟を決めた。

 

「大佐とのラブラブパワーを見せてやりますよ!! マークファイブちゃんのサイコミュ!! やっちゃえ!!」

 

 シャアとミリーナの乗ったガンダムMKⅤから発した謎のピンク色の光は、艦隊とその周辺宙域を包みこんだ。サイコミュによる増幅とテンションの振り切れたミリーナによる増幅だった。

 

「愛の力です!! 大佐!!」

「そうか……?」

「ラブです! ラブ!」

「そうかもしれんな……」

 

 ロンド・ベル艦隊のデータ・リンクがようやく復活した。

 

「……シャア。お前ッ、未成年に」

「フフ。SEX!!」

「やめないか!」

 

 エンジェル・ハイロゥに呑まれなかったアムロや、カミーユ、そして、ジュドーとリタ。彼らは、うきうきしたミリーナのオーラと、シャアのオーラを浴びて、複雑な心境になった。

 しかし、これにより艦隊が機能を取り戻したのは確かだった。

 

「こちら、リタ。敵です! ジオンの艦です!」

「迎撃しろ」

「いえ、亡命すると言っています」

「ミィとグレミーだ。嘘は言ってない! 俺が保証します!」

 

 スべロア・ジンネマンがリーダーとなったジオン共和国軍の一部艦隊が、ロンド・ベルに合流した。共和国軍内の反シロッコ派だった。

 

「ズムシティにハイロゥが接続されている。アレを破壊しない限り、地球圏の人間が目覚めることはない」

 

 エンジェル・ハイロゥの破壊が、ロンド・ベルの目標となった。ジオン帝国軍の足止めはなかった。ロンド・ベルは妨害を受けずサイド3宙域までたどり着いた。

 

「パプテマス大佐? 何故、迎撃されないのです?」

「なんだそんなことか。我々は正しい。なら正々堂々と戦えば良い。アサクラ大佐。ご苦労だった。これは、私からの褒美だ」

 

 シロッコは、アサクラ率いる技術チームを鏖殺した。そして、エンジェル・ハイロゥに恒久化措置を施す。これで、ハイロゥは半永久的に作用する。

 活性化した核を破壊されない限り、地球圏に安寧をもたらすだろう。

 

「マシュマー。決戦と行こう」

「はい。シロッコ大佐」

 

 シロッコのオーヴェロンと、マシュマーのタイタニアは、量産型キュベレイと強化人間を率いて、先頭に躍り出た。2機のファンネルが、ジュドーとリタの操るファンネルを叩き落とす。

 

「温いな。ニュータイプと言えども、ひよっ子だ」

「あんたら。なんでこんなことをするんだ!! みんな、自分が分からなくなるところだったんだぞ!」

「ニュータイプの真骨頂は、分かり合うことだ。それを促しただけだよ。人類のステージを上げた。それの何が悪い!」

「みんな、困っていただろ!」

「愚問だな。落ちろ。少年」

 

 リタが、ジュドーを咄嗟に庇う。

 

「ジュドー。死んじゃダメよ。貴方にはリィナが居るでしょ」

「リタ。お前にだって!」

「幼なじみは居るけど、ジュドーの方が大事よ」

「リタ……誤解するような発言はやめろ」

「案外、本気かもしれないわ」

 

 目の前の2人のやり取りに、シロッコは無性に腹が立った。

 

「2人とも下がれ! ここは、俺がやる!」

「アムロ大尉! 1機では無茶です!」

「やれるさ。フルバーニアンならッ!」

 

 カミーユのマークIIが、アムロの援護に入った。シロッコは、マークIIを見て、何故だか嫌な予感がした。しかし、それを頭から振り払う。

 

 ジオン共和国軍の練度は高かったが、士気は低かった。シロッコのカリスマにより従っているものの、ズムシティに取り付いた異形を見て、良い予感を覚える兵はいなかったのだ。

 

「ミィ。敵とはいえ、同胞だ。殺すことは避けたい」

「うん。みんな苦しそう」

 

 ジンネマンらの、決死の呼びかけにより、ジオン軍の殆どは、ロンド・ベルのペガサス級に道を開けた。残ったのは、心からシロッコに心酔する将兵と、アサクラが作り出した強化人間たちだけだった。

 

「要塞に乗り込むのはア・バオア・クー以来だな。総員、衝撃に備えろ!!」

 

 ペガサス級、グレイファントムが真っ先にエンジェル・ハイロゥに乗り込んだ。強襲揚陸艦が伊達ではないところをグレイファントムは十分に証明した。

 スパルタンやサラブレッド、アルビオンも役割を果たした。

 

 数機のガンダムタイプが、要塞内に侵入する。自動防御システムこそ有れど、殆ど無人のエンジェル・ハイロゥは、抵抗らしい抵抗を見せなかった。

 

「ハマーン。私に力をッ!」

「ナタリー大尉! もうハマーンは死んでます。何時までも、過去に縋り付かないで!」

「まだ私の戦争は終わってないわ!」

 

 αアジールに乗ったナタリーが、侵入してきたロンド・ベルのMSの排除に向かう。彼女もまたハマーンにより、取り残された1人だった。

 

「赤いガンダムッッ!? きゃあっ」

 

 αアジールは、赤いガンダムにより一瞬で機能停止に追い込まれた。シャア率いるロンド・ベルは、中心部へ辿り着いた。

 

「大佐。これが、ハイロゥの核です」

「ほう。それで、これをどう壊せば良いんだ?」

「さぁ…?」

 

 取り敢えず、ビームを撃ってみたが核はビクともしなかった。

 

「大佐!! サイコミュが、暴走しています!!」

「逃げろミリーナ!!」

 

 発光現象が収まると、エンジェル・ハイロゥの核は消えていた。シャアのトリスタンや、イオの高機動型ジム・クゥエルなどは、サイコミュを積んでいないので、なんともなかった。だが、問題はサイコミュを積んでいるガンダムMKⅤだった。

 

「ミリーナ、無事か?」

「ええ。彼女は無事よ。わたしは、接続された全人類の意識。その代理人と言うべき存在ね。彼女の身体を借りているわ」

「なら、ミリーナに身体を返して欲しい」

「もう。せっかちなんだから。貴方にもシロッコの見せた未来を見せてあげるわ」

「いや、別にそれは」

 

 拒否しようとしたが、"わたし"の代理人はシャアの脳内に映像を流し込んだ。

 

「これが、この世界の絶望よ。人間は争い、悲劇は終わらない。それでも、人は生きていかなければならないの」

「見解の相違だな。人生に悲劇はある。それは確かだ。死を選ぶほどの悲嘆も時には有るだろう。だが、まだ人類に絶望しちゃいない」

「つれないわね。でも、対価は支払ってもらうわ」

「ミリーナは返して貰う。払えるものなら、払おう」

「シャア・アズナブルという人物はこの世界から消えるわ。それで良いかしら?」

「構わない」

「それじゃあ契約はせいッ、大佐ッ、戻りましたッ、乗っ取られるところでしたッ」

「ミリーナ!?」

「愛です!!」

 

 エンジェル・ハイロゥは、核を失い、粒子となって溶けていく。

 

 両手の指ほどのニュータイプと強化人間に囲まれ、防戦一方だったシロッコとマシュマーは、ハイロゥの崩壊で自らの敗北を悟った。

 

「これでやっとララァに会える」

「ハマーン様! 万歳!!」

 

 オーヴェロンとタイタニアは、光の粒子に呑まれ消えていく。シロッコとマシュマーはどこか満足気だった。

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